第三十二話 夢幻の怪盗紳士 導入編
導入部分なので短めです。
ザハーク屋敷は現当主の陰鬱な性格を表したかの様な暗い色調の屋敷だった。今、屋敷内をドスドスと不機嫌そうに大股で歩く人物が居た。当主の息子、グリド・ザハークである。
彼は勢い良く扉を開くと父親に迫った。
「父上!あの小汚い新興貴族の星の智慧社が領内で商売を始めたと言うのはどういう事ですか!?」
「奴らは有用だから入れているだけだ」
「これまで通りアークド商会で十分でしょう、あのような下賤な連中に我が領を穢されるのは我慢なりません!」
「連中が持ってきた利権はアークド商会よりも大きな利益を生む、それに女伯爵様は『今の時期下手な動きを控え大事に備えよ』と言っておられた」
グリドは父の言葉を聞き口を歪め不気味な笑みを作り一人の人物を部屋に招き入れた。
そいつはヨレヨレの軍服を着て神経質そうにビクビクと周囲の様子を伺っている挙動不審の人間の小男だった。
「その女伯爵様からの伝言です。『変革の時は来た。お前は良い人形としてこれからも尽くせ』だとさ、やれ!!」
グリドが小男に命令すると小男の背後から馬の頭に人間の体をくっつけた異形の人物が現れた。無論馬の獣人では無い、この世界の“人”のカテゴリーに入る獣人は耳と尻尾以外は普通の人間なのでこの馬面は魔物という事になる。
「グリド!?貴様何を・・・」
「ご安心下さい、死にはしませんよ。ただ、今までよりもっと人形らしくなるだけです。今度はボクが直接操ってあげますよ、それでは良い夢を」
馬面の魔物の瞳が妖しく光るとザハーク公爵はそのまま深い眠りに落ちた。
「ぷぷっくくくくく、これで無能な親父はボクの意のまま・・・次は穢らわしいダン・エンドー、貴様の番だ!!」
◇ ◇ ◇
~ダンドレジー屋敷~
「御前様!!御前様!!」
一人のメイド(当然嫁の一人)が守鶴前を呼んでいる。
「判っておる。妾の留守中に段蔵が術に掛けられたのであろう?やってくれたものよな」
寝室に入ると段蔵がベッドの上で苦しそうに唸っていた。
「夢魔の類に夢を弄られたか、段蔵の精神力ならばまだ保つじゃろうが悠長にしてはいられんな、指令を伝えるから全員を居間に呼んできてくれ」
「かしこまりました」
集められた者たちは皆不安げな表情を浮かべていた。
「これより段蔵の精神を奪還するための作戦を開始する。クラリース!」
「はい」
「お主が作戦の要じゃ、段蔵を癒やしてやってくれ、指示は後で行うが難しい事は無いから心配はいらん」
「分かりました」
「アスタルト・ミーネ・イズンの三名は戦闘職の娘を数人連れて“交渉”をして欲しい」
「いいけど・・・誰と?」
「それも後で説明する。あとオデットと戦闘職の娘数名は妾達と共に来い」
「御前様や、わし達はどうすれば良いかのう?」
ネティ達や残った半数ほどの戦士と妖精二人に非戦闘員を見渡して狸姉さんは微笑んで答えた。
「妾達が行動中は屋敷の守りを固めて欲しい、そなた達が頼りなのじゃ」
こうして段蔵の精神を取り戻すための作戦が開始された。
「とりあえずクラリースよ、段蔵と繋がれ」
「え?良いんですか」
「何の躊躇もなく服を脱いだな、まあ良いわ他の者達は部屋に用意した寝具で眠れ、妾が段蔵の夢の中に入る為の術を行う」
「うわ、寝てるのに凄・・・」
「実況はいいからお主もさっさと目を瞑れ!!」
狸姉さんの術によって部屋全体が淡い光に包まれた。暖かい光の中で部屋に居る全員が眠りについた。愛しい人の心を取り戻す為に。
次回は話が3つに分かれる予定です。




