第三話 段蔵は怪盗を志す
相変わらず遅いし設定もガバガバですがよろしければ楽しんでください。
光の先に向かい遠藤段蔵は飛び続けるそので途中またしても声が聞こえてきた。『あ~暇ですわ』だの『何か変わった事でも起きないかしら』だの気の抜けてしまいそうな意思が光の向こうから伝わってきた。
「何だぁ?昨日までとは随分違った感覚だな」
やがて光の粒子が散り徐々に周囲の風景が見えてきた。豪奢な部屋、値打ち物の調度品、尻餅を搗いている美少女、これがこの世界で遠藤段蔵が最初に見た光景であった。
~少し前エルキュリア王国王城の一室~
少女アイリーン・ショルメは悩んでいた。王立学院を主席で卒業し高い魔力を持った彼女であったが、いざ憧れの王城内の職に就いたかと思えば、代わり映えのしない警備の仕事をこなす日々、自分にはもっと相応しい仕事があるはずだと日々悶々としながらも過ごしていた。
今日も無意味に城内を見回っているとたまたま扉の空いている客室を見つけた。中に人の気配は無し、大方誰かが閉め忘れたのだろう。
「伝統ある王城でこんな有様とは、嘆かわしいですわ」
ふと、客室に飾ってある水晶球に目が吸い寄せられた。他の部屋には無いこの部屋だけの物の様だが、美しく磨かれていてさぞ高価なのだろう。暫く見入っているとふと湧き上がる思いがあった。「あ~暇ですわ」「何か変わった事でも起きないかしら」とその時、水晶球から少しずつ光の粒が集まり人の形を形成したかと思った瞬間、一瞬で光が膨れ上がり部屋全体を包み込んだ。
あまりの出来事に思わず尻餅を搗いてしまったアイリーンは、水晶球の方を見上げギョッとした。
“ソイツ”は影だった漆黒の人影が黒い瞳でこちらを見つめ言葉を発した。
「お前が暇を持て余している人間か?中々美しいじゃないか」
影人間はジロジロとアイリーンを見ている。
「決めた。お前こそが我がディテクティヴに相応しい」
「一体何を・・・」
「しばし待て、いずれ分かる事だ」
影人間がそう言うと足元から異様な煙が吹き出してアイリーンは前が見えなくなってしまった。視界が晴れるとそこには誰もいなかった。アイリーンはすぐさま大声を上げながら上司の元へと報告に走った。
「いや~ビビったわ~」
人気のない部屋を見つけて隠れた段蔵は一息ついて現状を確認した。
「書いてある文字は読めるし・・・さっきの女の子の言葉も理解出来たかな?」
そろそろ侵入者の報告が城内に伝わる頃合いと考え段蔵は一つ試してみることにした。
「まずは俺がこの世界でどれだけの実力があるかだな」
情報を得るため、そして自身の技を試す為に城内にある資料を片っ端から探す事にした。
実験その一 巡回の兵士の一人を背後からつけ回す。結果は、かなり至近距離だったにも関わらず全く気づかれなかった。城内に現れた影人間とやら(どうやら自分の事らしい)を探しているにも関わらずだ。
実験その二 兵士の服を適当な部屋から失敬して他の兵士達に混ざってみる。結果、適当に相槌打っていればバレなかった事が逆に驚いた。
実験その三 天井裏に移動してみる。結果、そもそもまるで天井裏に侵入される可能性を全く考慮していないかの様な無警戒ぶりだ。
そうして天井裏を通り書庫らしき部屋に着地、部屋には誰も居ないらしい、ここで重要そうな資料を読みあさるとしよう。
「歴史書 礼節 植物 動物 モンスター 各種図鑑 王族 貴族家系図 詩集 魔法書 成る程成る程・・・文化関係の書籍は何冊かお借りするかね」
それはさておき、段蔵には心配事があった。そう、あまりにも警戒が緩いのである。翼で空を飛ぶ兵士・翼がないのに空を飛ぶ兵士・身体に獣の特徴を備えた兵士・魔法の杖らしき物を持った兵士と見た目色々な利点を持っていそうなのにイマイチ活かされていないらしい、もしかしたら獣っぽい人達はそれっぽく見えるだけで普通の人と変わらないのかもしれないが。ここまで来るとワザと無視されていいる様な気さえしてくる。今もネコ耳尻尾なメイドさんの後をつけているけど見向きもされない、ささっと女性物の紫の下着上下を拝借して本日の最終目的地に向かう事にする。
エルキュリア王国第三王女メアリ・エルキュリア、肩まで伸びた美しい赤髪を後ろに結わえ陶器のような肌に王国軍将校の制服を着込み政務で疲れた顔ではあるものの鋭い真紅の瞳はいささかも輝きを失ってはいないそんな美貌の持ち主が私室に入るとそこには黒い影の様な人物が立っていた。
「報告にあった影人間!?こんな“警備の厳重”なところにまで入り込むなんて」
武術の心得があったメアリは咄嗟に腰に下げたレイピアを抜き放って突きを繰り出した。
しかし寸前で避けられてしまう。繰り返しても結果は同じ、ヒラヒラと躱されていく。
「うん、スピードはそこそこだが単調でいかんね」
「バカにするなー!!」
今までの倍の速度で繰り出された一撃は段蔵が何処かから取り出した黒い布に包まれ、その一瞬布が取り払われるとメアリの手にはレイピアではなく花束が握られていた。
「うんうん、やっぱり美しい女性に花束は鉄板だね。造花で悪いけど」
メアリは一瞬の早業に戦慄を覚えた。厳重な警戒を突破し相手から難なく武器を奪い去る技量の持ち主、自分程度なら恐らく助けを呼ぶ間も無く殺害されるだろう。
「まあ、そう警戒しないでくれ、命を奪う気はないよ。と言っても信じてはもらえんかな?プリンセス・メアリ」
「・・・お話を聞きましょう」
「ご理解が早くて助かる。メアリ様は今、数多くの悩みを抱えていらっしゃいますね?政治腐敗・国内治安・そしてご家族、いやはやどれも一筋縄では行かない複雑な話ですな」
いずれも段蔵が城内の各部屋・重要書類・人員を(勝手に)見た上での結論だ。ファンタジー世界に悪徳貴族・魔物討伐・お家騒動、同業者の気配は感じない、忍者をやるにはこれほど素晴らしい環境もそうそう無いだろう。段蔵は内心歓喜に打ち震えていた。
「それを貴方がどうにかすると?」
「まあ、私めに出来る事は“その”お手伝いに過ぎないですがね」
「貴方は何者ですか?」
「あの部屋の水晶球の向こうから来たエトランジェ・・・信じる信じないは貴女次第ですが」
水晶球と聞いてメアリは「あっ」っと小さく声を上げた。とある部屋に置いてある願えば叶うとされる来歴も今ひとつ不明な水晶球。魔法的な価値はないとされ単なるインテリアとして飾られるだけのものを、メアリは願いが叶うという御伽噺を無論本気にはしていなかったが、毎日少しの時間、縋る様に見つめていたのは事実だった。
「それでは信じましょう、もし貴方がここから無事に抜け出し再びこの部屋に辿りつけたならば」
「それは、良い返事と思っても良いのでしょうか?」
メアリは質問に答えず微笑んだ後、大きく息を吸い込んで叫んだ。
「衛兵!!誰かいないか!!賊が私の部屋にッッ!!」
声を聞きつけ城内の兵士達は雪崩の如く押し寄せてきたがその様子を段蔵は不敵に笑って見つめ懐から一つ小さな玉を取り出し兵士達に投げつけた。
「それでは、プリンセス・メアリ、良い夜を」
玉は小さくパンッと音を立てると桃色の煙を大量に吹き出して花吹雪を撒き散らした。煙が晴れ気が付けば部屋の窓は開かれ、外に人影は見えず、眼下には城下町の灯りが見えるばかりだった。
種明かしをするとこの時点ではまだ城の外に出たわけでは無かった。煙と音で気をそらしその隙に兵士に変装して他の兵士に混ざって悠々と退室して食堂で飯を食べ屋根裏で寝泊りして書庫で資料あさり、そのまま三日程を城内での情報収集に費やした。などと知られれば城内警備担当の管理職は卒倒するかも知れない事を平然とやってのけていたのだ。
「やっぱ監視カメラもセンサーも無い建物は楽で良いよ。さて、そろそろまたお姫様に会いに行きますか」
以前より人員が増え強化された警備の中するするとメアリ姫の私室に入り込み、これまでに集めた物や前の世界から持ってきた物で“正装”に着替え始めた。
「やっぱ本気でこちらの思いを伝えるなら“外見”から入らないとね」
メアリは最近賊に備え自身の側に信頼できる護衛を置くようになった。
黒髪を短く揃え黒猫の耳と尻尾を備えメイド服を着た女性マイクローナ、文武ともに優れ若くして軍の要職に就いた彼女はメアリの士官学校時代の親友であった。あの日以来マイクローナに護衛としてついてきてもらっていた。護衛を始めて二・三日、マイクローナはこの日初めて、そして今後何度も顔を合わせる影人間と出会った。
マイクローナがメアリをエスコートして先にメアリの部屋に入ると部屋の中に人が居ることに気がついた。
それは“ある意味”ではこの部屋に最も似合った人物であった。肩まで伸びた美しい赤髪を後ろに結わえ陶器のような肌に王国軍将校の制服を着込み自信に満ち溢れた顔で鋭い真紅の瞳は猫科獣人よりも更に野性味を帯びた美貌の持ち主、今まさに自身の後ろに控えている方と同じ姿をしていた。
思わず背後の親友と見比べて・・・更に混乱してしまった。
「落ち着きなさい!マイクローナ将軍、王家に仕える者がその様に取り乱してはなりません」
部屋の中にいるメアリに言われてしまい思わずビシッと背筋を正してしまった。
「えっ?えっ?」
部屋の外から見ていたもう一人のメアリは可笑しそうに本当に可笑しそうに数年ぶりに大笑いした。
「プッ、プクッフフフそっそれが、ククッ・・・貴方の力なのね?稀代の名将にして我が無二の親友、マイクローナさえも戦う以前に手玉に取りますか」
「交渉は同じ目線で、というのが私のポリシーでして。どうです?“これ”以上同じ目線もそうそう無いと自負しておりますわ」
「ふぅ、負けましたわ。以前の貴方のお話、受ける事にいたします。見返りは何ですか?地位?お金?いいえ、そうではありませんね。地位なんてその姿ならばいくらでも取って代われる。お金に関しても同様でしょう?」
段蔵は一息ついて答えた。
「沢山の女の子と淫靡な日々に溺れたい」
「「はぁ!?」」
メアリとマイクローナは一緒に声を上げた。なにいってんのコイツ?って感じだ。
「驚く事では無いだろ。私めも一人の男として美姫を侍らせ悠々自適な生活を送りたいと思うのは当然のこと」
((あっ男だったんだ))
「コホン、それならば尚更王族に成りすませば良いのでは?王族の私が言うのもおかしな話ですが」
「適材適所、人には出来る事とできない事がある。いくら私めが王族のフリをしたところで国内を纏めきれるものではありません」
「いえ、私達でも纏めきれておりませんが・・・」
「そこで!!」
「メアリの話は無視かよ」
「私めが僭越ながらこの国をより住み良く変えようというのです。そうすることで私めも心穏やかに生活が出来るというものです」
メアリは、迷った。欲望ダダ漏れのこの男に本当に助力を受けて良いものか?でも、それでも下品な笑みを浮かべる悪徳貴族共よりはよっぽどマシなのかもしれない、毒を以て毒を制す・・・なんて言葉はこの世界には無かったが似たような事を考えた。
「良いでしょう一度信じると決めたのです。二言はありません」
「メアリ?!」
マイクローナは声を荒らげたがメアリがサッと手で制すると渋々引き下がった。
落ち着いたところで段蔵はメアリにやって欲しい事を伝えた。
「私めはこれから悪徳貴族の領地を一箇所乗っ取る。潰しても痛く無い奴をお教え願いたい」
メアリはしばし考えてから答えた。
「それでしたらダンドレジー領ではどうでしょう?帳簿に何点か不審な点が見られました」
「感謝する、それと拠点を得た後は他の悪徳貴族・悪徳商人の縄張りでわざと事件を起こす」
「それを兵達に調査させるという名目で連中を締め上げるのだな?」
「おっ察しがいいねぇ将軍?」
段蔵がメアリの声で褒めるとマイクローナはフンッと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「では専門の調査団を組織せねばなりませんねマイクローナ?指揮をお願いできるかしら?」
「御命令とあらば」
その会話を聞いて段蔵は手で遮った。
「待った、総指揮はマイクローナ嬢で問題ないが現場指揮は一人推薦したい」
「ほう?それは誰だ?」
「城内警備担当のアイリーン・ショルメ嬢だ」
言い終わると段蔵は立ち上がり部屋の窓を開け放った。
「それでは私め・・・俺はお暇するとしよう」
「待って!最後に、あなたの名前は?」
段蔵はちょっと困った。ここで前に魔法使いから教えてもらった邪神とやらの名前を名乗ろうと思っていたが今ひとつ思い出せなかったのである。
(えーっとナイ・・・ナイ?)
このままでは格好がつかないので咄嗟に思い出した部分だけでそれっぽく答えた。
「多面怪盗ナイアール」
そう答えバッと変装用の軍服をめくる様に脱ぐとそこには黒髪を短く揃え黒猫の耳と尻尾を備えメイド服を着た女性が立っていた。“もう一人の”マイクローナは窓から飛び降り王都の中に消えていった。
アイリーンの容姿が描写されていないのは・・・いつか書きます。