第二十九話 死嬢のしたたり
ゾンビ+エロスは鉄板
彼女の結婚前夜、村に盗賊達が押し寄せ幸せだった人々は皆殺しにされてしまった。すべては奪われ焼き払われ村一番のエルフの美女であった彼女の命も消えたがその怨念は深く大地に溶け生ける屍となって現世に迷い出た。かつての美しさは崩れ落ち悍ましき姿となって亡者達を従えるその娘の名は“メグ”、以来この地は何度浄化しても五十年毎にメグとかつての村人達が黄泉返り土地を腐らせ近寄る生者を仲間に引き込もうとするのである。
これはペレンナ領がまだペレンナ領と呼ばれる前の今から五百年も昔の物語・・・。
「つまり今年がその五十年周期って事ね」
ここはペレンナ領西側の荒野、アスタルトが正面を見据えれば軽く三百以上のゾンビの群れ。段蔵・アスタルト・オデット・狸姉さんは悲劇の舞台となったこの地にて亡者達と対峙していた。
「私の爺さん達が退治した時は百人くらいだったそうだが何故今期はこれ程多いんだ?」
「女伯爵の魔物の増殖薬だろ?あのロットとか言うバカが女伯爵とつながっていたのならここで実験していても不思議じゃあ無い」
「狸姉さん周囲に監視してるヤツとか居る?」
狸姉さんがスンスンと臭いを嗅ぐが首を横に振った。
「半径5kmに人の気配は無し・・・じゃが新鮮そうな死体ならばこの奥に何体か居るみたいじゃのう、恐らく操るつもりが返り討ちに遭って今頃向こうで楽しくやっとるのではないか?」
「うげ、ゾンビにでっけ~蟲がくっついてる・・・っと解析・解析」
名称:ゾンビ・リビングデッド・生ける屍・他名称多数
このタイプは魔蟲に制御されており女王蟲を中心に活動する。頭部を破壊すればゾンビは動かなくなる。女王を排除すれば他の蟲も消え去る。生者に寄生出来る程の力は持っていない為死者を操り仲間を増やそうとする。
「成程、それじゃあオデット!頭ごと派手にブッ飛ばせ!!」
「行くぞ!!大竜巻!!」
オデットの竜巻によって周辺のゾンビが軒並み排除されていく、取りこぼし分は他のメンバーも十分対処出来ていたのだが・・・。
「ちょっと!!倒してるハズなのに全然数が減ってない様に見えるんだけど」
「ふむ、どうやら奥にある澱みの沼とやらから消した分が湧き出てるらしいな、しかも二か所あるみたいじゃぞ」
「んじゃ俺とアスタルトが右側、狸姉さんとオデットが左側の対処って事でヨロ」
「了解、一直線に突っ切る」
アスタルトが両手から多数の棒手裏剣を飛ばしゾンビ達の頭に穴を開けていく、日頃の訓練の賜物か以前よりも格段に強くなっている彼女の姿に段蔵が笑みを零した。
「何よ?こんな状況で笑って」
「・・・いや、前より美人になったって思ってさ」
「!?バッ・・・私は最初っから超絶美人よ!!」
「ああ、そうだったな。悪い悪い」
くるくると踊るように敵を倒していく二人を見ながら自分も大魔法を発動させつつオデットはため息を吐いた。
「なんじゃ?ため息なんぞ吐いておると幸せが逃げてゆくぞ」
「いえ、羨ましいな~と思って」
「カッカッカッ、世界最強の魔法使いの一人であっても小娘の乳繰り合いは羨ましいか?世の中ままならぬものよな。自分一人で叶わぬのならば他の者達も巻き込め、協力し高め合い己を磨いて周囲も磨け!方法がわからぬならば妾達がたっぷりとその身に教えてやろう」
「・・・・・考えておきます」
段蔵チームの澱みの沼の前には一体のエルフ女ゾンビが立っていた。
そいつは頭部に大きな魔蟲を体中に小蟲を張り付かせている。一見吐き気を催す程醜いが、それでも蟲の隙間から覗く顔には蠱惑的な魅力が感じられた。
「うげ!全身が蟲の巣になってるって感じね」
「ああ、あれが女王蟲であり、五百年前の美女メグちゃんってワケか」
段蔵が女王蟲に向かって一気に距離を詰めアスタルトは援護に回る。そうして段蔵は女王蟲が宿る女ゾンビを叩き斬った。
「弱!!」
そのまま返す刀で澱みの沼に刀を突き立てた。
「一・二・三・四 五・六・七・八 九・十 布留部 由良由良止 布留部」
沼が輝き凝縮し女性の姿を形作る。
「あれが魔物娘の誕生・・・話には聞いていましたがまさか本当に魔物の姿を残したまま浄化してしまうとは」
「こちら側のゾンビの動きも止まった。妾も沼の浄化に取り掛かるぞ」
周辺のゾンビ達は魔蟲ごと崩れ去り狸姉さん側の沼からは増援が出る気配はない、段蔵が光輝く女性の様子を見ているとゆっくりと光は収まった・・・収まったのだが・・・・・。
「あの・・・相変わらず蟲がたくさんくっついてるんだけど」
現れた女性はエルフで頭はウェーブ掛かった白髪で肌は青く唇は奇妙な程鮮やかな薄桃色をして胸は大きく膨らんでいる。しかし、オデットの言う通り相変わらず全身が穴だらけで魔蟲がこびり付きもぞもぞと蠢いている。
「段蔵、こいつとも寝るの?かなりの上級者ね」
「流石の俺もそこまでの趣味は無ぇよ!!」
「いや待った!蟲が・・・蛹になった?」
蟲達は皆女性の傷口に集まり黄金に輝く蛹へと変化しやがて蛹が割れ中身が一斉に飛び出した。
「これは!!こいつらは皆妖精・・・なのか?」
羽化したのは蟲では無く、小さな無数の妖精だった。それが女性の体に光の粉をふりかけながら女性から出たり入ったりしている。
やがて女性の体の損傷は最初から無かったかのように綺麗に修復されていった。
そして頭部のひときわ大きな蛹も羽化した。
「女王・・・」
その妖精はスプリングやオータムの1/4程の大きさだったが純白のドレスを着て右手には先端に蝶の細工が付いたステッキを持ち頭に小さなティアラを載せた柔和な笑みを湛えた輝く貴婦人だった。
妖精女王がステッキを振るとそれまで動かなかったエルフの美女はゆっくりと瞳を開き起き上がった。
「う・・・・・あああ、こ・・・」
「何か喋ろうとしている?」
「こ・・・こ・・・・・コンビニ・・・デンシまねー・・・」
「だから何で一言目がいつもソレなんだよ!!」
「言ってる事はわからないがこの女性が伝承のメグなのか?」
女ゾンビ(解析の結果この状態でもゾンビと認識された)はふらふらと危なっかしい足取りで周囲と自分自身を見ている。
「め・・・グ・・・?」
「私の時と違って翻訳ナノマシン無しでも会話できてるわね、元人間だから?」
「頭に乗ってる妖精は喋らない・・・というか喋れないみたいだな。一応ナノマシン飲ませてみるか」
やがて女性は安定した姿勢で歩き出した。相変わらず小妖精は女性の体から出たり入ったりを繰り返している。妖精女王も女性の頭の中に溶けこむ様に消えてしまった。
「ア・・・うウ・・・カラだ・・・ピリピリする・・・メ・・グ・・・」
「肉体がちゃんと再生してるみたいだしこのメグって女も嫁にするんでしょ?魔物仲間が増えるのは私としても歓迎だし」
「そうだな、五百年前の美女を妻に迎えるのも面白い」
「つ・・・ま?オよめ・・・サン?」
「そうそう、一緒に楽しく過ごしましょ。あっちで皆を紹介してあげるわ」
「なカま・・・たくさン・・・居ル?じゃア行く」
こうしてゾンビ娘が新たな嫁として加わった・・・のもつかの間、狸姉さんが大声を張り上げて走ってきた。
「お~~~~い、こっちは面白い事になったぞ~~~」
声のする方を見てみると一同ギョッとした。
狸姉さんの後ろからは同じく妖精を乗っけたゾンビ娘や人間みたいな大きさのエロ大根や頭にキノコの傘をかぶった女の子が歩いてきていた。
「なんじゃこりゃ~~~」
「何驚いとるか!早よナノマシンを人数分作らんか!」
「姉さん、何でこんなに多いんだ?」
「妾の才能かのう?じゃが人数が多い分能力は段蔵が浄化した娘よりも劣るみたいじゃのう」
「う・・・あ、お嫁サン・・・たくサん」
オデットが目を白黒させて見ている。
「こっちはゾンビ娘でこっちの女の形した歩く根野菜は・・・まさかマンドレイク?アルラウネか?」
「こっちの頭キノコの娘は特に毒性は無いみたいじゃな、中々カワイイぞ」
「段蔵?」
「ウチで面倒見るしか無いだろ」
ぞろぞろと異形の美女達を引き連れてテレポータの地点まで歩く段蔵達だったが妖精女王を宿したゾンビ娘が立ち止まって何かブツブツ言い始めた。
「・・・めぐ・・・メグ?・・・」
「何だ?一体どうした?」
「わしは・・・メグ・・・違う!」
一同「え?」
「思い出した!!ワシはメグでは無いぞ、村一番の魔法使い“ネフティス”じゃ~~~~!!」
一同「721!!」
「うむ、ようやく頭のエンジンが回転し始めたぞ。段蔵様の世界の知識もある程度理解できる!まるで生まれ変わったみたいじゃ!!これが強くてNEW GAMEとかいう奴か?なんと清々しい気分じゃ」
段蔵を含めた4人はゾンビ娘の豹変ぷりにポカンとしていた。
「え?ちょっと待って?貴女メグさんじゃ無いの?」
「何を言っておるか?メグならば盗賊襲来の一月も前にペレンナとか言う金持ちの家に嫁いで行ったわい」
「ペレンナ・・・ってウチじゃないか~~~!!えっ?でも伝承だとメグも殺されたって・・・え?」
「これは・・・変なところで伝承が混ざって間違った伝わり方をしたのかのう?まあ、歴史の世界じゃよくあることじゃ」
「あ゛?つまり伝承は間違いで実際今までゾンビのリーダーだったのはネフティスさん?だったって事か?」
「“ネフティスさん”なんて他人行儀は嫌じゃ、折角妻になったんじゃからこれからはネティって呼んで♡しっかし生前は魔法研究で六十年過ごして乙女のまま朽ち果てるものかと思っておったが魔物に変じた事で若返るとは実に興味深いのう」
またしてもネティの発言に狸姉さん以外の全員が驚かされた。
「え?そんな魔法研究で六十年ってそれじゃあ・・・」
「ワシ享年七十五歳じゃ」
「なんじゃ、まだまだ小娘ではないか」
「そりゃ御前様と比べたら大抵の人は子供みたいなもんだけどさ」
「何歳でも美しければ構わないさ」
そう言った段蔵はネティの手の甲に軽くキスをした。だが次にネティの発した言葉は更に驚くべき内容だった。
「じゃが惜しいな~、盗賊に襲われさえしなければもう少しで魔物の制御方法を確立出来たというのに」
「はぁ!?」
「思い出したぞ、ワシが死ぬ間際に盗賊共がワシの研究資料を全部持って行きおったんじゃ、本当に悔しいのう」
「ちょっと待って、それじゃあ貴女は魔物の制御を研究していたの?」
「ああ、村での魔物の被害を抑える為にな。あと一歩というところで完成じゃったの・・・に・・・!?」
「もしかしたらその時の資料が長い年月の中で巡り巡ってコロジョン男爵の手に渡ったのかもな、その話もう少し詳しく・・・ネティ?」
ネティが急にうずくまって苦しそうに唸った。何事かと段蔵が彼女を抱き寄せるとネティが強い力で段蔵を押し倒して・・・。
「御前様!?これは?」
「こやつらもスプリング達と同じで魔力補給をアレで行っておるのじゃ、妖精の魔力で肉体を維持しておるからのう」
「あ!!他のゾンビ娘達も混ざり始めた」
「おわ~~~~!!小さな妖精さんが・・・妖精さんが俺のをちゅーちゅーしてくる~~~~!!」
「やれやれ、妾達も手伝ってやるか」
「わ・・・私もですか~~~」
その日、何とか屋敷に帰り着いた段蔵は、魔法使い新堂英一を呼び出し魔力の消費が激しい魔物娘達の為に魔力維持アイテムを購入する事になった。
◇ ◇ ◇
~ダンドレジー屋敷 ネティの魔法科学研究室~
「それで段蔵様、ワシに研究して欲しいというのは何かのう?」
「一つは水と炎の魔法を使った蒸気機関、そして・・・・・」
「・・・・・蒸気機関はともかく本当に“ソレ”を作って良いのか?」
「ああ、正直俺は賛成できないがアイツの意志は固いからな」
「わかった。ワシの研究が誰かの助けになるのならば喜んで引き受けよう」
「こんないい女がついこの前まで処女だったなんて信じられないな、五百年前のヤロー共は見る目が無い」
段蔵はネティを抱きかかえると研究室の隣にある寝室に入って行った。
今夜もネティの中に住む妖精達は女王を中心に極上の魔力を貪るだろう。
半年程前に元ネタの映画をレンタルして観ましたが、パッケージ裏のあらすじにラストシーンまでほぼ書いてありました。
次回は量産魔物娘も加わった日常+解説話の予定です。




