第二十八話 怪商人 カーノティ 後編 無銘秋水
やっと後編
突如現れた謎の女に奇襲を受けた盗賊達は反撃に移る為魔物化薬を使用するが女は更に奇怪な動きを見せた。
それは所謂体育座りで膝を抱えたままゆっくりと浮遊してその全身に球形の風の壁を身に纏った。
そしてソレは猛スピードで縦横無尽に移動したのである。
「な・・・なんだこ・・・へぶっ!!」
「こっちに来るな!へぎゃ!!」
魔物に変じた盗賊達の強固な肉体をもってしてもこの風の球体に触れた瞬間とてもお子様には見せられないような無残な姿になってしまった。
「魔法だ!魔法で仕留めろ!!」
盗賊達が一斉に魔法を放つが風の壁に受け流され逸らされてしまう。正に攻防一体の完全魔法・・・に見えたのだが・・・。
「息が続かない、一旦深呼吸・・・」
そう、何も受け付けない風の球体に入っていると呼吸ができなくなり更に風が強すぎて視界もほとんど利かないのであった。
「我が姉妹よ、無策に飛び出し過ぎだ!我等が主人の忠告を忘れたか?この技は我と一つになる事でようやく完全な形となるのだ」
球体内に新鮮な空気を送る事と方向の制御にはオータムの協力が必要不可欠であった。
「それってあのセリフ言わなきゃダメなんだよな」
「当然!!我らは魂の姉妹だからな、行くぞ」
「本気かよ~~」
「「大地の女神も御照覧あれ、我らが意思は澄み渡る秋の水!外道を滅ぼす無銘の刃なり!必殺!!“無銘秋水”!!!」」
オータムの制御によって正確に敵集団を粉砕していく、更に浄化された空気が球体内に送られる為長時間の使用にも耐えられるのだがオデットはあまり喜んでいなかった。
「やっぱりこのポーズとセリフはカッコ悪い~~~~~」
体育座りのまま敵に体当たりする戦法と先の恥ずかしい無意味なセリフは本人のやる気を大幅に削がれるものであった。
「今度は絶対もっと格好の良い技を考えてやる~~~~~~~」
「その時は我が技名をつけてやろう」
「それは絶対にお断りだ~~~~~~~!!!」
次々と自分の手下が屠られていく状況にロットは次第に追い詰められていった。
「馬鹿な、我々は先生に選ばれた正義の使者であるはずなのに・・・なのに何故負ける?先生が直々に下さったこの力は悪には屈しないのに!!」
「な!に!が!正義だ!!」
木の上からナイアールがロットに斬りかかる。傷は浅かったものの肩から血を流しつつ異形に変じたロットは呻き声を上げた。続いてナイアールは両足に刃を一回ずつ突き立てる。
「な・・・おま・・・いや、アナタは・・・怪盗ナイアール?何故だ?何故アンタが俺を斬る?俺はアンタと同じように民衆から搾取している金持ち共からこの力で・・・正義のために・・・」
「正義の為だと?お前、あの積み荷を何だと思ってるんだ?お前が今まで襲っていた積み荷には学院と星の智慧社の共同研究で開発された新型の農具やダンドレジー産の腐葉土・肥料他それらに関するレシピ、その他の農村への支援金・支援物資が積んであったんだぞ!!」
「のうぐ・・・?ふようど・・・?ひりょう・・・?何だソレは?・・・意味の分からない言葉で我等の革命の邪魔をするな!!アンタだって正義の為に戦ってきたんだろ?」
「悪いが俺は正義の為とか言う妄言で戦った事なんぞ過去においても、そしてこの先の未来においても決して無い!!俺は自分の過ごし易い環境を作っているに過ぎない、その為には俺以外の悪党は邪魔なんだよ!!」
ロットは激昂してナイアールに襲い掛かった。しかし足の傷の為俊敏な動きが出来ない、ロットは蝙蝠の翼で空を飛びナイアールから距離を取ろうとしたがナイアールの投げたトリモチ爆弾を浴びて翼が封じられてしまった。
「このロット・バルト様の正義が妄言・・・?ははは、そんな・・・馬鹿な、俺は先生にも認められた勇者なのに・・・」
逃げるロットはやがて森の中の湖にたどり着いた。
「さて、そろそろ洗いざらい話してもらおうか?誰がお前達に力を与えた?誰にそんな戯言を吹き込まれた?」
部下を片付けたオデット達とも合流した。しかしロットは腕に生えた巨大な爪を振り回し未だ抵抗を続ける。
「どこまでも救えない・・・オータム!」
「心得た」
ナイアールは刃に風の力を纏わせて居合の要領でソニックブームを飛ばした。まともに受けたロットはそのまま湖に落ち浮かんでくることは無かった。
「殺したのか・・・?」
「・・・・・迂闊だった。油断したつもりは無かったが今の魔物化薬の性能を甘く見積もっていた。オデット、奴の属性は確か・・・」
「水・・・だったかな」
「・・・・・お前達は帰れ、後は俺が探す。そろそろアイリーン隊長殿も来る頃だしな」
~秘密の隠れ家~
森の中の洞窟、この場所は部下達にも伝えていない先生に教えてもらったロットだけの秘密の場所だった。
「はぁはぁ・・・こ・・・ここまで来れば」
ふと、ロットはそこに先客が居る事に気が付いた。この場所を知っているのはロットと彼が師とする人物のみ、はたしてロットの予想は的中した。
「先生!おいでくださったのですね?」
「ああ、ロット君ですか?酷い有様ですね。さあ、この水を飲んで息を落ち着かせて」
自分を抱きかかえ水を飲ませてもらったロットは敬愛する師の訪問に顔を綻ばせた。
(これで再び立ち上がれる。今度こそ先生の創る新世界を守護する勇者になれるんだ)
「ロット君、君の活躍で随分こちらの実験が進みました。これも君達が正義の使者として頑張ってくれたお陰ですよ」
「ですが先生、ご覧の通り俺は負けてしまいました。つきましては俺の治療と追加の戦力をお願いしたいのですが」
そこで先生と呼ばれた人物は呆気にとられたかのような不思議な顔でロットを見つめた。
「え?追加人員ですか?どうしてそんな事をしなければならないのですか?」
「・・・はあ?勿論革命を成功させる為ですよ?」
「ですから何故そんな事をしなければならないのですか?薬品の実験結果は君達で十分確認できましたしこれ以上君達に期待する事なんて何もありませんよ?」
その言葉を聞いたロットの頭に先ほど戦ったナイアールの言葉が甦る。
「あの積み荷の中身は農村への支援物資という話は・・・本当なのですか・・・?」
「ええ、間違いありません。それを君達は正義の為だと私の言葉を真に受けて喜々として略奪する姿は実に滑稽でした。何せ助けるべき農民達を自分達の手で苦しめているのですから、笑いが止まりませんでしたよ」
ロットの中の何もかもが崩れ去った。ナイアールの言う通り自分の正義は妄言に過ぎなかった。認められなかった。信じられなかった。忘れてしまいたかった。だがその前に、目の前のこの女だけは殺そうと思った。
「うがあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「そうそう、最後の実験を忘れていました。“止まれ”」
その瞬間ロットの身体は動かなくなった。自分の体なのに指一本、関節一つ動かない。
「“自害しなさい”っていう命令は何故か受け付けないんだったかしら?ならば“自分の胸に爪を突き立てなさい”これちょっと面倒ね」
そうしてロットは自分の心臓や肺に爪を突き立てた。
「やっぱりこの魔物制御薬は魔物に変じた人間にも効くんですねぇ~」
先生はロットに飲ませた水の入ったコップを手で弄んでいる。最早ロットには興味を無くしたようだ。
「さて、こんなゴミ溜めは掃除してしまうに限りますね」
先生・・・女伯爵は洞窟内に火の魔法が込められた魔石を大量にばら撒き、自身の火炎魔法と共に発火させた。ロットの死体も焼かれて骨になっていく。
しばらくしてナイアールがこの場所を見つけた時には灰と骨以外は何も残っていなかった。
~ロット達のアジト~
「うえ、ここに沢山白骨死体が転がってるっス。気持ち悪い」
「・・・骨盤が横に広い・・・さぞ無念だったでしょうに・・・」
ここはロット一味が普段使用している隠れ家、現在は領主の依頼でアイリーン達が調査を進めていた。
「どうですの?何か資料は見つかりまして?」
隊員達の捜査も虚しく重要資料は発見されなかった。元々烏合の衆がちょっと強い力を持っただけの連中なのだ。そもそも資料を作るだの文書を保管するだのといった事はしないのかもしれない、しかしアイリーンは棚の上に一冊だけ置いてある本を見つけた。
「【星辰の魔法力学】・・・ここにも・・・偶然かしら?」
「しっかしナイアール事件で呼ばれて来たのに来てみたら盗まれた後でついでに盗賊退治の後始末をさせられるってどういう事っスか?」
「正確には盗まれた後であまりにも私達が遅いから返しに来たとの事でしたわね」
「返された【スービーズの首飾り】には“もっと早く到着できるよう街道を整備しなさい”って手紙書いてあったっスね、大きなお世話っス」
「悔しいですがヤツの言う事にも一理ありますわ、インフラ整備と高速移動手段の確保は今後の課題ですわね」
アイリーンは本を片手に捜査を続けるのであった。それが女伯爵へつながる道だと信じて今はただ突き進むのみである。
~ペレンナ屋敷~
「お約束通り、領内の盗賊は一掃いたしました。我が社からの物資援助も予定通り続けていきます」
「畜産業の技術伝授までしていただき有り難い限りです。しかし施設丸ごと譲渡していただけるとは思いませんでした。星の智慧社がそのまま管理した方が利益が出たのでは?」
「なに、商売ってのは取引相手が居てこそ更なる高みを目指せるんですよ。一か所が独占して利益が集中してしまったらそれこそ発展が望めない」
「成程、我が領も星の智慧社の取引相手として釣り合う様産業を発展させねばならぬワケですな?という事は手紙に書かれた街道整備の話が実際に来ても星の智慧社は独占しないと?」
「何か所かはウチで受け持つでしょう、もちろんウチの技術の粋を集めて行いますが大半は他のギルドとかが行うんじゃないですか?」
「そうして星の智慧社の高い技術力を目の当たりにした他所の技術者が自分達も研究し発展させようとするわけですね?」
「あくまで理想ですがね」
「娘の夫が貴方で良かった。カーノティいえナイアールとお呼びすればよろしいですかな?ダン・エンドー会長?」
「ダンで良いですよお義父さん♪」
「まあ、何にしろお転婆な娘ですがよろしくお願いします」
段蔵とペレンナ伯爵の様子を見守っていたペレンナ夫人だったが突如思い出したかのように声を上げた。
「思い出しました。ロット・バルトなる男の事を、確か領内で数学に関してはかなりの秀才とされていた人物でしたわね。真面目な性格で自分で資金を集めて王立学院に向かったとか・・・それ以降の話は聞いていませんが何故盗賊なんかに・・・」
段蔵には彼が転落した理由は何となく想像できた。彼程度の秀才ならば学院にそれこそ大勢いた事だろう、入学してドロップアウトしたかそもそも入学すらできずに締め出されたか、その時に組織に唆されたのだろう。
「革命はいつも中途半端なインテリが始めるが夢みたいな目標を持ってやるから過激な事しかしない、加えて自分の専門分野以外には無知な癖してプライドだけはやたら高いから別の知識を持つ外部と対等な関係を築こうとは考えない、その結果大勢の不幸な犠牲者を出して悲劇だけが残る」
「“ジム・モロアッチ”の首魁、女伯爵と言いましたかな?我々でも情報を集めてみます」
「あまり無理はなさらぬように」
その後、オデット・ペレンナ嬢がダン・エンドー会長の夫人となる事が発表され国内の男性はダン会長の女たらしっぷりに(一夫多妻が認められているとはいえ)嫉妬の視線を向けたが続いて極星エア・オデルがダン会長を守護すると宣言した為泣く泣く引き下がる事となった。
ヒロインが多いので短編毎に活躍するヒロインを決めた方が楽だな、そろそろ全員は厳しい・・・最初からわかってた事なんですけどね・・・。
次は狸姉さん・オデット・アスタルトがメインの魔物退治話かも。




