第二十三話 炎の結婚式 羊娘の沈黙(沈黙するとは言っていない)編
いよいよ結婚式、どんどんヒロインも増えます。
その日ダンドレジー領に一つの御布令が出された。
【料理大会の開催】
開催は▼月〇日
参加は自由、食材・調味料・調理器具は各自ご用意してください
テーマは大会当日発表、優勝賞金は金200万 希望であれば領主屋敷の専属コックとして雇用も致します。
腕に自信のある方は是非ご参加ください
ダンドレジー領主 クラリース・ダンドレジー
これを見た領内の村々や都市では料理自慢が次々と立候補した。村で一番料理が得意な奥さんや大衆食堂の店主に大商人専属のコック長や料理に並々ならぬ情熱を注ぐ美食家で料理研究家の貴族(コック長や貴族は賞金よりも名声を求めての参加である)
その中でも異色なのが娼館を大衆食堂に改築した元娼婦で料理人の羊獣人ジェインであった。不幸が重なり劣悪な環境で娼婦として過ごしていたジェインだったが彼女の為せる業か彼女の作る料理によって他の同僚にも生きる希望を与え続けていた。そんなある日、領主の策略によって悪辣な雇用主が追い払われ領主から大金が支払われた。それを元手にジェインは賛同した仲間と共に食堂を開業して現在に至る。しかし元娼館というとやはり客足が鈍く、彼女達の料理を美味であると理解している固定客はほんの少数であった。
「応援をしていただいたダンドレジー卿も今は亡く、あるいはこれが最後の機会かな?」
厨房で仕込みをしながら彼女は決意を固めた。
◇ ◇ ◇
~三日前ダンドレジー家~
「クラリースは働き過ぎ」
「・・・・・はぁ」
実際まだ慣れない行政だけでも手一杯なのに分担しているとはいえ家事も行っているのだ。色々と大変だろう。だが、クラリースは寂しそうな表情で質問した。
「ダンゾー様は私のごはん嫌いですか?」
「そういう理由じゃない、クラリースの料理は美味しいよ。だが、それとこれとは別問題だ。そこで、結婚式の準備も兼ねてコックを雇おうと思う」
機密保持の為とはいえ屋敷の使用人を全て解雇してしまったのは痛かった。お陰でこの広い屋敷の最低限の家事は自分達でしなければならなくなった。
「どうせ雇うなら一流を、という訳で街で料理大会を開催しようと思う。まあ、雇えなくても披露宴用の料理ぐらいは依頼しておきたいからね」
結婚式・披露宴という単語に一同浮き足立つ、各々が妄想を膨らませていた。
「そういえばダンゾーの爵位は結局どうなったんだい?」
アンリエットの疑問にオードリーが答えた。
「フーディー領は子爵領ですからそのまま子爵位を貰いました」
「・・・・・上は伯爵、下は男爵。クラリースと結婚したら子爵で男爵」
今度はアスタルトが疑問を口にする。
「?爵位二つになるの?何で?」
その問にはクラリースが答えた。
「コナン帝国やアケチ皇国では爵位は功績のあった人に与えられるそうですがエルキュリア王国では管理する領地に対して与えられるものですから」
「複数の土地を管理するとその分だけ爵位が増えるってワケだ」
「勿論一人で複数の管理は大変ですから大抵は血縁者に譲るんですけどね。私も誰かに譲っちゃおうかしら・・・」
クラリースは父親の一件以来貴族を軽んじる傾向にあるみたいだ。しかし段蔵はそれを否定した。
「クラリース、悪徳貴族や汚職で溢れるこの国で貴族に幻滅するのはわかるがだからといって権力を軽んじるのは感心しないな。俺の国でも宇宙人なんかに権力を持たせてしまって国内が崩壊寸前まで混乱した時期があったんだ。クラリースは良くやっているよ、だから安易に権力を譲る様な真似はしないで欲しい。さっきの話に戻るけどだからこそ領民の生活を考える事を優先して欲しいから家事が出来る人を雇うんだ」
段蔵はクラリースの額に軽くキスをして微笑んだ。
「そうだアンリエット、今日姐さんにウェディングドレスの仕立てを頼んでくれ9着分な」
だが、スプリングが手を挙げた。
「自分は妖精でありますから、服は自前で用意出来るであります」
「じゃあ8着分な」
「ご主人様、それって」
「・・・・・私達の分も・・・入ってる」
フーディー母娘が身を震わせている。
「あ~~~あれだ、綺麗に着飾って×××するのも楽しいかなって思っただけだ」
「素直じゃ無いねぇ、っとアタシ達は今まで何着か仕立ててもらってるから問題無いけどイズンは今回が初めてだから事前に測っておかないとねぇ」
「イズンお姉ちゃんならまだ寝てるよ」
「アイツ本当に夢の食っちゃ寝生活だな」
「一応食材の提供やダンゾー様の薬草の世話はしてくれているんですけどね」
「今回は起こしてさっさと測ってしまおう」
◇ ◇ ◇
「というわけでウェディングドレスを8着仕立てて欲しいんだ。予算は言い値を飲むよ」
ここは街の一等地にある仕立て屋、アンリエットの知り合いである姐さんが経営する今は男爵家御用達の看板を掲げた人気のお店だ。
「何が『というわけで』かは知らないけど元気そうで何よりね、前の領主様がお亡くなりになってからアンタの事が心配だったんだよ?今の領主様は良くしてくれているかい?辛い目に合っては無いかい?」
「いやだなあ、姐さん。アタシ、家の皆にはとても良くしてもらってるんだ。クラリースとも、親友?というよりやっぱり家族だね、うん」
家族に売られた過去を持つアンリエットが胸を張って今の家族を自慢している。姐さんは仲間の幸せを心から祝福した。
「でも何でウェディングドレスを8着も?」
「実はここだけの話、近々クラリースが結婚するんだよ」
「え?領主様が?相手は?」
「今は言えないけどとんでもない大金持ちの美男子で強くて優しくて頭も良いヒト」
「ほうほう・・・うん?残り7着のドレスは?」
「あ~~~、なんというか素晴らしい男には違い無いんだけどその反面とんでもなく好色でね・・・まあ、私を含め何人かを愛妾として迎え入れるんだよ」
「い゛っ!?・・・・・何というか・・・ホントに大丈夫なのかい?」
「皆仲良いから大丈夫でしょう・・・どうせもっと増えるだろうし」
「まだ増えるのかい!?」
「姐さん達も結婚相手捜してるなら口添えしておこうか?多分十人二十人増えても食うには困らないよ」
「そりゃ一体どこの御大尽様なんだい?」
「その内わかるわよ」
◇ ◇ ◇
~料理大会当日 ベルナール街中央公園~
「さあ、やってまいりました“ダンドレジー領料理大会”司会はわたくし豚獣人のハッカでお送り致します」
豚耳で筋骨隆々の中年男性が声を響かせる魔道具を持って観客にアピールする。
「審査員はこの方々、大会主催者にして若き天才領主であるクラリース・ダンドレジー様」
「よろしくお願いします。どんな料理が出てくるか楽しみですね」
「続いては現在ダンドレジー領を中心に急成長中の商会『星の智慧社』の幹部であるイコ・フーディー様」
「・・・・・よろしく」
「ダンドレジー家の養女でありクラリース様の義妹となった可憐な花、ユノ・ダンドレジー様」
「お姉様と一緒においしいごはん食べるのたのしみです」
舞台裏ではアンリエット達が内緒話をしていた。
(てっきりクラリースお気に入りのユナちゃんが出ると思ってたけど?)
(ユナ様は“例の件”でまだご機嫌ナナメであります)
(クラリース様は『怒ったユナちゃんも可愛い』って言ってましたけれども)
(お姉ちゃんは変態さんです!)
(ところで予選の時から段蔵の姿が見えないけど何処行った?)
「最後は特別ゲスト、数日前にシントー領主様との婚約が発表されたナイアール捜査部隊の元隊員、ギャルル・メディス様」
「ちょっ!私まだ現役隊員だし、気分はもうギャルル・シントーよ!」
「続きまして予選を勝ち抜いた料理人をご紹介します。まずは綿花産業で成功を収めたムーノ家でコック長を務める鳥人バド・ヘルム氏」
「や~や~、どうもどうも」
茶色の翼を広げ声援を受ける鳥人のコックにムーノ家の面々も良い席で応援に来ていた。
「旅の途中で偶然本大会を知り急遽参加し破竹の勢いで予選を勝ち抜いたアケチ皇国出身の美貌の料理人ハニー・レクターさん」
「ふふふ、よろしくお願いします」
ハニー・レクターと呼ばれた女性は黒髪をたなびかせ氷のように冷たい笑みを浮かべた。
「次は・・・え~、元娼婦という経歴の羊獣人ジェイン・ケリーさん・・・まあ、頑張ってください」
経歴を知りあからさまに他の選手よりも適当な紹介になった司会、周囲の反応もあまり期待はされていない様子だがハニー・レクターだけはジェインをじっと見つめていた。その視線に気付いたジェインがハニーを見返す。
「あの・・・何か?」
「失礼、私の目はいつも欲しいものを追い求めてしまう悪癖があるの、気に障ったのなら謝るわ」
ジェインがその言葉の意味を測っている間にも司会者は次の選手の紹介を行っていた。
「最後を飾るのはこのお方、王国内でも“食の土地”として知られるアジオ領領主にして自他共に認める料理人侯爵デリシャ・アジオ様」
「司会よ、この場では私も一料理人に過ぎぬ。気遣いは無用ぞ」
選手の紹介が終わりいよいよ試合が開始される。観客も審査員も選手も皆真剣な表情でその時を待った。
「それでは第一回戦バド・ヘルム対ハニー・レクター、テーマは“卵料理”時間は15分それでは開始!!」
早速バドは複数の野菜と鶏肉を刻み手際よく炒めていく、対してハニーは予め沸騰させていたお湯の火を止めその中に人数分の卵を入れただけであった。
「バド選手、炒めた食材を大量の卵で包み込んで焼いています。オムレツでしょうか?あれだけの大きさにも関わらず形が崩れていないのは見事ですね。対してハニー選手は・・・?薄茶色の半透明なソース?ですか?それ以外は何も用意されていません」
ハニーは時間ギリギリで卵を湯から出しそれを小さな器に開けた瞬間司会が驚いた。
「これは・・・ゆで卵?いやしかし“こんな”ゆで卵は見た事が無い・・・」
制限時間が過ぎ両者料理を出した。
「温泉卵です」
とろりとした表面に用意していた薄茶色のソースをかけた物が審査員に出された。
「トロトロしてておいしい~♪」
「このソースは海産物の香りがするっていうか~」
「・・・・・こんなの食べたこと無い」
「ええ、私も初めてです(これは確か“あの本”に載っていた・・・)」
審査員の評価は上々だ。対するバドのオムレツが出されソレの香りを嗅いだギャルルが一瞬で顔を真っ赤にして叫んだ。
「それを口に入れないで!!警備兵集合!!」
皆何事かと構えている内にギャルルの指示で警備兵がバド・ヘルムを取り囲む。ギャルルはバドの懐から一つの調味料の瓶を取り出し中の粉末を舐めた。
「やっぱり・・・、これは使用禁止のマジックマッシュルームの粉末ね。強い依存性を持ち長期服用した場合はやがて冷静な判断力が失われちゃうヤツです」
それを聞いた彼の雇い主であるムーノ家の面々は皆顔を真っ青にした。
「予選では使っていないみたいだけどムーノ家の皆様は一度専門医の診断を受ける事をオススメしちゃうわ。バドを連行しちゃって!」
両脇をがっしり掴まれたバドが喚きながら連行されていった。一連の出来事に皆目を丸くしているが流石司会者は立ち直りが早かった。
「・・・・え~~~、バド選手失格によりハニー選手の不戦勝!」
『おおおおおおおおお!!』
多少運が良かった感は拭えないがハニーの勝利に会場が沸き立った。
「それでは第二回戦デリシャ・アジオ様対ジェイン・ケリー、テーマは・・・ライス料理?」
司会の疑問にクラリースが答える。
「ライスとは東方のアケチ皇国での主食の事です。星の智慧社が輸入した物をミーネ・・・ゴホンッ、イコ・フーディーさんに本大会の為に提供していただきました。試験的に栽培も始めるそうです」
パンが主食の王国では聞きなれない食材だったがデリシャは余裕の表情を浮かべる。
「ほう、ライスとは中々面白い物を用意したなダンドレジー卿。ケリー嬢よ、調理法が分からなければそなたはテーマ外の得意料理を作ってもワシは構わんぞ」
「・・・問題ありません、アジオ様」
両者とも自信に満ちた表情で食材に向き合った。
「それでは二回戦、開始!!」
「なんじゃ、ライスはもう炊けているのか?研ぐところから始めても別に良かったぞ」
デリシャは他国の料理知識も豊富なのか手が止まる事無く調理を進める。対するジェインも手を止める事無く進めるがその調理方法は真逆であった。
デリシャは鍋で煮込みジェインはフライパンで炒め始めた。やがて両者同時に料理が完成した。
「ワシはアケチ皇国伝統の皇族料理、七星粥で勝負よ!現地の高級な薬草・スパイス・野菜全七種をライスと共に煮込んだ無病祈願の料理ぞ」
「私はライスと卵とハムとタマネギをバターとソースで炒めた物」
クラリースは双方の料理を一口ずつ食べてからデリシャに意外な言葉を投げかけた。
「デリシャ様、彼女の料理を一口食べてみて下さい、恐らく貴方様でしたら私と同じ判断をしていただけると信じています」
「む?」
デリシャは不審に思いながらもジェインの料理を口に運んだ。
「こ・・・これは、ライスの絶妙な食感が他の食材と絡み合いソースが・・・う・・・う~~~ま~~~い~~~ぞ~~~!!!」
「私はデリシャオジサマの七星粥の方が好きだけどね~」
「・・・それはギャルルが薬師の家系だから・・・ユノみたいな小さい子に薬草の香りはキツイ」
見ればユノが七星粥を食べて苦々しい顔をしていた。
デリシャはジェインの両手を握り涙ぐみながら賞賛した。
「ケリー嬢・・・いや、ジェイン様、ワシは自分が恥ずかしい。料理に全力を注ぐなどと日頃から言いながらワシはどこかで貴女を・・・自分以外の全ての料理人を見下し甘え腕を磨く事を忘れておった。既存の調理法をなぞる事だけで新たな道を模索する事を忘れてしまっておったよ。貴女の料理は若かりし頃持っていた情熱を取り戻させてくれた。ありがとう、本当にありがとう」
「顔を上げて下さいデリシャ様、貴方様は全ての料理人の憧れ料理人侯爵なのですから」
二人が互の健闘を讃え合い此処に決着がついた。
「勝者、ジェイン・ケリー選手!!まさか彼の料理人侯爵様から賞賛の言葉を送られる程の料理人だったとは、この大会の結末はどうなってしまうのか~~~~!!」
「デリシャ様もこちらで審査してみませんか?席をご用意致します」
「お言葉に甘えさせていただきます」
審査員にデリシャ・アジオを迎え入れ決勝戦が始まった。
「決勝はハニー・レクター対ジェイン・ケリー、テーマは“自分のお店に出品出来る楽しい夕食”」
「ほほう、これはまた随分と変わったテーマじゃなダンドレジー卿?」
「今回私が見るべきは料理であって料理ではありませんので」
クラリースの眼鏡の奥の瞳が静かに光る。
「料理であって料理ではない・・・まるで東方の神官が行うという禅問答じゃな、むうっ!?」
早速厨房に動きがあった。ハニーが数々の食材を大道芸の様な大胆な動きで捌いていく、皮を剥き様々な形に高速で切りそろえられていく食材達に皆目を奪われていく。
「あのハニー・レクターという娘、並大抵の腕では無いな。あの飾り切りの技巧はワシでも真似出来るかどうか・・・」
「ちょっと!アレって生きたままの海老将軍(この世界の1.5m級のエビ)じゃない?」
それだけではなく内陸にあるダンドレジー領ではあまりお目に掛かれない魚介類の数々が手早く調理されていく、だがクラリースはジェインの方に注目していた。
ジェインは鶏肉を丁寧に捌き王国伝統のオニオンスープとマッシュポテトを用意していた。そこに特別な食材や珍しい調味料は用意されていなかった。
やがて二人の料理は完成した。
「こちらは海老将軍の海鮮ステーキに蟹出汁スープ、そしてサラダです」
「なっな~~~~んと芸術的な!!色とりどりの食材に食欲をそそる香り、わたくしハッカも芸人生活30年の間にこれ程美しい料理は見た事ありません!!」
「う~む、海の幸を贅沢に使い素材の味を一切殺すこと無くここまでの物に仕上げるとは・・・」
「この野菜、馬の形してておもしろ~い」
「サラダに僅かにレモンの香りが口の中をさっぱりさせるっていうか~」
「・・・・・こんなの食べた事無い」
次に出されたジェインの料理はどこを見ても目新しいものではなかった。
「鶏肉のソテーにオニオンスープそしてポテトサラダです」
「うむ、それでは・・・」
ジェインの料理を食べる一同は皆同じだった。
『美味しい』
特別な感想など無くただただ美味しいの一言だけが頭に浮かんでいた。
「ダンドレジー卿」
「(ごめんなさい、“貴方”を優勝させるわけにはいかないんです、ですから多少強引なやり方で引き下がっていただきます)デリシャ様、私の答えは調理の時点で決まっていました。ハニーさん」
「クラリース様、如何されましたか?」
「どういった意図でこの料理をお作りになられましたか?」
「新しいものを食べてみる事が人にとって大事だからです」
「今回のテーマは理解していますか?」
「もちろんです。ですから私は自分の店に出すのに何ら恥ずかしくないメニューを出しました」
「ではお聞きしますがこの料理の代金はいくらですか?」
その言葉に司会は・観客はそしてハニー・レクターは固まってしまった。
「今回用意した魚介類の輸送費は?そもそもの購入費用は?毎日このレベルの料理を何食も作れますか?この料理の代金は1万ですか?2万ですか?・・・恐らくお金持ちの皆様であっても眉を顰める金額になるのではありませんか?」
その言葉にハニー・レクターは脱力してしまった。
「人を集めた大きな晩餐会ならばともかく日々の夕食にこのメニューは認められません、ですがジェインさんは特別な食材を一切使わずに最高の味を作ってくれました。よって優勝はジェイン・ケリー選手とさせていただきます!」
「・・・・・・・それでこそ君だ」
ハニーはジェインに歩み寄り握手を求めた。ジェインもそれに応え握り返すがハニーはジェインの体を強引に引き寄せた。
「私を見つけ出せたら貴女に私の全てを見せてあげる」
そう囁いたハニーはジェインをそっと離し会場から去って行った。
「優勝はジェイン・ケリー選手~~~~!!ジェイン・ケリー選手にはクラリース・ダンドレジー様より優勝賞品が送られます」
クラリースがジェインに賞品のカップと賞金を渡す。
「おめでとうジェインさん、見事な腕前でした」
「私はただ、自分の思うまま、感じるままに作りたい料理を作っただけです」
ジェインは調理用頭巾を脱ぎ羊の様な(実際羊獣人ではあるが)白くふわふわの髪を揺らめかせ初めて調理中とは違う年相応の少女らしく恥ずかしそうな表情をした。
「それでは本大会はこれにて閉幕でございます皆様また会う日まで~~~~~!!」
司会の締めの言葉の影でクラリースはジェインを連れ出し交渉に入った。
「その腕を是非私達の為に振るってはくれませんか?」
「お気持ちは有難いですが私にはお店が・・・」
「そうでしたね・・・では、お店を一等地に移転し我が家から毎日送迎致します。無論今回の優勝賞金とは別に費用を全てこちらで負担致します」
「あの、どうしてそこまで?」
「そうですね、惚れたから・・・なんて理由じゃダメですか?」
「え゛?」
「料理の腕もそうだけどそのふわふわの髪・薄紅色の唇・その胸は私よりも少し大きいかしら?悔しいわね、こんな美しい身体を何処の誰とも知れない男に穢されたなんて、知っていたら真っ先に身請けしたのに」
「けけけっ結構です、私他に用事があるので失礼いたします」
「あらら、逃げられちゃった。けれども後はダンゾー様が何とかしてくれるでしょう」
走り去っていくジェインの背中を見送るとクラリースは皆が集まっている舞台裏に向かった。
クラリースが集合場所にたどり着くと案の定ハニー・レクターが着替えていた。
「まさか出場選手の中にダンゾーが紛れ込んでるなんてね」
ユノが呆れ顔で荷物の整理をしている。
「ユノだって審査員席だと随分子供っぽいカワイコちゃんだったじゃないか?いつもの生意気な感じじゃなくてお兄ちゃん寂しかったぞ」
「何言ってんのよ」
「ユノちゃん真っ赤だ~」
「結局何で紛れ込んでいたんだい?」
「そりゃ一番近くで見れるからな」
「近すぎでありますな」
「審査する方の身にもなってください、どうやって落とそうか真剣に悩んだんですから」
「お姉ちゃんは気付いていたの?」
「最初は半信半疑でしたが屋敷の包丁を使ってましたから途中で確信しました」
そんな和やかな空気の中異変に真っ先に気付いたのは護衛として来ていたアスタルトだった。
「!!」
続いてミーネとスプリングも異変を察知するが一番敏感な筈の段蔵が一切気付いていなかった。
そこにはたなびく黒いロングヘアに純水で作った氷の様に美しい顔ばせの女が立っていた。
「あれ・・・ダンゾー様が変装していた・・・」
ようやく段蔵がその存在に気付いた時、皆は初めて段蔵の顔が絶望に染まるのを見た。
女が一瞬で距離を詰める、段蔵は飛び退くが速度が違い過ぎた。強烈なボディーブローがめり込む。
「神楽、な・・・んで」
「言ったでしょ遠藤君、私の姿を真似するのは別に良いけど私の姿になったからには絶対に勝ちなさいって。私、我が儘だから自分が負けるのって大っ嫌いなの」
段蔵は気絶こそ免れたものの暫くまともな呼吸すら出来なかった。
「みんな遠藤君を大事にしてあげてね、ちょっとバカだけど基本いいヤツだからさ」
そう言い残し謎の女はゆっくりと立ち去って行った。みんな突然の出来事に呆気にとられている。
「何・・・アイツ・・・人間なの?」
「間違い無く人間であります・・・ありますが同時に人間では決してありえない類の存在であります」
「何者なんですかダンゾー様?」
「あれは、・・・ゲホッ前の世界での学友だ。卒業後もう一人の学友と旅に出たって・・・ごほ・聞いていたけどまさかこの世界にまで来るなんて・・・」
多少の波乱はあったもののようやく落ち着きみんな仲良く帰路に着く、クラリース アンリエット ユナ ユノ スプリング オードリーは馬車で帰りアスタルト ミーネ 段蔵は歩いて帰る事になった(イズンは留守番)。段蔵はボディーブローを受けた部分を押さえていたがふと背筋を伸ばし立ち止まった。
「何か御用ですか?ジェイン・ケリーさん」
「間違いない、貴方がハニー・レクターですね」
ミーネが口を挟む。
「・・・その根拠は?」
「香りです、調理した時に付着した海の香りとそれを打ち消す為に使われたレモンの香りがしました」
「そうか、俺を探し出したという事は全てを知る覚悟を持っていると思っていい訳だな?だが本当に必要なのか?優勝した君ならば俺の技術が無くとも輝かしい未来を約束されたも同然ではないかな?」
「私は・・・私は作りたい料理を作るだけ、名誉や資金はその為の手段に過ぎません」
「そっか」
やりたいことを好きなだけやる、思えばそれは段蔵がこの世界に来た理由に通じるものがあった。
「それじゃあ俺は君の望みを叶えてあげよう、その代わり君は俺の妻の一人となれ」
「私の知らない料理を教えてもらえるならば喜んで」
「料理の為に自分を売り渡すってかなりの胆力ね、怖くは無いの?」
「貴方の料理には親愛の情が込められていましたので」
「君は料理で他人を理解するのか、益々気に入った。歓迎しよう」
段蔵は新たな妻ジェイン・ケリーを連れて屋敷に戻った。ジェインと再会したクラリースはニマニマ笑って歓迎し、ジェインは身の危険を感じたという。
ジェインの店は一等地に移転してやがて領内の名物レストランとなった。そんなコック長の私室には五角形のインテリアが飾られていたのだった。
今回の段蔵の偽名は某映画の某有名博士から、ジェインは実在の人物から本名はメアリー・ジェイン・ケリーですがそれだと姫様と被るので・・・アノ事件の被害者って最初も最後もメアリーさんなんですよね(汗。
神楽さんについては別シリーズ参照で、何らかの条件を満たした時に出現する絶対倒せない永パ防止キャラみたいなものだと思ってください。




