第二十二話 紅ノ女王 お片付け編
派手なアクションシーンが無いので後編とは分けて書きました。
数時間の眠りから飛び起きる様に覚めたアイリーンはベッドから降りて大きく伸びをした。気分は最高、魔力の巡りも良く頭もすっきりしている。
「ここは・・・そう、黒蜥蜴城でしたわね」
軽く身支度をして部屋を出ると何人かの兵士が慌ただしく行き来していた。どうやら今夜の騒動の後始末をしているらしい、アイリーンに気付いた兵の一人がジメマの部屋へと案内してくれた。
「この度は大変失礼いたしました。アイリーン隊長がトキシーの正体を伝えてくれなかったら今頃領内はどうなっていた事か。手の平を返す様で不快に思われるかもしれませんが何卒お許し下さい」
(今までの態度とは一転して自分の非を認めますのね、流石は王家からも信頼された真面目ぶりといったトコロかしら)
「顔を上げてくださいまし、元凶は成敗されたのですから。それよりも狙われた【エドガーのガントレット】はどうなりました?」
ジメマは笑顔で答える。
「落ちていた短剣共々展示室に戻しました。ナイアールも死んだし後は破壊された城の修繕だけで・・・」
言いかけたジメマにアイリーンが憤怒の形相で睨み付け『バン』とテーブルを叩いた。
「ナイアールが死んだですって?死体は?ちゃんと確認しましたの!?」
「あ・・・あの時アイリーン隊長も一緒に見たではありませんか、トキシーの魔法で巨大な怪物と共に焼かれたあの姿・・・」
「お黙りなさい!!」
「ヒッ!!?」
ジメマは危うく椅子からひっくり返りそうになった。
「武具の警備体制はどうなってますのっっっ!!」
「は・・・はい、ナイアールが死んだので通常体制に戻しました」
アイリーンは頭を抱えジメマに語り始めた。
「まずあの怪物はゴーレムですわ、【朝に咲く華】事件は知ってますわね?」
「ええ、極星ロック・ダグザ様の力を持ってしても防ぎきれなかったとか」
「そう、あの事件の時ナイアールはロック・ダグザが使っていた土の魔法を盗み出したのですわ。あのゴーレムはその一つ、斬っても叩いても魔法でも直ぐに周囲の土を吸収して再生してしまう不死の怪物、あれしきの魔法で焼かれた?フンッ、冗談キツイですわ。死んだふりして機会を伺ってたに決まってますわよ!相手は極星を正面から打ち負かした怪人物ですのよ!!まだ夜は終わってませんわ、何故対極星級の警備をしない?巫山戯てるんじゃありませんわよ!!!」
ジメマの顔がサッと蒼くなる。
「ちょっと見てきます」
「行ってらっしゃいませ・・・・・もう手遅れでしょうけど」
遠くで響くジメマの悲鳴を聞きながらアイリーンは用意された紅茶に口を付けた。
帰って来たジメマは暗い表情で項垂れている。
「結果は聞かなくても分かってますから教えていただかなくても結構ですわ、後で検証させていただきますので現場は動かさないでくださいまし」
ジメマはこくこくと頷くばかりで声を発する元気はしばらく出なかった。ジメマが落ち着いた頃に今度は兵士が慌てて入って来た。
「報告します!グリンリバー大通りで現場検証を行っていた捜査部隊の隊員がレモン姫様を保護したとの事です」
「何ですって、今すぐお会いしたいからお通ししなさい」
◇ ◇ ◇
~新フーディー領 新屋敷建設現場仮設小屋~
俺は戦利品を弄びながら、オードリーに話し掛けた。
「今回の功労者はオードリーだな、あの情報が無ければもっと時間が掛かっていただろう。最悪ジメマ卿もこの世には居なかったかも知れない」
そう、あの時街でオードリーが見掛けたのはトキシー・シントーだった。オードリーが女伯爵の元に居た頃彼女と面識があったのだ。
「彼女は私と同じ様な仕事をしていたと聞いています・・・・・あの・・・ご主人様、彼女と私は一体何が違ってこの結果になったのでしょうか」
「う~~~~ん、例えばもしオードリーが今よりもう少し狡猾で美人だったら迷わず首を落としていただろうな」
オードリーがドン引きしている、無理も無いだろう。
「調べたらトキシーの最初の旦那は病死していたよ」
「それは私と同じ様に?」
だが俺は否定した。
「その次の奉公先では一家全員が同じ病で死んでいた。次もその次も同じ様にな、中には幼子も大勢居たそうだ。そしてジメマ卿の奥さんも同じ病で亡くなっている」
「まさか最初の結婚相手から?そんな・・・」
「恐らく女伯爵に接触する前から繰り返してきた事なんだろう、アレはオードリーと違って天性のシリアルキラーだよ」
ジメマ卿の前妻の医療記録の中にはあの悪徳藪医者ヤーブ・ホピタルスの名前もあった。恐らくそれもトキシーや女伯爵の差し金だろう、他にも医師や光術師の名前があったが全員同じ様な怪しげな連中だ。
「結局“愛”の有無が命運を分けたんじゃないかな?」
冗談や皮肉では無く本当にそう思う、悔しいが俺はオードリーにフーディー卿程愛されているという自信は無い。それでも、そんなオードリーだからこそ魅力的なのだろう。情けないから絶対に言わないけどな。
「さて、正式に爵位を授かればいよいよ結婚だな、でもな~んか皆は俺が金や権威が嫌いな自由人だと思ってるみたいだけど・・・俺、金も権威も大好きだから派手にやらせてもらおうかな」
結婚資金として集めた大量の金貨を眺め俺は次のイベントに思いを馳せた。
◇ ◇ ◇
~黒蜥蜴城 貴賓室~
貴族の取り巻きを退室させたレモン姫はアイリーンと一対一の面会を望んだ。多数の味方を同席させた方が有利に働くにも関わらずのこの行いにアイリーンは相手の真意を測りかねていたがレモン姫は「興味があるだけよン」とだけ答えた。
「この度の私の保護はご苦労だったわねン、何かご褒美をあげようかしらン?」
「それでしたら部下に宴会を開けるだけの資金を頂けますでしょうか、仕事ばかりでは士気が下がりますので」
姫は扇子で口元を隠し左目を瞑ってアイリーンを見ている。アイリーンが王城勤務だった頃に何度か見掛けたレモン姫が考え事をしている時の癖だ。
「ふ~~~~ン?アイリーン隊長、貴女自身のご褒美はいらないのかしらン?」
「今のところ私の欲しい物はナイアールの身柄だけですわ、殿下の権力で御用意出来ますの?」
「ふふふ、物怖じせずにその態度、私は好きよン。成程、あのか・・・ゴホンッ、メアリが一目置くだけの事はあるわねン」
「失礼を承知で数点質問させていただきますわ殿下」
「よしなに」
「それでは、殿下は何時ナイアールに攫われたのですか?」
「馬車に乗っている時よン、あまりの早業に何が起こったか解らなかったわねン」
「ナイアールの隠れ家の場所や様子は如何でしたか?」
「結構快適だったわよン、あのナイアールとやらはウチの取り巻き連中よりも奉仕の心を理解しているわねン。是非私の派閥に取り込みたいわン。場所に関しては知らないわねン」
「そうですか・・・・・。それでは最後に『綺麗は汚い、汚いは綺麗』という言葉に関して何か知りませんか?」
レモン姫は扇子で口元を隠して左目を瞑った。
「・・・・・さあ?何のお話かしらン?」
「・・・・・貴重なお時間を頂きありがとうございますわ殿下」
「ふふふ、財務大臣には調査部隊の予算の引き上げを言っておくわよン」
こうして面会は終わった頃に山での仕事を終えたリトとも合流した。
「首尾はどうでしたの?」
「指示通り泳がせていた残党を尾行していたっスけど・・・・・」
表情が曇ったリトにアイリーンは優しく自分の予想を述べた。
「途中で標的が殺されましたのね」
「どうして解ったっスか!?」
「“ジム・モロアッチ”なる連中の首魁は相当慎重派みたいですからそんな事もあるかもしれないと思っただけですわ」
話しながら今はナイアールの犯行現場に向かっている。
「さっき聞いたっスけど、昨日の怪物はナイアールだったんっスね」
「・・・・・そう・・・その事ですが、リトはあの怪物が言っていた言葉覚えてらして?」
「え~っと、確か『綺麗は汚い、汚いは綺麗』だったっすか?」
「どういう意味だと思いますの?」
「今回はレモン姫様に変装して盗んだっスよね?じゃあ“綺麗なレモン姫様に汚いナイアールが変装している”って意味じゃないっすか?」
「私もそう・・・・・もしくは“ジム・モロアッチ”の構成員だったトキシー・シントーの暗喩だと思ってましたわ・・・・・」
「違うっスか?」
(何故殿下を走行中の馬車から攫った?もっと楽な方法がいくらでも・・・いえ『綺麗は汚い、汚いは綺麗』・・・汚いがリトの言う通りナイアールならば・・・・・いや、まさかそんな・・・)
アイリーンは頭を振って気持ちを切り替えた。言葉にどんな意図があったとしても自分のやる事は変わらない、国民を脅かす存在を排除するのみである。
「考えても仕方ないですわ。リト、今回も手口の検証をしますわよ」
「了解っス!!」
美術品展示室にたどり着いた二人は既に捜査している部下達から報告を聞いた。
「ギャルル(本名)隊員、手口はどうですの?」
ギャルルと呼ばれた白い肌に濃い目アイシャドーで化粧したネズミ獣人の女性隊員が状況を説明する。
「隊長に副隊長チ~ッス、大雑把に言えばパターン1の変装から侵入ね。今回は睡眠薬を超ばら撒かれた形跡があるわ~、みんなぐっすりよ」
ここでギャルル(何度も書くが本名)隊員が急に小声になり捜査に立ち会っているジメマを指差した。
「隊長~、アッチの渋いオジサマってこの城主様よね?ね?」
「そうですわ、城主で領主のジメマ卿ですわ」
「隊長、めっちゃ好みです」
「ギャルル(本名)ちゃん、意外と年上好みっスか?」
だがここでアイリーンの虹色の脳細胞は突飛な発想をする。
「ジメマ卿、大事な話がありますわ。こちらはウチの隊員のギャルル(本名)ちゃんですわ。まだ若くて派手好きですがこう見えても彼女の一族は薬師でして、特に彼女は一族の中でも百年に一人と言われた程の天才でしかも光魔法の心得もありますわ」
「は?・・・はあ」
「恐らくジメマ卿もトキシーに毒を盛られた筈ですから彼女に解毒を・・・・・いえ、もう回りくどい話は無しで彼女と結婚しなさい!!」
「「「えええええええっ~~~!?」」」
ギャルル ジメマ リトそしてその話を聞いていた何人かの人間が驚きの声をあげた。
「何を言っているのですか!!私はもう結婚などしませんよ。またトキシーみたいな女に騙されるなんて御免です!!」
あんな事があったばかりなので彼の主張も理解出来るがアイリーンは優しく窘めた。
「ジメマ卿、女性を良く言う人は女性を充分知らない人ですが、女性を悪く言う人は女性の事を全く知らない人ですわよ。色々不幸があって不信感を持つのも無理ありませんが、ですが今の貴方でしたら正しく女性を理解出来る筈です。先ずは彼女の治療を受けるだけでも良いので付き合ってあげてくださいまし」
優しい笑みでジメマを説得する裏でアイリーンはギャルルに隊員用のサインを送った。その内容は、『喰ってしまいなさい』だった事にジメマは最後まで気付かなかった。
後に黒蜥蜴城内に“対犯罪者研究所”が創られ初代所長にシントー夫人となったギャルル隊員が就任し国内の犯罪対策に大きく貢献したが、一連の出来事にアイリーン・ショルメ隊長が関与していた事は想像に難くない。
「良い事をした後は気持ちが良いですわね、それでは今度はトキシーの部屋に行きますわよ」
「・・・・・あー、色々言いたい事があった気もするっスけどもうどうでも良いっス」
そこへギャルル隊員がアイリーンに声を掛けた。
「隊長~、ジメマ卿の症状から毒物の大体の見当は付いたけど正確な事が知りたいからもしトキシーの部屋に毒物に関する資料があれば持ってきてほしいです~」
「はいはい、そっちも頑張ってくださいまし」
トキシーの部屋に入ったアイリーンとリト、中は整頓されていて一見怪しい物は無いように見える。
「机の引き出しが二重底になってますわね、組織に関する情報に前夫人の医療記録?あら、ヤーブを筆頭に見事に藪医者ばかり・・・こっちが使われた毒物に関する資料ですわね」
だがアイリーンが顔を上げた時隠してあった資料よりも余程興味を惹かれる物がそこにはあった。
「アレ?隊長、本っスか?」
それは普通の本棚にしまわれた一冊の学術書だった。印刷技術が未発達なこの世界では手書きの写本が主流となっている。
「これは以前読んだ事のある魔術と天体に関する本ですわね、少し懐かしいですわ」
その表紙には【星辰の魔法力学】と書かれていた。
◇ ◇ ◇
~事件から数日後のエルキュリア王城 水晶球の間~
彼がこの世界に来てから私達二人はこの部屋で定期的に密談する事にしていた。水晶球から彼が現れるのを直接目撃したのは最近頭角を現したアイリーン・ショルメ隊長だけだそうだ。なんとも羨ましい話だ。
彼の話では彼の第一夫人がこの世界に来れば水晶球はその役目を終え砕け散るらしい、まだその時は来ていない・・・・・なんて呑気な事を考えている内に水晶に変化が起こった。
「えっ?今日?」
水晶球から光の粒が集まり人の形を形成したと思った瞬間、一瞬で光が膨れ上がり部屋全体を包み込んだ。光が消えると水晶球は砕け散っておりそこに“彼女”が浮かんでいた。
その姿は褐色肌・茶髪・ピアス・見た事の無い宝玉で飾ったネックレス・鮮やかに着彩された爪・上質の上着にこの世界では破廉恥な程短いスカート、そして頭に狸耳と尻には九本の狸の尻尾が生えていた。彼から聞いていた容姿と全く同じ姿の女性が現れた事で私達は跪き頭を垂れた。
「お待ちしておりました。モリヅル御前様で御座いますね?」
「ふむ、苦しゅうない。そなた達、妾の夫の香りがするがまだお手付きでは無いらしいな、少々つまらんが今後に期待しよう。これお前達、高貴な娘がいつまでも頭を下げるものでは無いぞ、もっと胸を張れ」
言われた通り私達が顔を上げた瞬間二人とも唇を奪われた。しっかり舌まで入れられてしまった。
「くくくっ、中々良い顔をするではないか。何ちょっとした呪いじゃよ、妾の力を流し込んで互いの結び付きを強固にしたのじゃ、仲の良いお主等ならば使いこなせよう。さて、妾の夫はどこかのう?」
「それでしたらテレポーターを預かっておりますのでこちらで・・・」
「ああ、いや、様子見がてら自分の足で向かう事にするぞ、場所さえ教えてくれれば良い」
「それでしたらこの地図のこのダンドレジー領とフーディー領を中心に活動している筈です。どちらかにたどり着けばテレポーターがあるので両方に行き来できると聞いています」
「そうか、では行くとするか。また会おうぞ」
そういうと御前様は煙の様に消えてしまった。
◇ ◇ ◇
~王都から離れた街道~
「おい、女!殺されたくなければ大人しくしろ」
「・・・・・どこの世界にもこんな輩は居るもんじゃのう」
守鶴前は自分を囲んでいる盗賊達を見回した。
「なんじゃ?妾を犯したいのかえ?構わんぞ、好きにするが良い」
そう言うと盗賊の目の前で服を・・・その瞬間盗賊達は我先にと“ソイツ”に群がった。
「くっくっくっ、単純な馬鹿共じゃのう、妾は先を急ぐとするか」
翌朝、血塗れになりながら全裸で丸太に抱きつく盗賊達が巡回中の兵士に発見されたそうな。
ギャルルちゃんは清純ギャル、一発キャラなので名前が適当です、ごめんなさい。
段蔵が持ってる便利アイテムは『解析ツール』で統一しましたが一時期分析ツールだったりと適当な事書いてます。直ってないところがありましたらご報告をお願いします。




