第二話 現代忍者異世界へ行きたがる
投稿遅いし女の子成分少ないし申し訳ないです。
遠藤段蔵は迷っていた。そもそもこの街は奇妙なのだ。現代日本のくせに裏では正義の味方VS悪の組織・オカルト&オーバーテクノロジーが、そして自分みたいな現代忍者すら罷り通る異形都市なのだから。
「同業者だけでこの街に何人潜伏してんだよ!」
下忍級が十人、中忍級が三人、上忍級が二人ってこの前女首領っぽい人が言ってるのを近所で安いと評判のステーキハウスで聞いた気がする「もうちょっと隠せよ」とも思ったがそもそも本当にその人数であってるのかも知らんし、探すのも面倒くさい。
街の自警団のボスやってる学校の後輩から「遠藤先輩イケるって、あっちの女首領っぽい人とおおよそ互角くらい?だからウチに入ろうよ」って言われたっけ。今は首領っぽい奴と後輩で情報の売り買いしているらしいけど俺を雇って情報戦で優位に立ちたいのだろう。
「けど、どうすっかなぁ~」
同業者に入れてもらう?あの首領っぽい人美人だし他流派OKみたいだし・・・あ~でも同業者だといらん所で気ぃ使うかもなぁ~。
後輩の自警団に入る?結構金持ってるみたいだし学校の友達も何人か所属してるみたいだし・・・沢山金もらっても使う時間無くなりそう。
同じ理由で前にバイト感覚で仕事を受けた企業の社長さんところもパスかな?この三つの敵対組織・・・は、流石に嫌だな。うん、あの連中と敵対は絶対ヤダ・・・折角流派を極めたのにこの街じゃ自由に使えなくない?俺はただこの技で女の子と仲良くしたいだけなのに下手に使えば敵対勢力認定だよ、おかしいだろ?
「街を出るか?・・・いやいやもうとっくにマークされてるわ」
自警団はともかく忍連中は国内規模らしいから下手な行動を見られたくない、最悪面白がってついて来る可能性すらあるぞ。
などと悶々とした日々を送っていたのが数日前までの事だった。
「異世界への扉?」
カジュアルな服を着た現代の魔法使いに言われて俺は首を傾げた。
「そうなんっすよ先輩、この近辺に妙なエネルギーをビビッと感知したんで調べてみたら先輩の家の家宝から漂って来るじゃないっすか!まさにラノベ的に言えば特異点ってヤツっすよこれは」
目の前に置かれたものは今、家の蔵から発掘した大きな水晶球だ。俺はそいつを色々な角度から眺めていた。
「いきなり異世界っつてもねぇ~」
「信じられないっすか?」
「忍者や魔法使いが居るのに何を今更・・・」
「ですよねぇ」
チラッチラッと水晶に目をやりながらいくつかの質問を投げかける。
「どんな世界に行けるんだ?」
「ちょっと待つっすよ」
と、魔法使いは水晶球に手をかざした。
「むむむ、パッと見中世っぽい剣と魔法の世界っすね」
「この街は現代なのに剣と魔法の世界だけどな」
「忍者な先輩に言われたくないっす」
「どんな魔法使ってるんだ?モンスターとかは?」
「魔法使える人はこっちより圧倒的に多いみたいっすけど見た感じ四属性と簡単な治癒位っすね、弓矢や鉄砲みたいに火・水・風・土を目標に飛ばす・・・つってもこの街の実力者の皆さんならいくらでもやりようがあるレベルっすね」
魔法使いは「勿論先輩もその一人っすよ」と付け加えた。
「モンスターはちょっと強い野生動物って感じですかね?かなりでっかいのも居るっぽいっすわ」
「最後に女の子は?重婚Ok!!?」
「ちょっ近い近い、落ち着くっす、えっ何?女の子?人間型っすね、獣の特徴持ってる獣人タイプもいるっぽいっす」
「おおおっ?」
「法律なんか流石に現地調査しないとわかんないっすよ」
意外な食い付きにちょっとビビリながら魔法使いは問いかけた。
「ってか行きたいんっすか先輩?」
「ぶっちゃけると興味津々」
「先輩はこっちの世界で十分稼げるっしょ?何でわざわざ下地の無い面倒な土地に行きたがるっすか?」
「こっちじゃ結局好き勝手出来ねぇだろうが!やれ龍神の末裔だのチート科学者だのおまけに魔法使いに忍者だとぅ?ふざけんな、これで好き勝手やれってのが無理だろうが!」
「忍者は先輩もじゃないっすか、それにあの人達は結構好き勝手やってるみたいっすよ先輩もやればいいじゃないっすか」
「今更入り込んだら余計な敵作ちゃうだろが」
「・・・案外変なところで小心者っすね・・・」
「うん、忍者だからね」
「意味が分からないっす」
魔法使いはちょっと考えてから一言切り出した。
「それじゃあ俺を倒せたら・・・」
「先手必勝ぉぉぉぉ!!」
遠藤が叫ぶと同時に畳の下から毒針が飛び出し、更に追い打ちで一方手裏剣を投げつけた。
毒針・手裏剣は見事突き刺さり普通の人間ならば致命傷となる傷を与えた。
「こっ降参っす・・・てかまだ全部言ってないのに酷すぎないっすか?」
「お前相手だと後手に回ったら太刀打ち出来ん」
魔法使いは「ナハハ」と力無く笑い・・・体が砂になって崩れ去った。
きっかり一分後玄関のチャイムが鳴ったので出ると魔法使いが苦笑いしながら立っていた。
「ニンジャってアイサツが大事って本で読んだんっすが?」
「場合によるだろそれは、あと散らかした分は片付けろよ」
「そっすか・・・」
一旦掃除して仕切り直してから改めて異世界旅行について話し合った。
「条件として先輩には俺達の実験台になって欲しいっす」
「なんか物騒なセリフ飛び出した。他に言い方無いの?」
「繕ってもしょうがないっすから。でもこれは先輩にも悪い話じゃないっすよ?聞いてるっすよね?竜也さんの例の計画」
「それは俺にも話は来たがお断りしたな」
「そこで計画の一環として俺とドクターの共同開発で万能ナノマシンを開発したっす」
魔法使いは若干興奮気味に語りだした。
「完成品は耐毒・耐病・耐瘴気に絞る予定っすけどプロトタイプは更に言語認識・自動識字と使用者の自由意思による増殖が可能っす」
「未知の言語の会話・読み書きは判るが増殖って?」
遠藤が聞くと魔法使いは妙に温かい笑顔で答えた。
「先輩はさっきの発言から察するにアッチの世界でハーレム作りたいんですよね?」
「まっ・・・まあね」
「でも、パッと見『中世』っぽい世界じゃ衛生とか医学とかは期待出来ない訳っすよ、治癒魔術もそんな万能じゃ無いっぽい世界だし(あっ自分のは万能っす)」
「ふむふむ」
「せっかく仲良くなった女の子が流行り病でポックリってのは気分が悪いっすからね。だから増殖させたナノマシンを飲ませる事で同様の効果を得られるって寸法っす」
「おおお!!」っと遠藤は思わず唸った。実験台などと物騒な話を持ち出すから何されるかと思いきやこれは願ったり叶ったりではなかろうか?今まで「こんな馬鹿げた街で・・・」なんて思っていたがこの街だからこそ自分の欲望が満たされる足がかりになるんじゃぁないか。現金なものでそう思うと途端に足枷が外れたかの様に身軽な気分になった。
「で、どうなんっすか?」
「何が?」
「何がって!先輩には愛するタヌキ姉さんがいるじゃないっすか!」
「あ~~」
そう、この男には以前のトラブルの際に懐かれた・・・懐かれてしまった恋人が居るのだ。
「うん・・・まあ、連れて行くよ?連れて行かないと勝手に“憑いて”くるだろうし」
「先輩、あんた“憑かれて”るんっすよ。怒られないっすか?」
「それに関しては大丈夫だろ?アイツ下手したら俺以外だとむしろ女の方が好きみたいだし、逆に大喜びじゃね?」
「あ〜それは言えてるっすねぇ」
魔法使いが今後のことで思案している。きっと竜也の作戦には彼女の助力が必ず必要だから計画を練っているのだろう。ホントにトラブルとトラブルシューターに欠かない街だよ。
「先輩は準備が出来次第直ぐに行きたいんっすね?今回の作戦は不参加で?」
「ああ、残念ながら今回は俺向きじゃあないんでな」
「姉さんは今回の計画に絶対必要なので後日送るっす。とりあえずナノマシン完成にあと三日は掛かるっす。なので先輩にはその水晶との精神的に繋がって道を作りやすくして欲しいっす」
「具体的にプリーズ」
「さあ?水晶の前で座禅でも組んでればそれっぽいんじゃないっすか?」
「いい加減だなオイ」
内心こんなんで大丈夫か?とも思ったが、まあそのくらいテキトーなのがらしいといえばらしいか。
ともかく魔法使いが帰った後に言われた通り水晶に意識を集中してみた。
~一日目~
なるほど、集中すれば確かに向こうから意思の様な物が感じられる。
「だが、これは?」
水晶の向こうから漂ってくるのは深い悲しみ・願い・思いそれが感じ取れたと思った瞬間意識が“こちら側”に戻された。想定外の感覚に冷や汗をかいてしまった。
(今更何をビビるか、そんなものは“こっち側”にだって腐るほどある事だ)
彼とて仮にも一流の忍だ。今までだって悲しい事件を数多く見てきたし自身でも解決してきたではないか。
(今まで通り、いやもっと派手にやればいいだけだ)
そう心に決めた。
~二日目~
声が聞こえる、女の声だ。『聞き届けて』断片的だが、何かを『私を、私達を助けて』そう、救いを求める声がする。この声を聞いた後、遠藤は修練場で自身の肉体の最終調整を行った。コンディションは良好だ。
~三日目~
「先輩のその姿見るの久々っす。ステルス塗料とかどっから調達したっすか?」
遠藤段蔵は漆黒の忍装束を身に纏っていた。姿こそコミックの中から出てきた忍者そのものだが所々に最新の素材や技術が仕込まれている。
「例の物は?」
「これっす」
魔法使いは白いカプセルを遠藤に渡すと簡単に説明を始めた。
「まあ、効果は前言った通りっす。効果は速攻、俺の魔法とドクターの科学力で一発っすよ一発!」
「俺がアッチに行ったら結果が解らないんじゃないか?」
「俺なら水晶使わなくてもフリーパスっす」
「あっそうなんだ」
なんかもうあまりのデタラメ発言にゲンナリしてきた。ともかく今日が出発の日、新しい門出だ。向こうでハーレム作る。考えただけでヨダレが(うへへ)。
「悪い顔してるっすね、これも渡しとくっす」
そう言うと魔法使いはポケットからメモ帳を取り出した。
「これを物体・動物・植物にかざすとそれぞれの特徴を解析する事が出来るっす。便利な解析ツールっす」
「それはサンキューな」
「あとはタヌキ姉さんを送ればこの件は完了っすね、あと姉さん送ったら水晶は破壊するっす」
「ぶっ壊すの?何で?」
「次元移動しちゃう可能性のある特異点をほったらかしに出来ないっすよ。もしかして帰ってこられないと寂しいとか?」
「いや、そんな訳じゃないけど」
「時々会いに来るっす、渡した道具の調子や場合によっては向こうで依頼する仕事もあるかもっすから」
そうして魔法使いが何処かから携帯端末を取り出しいよいよ旅立ちの時が訪れた。水晶球が強い光を放って端末画面内に描かれた魔法陣と同調している気配が感じられる。
「あっそうだ、変装が得意な小説の登場人物って知ってるか?」
「うん?何っすか急に・・・そうっすね二十面相とかルパンとか明智小五郎も変装してたっすね。でもやっぱり一番好きなのはナイアルラトホテップっすかね」
「何々?聞いたことないどんな奴?」
「ラヴクラフト小説に出てくる千の顔を持つ邪神っす」
「千だって?四十面相の25倍じゃん、そいつはすげえや、いただきだな」
「えっ?何が?おわ!!」
魔法使いが問いただす暇もなく水晶は発光をさらに強めた。この街とも今生の別れか。
「いやいや用があるときは引っ張り出すっす」
などと魔法使いは喚いているがとりあえずサクッと無視。いざ、新たなる世界へ・・・。こうして遠藤段蔵は光の粒子の中に消え後には魔法使いだけが残された。
「行っちゃったっすか」
ドンっと玄関の戸が開かれて家に男女二人が入ってきた。
「あ〜あ、遅かったか。ウチの組織に入って欲しかったけど逃げられちったな」
「むむむ、あんな仕事さえ入っていなければ一緒に行けたのに」
「竜也さんにタヌキ姉さんも落ち着くっす、今回は仲間の新しい門出を祝いましょう」
光の粒子がいまだ漂う部屋を見つめながら魔法使いはつぶやいた。
「行ってらっしゃい、先輩」
次もお読みいただけたら幸いです。