第百三十八話 愛多き北方の狼女王 前編
「暑い、ミゼーアちゃんトコに遊びに行く」
「ミゼーアちゃんって・・・北王ミゼーア・ダロス様ですか!?」
俺が北王ミゼーアと知り合ったのは王国で活動していた頃からだ。
悪党を鏖にして助けられるのは何も身寄りの無い可哀想な女の子だけでは無い、場合によっては身寄りの無い可哀想な男の子を助けてしまう場合もある。
女の子はウチで保護するが野郎を増やす趣味は無い、かといって放置解散では目覚めが悪い・・・いや勿論俺に感情は無いが・・・ほら・・・あれだ・・・助けたからにはある程度の責任も生じるだろ?まあそんな感じ。
だがこの世界は良くも悪くも男女平等、力有る男に一夫多妻が認められるのと同様に力の有る女にも一妻多夫が認められているのである。
だから助けた身寄りの無いクソガ・・・もとい少年達はその手の趣味の女性権力者に押し付け・・・保護してもらったのだ。
北王ミゼーアはそんな中、名乗りを上げてくれた一人だった。
「一種の商談にもなるからコーデリアと護衛にクラリース・・・妹の方な、他にも何人かついて来てくれ」
「北王領という事は観光地開発のお話ですね?」
「そうだ、夏は涼しく天然温泉も近くに有るらしい。建築技術の高い帝国で今まで手付かずだったのが不思議な位だよ。・・・まあ、経緯を知れば触りたくは無いんだろうがな」
俺達は愛馬ヒッポーに馬車を引かせ慰安旅行へと旅立った。
道中は・・・まあ偶には外でのプレイも悪く無いと思った程度だな。
後、澱みの沼があった。
名称:サスクワッチ ビッグフット イエティ 雪男?等
複数の国に伝わる二足歩行で毛むくじゃらな未確認生物、茶色い体毛に髪は同色のミディアムショート、但しこれは夏毛であり冬毛は白色でロングヘアーに変化するらしい、最大の特徴は強烈に濃いフェロモンを放っている事だろう。
体型はグラマーで性格は落ち着きが有り礼儀正しいが、夏の暑さに若干参っている為に現在はだらけ気味。
結婚した魔物娘の名前を入力してください。
ラグネル■
パーティーが一杯です。ラグネルを屋敷に送りますか?
→・はい
・いいえ
ラグネルはテレポーターで屋敷へ送られた。
そんなこんなでやって来たのはスッキリとした高原に佇む申し訳程度の温泉宿。
「夏なのにとても涼しいですが、何か何も無い所ですね」
「まあ、一旦何もかもを取っ払ったってのが正しいんだがな、ここレン高原を開発するのが今後の仕事だ。そら、着いたぞ」
宿の前には執事服で身を固めた未だ少年と言った背丈の某勇者っぽいツンツンヘアーで青髪の人間が出迎えていた。
「星の智慧社アカギ総帥、ギザイア商会メイスン商会長ですね?ようこそおいで下さいました」
「お世話になります。北王秘書官のティモシー・ダロス殿。奥様とは幾度かの手紙のやり取りで人となりを伺っております」
「・・・そう・・・ですか」
ティモシー・ダロスの表情が少し曇った。
「失礼を承知でお聞きしたい、アカギ殿は“我ら”が妻、北王ミゼーア・ダロスを狙っておいでか?」
「いや、既にミゼーア閣下から聞いているとは思うが俺は人妻は狙わない、彼女とは良き友人で在りたいと思っているよ」
ティモシー・ダロスの顔は晴れやかに変わった。誤解が解けた様で何よりだ。
「それを聞いて安心しました。改めてようこそ、レン高原へ、ささやかながら歓迎いたします」
そして現在は全員で混浴を満喫していた。
湯は濁り湯なので大事な部分は見えないが俺は両脇にコーデリアとエビルを侍らせ、対面にはピンク髪ウェーブの狼獣人北王ミゼーアがティモシーともう一人羊獣人の少年を同じ様に侍らせていた。
「こうしてゆっくりお話出来るのははじめてですね。ミゼーア閣下」
「閣下は止めてくださらない?私達は良い友人、そうでしょミスターリュウジ?」
「いやいや、親しき仲にもってヤツさ。それよりも土地開発の話だが・・・」
そう言った瞬間、ミゼーアの隣、ティモシーじゃない方の少年から不穏な気配が漂ったのは俺の気のせいでは無いだろう。
「その坊主は?ウチで送った子じゃないみたいだが?」
「最近町で行き倒れていたのを拾ったのよ。ボリフ、挨拶なさい」
ボリフと呼ばれた少年はぎこちなくうつむき気味に言葉を発する。
「・・・どうも」
「すみません、こいつは最近入ったばかりでまだ警戒しているみたいです」
俺は言い知れぬ不安を感じつつも「構わない」と軽く手を振って対応。
「ここの事も当然大事な契約ですが我ら陛下の臣としてはそれよりも見過ごせない事案があります」
「例の魔道具犯罪組織だな」
「ええ、彼らの殲滅は何より優先させねばなりません。そして北領は先日、有力な情報を握っている人物を確保することに成功しました」
「何!?そいつの言葉は信用出来るのか?」
「出来ないから貴方が来るのを待っていました」
「つまり連れて来てるんだな?」
「それはこの後の夕食にて」
舞台は畳張り宴会場へ、意外かも知れないが畳文化は比較的日本に似たルミナスの故郷、東方のアケチ皇国よりも大陸北西部の国々で生産・使用されてきた。それともう一つ、皇国には無い日本的な物が・・・。
「おお!納豆じゃん」
タレは甘辛いバーベキューソースみたいな味だがこれはこれで合っていた。
因みにルミナス含む皇国人の七割は納豆が嫌いである。
そう言えば死んだ兄ちゃんも納豆嫌いだったな。
「数百年前にアジオと言うエルキュリア王国から来たお坊さんが恋を忘れた憐れな男に痺れるような香りの納豆を口に突っ込んで治したと伝えられています。以来この辺だと昔からの定番メニューですのよ」
「あの家、昔は僧侶だったのか・・・っと、そんな事より」
「例のお話ですね。入ってらっしゃい」
襖が開かれ現れたのは小学生程のサラサラオカッパ銀髪エルフの少年と女子大生程のロングの金髪人間の女性、少年の方は深い知性の光が覗き、一方で女性の方は視点が進行方向にしか向いていない、表情を変えずに一点だけを見つめていた。
その姿にコーデリアは俺にヒソヒソ声で話し掛ける。
「あの女性、まるで感情が無いみたい」
「ああ、まるで俺みたいだな」
エビルがすかさずツッコミを入れた。
「まだその感情無い芸やってるんですか?」
「芸って言うな!怒るぞ!」
「秒で矛盾発言してるし」
俺は誤魔化すように先を促す。
「それでそいつが?」
魔道具犯罪組織と繋がっていたと言う少年が口を開く。
「僕の名前はアラン。ドクターカリガリの助手として帝国政府の要請に従い魔道具超人計画の研究を彼女、ジェーン伍長と後もう一人の助手チェザーレさんと共に行っていました」
・・・
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◇ ◇ ◇
当時こう見えて神童と呼ばれていた僕は政府の国防計画の一環である魔道具超人計画に参加出来ると聞いて舞い上がっていた。
目的はエルキュリア王国で作られたと言われる魔物化薬に対抗する為だと聞いていた。
後々知った話ではそれは表向きの話で、裏では帝国政府の内部に食い込んだ魔道具犯罪組織が自身に都合の良い兵隊を製造するのが真の目的だったんだ。
研究の被験体として選ばれたのは軍人だと言う彼女、ジェーン伍長、一瞬で僕の心は奪われた。
陽気な魔道具研究者のカンガルー獣人チェザーレさんも調子に乗っていた僕を自然に嫌味無く諌めてくれた良い兄貴分だった。
全てが楽しくて僕達はその予兆に気付く事が出来なかった。
例えば計画の主導的立場であるドクターカリガリが危険な精神制御方法について意見を求めたり、肉体に致命的な変調が起こる程の筋力強化魔道具を調達したりと、あの陰鬱な老人の奇行は見えていたのに。
その日は唐突にやって来た。
ドクターカリガリが強引にジェーン伍長を改造したのだ。
僕が研究室にたどり着いた時にはチェザーレさんは倒れ伏し、ドクターカリガリは何らかの魔法処置をジェーン伍長に施している最中だった。
僕は隙を見てドクターをこの手で・・・。
目を覚ましたチェザーレさんから話を聞くに、やっぱりドクターはジェーン伍長を犯罪組織の手駒にする為にチェザーレさんを襲撃して予定に無い無茶な強化をジェーン伍長に施していた。
僕はドクター殺しを自首して事の顛末をティモシー・ダロス様に訴えたのです。
◇ ◇ ◇
・・・
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「これが僕の体験した一部始終です」
俺は何故かボリフ少年の時とも違う不可解な寒気に襲われた。
なんだ?何かが変だ。アランの言葉に嘘偽りは無い、歪んだ正義感も無く彼自身は至って正常、俺も同じ状況であれば似た行動を採るだろう。だが彼から漂うこの拭いきれない不安の正体は一体?彼自身が原因で無いとするならばその周囲か?
「無理な強化の所為か伍長の心はまるで凍りついたみたいに反応が無くなり彼女を動かす為に僕が命令権を握ったんです。星の智慧社には最先端の医療部門が存在すると聞いています。どうか伍長を助けて下さい」
「分かった。可能な限り早くに医師団を派遣しよう(さっき感じた嫌な予感の事も有る。場合によっては病院船エメラルド・ラマに出動してもらうか)」
そんなやり取りで皆の目が北王ミゼーアから離れた瞬間だった。
「ぐ・・・ガハッ!!?」
突如、食事をしていたミゼーアが血を吐いて倒れたのだ。
「ミゼーア!!」
ティモシーが駆け寄った。
その姿を見下ろす様に今まであまり絡んで来なかった北王の情夫ボリフ少年が涙さえ浮かべながら笑っていた。
「やった!僕はやったんだ!!二度とここをあの時みたいな地獄にさせはしない!させるもんか!!」
「ボリフ!お前!!」
ティモシー取り押さえられたボリフを見ながら俺は呟いた。
「簡単には拭えないのか・・・」
その表情はコーデリアに言わせれば悲しそうだったそうだ。




