第百三十七話 レイドバトル 泥舟
心のどこかで遊びだと高を括っていたのかも知れない。
前と同じく勝てるかも、と安易に考えたのも原因かも知れない。
竜二が詰みの状態に置かれた時、諦めと同時に頼もしさでつい顔がニヤけてしまう。
次の瞬間、竜二の頭は真っ赤に染まった。
・・・
・・
・
◇ ◇ ◇
~時間を少し遡り~
『家内ダンジョン十階にて守鶴前の分身が一、乱射魔兎泥舟が出現、撃破すればレアアイテムをプレゼント、皆様、是非ご参加下さい』
「乱射魔兎って自分で言うか」
「竜二、マーチヘアって?」
「ん?ああ、タヌキ姉さんが某国女王陛下の特殊部隊に参加してた時の渾名だなコードネームは【ファイヤー・ラクーン】、俺もバイトで何度か無茶振りさせられたよ。タヌキのくせにウサギが渾名のバニーガールで泥舟とか・・・ああ、敵からはclick&clickだのマッドシップだの今から考えたらやたらとカチカチ山要素が多かったな」
「だから目の前にこんなに銃器が並んでると」
「全部ペイント弾だけどな」
魔法使い新堂やDr.篁に改造されて重量や発射感は本物そっくりになってるが、当たると何故か傷一つ付かない変な改造をされてる。
「一応俺が向こうでバイトしてた頃に使ってたのは一通り揃ってるか」
「竜二、コレ!アサルトライフルってヤツでしょ?使いたい使いたい!!」
「M4?試射ならいくらでもして良いけど、小型ライフルつってもバトルだと折角のタルトのスピードを殺すかも知れないから拳銃にして欲しいかな?ってワケでコレ」
FNハイパワーをタルトの前に置く。
「グロック26を二挺か迷ったけど、いきなり二挺拳銃やらせるよりはダブルカーラムのを一挺の方が使い易いかな?」
「グロックって確かプラスチックで出来てるから空港の荷物検査でも引っかからないってヤツでありますか?」
「スプリング、それウソだぞ、金属パーツもちゃんと使われてるからな」
「・・・私はいつも通り行く・・・」
魔法や魔道具の使用は禁止されてはいない、ミーネみたいに普段通りの姿勢で挑もうとするのも正しいだろう、何度かドリームランドで銃使いと遊んでる為、地球の銃器の特性も理解しているのだろう。
準備は済んだ、後は挑むだけ。
甘かった。
草木生い茂る密林のフィールドに足を踏み入れた竜二達だったが、挨拶代わりにミーネを撃ち抜かれた。
「!!?スナイパーライフル!!皆散れ!!」
散開を指示しつつ竜二は咄嗟に飛び退き茂みに隠れたつもりだったが・・・。
「ッッッ!!詰んだ・・・」
飛び込んだ茂み、その足元には地雷(ペイント仕様)が設置されていた。
足を離せば起爆する。
竜二は隠れるのを諦めて立ち上がり、綺麗に頭を撃ち抜かれ、その衝撃で足が地雷から離れ全身インクまみれになってしまった。
一方でスプリングは2メートル程のゴーレムに重武装を施し、その中に隠れながら前進していた。
「なっはっはっ!この重厚なボディーにチャチな軽火器なんぞ通用しないでありますよ」
それを遠くから見ていた守鶴前の分身が一、泥舟は愛用のL96A1を構えながらほくそ笑む。
「ん~、強引にアンチマテリアルでブチ抜くのも手だけど・・・芸術的に行きたいよね」
ゴーレムは数々の罠を重装甲を全面に押し出した強引な突進でやり過ごす。
だが、それならそれでやり方は有るのだ。
「ぎにゃ!!?」
と、ゴーレムが傾いた。
落とし穴に落ちたのである。
勿論これだけでは決定打にはならない、しかし伊達や酔狂で第一婦人として奥を仕切っている守鶴前の分身では無い、スプリングの性格を熟知した上で次の手を読んでいたのだ。
「そうそう、スプリングちゃんならここでキレてさらに強引な手に出ようとするわよね?」
スプリングは穴から脱出しようとし、次の落とし穴に掛からないように周囲の土をひたすら集め更に巨大なゴーレムを作り出す。
そして無分別に地面の罠ごとゴーレムの体に取り込んでしまった。
「こうも上手く行くとは、単純な妖精らしいしと言えばそれまでだけど・・・」
泥舟は引き金に指を掛け、ゴーレムが体内に取り込んだ地雷に撃ち込んだ。
起爆した地雷は周囲の他の罠も捲き込んでゴーレムの内部で連鎖的に爆発を起こし、後にはインクまみれのスプリングだけがヨロヨロと出て来たのだった。
そして泥舟は背後にPPKを向ける。
「惜しかったわねタルトちゃん。だけど私の予測より3秒も到着が早かったわ。これは誇っても良い事よ」
後ろ向きで撃たれた銃弾は攻撃体勢に入る直前だったタルトの額を見事に撃ち抜いていた。
そこから先は最早作業だ。
来た順番に片っ端から撃ち抜いて行く、動揺を悟られない様に、動揺を落ち着かせる為に。
正直、泥舟にとっては先のタルトの3秒は顔にこそ出さなかったものの衝撃的な出来事だった。
彼女の能力はあらゆる武器を扱う知識と膂力、そして予知にも近いほぼ完璧な演算速度だ。
この「予知にも近いほぼ完璧な」と言うのが中々ネックで間違っても完璧な予知では無いので外す可能性は常に存在するのだが、彼女はこの能力を“とても気に入っている”ので外すと酷く動揺してしまうのだ。
タルトに背後を取られたあの瞬間は負けても不思議では無かったが辛うじて経験の差に救われた形になっている。
一方で捕縛され戦場を俯瞰出来る位置に設置された檻の中で負け組一同が戦闘の様子を見ていた。
「凄いわね、スナイパーライフルで一人一人確実に一発で仕留めてるわ」
しかし、その様子を見ていた竜二の顔が曇る。
「・・・らしく無いな」
「無双してる様に見えるけど?」
「罠を利用して相手をおちょくりながら追い詰めて仕留めるのが定番のスタイルなのに、あれじゃワンパターン過ぎる。珍しく余裕が無い?タルト、何かやった?」
「あっ、それなら」
タルトは竜二が負けた後の経緯を詳しく話した。
「計算外の3秒・・・タルト、もしかしたらお前は誰も成し得なかった大偉業を成し遂げたのかもしれないぞ」
正確な射撃ではあるのだろう。だが、今の泥舟にはいつ沈むか分からない泥舟に乗せられる様な不気味気配は感じられなかった。
階段を下ってフィールドに入った者を確認した瞬間に狙撃している。あれでは極端に視野が狭くなっているに違いない。
そうした竜二の懸念は直ぐに表面化する。
極星の二人が階段を下ってフィールドに入る前から魔力全開で突入したのだ。
スコープだけを見ていた泥舟は一瞬、何が起きたか理解出来なかった。
ただレンズの向こうにいきなり暴風雨が発生した様に見えた事だろう。
ルミナスとオデットがこんな戦法に出たのは入り口付近の異様さにあった。
入り口付近にやたらインクが飛散していたのである。
敗者は牢屋に強制転移させられるが飛び散ったインクはそのまま残される事になる。これでは入り口付近で何か有ると言ってるようなモノだ。
だから二人も形振り構わず広範囲魔法を全力でブッ放した。
泥舟も大魔法に備え大量破壊兵器(ペイント仕様)を用意していたのだったが全ては後の祭り、先制攻撃で破壊され更に動揺してしまう。
後は全ての計画が瓦解し対応が後手後手になってしまった。
混乱した泥舟はドタドタと苦し紛れに後退していく、数秒後、何かがジャングルの中から上空へ飛び出す。
「AH.1アパッチ!?あんなモンまで持ち込んでたのかよ。でも・・・」
戦闘ヘリは暴風雨のミキサーに飲み込まれ為す術も無く爆散してしまった。
爆発と共にインクが飛び散ったのは彼女なりの捨て身のギャグか、もしくは本当にインクを燃料に飛んでたのか判別に困るトコロだ。新堂達ならそんなバカな改造をやりかねない。
若干水っぽくなったインクの池から這い出たのはマーブルカラーの旗を降る守鶴前の分身が一、泥舟。
白旗のつもりなんだろうが見事にインクで染まったマーブルカラーの旗を降るのは惑星ユグドでは徹底抗戦の意思表示、イヤハヤ不純異星交遊トハ、カクモムズカシイモノデアルカ。
これを挑発と捉えた極星二人は聖王国語で“菱縄縛り性治アナリスト”を意味する「バッ○・クラン」を連呼しながら攻撃の手を緩める事は無かった。あえて亀甲縛りと区別している部分はマニアックで実に評価が高い。
かくして前回秒殺だった極星二人が今回の勝者と相成った。
やはり分身の得意分野がそれぞれ違う為に相性ゲーになるのだろう。
そして・・・。
「特別賞?私が?」
「やっぱMVPはタルトでしょって事で姉さんが昔使ってた簪くれるってさ。俺の鑑定だと値段よりはどちらかと言えば歴史的に価値の有る物だから大切にしてくれよ」
「そんな大層な代物じゃ無いんじゃがな、偶にソレ着けて竜二に抱かれてやれ。お主は姫様っぽいんじゃからきっと良く似合うぞ、竜二は振り袖の一着でも用意してやるんじゃな」
一方で今回勝者となったルミナスは高額なレアアイテムに沸き立っていた。
「うお~!!これでユナちゃんに借金の5%を返済出来るで~!!」
しかし、ルミナスはその後ユナの「またカードで遊んでくれたら一気に返済出来るかもよ」の口車に乗り全てを毟り取られてしまったのだった。
「最初は勝たせてあげるのがコツなの」
とはユナの談である。
タヌキ姉さんの武器が拳銃だけ国籍の違うPPKなのはエージェントのお約束である。




