第百三十四話 西王カラ盗ム 後編
~逆さ城ルート~
「見事に逆さまですな、家具が天井に張り付いてる」
オーギュストが顎に手を当てて思案に耽るがやがて一つの結論を導き出す。
「この城は西王様の城ではありませんよ」
エミリー秘書官がその意味をニヤニヤした顔で問う。
「ほ~、興味深いですね?そのココロは?」
「家具ですよ。ワシと師は城に何か仕掛けられていないか徹底的に調査したが家具一つに至るまで妙な仕掛けはされていなかった。だと言うのに少なくとも目に映る分の家具はまるで最初からそうだったみたいにピタリと天井?いや床か?ええい!兎に角上に張り付いている。加えて地下で感じた引っ張られる様な感覚だ、恐らく大地の妖精を使って迷路ごと別の場所へ運んだのだろう。あの妙な感覚は移動させる時に慣性が働いたのだと推察する」
「ならばナイアールは城を盗んではいない、我々の勝ちでは?」
エミリーは困り顔で意見する。
「陛下の名代としては納得しかねますね。国内の主要施設はそれこそ我が国が誇る建築技術の粋が集められています。それをこうも真似されたとあれば盗まれたのと何ら変わりません。早急に逮捕して逆さ建築の技法と合わせて尋問しなければ」
「まあ、最善は尽くしますがね。こんなオッサンに期待せんで下さいよ?」
その時、何処からかナイアールの声が聴こえて来た。
『そうかな?私に負けた後、真っ先にアイリーンにアドバイスを求めに行った発想力と行動力と探究心は称賛に値すると思うがね?君もアイリーンと同じ種類の人間だよ』
「光栄だね犯罪王、ワシをライバルと認めるとは」
『勘違いするなよ刑事オーギュスト、卿はまだアイリーンの領域には届いていない、故に・・・』
瞬間、オーギュストの立っていた床が抜けた。
「ぬお!!?」
『ちょっとばかしテストをしてやろう』
憐れオーギュストは床に開いた穴に落ちて行った。
『ご心配無く、パズル十三問、クイズ二十一問、更に脱出ゲーム一部屋をクリアすれば戻って来るさ』
そもそも今回のナイアールの標的は西王チェスター・グラーキの私物では無く西王本人と言える。
西王自身もあまり知られたくは無い腹もあるだろう。
なのでナイアールの正体を知った上で黙ってくれている西王と秘書官だけを最終局面へと招いたのだ。
「流石に階段は逆向き・・・いえ正しい向き?ホントややこしいわね」
「まあ、本来の向きだと飛行能力が無いと上がれないからな」
そして最上階、本来はエントランスホールとなる場所であるが、見事なシャンデリアが床から生えている。
そして、その怪異は外への扉の前に佇んでいた。
「うひゃぁ~~~!」
と秘書官は魔物を見た瞬間に別の部屋へと逃げて行ってしまった。
その様子を天井(床?)から見ていたナイアールは若干の不信感を覚えた。
(秘書官殿、この程度で逃げ隠れするような質には見えなかったが?まあ今は)
しかし、今は西王の反応の方がナイアールには興味があった。
魔物、キマイラのウル、ヴェルザ、クルトがその複雑な巨体に合った歪な白いレースの布・・・即ちウェディングドレスを身に纏い西王を見下ろしている。
その姿を見た西王はガックリと膝から崩れ落ちた。
「だから・・・俺は嫌だったんだ。お前達にマトモな人生を送らせてやれなかった事実をこうしてまざまざと見せ付けられる・・・」
「お父様、私達もお母さんも貴方のお陰で生活に困る事はありませんでした。お母さんや私達が死んだのはお父様の所為じゃ無いわ」
「だから・・・顔を上げろと?出来るものか。俺は結局愛よりも貴族社会の調和を選んだ恥知らずな男だ。選んだ以上せめて貴族の責務として民の為に尽くすと誓ったにも関わらずマジェット侯爵の悪心に気付けず多くの民に犠牲が出てしまった。そしてお前達まで・・・」
ナイアールとしては既に目的は果たした。
二人の娘に恨みは無く、父も自身の行いを後悔している事を知れた。
ウェディングドレス姿も見せる事が出来た。
後は適当に西王を励ましてウル達と脱出しようとナイアールが口を開く。
「西王閣下の統治は間違ってはいなかったさ。ただ落ち着いて周囲を見る余裕が無かっただけだ。だがこれからは・・・!!?」
言いかけたナイアールの背筋にゾクリと嫌な感覚が走る。
エミリー秘書官が逃げ込んだ部屋から異様な気配が漂い『カツンカツン』と靴音が響き渡った。
「勝手に締められては困るなナイアール、余とてチェスターに言いたい事の一つや二つは有る」
「「なっ!!?」」
「陛下!!」
「帝国皇帝キンメリアだと!?」
相変わらず顔はフェイスベールで隠されてはいるが秘書官エミリーの変装では無い、とナイアールは感じ取った。
漂う濃密な気配の“格”は明らかに目の前の皇帝陛下の方が上だった。故に不可解。
「これはこれは皇帝陛下、エルキュリア王国の戴冠式でお見掛けして以来ですかな?政務はよろしいので?」
「何、これも余の仕事の内よ。暫し下がっておれ、五人目の四王、犯罪王ナイアール」
その返しにナイアールは大爆笑。
「アッハッハッハッハ!いやこれは参った。ええ、ええ、喜んで下がりましょうとも」
「そうか、ならば・・・」
皇帝キンメリアはツカツカと西王に近付くと、いきなり強烈なボディーブローを一発お見舞い、西王は衝撃で大量の唾液を床?天井に撒き散らした。
「貴公、愛する女と別れたのは貴族文化の弊害であると語ったな?確かに貴族同士の婚姻の方が色々都合が良いのも理解出来る。が、それがまるで義務であるかの様に吹聴されるのは我慢ならん!」
倒れ嗚咽を漏らす西王の右肩を皇帝はヤンキー漫画の登場人物みたいに踏みつける。
「貴公は四王の一人ぞ?好きな異性と添い遂げる程度の強権すら貴公に持たせなかったとなれば余は狭量な皇帝であると見なされるのだぞ?」
「そんな・・・私は陛下の為に・・・あの時お見せいただいた陛下の覇気を・・・民衆に広める為に・・・」
「阿呆が、あの時放った覇気など貴公だけを驚かす為の大道芸に過ぎぬ。余に真に力が有るのならばそもそも四王制度など必要無いのだよ。貴公は余の存在を重く受け止め過ぎたのだ」
「間違いだった?私のやって来た事が・・・」
しかし、皇帝の前にウル達が飛び出し押し退けた。
「お父様を苛めるな!」
「陛下、確かにお父様は間違えたのでしょう。私もお母さんの事については多少思う事もあります。ですがお父様は西王領の人達が平和に暮らせる様に身を粉にして働いていました。その事実は間違いとは言わせません」
「成る程、確かに余も初対面時に脅し過ぎたやも知れん。良き娘を持ったなチェスター」
「勿体無きお言葉」
その時、ナイアールはオーギュストが戻って来る気配を感じ取った。
事情を知らないオーギュストにまだ魔物娘を見せるワケにはいかない。
「チッ、オーギュストのオッサン、クリアするの俺より早くね?ウル、時間が無い、引き上げるぞ」
「待ってくれ!!」
西王チェスター・グラーキは嘗ての妻に酷似した魔物の瞳を真っ直ぐ見据えた。
「ウルーズ、二人を頼んだよ」
「?ウルはウルだぞ?けれども任された」
ドタドタと下階から誰かが走っ来る音が聞こえ、ナイアールとウル達は扉の外へ、皇帝キンメリアはもと来た部屋へと慌てて引っ込んで行ってしまった。
「閣下!ナイアールはどうなりましたか!?」
「ん?ああ、俺の大事なモノを盗んで逃げて行ったよ」
「一足遅かったか」
いつの間にか戻って来たエミリー秘書官と一緒に飛んでいく飛行物体をそれぞれの想いで見送るのだった。
後にこの逆さ城はギザイア商会が買い取りアトラクションとして大改築、西王領随一の観光資源となった。
いや、始めからそうなるように建設されていたのだった。
◇ ◇ ◇
~飛空戦艦ルート~
オーギュスト達が逆さ城で右往左往していた頃、アイリーンは自分を挑発した飛行船に乗り込んだ。
アイリーンが来る事を見越してかハッチは開かれており侵入した瞬間に閉じられた。
「来たわね。アイリーン・エルキュリア妃」
「やはり貴女でしたか、レモン殿下」
アイリーンの前に立ったのは歴史の表舞台から消えたレモン・エルキュリアその一人だった。
「あんまり驚かないのね?」
「あの変な口調は止めましたの?」
「あんなのは私の本心からの言葉じゃ無い、とっくに気付いてたでしょ?」
「そうですわね。あの時『綺麗は汚い、汚いは綺麗』の言葉である種の仮説は立てていましたわ」
レモンは回転シートに座り続きを促す。
「拝聴しましょう探偵王妃」
「あの時はナイアールとレモン殿下が入れ替わっている事の暗喩であると考えましたわ。となれば当然ナイアールとレモン殿下は協力関係にある。あの連携は予め合意していない限り出来ませんから。ですがナイアールがそんな単純なリドルを残すかと考えた時に一つの・・・極めて可能性の低い、けれども無視出来ない疑念が浮かびましたわ。そして今こうしてレモン殿下が私の目の前に現れた事でやっと疑念は確信へと変わった」
王族と泥棒、正義と悪、そして仲良し姉妹と険悪な姉妹。
「相反する存在が実は同種のモノと仮定するなら貴女は最初からジェーン殿下とも繋がっていた」
「素晴らしい、完璧な回答です。ですが、だとしたらどうします?此処で思出話に花を咲かせますか?」
「いいえ、逮捕しますわ」
「今更死んだ人間を捕まえてどうすると?王国に余計な混乱を招くだけよ」
「勘違いなさらないで下さいまし、私はナイアールの一味を逮捕したいだけですわ」
ピクリとレモンの眉が動いた。
「一味?一味だと?最後の最後に誤ったな探偵」
レモンの半機械化された喉から男性の音声が響く。アイリーンが幾度も聞いたあの不敵な声が。
「言ったハズだぞ探偵、綺麗は汚い、汚いは綺麗。私は彼で彼は私なのだと!!来い!オルタンス!!」
最初から天井に張り付いていたのだろう、蝿の羽音と共に黄金の装甲に身を包んだオルタンス元王国将軍が降下してきた。
「リターンマッチと行きましょうか?今度の私は前回の不完全な状態とは違いますよ?」
「望むトコロですわ!!」
・・・
・・
・
『レモン姫とオルタンス将軍を撃破せよ』
攻略時間によってドロップアイテムが変化するぞ。
敗北 星の智慧製薬ギンギンドリンク
八分~十分以上 強力媚薬
五分~七分台 天然魔石
三分~四分台 レア魔導金属
二分台 魔導式蒸気機関設計図1/4
一分台 全部入りBOX+高級腕時計
・パターン1
レモン姫はレモンバスターを一定間隔で撃ちながら左右を往復するぞ、更に上からオルタンス将軍がゆっくりとこちらを追尾する蝿型魔力弾を撃ってくるぞ。
レモン姫を攻撃するとバリアを展開して動きを止めるので上手く蝿型魔力弾を誘導してバリアを破壊しよう。
・パターン2
レモン姫は背景に移動し機械を操作して電撃攻撃を仕掛けて来るぞ、電撃の発生位置は床の放電装置を見ながら回避しよう、オルタンス将軍はこちらを狙って速い蝿型魔力弾を撃って来るぞ。蝿型魔力弾は剣攻撃で跳ね返せるのでタイミングを見極めて跳ね返そう。
・パターン3
オルタンス将軍に抱えられたレモン姫が天井付近から巨大レーザーを撃って来るので回避しよう。発射後に二人はレーザーの反動で頭をぶつけて短時間目を回すのでその間に攻撃しよう。
1~3のパターンを繰り返すので覚えよう。一分以内の攻略で実績『やるな名探偵』が解除されるぞ。
・・・
・・
・
「さあ、追い詰めましたわよ!」
「むぅ、やるな名探偵(※実績解除)」
「姫様、残念ですが負けを認め引きましょう」
「逃がしはしませんわよ!」
「いや、逃げるのは貴女の方だアイリーン妃」
レモン姫がコンソールを操作すると部屋全体の床がパカッと開いた。
レモン姫とオルタンス将軍は壁の取っ手に掴まり、アイリーンは追撃を諦めゆっくりと降下して行った。
「姫様、荷物が一つ落ちましたが?」
「回収は無理ですね。諦めましょう」
地上に降り立ったアイリーンの足元に一抱え程の宝箱が落ちていた。
「これは・・・魔石に魔導金属に・・・魔導式蒸気機関の設計図の一部!?今回の景品と言ったトコロかしら?」
時を同じくして逆さ城から脱出した面々も合流する。
四人は飛び去る飛行物体を眺めながら暫し口を閉ざしていた。
「アイリーン妃、この後の会談ですが帰るのに少々時間が掛かりそうですね。場所は西王領東部のモニョル町だそうです。馬車を用意しますので少々お待ち下さい」
「必要ありませんわ」
そう言うとアイリーンは魔導笛を取り出し鳴らした。
すると町の一角から妙な乗り物に乗ったメイドが現れた。
その乗り物は地球を知っている者が見ればタイヤの無いバイク、更に言えばSF作品に出そうなエア・バイクみたいな形状をしていた。
アイリーンは以前のデクスター城襲撃事件(※九十四話)でのDr.デクスター(ナイアール)の魔導式蒸気機関の講義からおおよその構造を理解、自己流で作り上げたのだ。
ただナイアール製の物と比べ出力は低く高度への長時間飛行は出来なかった。
「それじゃあシャーロット、行きますわよ」
「はい、アイリーン様」
走り去るエア・バイクを見送りながらエミリーは無意識に言葉を漏らす。
「凄いわね王国は、数年見ない内に別の国だわ」
その後の話をしよう。
西王チェスター・グラーキは事故死した前妻と復縁し、娘達をとある有力者に嫁がせた事を公表、前妻の墓前にて涙ながらに陳謝した。
程無く以前から共に仕事をしていた下級貴族の女性と再婚を果たす。
家柄の違いから格上の貴族達から不満の声が出たものの、皇帝陛下直々に祝辞を述べた事で落ち着いた。
一方でそれでも納得しなかった者は強引な手段で黙らせられた・・・との噂がまことしやかに囁かれている。




