第百三十二話 西王カラ盗ム 前編
忘れもしない、西王を継いで初めて皇帝陛下に謁見した日の事だ。
正直向こうも帝位を継承したばかりの年下の若造だと高を括っていた、些か気軽に接したとて許されるのではないかとすら思っていた。
甘かった。
アレは私みたいな者が気軽に触れて良い方ではなかった。立ち会った瞬間に格の違いを思い知らされた。
故に私は絶対に伝えねばならぬと心に誓ったハズの決意すら飲み込んで陛下の忠実な手足となる道を選んだのだ。
後悔は常にしている。
私の本心を知れば誰もが蔑むだろう。だが、私に何が出来た?同じ立場に立った時、お前らだって絶対にそうするハズだ。
私は悪くない・・・いや、私は悪にはなりたくない。
◇ ◇ ◇
結論から言えばヴェルザとクルトが西王チェスター・グラーキの隠し子だというのは厳密には間違いだ。
彼は生活費を支払う事を条件に法的手続きに則って離縁をしている。公文書は一般人でも簡単に閲覧出来るので“隠し”子では無いな。
殺害された西王の密偵というのは月々の生活費を送り届ける役目を与えられていたのだろう。
姉妹はその辺の理解度こそ低かったものの西王に対して悪感情は持っていなかった。
だからこそ今一度問いたい。
「娘さん達と会わないとは?」
「言った通りだ。私は二人には会わない」
甦生の為に魔物娘化させたのが不味かったか、人類と魔物の関係を考えれば受け入れられないのもやむを得ない話だ。
「何を勘違いしている?私は二人が無事だったとしても会う気は無いぞ」
「は?・・・すまない、俺の聞き違いか?」
「聞こえなかったのか?人だろうが魔物に変わろうが二人とは会わないと言ったんだ」
「人様に探させておいてか?」
「公的には既に私と彼女達とは何の繋がりも無い、君に彼女達を探させたのは最低限の義理だよ」
「もう一度聞く、二人に会うつもりは無いんだな?」
「くどい、全ては終わった過去の話だ。今更求めて何になる」
その言葉を聞き混沌騎士いや、怪盗は席を立った。
「残念だよ、君は同業者ではないが俺の敵だ」
「ならばどうする?」
「盗むまで」
そう言い残しナイアールは西王の城を後にした。
「無駄な事を・・・我が財は陛下の民の為に、この城に盗める様な価値のある宝なんざ一つも無いさ」
◇ ◇ ◇
西王は悪では無い、善政を敷き民に尽くしている。
では何故ナイアールは敵対したのか?
「そりゃ竜二の行動理念的に西王の発言は許せんじゃろう。神経質過ぎるとは思うがな」
「竜二は目の前で家族を惨殺されておる、その上家族を殺した連中に拷問同然の育てられ方をした。これで狂わない方が可笑しいじゃろ」
「スケベ野郎の夢ハーレムと言えば聞えが悪いが言い換えれば家族を増やそうとしておるのじゃ、心的外傷による偏執症の一種じゃな。クラリースには安易に女を連れ込むなとは言っているものの本人も気付かぬ内に家族が増える事に心では喜んでおるのじゃろう」
「そんな竜二じゃから余所様の家族であっても不幸になる様は我慢ならんのじゃろう。無論、竜二とて毒親や親不孝者とまで仲良くしろとは言わないが、西王と姉妹はそうではないと見たのじゃろうな」
◇ ◇ ◇
ナイアールの予告状が西王の居城に届けられた。
互いに準備期間は充分に用意され西王は髭隊長オーギュスト・フレミングは元より皇帝秘書官エミリー・レフュースリバーにも応援を申請した。
そしてあのナイアール最大の宿敵、アイリーン・エルキュリア第二王妃をも極秘裏に呼び寄せたとの報せがナイアールの耳に届いたのだった。
乾いた大地を踏み締めローブのフードを目深に被った女性が西王の居城にたどり着いた。
「遥々お越し頂きありがとうございますアイリーン殿下」
「挨拶は結構、ナイアールの予告状を拝見させて頂きますわ」
解決を急かそうとするアイリーンだったが背後から忘れもしない自信に溢れた透き通る声音が響き渡る。
「あら?挨拶ぐらいはした方が良くってよ。他者との円滑なコミュニケーションには第一印象が重要ですもの。それは貴方が一番理解しているでしょう?ねえ“多面怪盗ナイアール”?」
アイリーンの・・・いや、ナイアールの背後にはオーギュストとエミリーを引き連れたアイリーンその人が立っていたのだ。




