第百二十九話 女王の帰還 後編
会長夫妻が目を覚ますと宿泊しているホテルだった。
窓の外に雲海が広がっている・・・なんて事も無い。
「夢?」
「・・・じゃ無いな」
アンドリューがテーブルに置いてある紙束をペラペラ捲り眺める。
「あんな事が現実だなんて・・・」
「ああ、夢じゃなくて良かった」
「え?」
「だってそうだろ?あの連中が何者かは知らないが、思い当たる節は幾つもあった。今回の事が無ければ逃げる隙も無くある日突然殺されていただろうよ」
「潮時ですか」
「いい機会だ、いつも通り勝てない敵にはとんずらするか」
・・・
・・
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そして三日後、予定通り帝国政府からの緊急召集が呼び掛けられた。
「以上がギザイア商会の行ってきた悪行です。」
帝国の大臣達や皇帝秘書官殿、そして星の智慧社の面々は静かに聞き入り、副会長のウォルターは怒り心頭といった感じで顔を真っ赤にして震えていた。
「貴様!この恥知らずが!!誰のお陰で今の地位を得たと思ってる!?浮浪者同然のその日暮らしをしていた貴様を・・・」
「知ってる、テメェ等が兄貴を謀殺したからこうなったんだろうが!!」
「野蛮人が、そんな証拠はどこにも無い」
そこに秘書官エミリーも口を挟む。
「確かに前会長が謀殺されたという確固たる証拠はありませんが、それ以外の証拠が山の様に出ているのに今更必要ですか?」
エミリーが片手を挙げれば兵士達がウォルターを取り囲む。
「ウォルター・ガルマン、貴方を逮捕します。間も無く他のギザイア商会幹部も同様に逮捕されるでしょう」
その言葉と共にウォルターは取り押さえられる。テーブルに顔を押さえつけられながらもウォルターはアンドリューを憎しみが籠った目で睨みつける。
「これでギザイア商会も終わりだ。こうなった以上貴様とて責任の一つも取って会長を退くしかあるまい、貴様はメイスン一族の輝かしい歴史を終わらせたのだ!!」
「あ~、ウォルター氏、興奮しているところすまないのですが我らが帝国経済省は既に次期会長たる素質を持ったメイスン家の若者を見つけてあります」
「何だと!?そんなバカな!」
「入って来てください」
扉が開かれ現れたのは上級貴族と思われる人間の女性とブロンドロングヘアーで日焼けした肌の未だ幼さの抜けきらないエルフの女性である。
「東王ナチェ・アトラクア、召集に応じ参上致しました」
「彼女がそうなのですね?」
「ええ、東王の名に懸けて私が保証します。彼女こそギャングの襲撃により長らく行方不明だった前会長の御息女コーデリア・メイスンです」
アンドリューは息を飲んだ。
コーデリアがどこかの場面で登場する事は予想出来てはいたが、まさか東王に保護されていたという設定で出て来るとは驚きも隠せない。
(やはりあの連中は帝国政府の少なくとも上級貴族達と何かしら強固なパイプがあるらしい)
「もちろん今の状況でそのまま事業の継続は困難でしょうから私の知り合いで経営に詳しい者を数名補佐に付けましょう」
この宣言にエミリー秘書官が諸手を挙げて称賛した為、ウォルター以外に反対意見は出なかった。
こうしてギザイア商会の経営は健全化し、帝国の産業は益々発展する事が約束されたのだった。
・・・
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無論、事はそれだけでは終わらなかった。
建物の屋上からコーデリア達を乗せた馬車を監視する怪しい影、その影の一つは紛れもなく先程逮捕されたハズのウォルターであった。
「あれだ、始末しろ」
その号令に影が一斉に襲い掛かる・・・が。
「グッ!ガ!?」
影よりもなお濃い混沌の黒が襲撃者を弾き飛ばしたのだった。
一方馬車の中では・・・。
「よく前会長の娘なんて隠し玉が出てきましたね。東王様?正直貴女にここまでの調査能力があるとは思ってませんでしたよ」
「我々もコーデリアさんを発見したのは偶然でしたから。今まで自分の事で手一杯だった私ですが、こうしてお助けする機会があって本当に良かったです」
コーデリアがおずおずと申し訳なさげに小さく挙手した。
「あの・・・秘書官様、私とは以前に会った事があるのを覚えてらっしゃいますか?」
エミリーは一瞬だけ表情を失くしたが直ぐに笑顔で答える。
「ええ、ブラックストーンの町に居た娘ですよね?覚えていますよ?あの町の事件とか大変だったでしょう?」
今度はコーデリアとナチェが言葉を失う番だ。
エミリーの言葉は本当にコーデリアの事を覚えていたら出て来ないハズの言葉だ。
仮にコーデリアの前歴に気を使って誤魔化したのだとしても内容が微妙に噛み合わない。
「えっ・・・と、はい、その節はお世話になりました」
皇帝に次ぐと言っても過言では無く他国では宰相やら丞相やらにも相当するのが皇帝秘書官である。
その身から放たれる圧は心身共に相応の実力者である事がコーデリアにも見てとれ、気後れした彼女は深く追及する事は出来なかった。
一方で外の様子はどうなったかと言えば、プロテクターを新調してケイオス・ナイトは絶好調だ。
飛んできた魔法を片手で受け止め握り潰し、屋上から狙撃してくる奴はマジッククローで引き摺り落とす。
魔道具で身体強化して殴り掛かって来た巨漢はケイオス・ナイトの素早さに鉄塊並みの硬度の拳は空を切り、唖然としている間に脳天を愛刀の叢雲・改によって貫かれた。
竜二は、ナイアールは、ケイオス・ナイトはヒーローでは無い、有名ダークヒーローみたいに不殺の誓いは立てていないし・・・。
「な・・・何なのよあの怪ぶ・・・」
「お?カワイイ娘はっけ~ん」
「え?」
襲撃者のメンバーに好みの女性が居ればワイヤーアクションで死角から奇襲してグルグル巻きにしてから遠巻きにサポートしてくれている妻達に引き渡した。
襲撃者側からしたら一緒に戦っていた隣人が突然消えた様に見えた事だろう。
この様に敵でも見所のありそうな女性は拐い外道な戦法で以て男は殺害する。
一通り屍の山を築いた後、ケイオス・ナイトは高層建築物の一つの屋上を睨み、マジッククローを駆使して飛び上がった。
「ヒィ!?」
「あんた確か元ギザイア商会副会長のウォルターとか言うオッサンだったな?逮捕されて護送中だったあんたが何でこんな所に居るんだよ」
「誰が貴様にぃぃぃだだだだだ!!?」
相手の返答なんぞにケイオス・ナイトは最初っから期待なんてしていない、ウォルターの片手を捻り体を突飛ばし、倒れたところを足首を掴んで屋上の端に宙吊りに持ち上げる。
「暴れるなよ?うっかり落としちまうからな」
「あ・・・あ~~~!!助けてくれ!話す!何でも話すから!!!」
「最初っから素直のにそう言ってりゃいいんだよ。んで?どうやって抜け出したん?ん?」
ケイオス・ナイトはウォルターを床に転がし立ち上がるよう促す。
「ワシを連れ出したのは魔道具・・・」
ウォルターが言いかけた瞬間、ケイオス・ナイトの背筋に薄ら寒い気配が突き抜けた。
瞬間、ケイオス・ナイトは回避行動を採り、ウォルターは何らかが衝突した衝撃で悲鳴を上げる間も無くバラバラになりながら夜闇に散った。今頃落下地点は地獄絵図だろう。
回避出来たのは以前のベアースターとの戦いがあったからだ。
ウォルターの立っていた場所には入れ替わる様に小柄な緑髪のエルフの少年が立っていた。
「アレ?オッサンだけ?二人とも殺ったと思ったのにな~」
「お前は確か魔道具超人のソニック・ビーンズか、ハゲのオッサン逃がしたのはお前か?」
「せいか~い♪そんじゃ死んでくれる?」
危険を感じたケイオス・ナイトはプロテクターから煙幕弾を投下した。たちまち視界は白く染まるが、ソニック・ビーンズは構わず弾丸とも思える速度で突っ込み屋上から空中へと飛び出し向かい側の建物の屋上へと着地したが、何かを弾き飛ばした手応えは感じられなかった。
「逃がしたか、もうギザイア商会からお小遣い貰えそうに無いし、本格的にあっちのお世話になりますか」
なんて独り言をちゃっかりソニック・ビーンズと同じ建物に着地して隠れていたケイオス・ナイトが聞き逃すハズも無かったのであった。
(音速は超えていたみたいだがソニックブームは発生せず、自身も音の壁を超えた影響は無い様に見える。後は、いや、早合点は禁物だな。タヌキ姉さんにも相談してみるか)
◇ ◇ ◇
「で・・・何で輸入品に関税掛けたのに星の智慧社の商品価格が上がってないんですか!?」
再建した星の智慧社の三階、アラン・スミシー事務所にて相も変わらずカレーとスドーフのチリトテチン風味を無遠慮にかっ食らうエミリー秘書官に呆れつつおかわりを用意してあげる竜二のこの面倒見の良さよ。
「そらそうよ。ありゃ原材料の輸入に関しての税金だからな、初期こそ帝国側にコネが無いから王国側から仕入れてたけど、国土面積も資源も帝国の方が上なんだぜ、コネと施設が出来りゃ輸入なんざしなくても全部帝国内で賄える」
「パイプ作るのが早過ぎるわよ」
「いや、それだけ帝国の素材が優秀だって事だから誇って良いと思うぜ?俺としても帝国経済を破壊しようってんじゃなくて寧ろ(俺好みに)発展して欲しいと願ってるんだ。その為には帝国に喜んで協力するさ(俺のやり方でな)。ああそうだ」
竜二は奥の部屋からコーデリア・メイスンを呼び出しエミリーの前に立たせた。
「ああ、コーデリアさんですか?まさかあの時ギャングの少女がギザイア商会の令嬢だったとは驚きました。改めて謝罪させていただきます」
「あっ・・・」
竜二は二人の様子から・・・特に驚きの表情であたふたしているコーデリアの表情から何かしらの面白そうな事が起きているのだろうと期待に胸を踊らせたのだった。
「そう言えばパイン・テール・パスウェイはどうしましたか?」
「ん?調教中に逃げたぞ?」
「ブッ!?!?逃げた?」
「今頃、命令違反挽回の為に俺の弱味や機密情報を握ろうと躍起になってんじゃね?」
「それは・・・何とも申し訳ない」
「いや、楽しんでいるみたいで大変結構だ。それに相性自体は悪くは無かったから最後には家に帰って来るさ」
その竜二の表情にはパインに対する何らかの期待に満ちていたのだった。




