第百二十八話 女王の帰還 前編
ごめんなさい、名前が変だった為にギザイア商会の会長の名前を変更しました。
~シェリン城 帝国商業会議場~
「星の智慧社は安価な商品を大量に出してギザイア商会の利益を侵害していると、そう言うのですね?ギザイア商会ウォルター副会長?」
会議のテーブルにはギザイア商会会長アンドリュー・メイスンと副会長ウォルター・ガルマン、対面には星の智慧社総帥リュウジ・アカギと総帥代行兼社長クリスタ・アカギ、間には帝国の商業・貿易関係の各大臣クラスと皇帝秘書官エミリー・レフュースリバーが司会役として入っている。
アンドリュー会長は元ダンジョン探索者だけあって高身長で筋骨隆々、少し日焼けした肌の短髪黒髪エルフの男だった。対してウォルター副会長は禿げ頭で嫌味そうなエルフの小男だ。アンドリュー会長は眉間に皺を寄せ苦悩している様に見え、ウォルター副会長はあからさまにイライラしている。
「星の智慧社が安価で低質な商品を大量に販売し、帝国の正常な経済を破壊しようと目論んでいるのは明白、何らかの規制をするべきだ!」
「なるほど、ですが星の智慧社の製品は帝国の商品監査基準を満たしており、商品によってはギザイア商会と同等、あるいは上回る品質であるとの報告を受けていますが?」
「それは卑劣な王国の企業如きが監査員に賄賂等を贈り報告書を改竄したに違いない!」
「ほう?ウォルター氏は皇帝陛下の手足たる我々が賄賂などで安易に動く軽い存在とでも?」
「い・・・いえ・・・それは・・・」
エミリー含め数名の大臣が睨み付けるとウォルターは先程の啖呵はどこへやらしどろもどろとしたところでアンドリューが立ち上がり頭を下げた。
「失礼な物言いをし大変申し訳ありません、代表として深くお詫びいたします」
こうして実際に会ってみれば南王の人物評も「なるほど」と竜二を唸らせる。
(まあ、本心から謝っているワケでは無いのは感じられるが代表にしては簡単に頭を下げすぎかな?)
「そも、初代皇帝の頃より技術を磨く事を国の命題としてきましたが近年のギザイア商会は何らかの技術革新はあったのですか?ええ、勿論一言に技術革新などと言っても時には数年数十年あるいは数百年単位の研究が必用な場合もありましょう・・・ですが停滞してしまう事と何もしない事は違うのです。先代商会長殿の頃はそれはそれは研究の投資に力を入れていたと先帝様より伺っておりましたが現状はどうです?貴方の代で多くの研究投資を打ち切った結果、元々の技術立国である皇国は元より近年まで疲弊していた王国にもこうして追い越されようと・・・失礼、王国の方の前でする話ではありませんでしたね」
「荒れていたのは事実だ、気にしないで欲しい」
ナイアールにしてみれば生粋の王国人といった立場でも無し、むしろ王国から美術品や美姫を奪った大悪党だ。王国の恥部を指摘されて怒るような繊細な神経など持ってはいないのである。
「南王殿の報告によれば南部での人身売買組織はギザイア商会所属の船舶を使用していたそうではないですか、それについての説明をいただけますか?」
「何だと!?そんな話は聞いていないぞ!!」
狼狽するアンドリューに対してウォルターは事前に考えていたであろう言い訳を始める。
「それでしたらお恥ずかしながら以前に商会の船舶が海賊に奪われた事がございまして、その時の船を使っていたのでしょう」
「何故報告しない!!」
「大した荷物は積んでおらず被害額も少なかったからですよ、海賊事件なんて珍しい話ではありませんからな」
「だからと言って!!」
エミリーが手を叩き制止を掛ける。
「はいはい、詳しくは軍の調査部を送りますから内輪の喧嘩は後でにしなさい」
引き下がるアンドリューに向けてウォルターは『チッ』と舌打ちした。
「アカギ総帥、情けない話ですが星の智慧社と帝国では産業に差がついてしまったらしいですね。そこで輸入品にこれまで以上の関税を掛けたいのですが」
「王国からの輸入品にですか?」
「いえ、“星の智慧社”からの輸入品に対してです」
「ふ~ん、まあ問題無いでしょう。これも有名税だ・・・確認しますが輸入品に対しての税ですね」
「?ええ、関税とはそういうモノですから」
「ならばこちらに否はありません」
「ありがとうございます。アンドリュー会長も構いませんね?」
「異論はありません、決定に従います」
こうして星の智慧社にかなり不利な条件をナイアール一味はあっさり飲んだ事にエミリーは不信感を抱いたものの会議は恙無く終了した。
◇ ◇ ◇
~その夜 ギルマンホテルスイートルーム~
アンドリュー会長とその妻兎獣人のローラが寝所にて睦言に耽っていた。
「アナタのそんな顔を見るのはもう何度目かしら」
「そんなに酷い顔か?」
「アナタが義兄さんの跡を継いでから笑えてないわよ」
「・・・国のお偉いさんに言われたよ、兄貴の頃の方が良かったって、分かってる。俺には商売の才能なんざありゃしない、だが仕方無いだろ?商会の幹部連中から跡を継いで欲しいと、継がなければ一族がこれまで築き上げてきた商会が破綻すると、俺の代で台無しにするワケにはいかないんだ」
「アンディー・・・昔は良かったわね。ダンジョンから帰ったらこんな高級ホテルの三分の一も無いような安宿で安酒飲みながら戦利品を見て、いつか兄貴に負けない金持ちになるんだって息巻いて、んで妊娠した後の事なんて考えもせずにバカみたいに二人で朝までヤリまくるの・・・今のアナタはベッドの上でまで上品になっちゃった」
「金持ちにはなれたんだがな・・・」
「・・・お金持ちにはなれたのにね」
日頃のストレスから来る疲れか、アンドリューの目蓋が徐々に重くなっていく、愛する妻の顔を見れば彼女もうつらうつらと瞳が細くなっている。
「やば・・・」
何故そんな言葉が零れたのか自身でも分からぬままアンドリューの精神は深い闇へと堕ちていった。
・・・
・・
・
目蓋を焼く強烈な光で目が覚めた。
「ん・・・ん?アンディーもう朝なの・・・?」
だが、目覚めたアンドリューの前には白い仮面に全身を黒の衣で身を包んだ異様な人物が立っていた。
「ローリィ!不味いぞローリィちゃんと起きろ!!」
「何よアンデ・・・きゃぁぁぁぁ!!アンタ誰よ!!!」
黒衣の人物は慇懃無礼な態度で一礼。
「お楽しみ中に失礼します。ギザイア御夫妻にはどうしてもお話したい事が御座いまして」
「こっちから言う事は何も無い!!」
荒事に慣れた元探索者である二人の判断は早かった。
全裸にも関わらず外部に助けを求める選択を瞬時に選んだのだ。
「ああ、いけませんよそっちは・・・」
二人はドアの外の光景に腰を抜かした。とうぜんである。
そこにはホテルの廊下では無く見渡す限りの雲海が広がっていたのだから。
落下しなかったのは外の敵を警戒して即座に飛び出さなかったからだ。
最も万が一落下したとしてもこの飛行船ハスタール号の優秀なクルーが即座に引き上げるのではあるが。
「なっ・・・なっ・・・なっ!?」
「いけませんよアンドリュー会長、この高度では飛行能力者であっても極星クラスの使い手でもなければ着地まで魔力が持ちません。加えて会長は魔法を使えず夫人は土属性、先ず助かりませんよ?」
「何故こんな事をする!!」
「先にも言った通りお話ですよ」
「商会の機密なら・・・」
「機密なんて貴方は知らないんでしょ?貴方は商才は無いが無能ではない、自身の役目を全う出来る方だ。なれば重要な事柄は専門家に丸投げするでしょうからね」
アンドリューはキョトンと目を丸くした。
「私がお話したいのは前会長の事・・・」
「お前もソレか!!」
アンドリューは頭を掻き毟り激昂する。虜囚の身だという事も忘れ黒衣に詰め寄った。
「兄貴が死んだ時に何度も言われたさ!『金欲しさにお前が殺したんじゃないか』ってな!!いい加減にしろ!あれから何年経ったと思ってんだ!!俺は・・・」
「ストップ、スト~~~ップ、誤解ですよ」
「何が!!」
「私は貴方が殺したなんて思っちゃいません。貴方は何よりリスクを嫌う方だ、真っ先に疑われる立ち位置には好き好んで居座りたくは無いでしょう。同じく暗殺者を仕向ける可能性も無い、何故なら犯罪者と組めば弱味を握られ安寧は得られないからだ・・・それに仲が良かったのでしょう?お兄さんとは」
「・・・ああそうだ。金も才能も地位も羨ましいと思った事は確かにあるが、兄貴は俺にとって英雄だった怨みに思う事なんてあるワケが無い」
落ち着きを取り戻し息を整えるアンドリューに代わりローラが割り込む。
「では結局アンタは何が言いたいのさ!!」
「このままでは前会長と同じ末路を辿るぞ」
「な・・・に・・・?」
「リスクを避ける為に悪には近寄らないよう言い聞かせる、家族単位の狭いコミュニティならそれも正しいが大きな組織には意味が無いだろう、特に前会長を謀殺したギザイア商会の幹部連中にはな」
「何だと!?」
黒衣はベッドの上に紙束を放り投げた。
「ここ数ヶ月のギザイア商会の不正の記録だ。連中が前会長を殺した証拠は今となっては無いだろうが、商才の無い貴方をトップに据えた理由は明白だ。扱い易いし・・・丁度、帝国政府の監査も入るしな」
ある可能性に思い至りアンドリューは身震いする。
「俺に罪を押し付ける気か・・・」
「『私がやりました』って遺書の一つでもあれば完璧だな」
「なんて事だ・・・俺は・・・」
「だからさ、助けてやろうって話だよ。貴方が会長職を退けばこっちの人材が不正幹部を粛清して経営を引き継いでやるからさ」
会長夫妻は一瞬顔を見合わせるが、アンドリューは直ぐに首を横に振った。
「だ・・・ダメだ!アンタ等の事もまだ信用したワケじゃない、簡単に退けられるかよ!!」
「んん~♪慎重な奴は嫌いじゃないよ、実に私好みだ。だからこちらも、もう一押しさせていただきます。入って来なさい」
本来のホテルではクローゼットになっていた部分は隣室に繋がる扉になっており中からカールしたブロンドヘアに濃く焼けた肌のエルフの少女が現れた。
「君は・・・?・・・!!?いや!まさかそんな!!」
「アナタ、この娘がどうしたの?」
「ああ・・・そんな、女神ルブランよ・・・こんな事が・・・」
「アナタ?アナタ!?」
「君は・・・コーデリアちゃんなのか?」
「はい、叔父様、私はコーデリアです」
黒衣はコーデリアの肩を抱き寄せ、コーデリアも黒衣に寄り添った。
「私も彼女を救出して、しかもそれがギザイア商会のご令嬢だと気付いたのは偶然だった。だが私はこの偶然を最大限に利用しコーデリアを新たな会長に据え補佐役に私の部下を配置し商会を支配する。君達が商会幹部の不正を告発して会長職から退くならば悪いようにはしないと誓おう」
「待ちなさい!偽物と言う可能性の方が高・・・」
言いかけたローラをアンドリューか片手で制する。
「いや、間違い無いよ。兄貴によく似た目元に義姉さんと同じ髪艶、まだ小さかった頃に何度か会った事もあるが、あの頃の面影はしっかり残ってる。君達に従おう、商会はコーデリアちゃんが継ぐべきだ」
「話は纏まったな?三日後、もう一度帝国政府からの召集がある、その場で手筈通りにしてもらおう」
「待て、それを知る貴方は政府の手の者か?」
「・・・単に今は敵対する理由が無いから政府と一時的な契約を結んでいるだけだ。理由があれば・・・いや、今後も無い事を祈ろう。ではお休みの時間だ」
そうして会長夫妻は再び強烈な眠気に襲われた。
◇ ◇ ◇
「・・・あれだな、某アニメみたいに瞬間的にガスで眠らせ家具ごと外に運び出し、用が済んだら元に戻すってヤツやりたかった」
「無理じゃろ、先ず眠った事を気付かせないようにするのが無理、次に眠った事に気付かせず同時に起こすのが無理、家具ごと動かすより人だけ拐ってそっくりなセットに連れて来る方が楽」
「とほほ、伝説の怪盗みたいにはいかないか」
「そもそもそのトリックは敵側が使ってたヤツじゃしな」
帝国編の敵の名前は殆どが実在・非実在問わず殺人鬼から名前を拝借しています。商会長アンドリューのアンドリューという名前の有名な殺人鬼も居ますが、今回の元ネタは殺人鬼では無くクトゥルフ神話に登場するアンドリュー・フェラン+魔女ギザイア・メイスンから拝借しました。
あと冒険者じゃなくクトゥルフTRPGっぽく探索者にしました。




