第百二十七話 ハーレム新入生の視点
アタイはスラムの一角に拠点を置くマフィア『イシマツ組』の八代目ドン、隻眼のモリー(豚獣人)と呼ばれていた。
アタイのシマでは魔薬禁止、堅気に手ぇ出すのも禁止でやってたから好き放題してる敵対マフィアやその下部組織のギャングなんかよりも規模はどうしても小さくなっちまう。
それでも先代から受け継いだシマとボロボロなりに善良に生きてる堅気連中を敵対マフィア共と違って護ってきた。
そんなある日、混沌の騎士が現れスラムで睨み合ってたマフィアやギャングの一切合切を消し飛ばし始めた。文字通りに。
混沌の騎士は言った。
『アンタも理解してるだろ?このままじゃ未来は無い。だが、お前も含めて見所ある女が何人か俺の嫁になるならば状況を大きく変えてやる。そちらにも言い分はあるだろうから抵抗しても構わない』
抵抗?考えるまでも無い、ウチより大規模な組織がツブされてる以上抵抗は無意味だ。
スラムを変えるという言葉が嘘か本当かは知らないがこちらに選択肢は無い、多少みっともなくとも部下の為にも命乞いはしておくべきだろう。
結論から言えばスラムを変えるといった言葉は本当だった。
住民は学校や職業訓練施設に強制的に入れられた。強制的と言えば聞こえは悪いがスラムに住んでいた頃に比べれば百万倍は良い生活を送っている。
そしてアタイも花嫁衣装と呼ぶには些か露出の多いドレスで初めて褥を共にした。
「なあ、あれだけの事業だ相当カネを使ったんだろ?」
底無しの旦那の攻めに早々蕩けてギブアップしたアタイは部下が抱かれているのを眺めながら、ふと頭に浮かんだ疑問を投げ掛けた。
「いや、資金の九割はギャングやマフィアが貯め込んでたのを使っただけだ。あんな場所でも・・・いや、あんな場所だからこそ有る場所には有るんだよ」
惜しい話さ、もしアタイが手に出来ていたら旦那じゃなくアタイが・・・無理だな。
アタイ達にはスラムを潰す戦力も作り替える技術も教育する人材も無かった。
潰されるべくして潰されたんだ。
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初めての夜から数日、分かったのはこの家が王国とも帝国とも、そしておそらくは旦那の故郷であるチキューとも違う文化圏を形成しつつある事だろう。
生活の殆どは地下施設になるが、大きな病院が存在する。
住人はナノマシンとやらで病気にはならないらしいから主な利用者は怪我人と・・・妊婦さんだな。
今日は今月産まれた赤ちゃん達のお祝いがあるらしい。赤ちゃんとその母親がアカギ家総出の祝福を浴びているが、その中で一人、黄金のティアラを着けた赤ちゃんが他とは何処か違う祝福のされ方をしていた。
何処が違うかと聞かれると返答に困るのだけど。
「あの子だけ何かが違う様な気がするんだがどういう事だい」
「ああ、あの赤ちゃんは竜二様の子じゃないんですよ」
「旦那の子じゃない?」
旦那は略奪婚を嫌悪しているから幸せな家庭を破壊したワケでは無い。
ならばあの母親は妊娠中に前の夫に不幸があった。もしくは酷く屈辱的な理由で妊娠した。あるいは敵対していた極悪人の情婦を戦利品として引き入れた。の何れかなのだそうだ。
引き取るのは女の子の場合だけで、成長すればいつの日か旦那の妻の一人になる。
旦那の子なら自分達の子も同然に祝福するが、旦那の子でなければ自分達の姉妹として祝福する。そりゃ祝福の内容にも違いが出るだろうさ。
狂っていると言う人も居るのだろうが、服と飯と寝床が有るんだ。幸福な部類だよ。
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ある日アタイは元部下が食堂でかなり豪勢な食事をしている場面に出会った。
元部下の不健康で目の下に濃い隈のあるやさぐれたシスターは教会の悪徳神父に盗人の濡れ衣を着せられアタイの組に逃げて来た人間だ。光魔法が使えるから組員やシマの住人の治療なんかを任せていたかなり有能な部下だった。
食堂の飯ってのは無料の日替わり定食が基本で、これだけでも十分に美味い、だがエロリンとか言う家内通貨を支払えばもっと様々なメニューを注文出来るらしい。
「あっ、お嬢」
「何だ何だ?豪勢にやってんな」
「えへへ・・・お一つどうですか?」
「おっ、悪いね~・・・美味!特上のシャンパンじゃないか」
メニューを見ても結構な値段が付けられている。
「どうしたんだいコレ」
「実は臨時収入がありまして・・・」
この家での欲求不満の解消法と言えば旦那との情事が真っ先に浮かぶ、だがいくら旦那の精力とテクニックが底無しのバケモンでも時間には限りが有る。旦那だって色に耽っているばかりが仕事じゃ無い、一度旦那の味を知ったアタイ達には不貞を犯す気は起こらない、多分魔法的に強固な契約が結ばれているんだろう。なら代用品として女同士で、と言うのは自然な流れだった。幸い勝手知ったる同性の肉体、満足は十分得られた。
アタイもノリでそうなった事は何回もある。
だが、気乗りしない日も当然あるワケで・・・。
「あの第二夫人のクラリース様だっけ?寝床に誘われたんだけど身分の差に・・・その・・・」
「気後れした?」
「そう!それ!それで最初はお断りしたんだけど誉め殺しで口説き落とされて・・・お小遣いも出すって言われて・・・」
「それ言い方は悪いが身体を売ったんじゃ・・・」
「い・・・いえ!全然そんな感じじゃなくて、本当にクラリース様は素敵な方で・・・」
だが、それがいつもの手口だというのもクラリース様の妹のエビルさんから聞いている。
言わないけどな。
「全く・・・いくら同性でも・・・ん?いや、同性で仲間だからこそか?」
家内で独自の商売をしている者も居ると聞くし、聞いてみるか。
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アタイは元部下達や仲良くなった女性達と共に資金を出し合って女性専用の娼館を始めた。
驚いた事に同時期に似た考えのグループが似たような事業を始めたが、資金力の違いからジャンルが異なり自然と棲み分けが出来たのは幸いだ。
地下の大人向け歓楽街には三軒の施設が増え、アタイはその内の一軒、『桃泡館』のオーナー兼娼婦として気楽にやっている。
桃泡館は天然温泉をそれぞれの個室に引いてお風呂に入りながら娼婦が相手をする形式になっている。
旦那や第一夫人は娼婦ではなく泡姫とか呼んでいたが、姫と呼ばれたら悪い気はしないな。
お小遣いが欲しいご婦人の日雇いも大歓迎、旦那はいつでも無料サービス、ただクラリース様だけは二度と来ないで下さい。
さて、もう一つのお店『ウィッチ・ホテル』だが、こちらは女の子がセットになってる高級宿、ウチのコンセプトが短時間で安価で小部屋なら向こうのコンセプトは長時間で高価で大部屋、だからか客の取り合いになる事は無い、むしろ気分次第で互いのスタッフが互いの施設を利用する事もある。当然、旦那は無料でクラリース様は利用禁止である。
最後に紹介するのは唯一旦那から金銭を受け取る事を許された施設、性愛と癒しの双子神、シェヘラ派の教会だ。
第一夫人が各地の古いシェヘラ派に関する文献を集め、実際に高い魔力を得られる儀式や修行方法を厳選・改良しているのがこの『赤龍教会』である。
家中の聖職者は他派も隔てなく全員がこの教会に所属しており、吉凶関わらず何らかの出来事があれば修行を積み聖娼と呼ばれるに至った特別なシスターによる厄祓いの儀式が行われる。
旦那も裏の仕事の前には必ず験担ぎで儀式を受けている。この儀式が旦那から金銭を受け取る事を許された理由だ。戦士は自らを癒した聖娼に対し金銭(元となった神話では神鉄のコイン)を贈る事で儀式終了の合図としているのだそうだ。
あと教会の役目と言えば各宗派の祭事を仕切ったり、新生児に祝福を与えたり・・・そうだ!忘れちゃいけないのがクラリース様が何かやらかすと数時間コースのお説教される・・・効果は無いみたいだけどな。
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「なあ、旦那」
「ん?」
「次は何をやらかすんだい?」
「そだね~・・・ギザイア商会長の誘拐かな?」




