第百二十六話 パパの大茶番劇
私は南王にして猛将エイボーン・ツトゥーガー(ナマケモノ獣人)の娘シーメィ・ツトゥーガー(人間)、早速ですが私は困っています。
私には心に決めた男性がいるのですが両親が結婚を反対しているのです。
理由は彼がスラム出身だからみたいなんです。
出自で人の価値を決めるなんて前時代的で野蛮だと思いませんか?更にお父様はスラムの支援施設まで閉鎖させてしまいました。
こんな事は間違っています。
彼と会ってお父様達の横暴を止める相談をしなくちゃ!
その日の彼はいつもより身綺麗でスラム独特の臭気もありませんでした。
今の彼を見て貰えればお父様達の考えも変わるかも知れません。
希望が湧いてきました。
・・・
・・
・
「騙したのですね!?」
私は縛られ港まで連れて来られてます。
「人聞きの悪い、恵まれない俺を豊かにする為に身体で稼いで貰うのさ!お貴族様ならさぞや高値が付くだろうからな!!」
「スラムを救うと言うのも嘘だったんですね!?」
彼の顔が嘲笑に歪む。
「救えるワケねーだろ、あんな連中。何せ支援施設は勝手にぶっ壊して残骸を売っぱらうわ、配給は順番もへったくれも無く盗み奪い合う。確かにルールを守れば将来的アンタの言う通り改善はされたんだろうが連中には未来を考える頭が決定的に欠如している、今日自分だけが総取り出来れば将来や他人なんざどうでも良いんだよ」
港周辺には私と同じ様に何処からか連れて来られた人々が縛られた状態で大きな船に積み込まれていく。
「さて、講義の時間は終わりだ。アンタ等は乞食・平民・貴族の区別無く奴隷として売り払ってやるよ。アンタ等偽善者共が好きな平等ってヤツさ、それじゃ・・・」
しかし彼が言い終わる前に船が何らかの衝撃を受けて大きく揺れた。
「何!?」
「あれは!」
海の方から無数の船が現れる。
先頭を進む一際巨大な鉄船に描かれた水属性を示すあの紋章は、世界で最も有名な超豪華武装貨物客船・・・。
「聖メアリーの蜂蜜酒号だとぅ!?!?」
水の極星ルミナス・アカギ、そして・・・。
「陸の方からも南軍が来たぞ!!」
「お父様!!」
嗚呼、お父様はこの事態を予見して軍を動かしてくれていたのですね?
「お父様、私・・・」
「お前が無事ならばそれで良い」
ん?
「後は我らが片付ける」
騒動が終わり帰りの馬車の中でも厳重注意や労いの言葉を受けるだけで強く叱られる事はありませんでした。
どういう事なのでしょう。
そういえば・・・今日は何から何まで違和感が・・・。
◇ ◇ ◇
では答え合わせをしよう。
問題1.何故臭かった彼があの日だけ臭わなかったのか?デート前には身体を洗ったから?いや、デートだと思っていたのはシーメィだけだ。彼にとっては金儲けの段取りに過ぎない。
問題2.何故彼は長々と計画をバラしたのか?何も言わずに商品を牢にでも放り込んでおけば人質としても使えたのに、自慢がしたかったのだろうか?そもそも船内に居るであろう他の商品を人質にする事さえ無くあっさりと彼等は捕まってしまった。極星が来た事で戦意喪失でもしたのだろうか?
問題3.やけに軍の手際が良かった・・・どころか極星とも連携が取れていた見事な捕物だった。死者・怪我人ゼロ、事前の諜報活動があったとしてもここまで一方的になるだろうか?軍は敵が人質を使わない事を知っていた?
問題4.これがシーメィにとって一番腑に落ちない案件だろう。父親があまり叱らなかった事だ。南王は要所要所で正しく叱る事の出来る人物だ、親の忠告を無視して危機に陥った娘に説教の一つでもあるかと思えば手短な注意に留めている。南王は娘を見限ったのか?
全ての答えは・・・。
「まあ、俺が閣下とグルだったワケですが」
「調査と茶番ご苦労だったな、ナイアール」
あの日、シーメィとデートした彼とは即ちナイアールこと俺だった。のみならず捕まっていた人々、違法人身売買組織、南王が率いていた南軍兵全てが俺の・・・劇団ユノのメンバーだったのだ。
なぜこんな茶番劇を演じたかと言えば、シーメィを未来の南部を背負う南王に相応しい厳しい目線を持てる政治家に成長させる為である。
当初はシーメイの彼が犯罪者であると知った南王がシーメィに現実を思い知らせる為にそのまま利用しようとしたが、ナイアールの調査で想定以上に激ヤバな犯罪に手を染めている事が発覚、こりゃアカンと言う事で彼を緊急逮捕、表現をマイルドにした規制版を演じたってワケだ。丁度ルミナスも近海に居たしな。
「まさか奴が○○○や□□□に手を染めていようとは・・・」
「それに加え×××で△△△な上に※※※まで・・・そのくせ口は上手いから始末が悪い」
南王夫人(雉鳥人)も顔を曇らせる。
「娘は考えを改めるでしょうか?」
「大丈夫でしょう、何せ・・・」
俺がドアを開けると盗み聞きしているシーメィの姿があった。
「こうやって真相を知ろうとしてますから」
「シーメィ!?」
「ちっとは政治家に必要な狡猾さが身に付いたか?何処で気付いた?」
「父上が妙に甘かったのが引っ掛かり、彼に面会に行ったんです。彼は臭いままでした。あの臭いはスラム特有の臭いかと思ってましたが・・・」
「ある意味それも正解っちゃ正解なんだがな、薬中特有の体臭だ。あのスラムでは日常の光景さ」
「スラムの過去の政策も調べました。私が産まれる前から幾度も支援策を出していたのですね?ですがその悉くが失敗しています・・・スラム住民の無法によって」
夫人は暫し額に手を当て意を決した。
「ナイアールさん、シーメィを嫁にやりますからスラムの犯罪者の始末と職業訓練施設の建設をお願い出来ますか?」
「お!お?お母様!?」
その提案に俺はお断りを入れる。
「シーメィさんとの婚姻はお断りします。真面目な彼女と卑劣な俺では合わない、なのでこの屋敷にある風景画と、あとスラムで見所ありそうな奴を引き取る権利か欲しい」
「あの絵ですか、流石に目敏いですね。良いでしょうスラムの件も含め許可します」
シーメィが母親の淡々とした話し合いに若干引いていると南王エイボーンはやれやれといった顔で語り始める。
「母さんは結婚前までタカ派筆頭だったからな」
「え!?」
「だが、血の気が多過ぎて失敗する事が多くてな、見かねて俺がマイルドに修正案を出してやると上手くいったもんだ。母さんもそれを理解して案を出しては俺に修正を求めたものさ、そうこうしている内に気付けば結婚してた」
「全然知らなかった・・・」
「まあ、態々言う事でも無いと思っていたが、そんな話をもっとするべきだったかも知れないな」
だが俺はそんな南王の呟きに否を唱える。
「遅い事なんざありませんよ、むしろこれからじゃないですか」
「そうか・・・そうだな」
この家族は、この領地は大丈夫だろう。
俺が各領地を巡っているのは魔道具犯罪組織の影が無いか、より端的に言えば四王に裏切り者が居ないかを探る為だが、東王、南王共にシロだ・・・実は北王もエルキュリア王国で活動してた頃からのペンフレンドだからほぼシロだと判断している。
まあ、あのスラムはガッツリ連中の巣窟だったんだがな、そもそもあの船も・・・。
そうだ!あの殆どが偽物だった茶番劇の中で数少ない本物が連中の使っていた輸送船だ。
「南王閣下、あの船はやはり・・・」
「こちらでも調べたがギザイア商会の所有で間違い無さそうだ」
「やっぱりか」
「だが解せぬ、今の商会長がこんな真似をするとは・・・」
「善人なのか?」
「いや、そうじゃ無い。ヤツは・・・アンドリュー・メイスンは前商会長の弟なのだが家を出てダンジョン探索で生活していた男だ。腕っぷしが強い一方で重い責任を嫌う小心者だ、善人だから悪事を避けるのでは無く余計な責任を背負いたく無いから悪事を避けるタイプだろう。俺の所感だから実際は知らんがな」
「ふ~ん、一度会ってみるか」
◇ ◇ ◇
「酷い・・・ここには貧しいながらも生活していた人々が居たのに!」
「生き残りは南王が造った収用施設に入れられたみたいだね。中でどんな非道が行われているのやら」
「一刻も早く悪を裁かなければ」
「まあまあ、連中だって馬鹿じゃあ無い、俺達の正義を示すには準備が必要だ。ベアースターもそう言ってただろ?」
「ええ、ええ、そうでした。あの方の考えはいつも正しい」
(やれやれ、バカの操縦も楽じゃ無いな。それにしても『貧しいながらも生活していた人々』とか笑わせる。あんな地獄は生活とは言わねーよ)
ソニック・ビーンズとジャスティス・ウーマンは廃墟となった元スラムにそれぞれの想いを抱きながら後にしたのだった。




