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遊人現代忍者、王国ニ舞ウ  作者: 樫屋 Issa
探偵 帝国ヲ駆ケル
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第百二十四話 愛に付け込むド外道の詩

牢に入れられているリディア・アトラクアの前に柔和な目をした髪と髭がモジャモジャの老齢の神父が訪れたのは陽気射し込む昼時の事であった。


「懺悔があればお聴きいたします」

「懺悔などありません。全てはあの女、ナチェ・アトラクアが悪いのです」

「あくまでもご自身に非は無いと?幼子の命を奪っておきながら、その行いに罪悪感や後悔は一切抱かないと?」

「アレは罪の子です。この世にあってはならないから処分したに過ぎません。正しい行いだったのですよ神父様」


神父は・・・竜二は絶句した。

リディアの容姿は良いので自身の罪を認めるならばルーヴィエの時みたいに心を生まれ変わらせ側に置いておく事も考えた。

だが、自身の罪を最後まで他人に押し付けるリディアの言葉に竜二の興味は急速に冷めていった。


「残念だよ」

「神父様?」

「一言でも自分の犯行を認めたなら我が楽園ろうごくに繋いでやったものを、では絶望せよ」


神父の厚手のコートはゴモリと蠢きリディアにとっての絶望が姿を見せた。


・・・

・・


◇ ◇ ◇


話は数日前に遡る。

ナチェ・アトラクアが裁判を終えた後、彼女への悪評は驚く程消えていた。

『閣下は伯爵に貶められたんだ』だの『彼女もクラウンの犠牲者だ』など手の平返しも極まるが、それでも早すぎる情報の流れには作為的なモノを感じずにはいられない。


「恐らくナイアールの部下達が連携して閣下に有利な情報を一斉に流したのでしょう、今回は閣下の助けになりましたが敵に回すと恐ろしい」

「卿は王国に研修に行っていたのでしたね」

「ははは、向こうの王妃殿下直々に鍛えて戴きました。今の王国は数年前とは最早別の国と見るべきでしょう、発展の速度が凄まじい、特に犯罪に対抗する技術に関しては世界一と言っても過言ではありませんでした」

「それがナイアールの出現と彼が基礎を造り出したとされる大商会【星の智慧(スターリーウィズダム)社】」

「ナイアールが逮捕された際に一度代表が変わったらしいですが、未だ社の幹部はナイアールの配下であると疑う者も少なくないらしい」

「そんな者が娘の遺体を一体どうしようと言うのかしら?」

「わかりませぬが・・・もしや閣下、ゴーツの森へ向かわれるのですか?」

「我が子の事です私が行かねば」

「なりませぬ!あの森には最近澱みの沼が発生したとの報告もあります!せめて浄化を完了した後に我々と共に」


しかし、ナチェはオーギュストの言葉を片手で制すると困ったような表情で断った。


「二度目くらいは助けさせて下さい」

「だが・・・しかし・・・」


オーギュストはそれ以上言葉が続かず見送るしかなかった。


・・・

・・


ナチェが森の入り口に到着すると派手なスカートを着用したスキュラが相変わらず女性に支えられながら出迎えた。


「スキュラ、貴女は本物のスキュラなのですか?」

「その事に関しては後程、先ずはルリム様を御守り出来なかった件を謝罪いたします」


深々と頭を下げるスキュラにはナチェも深くは追及出来なかった。そもそも無理に追及せずとも、答えはこの先にあるのだ。


「こちらです閣下」


鬱蒼とした森にはナイアール一味がやったのか三人程が並べる横幅の道が切り開かれていた。


「この森には沼が発生している可能性が有ると報告を受けていますが浄化は済んだのですか?」

「いいえ、寧ろルリム様の為にも今浄化されるワケにはいかないのです」

「?話が見えませんね。それとルリムと一体何の関係が・・・」


言葉の途中でスキュラが片腕で制止を促す。


「止まって下さい」


見れば道の右前の木々がバキバキと揺れ動き二足歩行の狼頭が姿を表した。


「コボルト?いやウェアウルフか?どちらにしろ剣を・・・」

「いいえ、この程度、“彼女達”にとって障害にはなりません」


その言葉を証明する様に狼の魔物は四方から飛来した様々な投擲武器や弓矢に引き裂かれズタズタになって倒れる。


「今から閣下が交渉されるナイアールは控え目に言って卑怯な極悪人です。ですが同時に美しい女性と交わした契約には真摯に応える誠実な方でもあります。恐らく閣下の願いを叶える対価として閣下のお身体を要求するでしょう、私がそうだった様に」

「貴女は私を救う為に?」

「国家の臣として言わせていただくなら犯罪者との交渉は蹴るべきです・・・ですが・・・いえ、閣下の選択に委ねます」


話している内に辿り着いたか開けた場所に出た。


「此処は・・・澱みの沼?」


沼の対処は聖職者や軍人任せとは言えナチェとて幾度かは目にした事が有る。

ゴポゴポと今にも魔物が発生しそうな嫌な気配が漂っていた。

そんな中で異様に陽気な女性の声が耳朶を打つ。


「オ~ウ!しばらくぶりデスネ~♪アトラクア東王閣下」

「ハーミットさん・・・いえ、貴方が噂のナイアールですね?」


スッと周囲の空気が変わった様な錯覚に陥る。

続いた声は若い男性の物。

トレミー・ハーミットが自身の服を引っ張れば一瞬の内にその姿が仮面で目元を隠した黒いタキシード姿の男に変化した。


「如何にも、私はナイアールと名乗るケチな泥棒です。先ずは御息女の件で謝罪を」

「謝罪・・・ですか?」

「私がリディアの姿を帝都で見掛けた時、不穏な気配を感じ彼女を調査する事にしました。ですが何せ確証の無い事で周囲を不安にさせるワケにもいかず証拠を得る為に周囲の調査から始めました。そんな時、リディアが出掛けたので彼女の見張りを少数の部下に任せて彼女の屋敷に侵入して不穏の正体を確かめようとしました。コレがいけなかった」

「おおよそ想像がつきました。リディアが出掛けたのはルリムを殺す為だったのですね?」

「リディアは手際が良かった。私の指示で遠くからの監視に留めていた部下達が犯行に気付いた時には既に貴女が帰宅して東軍が集まり始めていた」


ナイアールの表情は目元の仮面に隠されナチェからは見えないが口は奥歯を噛み締める様に悔し気に歪んでいた。


「部下達は私の命に従ったに過ぎないのだから責めてくれるなよ?だが私自身は判断の悪さに責任を感じている。そこで取引をしよう」

「何故そこで取引が?」

「まあ聞け、我らは非常に厳しい条件付きであれば死者の蘇生を可能としている」

「!!?まさかスキュラは・・・」

「察しが良いな、だが完全に生前の姿を取り戻す事は不可能だ・・・っと!邪魔が入ったか」


沼からゴポリと大きな泡が湧き出て徐々に魔物の姿を形成し始めた。


「丁度良い、“お前達”の姿を閣下に見せて差し上げなさい」


森の奥から飛び出した幾人かの人影は瞬時に魔物を始末するとナイアールの両脇に整列した。


「え?」


現れたのは見女麗しい美女達だったがどこかおかしい

ある美少女はオークの鼻を持っていた

ある美女の肌は死体の様に青白い

ある美女の腕は鋭い棘状の骨格がむき出しになっていた

ある美少女はまるでスライムの様に半透明の肉体を持っている

そして・・・。


「スキュラ?」


スキュラの派手なスカートがブルブルと蠢動を始めた。


「いえ・・・これは!?」


スキュラに肩を貸していた女性が離れるとスキュラのスカートが八つに裂けた。

否、ソレは最初からスカートなどでは無かったのだ。

ヌメり気を帯びた表面と裏側には無数の吸盤、即ち・・・。


・スキュラ(あるいは同様の特徴を持つ海の精霊)

そもそもスキュラも種族名では無く魔女に呪われて怪物と化した女性の個人名である。

近年のモンスター娘的なサブカルチャーの中では今回のスキュラの様なタコ足の姿で描かれる事が多いが神話では魚の特徴があったり犬の頭が沢山付いていたりと本来は中々個性的な姿をしている。


「見ていただいた通り我々の蘇生方法には厳しい条件や欠陥が存在する。先ず蘇生する側に強烈な意思が必要だ。スキュラの例ではルリムちゃんを救えなかった未練があった事で蘇生に成功した。次に必要なのは澱みの沼だ、この魔力と万能細胞に満ちたプールにて人体の破損箇所を修復する。そしてここからが副作用なんだが蘇生の際に沼の中の魔物の設計図と呼ぶべき情報や蘇生に使う魔道具の影響からどうしても身体に魔物の要素が混ざってしまうんだ」


ナチェはスキュラの脚を再度見た。

異質ながらもヌラヌラとした光沢と柔らかなうねりに奇妙な色香を感じるのは気のせいであろうか?


「こうなれば今の社会では中々生き辛くなるだろうから我々の庇護が不可欠だろう、そこで交渉だ」


ナチェはゴクリと唾を飲み込む。


「三つの条件を飲むならばルリムちゃんを生き返らせて差し上げよう。無論、犯罪者と交渉はしたくないだの死者蘇生といった外法は認められないと言った理由で拒否していただいても構わない、ただこちらは親子の愛を最大限利用させてもらうだけだ」

「三つの条件とやら次第ですね」

「私は無類の女好きでね、閣下の美しいお姿を拝見した時から私は手に入れたいと思っておりました。第一の条件は私の妻となる事。第二の条件ですが私はこう考えた、美しい閣下の愛娘であるならばルリムちゃんは閣下同様に美しく育つのでは?と、蘇生したルリムちゃんも将来私の妻になってもらう。そして第三の条件だが・・・」


・・・

・・


~数日後 東王屋敷~


「それで閣下はナイアールとどの様な交渉をなされたのでしか?」

「聞く価値も無い交渉でした。私は陛下よりこの地を任された身、犯罪者との取引などに応じる気はありません」

「御息女の事は誠に残念でした。葬儀に御遺体を送れなかったのは我々の・・・」

「良いのですフレミング少佐、娘も誇り高き帝国の臣民です、母の選択を受け入れてくれるでしょう」

「閣下・・・」

「さあ!辛気臭い話は止めにして景気の良い話をしましょう。中央本部への栄転おめでとう少佐、王国に倣い対犯罪専門の新設組織の代表に就任されるのですよね」

「これも閣下の推挙のお陰です・・・・・ところで」

「どうされましたか?」

「改築でもされているのですか?さっきから地下の方が五月蝿いですが」

「オ・・・オホホホホ、業者に地下倉庫の増設をお願いしてますのよ」

「ふ~む、そうでしたか・・・てっきり地下に泥棒でも入り込んでいるのかと思いましてな、王国での例のナイアール事件の中にはそんな事例もあったそうで」

「そそ・・・ソンナコトハナイデスヨ」

「?・・・まあ、元気を取り戻された様子で何よりです。東軍本部での片付けもあるのでそろそろおいとま致します」


髭の隊長さんを見送ったナチェは一人呟く。


「第三にこれからも皇帝陛下の忠臣であり続けろ・・・ですか、そんな好条件を出されたら・・・ねぇ」


◇ ◇ ◇


そして話は冒頭の牢屋へと戻る。


「お前は・・・お前はぁぁぁ!!?」


神父のコートから現れたのは紛れも無く死んだハズの・・・それも滅多刺しにしたルリムの姿だった。


「え?」


それだけでも異常事態なのにルリムには奇妙な点があった。

腰から下が妙な形状になっている。

まるで狼の首から下を張り付けた様な。


「化け物!?」

「そう、伯爵に無理やりあんなの書かされて殺されちゃったから私バケモノになったの、いっぱい呪ってアゲルから覚悟してね」


・スキュラ(ルリムちゃんバージョン)

秘書官スキュラの蘇生は海辺の沼を使用した為に海洋魔物の要素が入ったと思われるが、ルリムちゃんの場合は元々が犬獣人であり狼系の魔物が出やすい沼だった為と竜二が地球で遊んだ事のある某パズルゲームのイメージが混ざってケンタウロスの犬版みたいな姿になっている。


「いぃぃぃいやぁぁぁぁ!!??」


発狂したかの様なリディアの悲鳴を兵士達が聞き付けた時には神父と魔物の姿は無く頭を抱え全身を振り乱すリディアの姿があるばかりだった。


・・・

・・


◇ ◇ ◇


「それで隊長、アトラクア元伯爵の銀の指輪なんですが、本人は前東将軍から婚約指輪として貰ったと主張していますが、まさか前東将軍が?」

「いや、ワシの見ていた限りそれは無い、気になって調べたが、彼等が幼少の頃、前東将軍の家で何らかの会合があった際に指輪の紛失事件が起きていたそうだ。その時、伯爵家も参加していたらしい。後、伯爵家を調べてみたら貴金属、宝石類は大半が他家からの盗品である事が発覚した。彼女には盗癖や虚言癖があったんだな、だが伯爵という事で誰も非難出来なかった」

「結局何から何まで嘘ですか、地位や金も有るのにどうして」

「王国の研究では犯罪の成功経験は癖になるそうだ。もう生活の一部だったんだろうさ」

「嘘と言えば元伯爵は牢屋の中で東王閣下の御息女が生きているから自分は無罪だの魔物に呪われるから釈放しろだのわめいているらしいですね」

「ああなったら終わりだな」

「それとリッチー・ボーデン元中尉ですが【真実の鞭】なんて出任せでした。彼女は自分の地位を利用して拷問によって自白を強要していたみたいですね。中には無罪の者も少なくないかと」

「魔道具超人計画、怪しいな。向こうに行ったら調べてみるか」


・・・

・・


~同時刻 リッチー・ボーデンの独房~


「ぐお!?」

「うぎゃ!!」


といった呻き声にリッチー・ボーデンは目を開けた。

牢の前に現れたのは小柄な緑髪のエルフの少年。


「なっさけね~な~、ジャスティスの名が泣いてるぜ」

「貴方は・・・ソニック・ビーンズ」


見れば彼の右手は赤く染まっていた。


「見張りを殺したのですか?」

「俺達の正義に逆らったんだから当然だろ?なあ、思い出せよ。俺達は選ばれし者だってよ、ベアースターの旦那もそう言ってたぜ」

「バンディー大尉が?」

「俺達が世の中を正してやるんだよ」

「私達が・・・正す・・・そうです、私の正義は消えてはいません!直ぐにバンディー・・・ベアースターに合流します」

「そうこなくっちゃ♪邪魔する連中は全て悪だ」

「民を正しく導く為に!」


牢はソニック・ビーンズによって開かれ、意気揚々とジャスティス・ウーマンは飛び出した。

その背中を追うソニック・ビーンズは密かにほくそ笑む。


(チョれー女)

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