第百二十三話 弁護士トレミー・ハーミットと東王閣下
お待たせいたしました。
休養から復活です。
これまでにちょこちょことなるべく自然な感じで出ていた四王と言う単語であるが、そもそも四王制度とは何ぞや?との疑問は皆様感じてらっしゃると思います・・・流していた方も今からでも良いので疑問に思っておいて下さい。
これは簡単に言えばメッチャ広い帝国領は皇帝一人の権威で支えるのは大変だから王様に匹敵する超スーパーウルトラ領主を東西南北に配置して安定させようって話だ。
実際、人口や経済力は別にして領土面積は一ヶ所でエルキュリア王国に匹敵する広大さを誇っている。
さて、現在東を治める王、東王は人間ナチェ・アトラクア女史である。古くから東王を勤めるアトラクア家の血族であるが、その人生は必ずしも順風満帆とは行かなかった。
東将軍だった夫は娘が産まれる直前に魔道具犯罪結社の卑劣な罠により命を落としてしまう、また近年では慈善事業家の皮を被った殺人鬼クラウン・ゲーシーと会食した事により、有らぬ誹謗中傷を受ける事となった。
だが、これらは彼女に降りかかる悲劇の始まりでしか無かったのだ。
◇ ◇ ◇
~星の智慧社 帝国支社のマーケットフロア~
「あ~あ、商品がぐっちゃぐちゃだよ」
「総帥、使える物の方が少ないですよ」
「残念ながら食品系は全破棄、それ以外で使えそうな物は回収して仮設販売スペースに配置、瓦礫撤去はチームを組んで危険行為はしない事」
「そ~すい~、奥の棚から無事なメモ用紙セットが一つだけ出てきましたよ~」
「白紙の生産は未だにどこの国でも難しく価格は高めだ。需要は高いから直ぐに売り場へ出すように」
竜二達は現在破壊された施設の再建に追われていた。
「ったく、あのヒーロー気取りが好き勝手・・・!!」
ぞくりと、竜二の背に冷たい気配が走った。
「あの・・・」
「あっ!いらっしゃいませ」
そこにはフードを目深に被った女性が立っていた。
「そちらの商品をいただきたいのですが」
「はい、二百帝国金です」
「小さいとは言え二百とは随分安いですね。では・・・」
「まいどありがと・・・むぐ!?」
竜二は咄嗟に売り子の口を塞ぐ。
「ああ、お客様!只今アンケートキャンペーン中につきこちらにお名前・ご住所・当店への満足度をご記入いただければ更に百お値引き致しましょう!!」
「錆びた王国の店の割りには良いサービスですね」
「恐れ入ります」
品物を受け取るその指には銀のリングが嵌められていた。
「・・・なんですかあの態度、感じ悪」
「まあまあ、これから評価なんざいくらでも覆すさ」
「それにしてもキャンペーンなんてやってたんですね、勉強不足でした」
「ん?やってないぞ」
「えっ?じゃあさっきは何で・・・」
「嫌な気配を感じたんだ。だから念のためな」
「それ個人情報の漏洩では?」
「この惑星にはまだそんな法律は無いさ、なっ!帝国軍の皆さん」
いきなり話を振られた撤去作業に協力している帝国兵士達はポカーンとしていた。
「?そうですね」
「ん~、反応が鈍いが、まあ良いさ。ちょっと用事が出来た、コーデリア、後は任せた」
「任せたって・・・ちょっと待ってください!私は経営なんて出来ませんよ!?」
「補佐に何人かベテランを付けるから心配すんな、じゃあな」
そう言うと竜二はヒッポーに乗って行ってしまった。
◇ ◇ ◇
~数日後~
アトラクア家の屋敷にて東王ナチェ女史の愛娘、犬獣人のルリムちゃんと屋敷の管理をしていた秘書官の女性、エルフのスキュラ嬢が惨殺されるといった事件が発生したのだ。
特にルリムちゃんの顔の損傷は激しく何度も刃物で斬り付けられた形跡が見られた。
帝国東軍が駆けつけた時にはルリムちゃんを抱き寄せて放心状態のナチェ女史と犯行に使用されたナイフが床に転がっていた。何より衝撃的だったのは現場に落ちていた『お母さんに殺される』と書かれたメモだった。
そしてナチェ女史は状況証拠と最近の噂が祟り第一容疑者として捕縛、さほど時を置かずして殺人犯として裁かれる事となってしまったのだ。
そんな中、東軍の本部に一人の男が訪ねて来る。
「あの・・・百人隊長オーギュスト氏は居られますか?」
「隊長でしたら王国に出張中で明日戻る予定です」
「そっか・・・それでした戻られましたらこちらの資料をお渡し下さい、ヒッポーをいただいた御礼です」
「何!?ヒッポーって隊長の!?貴様何も・・・」
東軍兵の前には既に男の姿は無く、分厚い資料の束だけが置かれていたのだった。
◇ ◇ ◇
「貴女が弁護士のトレミー・ハーミット先生ですか?」
「オ~ウ、依頼人のリディア・アトラクア様デスネ~?」
ナチェ女史の従妹であり東部貴族の黒髪の犬獣人リディア・アトラクア伯爵が出迎えたのは王国から移住してきたと言う青髪エルフの女性弁護士トレミー・ハーミットである。
「お願いします。従姉さんを助けて下さい。このままでは東部は破滅です」
「ではさっそく東王ナチェ・アトラクア様と打ち合わせをシたいのデ~ス」
「・・・構いませんが無駄だと思いますよ?従姉さんはあの日から放心状態で、まともに会話なんて・・・」
「オ~、でもキット話せばワカってくれマスヨ」
数分後、トレミーがナチェ女史を部屋から連れ出しはしたが、ナチェ女史は相変わらず青い顔のままで喋る気力は無いようだ。
リディアの方へは見向きもしない。
「だ・・・大丈夫なのですか?」
「ヤれるだけヤってミマ~ス」
「本当に大丈夫なんでしょうね!?今日は魔道具超人の一人であるジャスティス・ウーマンも裁判に参加するのですよ?」
「ジャスティス・ウーマン?何か裁判に関係のある方なんデスカ?」
「これだから王国の田舎者は・・・魔道具超人は帝国の魔道具技術の粋を集めて生み出された新世代の英雄ですなのです。今回の裁判にもアドバイザーとして参加しております」
「フ~ン(つまり何の権限も無いのね)」
トレミーが一抹の・・・もとい激しい不安を覚えながらも開廷する。
「そもそも皆様、まるでナチェ・アトラクア東王閣下が殺人犯であるかのように話を進めておりますが、全ては状況証拠に過ぎません!ナイフが容疑者の近くに落ちていた?真犯人が残して行っただけでしょう?容疑者が放心状態で被害者を抱き締めていた?子供の死に嘆かない母が何処にいますか?母親が犯人であるかの様なメモが落ちていた?そんな物、真犯人が子供を脅して書かせればいくらでも作れるでしょう?そもそもこんな裁判なんて起こる事の方が馬鹿馬鹿しい、法治国家の裁判では無く三流情治国家のやり口でしょう。よって弁護側は無罪を主張します」
「被告人は連続殺人犯のクラウン・ゲーシーと会食した事もありましたが、殺人に関する何らかの話し合いがあったのでは?」
「当時クラウン・ゲーシーの慈善事業に関わっていた者は五百人以上、一緒に食事をしたと証言した者も三十人は居ます。全員を殺人犯として逮捕しますか?そう言えば原告側の一人、カルラン男爵の次男の名前も参加者の中にありましたね?」
「よく・・・調べていますね。確かにクラウン・ゲーシーと会食しただけならば犯人と断ず事は出来ない、ですが閣下は事前に秘書官以外の使用人に休暇を与えたと言うではありませんか、事前に殺害を計画していたのではありませんかな?」
そこにリディアも加勢する。
「使用人の休暇は私が閣下に進言したのです。そこに事件性などありません」
裁判は平行線を辿るばかりだが、弁護側にとっては有難い。決着が着かなければ証拠不十分で再捜査になる。
しかし、これは明らかにナチェ女史に東王の座を退いてもらいたい勢力の罠だ。
相手も簡単には引き下がろうとはしない。
「このような面倒をしなくとも我が正義の鞭にて真実を語らせれば済む事です」
今まで静観していたエルフの女騎士ジャスティス・ウーマンがフワリと空中へと浮き上がり茨の鞭を振り上げたのだ。
狙いは無論ナチェ女史、彼女は自身に振り下ろされる鞭を見つめ・・・
『ビシッ!!』
当たる事は無かった。
トレミーの袖口からワイヤーが伸び鞭を打ち払った。
「コレが帝国の裁判のやり方デスカ~?ズイブン前時代的デスネ~」
「これは魔道具【真実の鞭】、この鞭に打たれた者は真実を必ず語るのです」
『ビシッ!!』
二撃目も凌ぐトレミーだが、リディアがその邪魔をする。
「トレミーさん、ここは逆らわずナチェを鞭で打たせてみれば疑いが晴れるのでは?」
「冗談!!拷問で裁判の結果が左右されるなら弁護士なんざやってられまセ~ン」
リディアの邪魔により三度目の鞭への対応が僅かに遅れてしまう。
「チッ!」
マジッククローのワイヤーが鞭を打ち払いきれず絡み付く、引き合いになれば魔道具で身体強化されていると思しきジャスティス・ウーマンに分がある。
(流石・・・魔道具超人と呼ばれるだけはある)
「我が正義を妨げるならば貴女も悪と見なします」
「上等!人の世の法を捻じ曲げる正義ならばこっちから願い下げだ!!」
「その通り、正義が法を逸脱してはならない!!」
トレミーもとい竜二が力負けしそうになったその瞬間、法廷に渋くも力強い中年男性の声が響いた。
「隊長さん、間に合ったか!」
「帝国東軍フレミング少佐であります。裁判長、東軍の調査により今回の事件に関する新たな証拠を提出したい」
「発言を許可します」
突如法廷に乱入したは嘗て竜二にグルグル巻きにされた髭エルフの百人隊長オーギュスト・フレミングである。
「注目して戴きたいのは現場に残されていたメモだ。この際内容はあまり関係が無いが、問題は紙の材質にある」
「材質ですと?」
「国内の製紙ギルドにも協力を要請して徹底的に調べたが、現在この紙と同じ材質の物を製造、又は販売している業者は国内には存在しない!唯一、一店舗だけを除いて」
リディアが早口にオーギュストに問い詰める。
「なら、犯人はその業者から購入した大勢の顧客の中に居ると?」
「ああ、そこで我々に幸運が、犯人にとっては不幸が起こったのだ」
「犯人にとっての不幸?」
「販売した店舗にトラブルがありメモ帳が二つしか用意出来なかったんだ。店舗に起きたトラブルには帝国軍中央本部にも責任があったらしく、請求書の水増しを防ぐ為に本部の会計士が目を皿のようにして何度もチェックしたそうで、信頼出来る情報だ。そして現在このメモ帳を所持している人物も星の智慧社の協力で特定している。もう単刀直入に言わせていただくが、犯人はアンタだ」
オーギュストが平手で指し示したのは・・・。
「リディア・アトラクア伯爵」
「私が?何の冗談で・・・」
「失礼ながら貴女がここ数日、東王閣下の身辺を世話している間に貴女の邸宅を調べさせて戴いた。本部の許可も得ている」
「本部の!?ですがメモ帳を持っている者はもう一人居るのでしょう?そっちが犯人の可能性だって・・・」
「ならば皇帝陛下の御前にてそう証言なさるのですな」
「何故そこで陛下が!?」
「もう一人の持ち主とは陛下に他ならないからだ。残りの一つは星の智慧社から陛下への献上品の一つだったのですよ。さあ、帝都の陛下の御前にて恐れ多くも陛下に対し犯罪の追及をなさるか、この場で潔く自白なさるか決められよ!!」
狼狽えるリディアの指に銀のリングが輝いている。
「何よ・・・全部この女が悪いんじゃない!才能も無いクセに由緒ある東王の座に居座って!あの人まで私から奪って行ったのよ!!」
「あの人とは戦死した前東将軍だな?」
「そうよ!コイツと結婚なんてしなければ死なずに済んだのに!」
「いや、当時の命令書に改竄の形跡があった、だから前将軍は敵に囲まれ戦死した。ありゃアンタの仕業じゃないかね!?」
「この女に付いたあの人への細やかな罰よ!本来のあの人なら容易く突破出来たハズなのよ!!こんな女と結婚なんてしたからあの人は弱くなったんだ!!全部コイツの所為だ!!」
髪を振り乱して叫ぶその姿に先程までの淑女然とした姿は無く、憐れな狂人が怒鳴り散らすばかりだった。
黙って聞いていたナチェが静かに、然れど怒気を含んだ声音で口を開く。
「何故ルリムを殺したの?恨んでるのは私なんでしょ?」
「赦せるワケ無いじゃない!あの人の高貴な血にアンタの血が混じったガキなんて!!」
その言葉を聞き、オーギュストは王国での研修中に聞いた殺人犯の心理状態の話を思い出していた。
(顔を執拗に傷付けるのは確か存在を抹消したい程の憎悪に駆られた場合か)
「あのガキの死体を見た時のアンタの顔は最高だったわよ」
「軍が駆け付けるのが早かったのも東王閣下に悪い噂が広がったのもアンタの仕業だな?」
「全部この女の自業自得よ!私は早くアンタが死ねるように手伝ってあげたのよ!!」
その言葉にナチェを罠に嵌めようとしていた貴族連中すら引いてしまった。
こんな狂人の口車に乗り利益を貪れるのだと勘違いした自分達の浅はかさに絶望し、今後の自分達の立場を考え青ざめる。
そのやり取りを他人の様に見ていたジャスティス・ウーマンだったが・・・。
「おっと!ナニ他人事みたいなツラしてやがりマスか?」
「何!?」
気付けば先程まで力比べを演じていたトレミーが消えていた。聞こえた声は背後から。
ジャスティス・ウーマンが振り返った瞬間、無数のワイヤーが彼女を締め上げた。
「どんな怪力でもその態勢からじゃチカラは入らないデショ~」
「私にこの様なマネをすればどうなるか分かっているのですか?」
倒れ喚くジャスティス・ウーマンをオーギュストが見下ろす。
「いいや、分かってないのはアンタだよ、ジャスティス・ウーマンいやリッチー・ボーデン元特務中尉。魔道具超人には少佐相当の権限を軍内で与えられているが・・・それだけだ。司法に介入する権限なんぞありゃしない!!加えて【真実の鞭】などという魔道具など聞いた事も無い、届け出の無い不法所持の魔道具か、そもそもそんなモノは存在しないかだ。アンタが出るのは軍法会議の方だよ」
その最後通牒にリッチー・ボーデンは大人しくなったが、リディアの方は尚も見苦しく喚き続ける。
「この女だ皆死んだのはこの女の・・・」
「いいえ!お嬢様を殺害したのは貴女です」
「貴女は・・・そんな・・・まさか・・・」
更に法廷に乱入したのは殺害されたと思われていた秘書官のスキュラ嬢、まだ傷が痛むのか御付きの女性に支えられて現れたのである。
自分が殺したと思っていた人物の登場に流石に言葉を失ったか、リディアは口をパクパクとしたがガックリと項垂れてしまった。
結局、ナチェ・アトラクアの無罪は証明され、彼女の従姉妹であるリディア・アトラクアとジャスティス・ウーマンことリッチー・ボーデンが法廷で逮捕されるという前代未聞の裁判となったのであった。
「申し訳ありません閣下、王国での研修が少々長引いた為、お助けするのが遅くなってしまいました」
「良いのです、弁護士の先生から精神安定のお薬とリディアに警戒するようアドバイスを貰ったお陰で落ち着きました」
「あの弁護士・・・ですか」
「ええ、トレミー先生・・・あら?先生は?」
「トレミー・ハーミットなる者は帝国の弁護士資格を有した記録は元より入国の記録がありません」
「何ですって?」
「奴の名はナイアール、王国で有名な怪盗であり凶悪なクライムマーダラーでもある。ワシが王国に研修に行く切っ掛けになった犯罪者ですよ。実はリディア・アトラクア伯爵を捜査するように奴から申請がありましてな、おっと、誤解しないでもらいたいですが我々が伯爵邸を捜査したのはあくまでナイアールに関する手掛かりがそれしか無かったからです」
「表向きは、ですか?」
「ええ、まあ大貴族の邸宅を捜査するにはそれなりに上を納得させる理由が必要でしたからな、ワシを指導した王国の捜査官にみっちりと犯罪者との闘い方ってヤツを叩き込まれましたよ」
「しかし驚きました。スキュラが生きていたなんて・・・」
「それなんですが、スキュラ嬢は軍の調査でも確実に死亡していた。死人が息を吹き返す事例も有るには有りますがそれにしても彼女の傷は致命的に過ぎる。そして・・・先程部下から連絡がありました、安置所から彼女の遺体が消えていると、スキュラ嬢はどちらに?」
「さっきまでそこに・・・」
そして消えたのはトレミーやスキュラだけでは無かった。
「閣下!!御息女の遺体が!」
『心優しき東王閣下へ、大切な娘さんの身柄はトレミー・ハーミットこと私ナイアールがお預かり致しております。返して欲しくばお一人でゴーツの森までいらして下さい ナイアールより』




