第百二十一話 クリスマスSP 狂男爵最後の大逆襲
魔物として蘇ったクラリースの父、コロジョン・ダンドレジー男爵は打ち倒され、彼の魔物による世界征服計画は幕を閉じたハズだった。
しかし、彼の邪悪で強壮で趣味も諦めも悪く嫌な意味で天才的な精神が澱みの沼の中で崩壊する直前に一体の魔物の設計図とでも言うべき情報を沼の中に送り込んだのである。
澱みの沼は設計図を読み取り、繊細で複雑な構造の魔物を徐々に形成していった。
月日は流れ、完成した魔物は父の無念を晴らすべく、宿敵ナイアールと裏切り者のクラリースをターゲットに地上に侵攻を開始したのだ。
それは地母神ルブランの祝祭間近、アカギ家がパーティーの準備で慌ただしく動いている日の事であった。
地の底から澱みの沼と共に一体の魔物が迫り上がって来た。
沼は守鶴前達術者が張った強力な結界に突き当たり、沼の性質そのものが変質していくが、お構い無しとばかりに強引にアカギ家の娯楽用ダンジョン内に滲み出る。
強力な浄化結界を突破した影響か沼は綺麗な蛍光ピンクに変色していた。やがて沼の中央からボコリと人間大の何か沼の成分の集合体みたいな物が立ち上がり、それはドロドロの状態から急速に固体に変化を始めた。
それは美しい銀髪に白磁器の如き珠の肌を持つ女性、その瞳は魔物の支配者の証明であるエメラルドに輝いていた。
そして最も特徴的なのは顔立ちや体型がクラリースに酷似している事であろう。
美しき魔物が口を開く。
「視力調整がまだ甘いですね」
魔物は自身が産まれ出でた沼に手を入れると少し掬った。沼の成分は一瞬で眼鏡の容変化する。
眼鏡を掛けた魔物は次に自身の裸身を見る。
「新たな支配者として相応しい衣も必要ですね。そう、この世のを統べる女王として威厳と色香のあるドレスが」
魔物は再び沼に手を入れると沼の成分を体に振り掛ける、するとどうだろう、魔物の身体に纏わりついた液状の物質が一瞬で漆黒のドレスに変化したのだ。
「少し攻め過ぎたかしら?いやでも支配者たる者、世界を魅了する為にセクシー成分も必要でしょう」
胸元と背中を大きく空け、網タイツにハイヒール姿の自分を見て悪の女王気分に浸る魔物だったが、異変を察知したか何者かが近づいて来た。
「ここが報告にあった地点か」
「気を付けなさい、以前の事件みたいに死人が出たらまたご主人様が悲しまれるわ」
「アレ?クラリース様?」
現れたのは武装した女性達数名、中には魔物の特徴を備える者も混ざっている。
「丁度良い、私の力を見せてあげましょう」
魔物の瞳が妖しく輝く。
しかし何も起こらなかった。
「私を地上まで案内しなさい」
「?迷子になったんですか?テレポーターまで送りますよ」
「良きに計らえ」
「また何か変な遊びしてるし・・・」
「クラリース、何か今日色が違くない?」
「バカだなお前、クラリース様だぞ。気分次第で色くらい変わるわ」
散々な言われように魔物は困惑する。
(え?なにそれ怖い)
「ところで今日のドレスは珍しく落ち着いてますね」
「落ち着いてますね(エコー)」
「ますね(エコー)」
「・・・・・?!?!?!」
地上の屋敷部分に出た魔物は全く効果の無い魅了を駆使してクラリースの居場所を突き止めるのであるが、そもそも魔物の魅了が何故効かないのか?実はこの魔物の使う魅了も通常の魔物であれば充分に効果を発揮するのだが、相手はクラリースに散々魅了掛けられ慣れている上に守鶴前の指導で対魅了も無意識レベルで発動している魔物娘達なのだ、しかも屋敷内では魔力量も常に十全、産まれ落ちたばかりの魔物では荷が重かったのである。
そして遂に運命の時は訪れる。
魔物が部屋に入ると・・・。
「キャ~♪誰?この絶世の美女は!?最終試験前だけどベッドで身体検査の時間くらいは有るわよね?」
「・・・・・」
そこには紐と布切れだけで大事な部分を辛うじて隠したほぼ全裸の女が居た。
バタンとドアを閉め、その後は何処をどう歩いたか気が付けば屋根の上で体育座りをしてハーピー達と一緒に沈む夕日を眺めていた。
「気温・雲の動きを見ても今夜は雪になるね」
「今夜のメインはエルキュリア風鳥鍋だそうです」
「となれば香辛と出汁の華麗なハーモニーが楽しめそうだな、心も身体もポッカポカだよ」
とか言う鳴き声を聞き魔物も一緒に屋内へと戻る。
改めてクラリースの私室へと足を踏み入れた魔物が見たモノとは・・・。
「あら?さっきの娘、戻って来たのね?」
「キャ~~~!!変態ぃぃぃ~!!!」
そこには全裸で全身に卑猥な文字や絵が書き込まれた女が居た。
もう何も書かれていない耳以外の全てにモザイク処理が必要なレベルである。
「何ですか!?そのヒワイな姿は!!」
「お嫁さん見習いの女の子達の最終試験として私の身体に思い付く限りの淫語等を書き連ねたのです。家事・政治・商売・戦闘、確かにこの家ではどれも必要ですが全員が習得する必要はありません。ですがスケベは竜二様の妻であるなら竜二様の種を搾り取る為に全員が必要なスキルなのです」
モザイクでよく見えないがビシッとポーズをキメているらしい。
「耳に淫語を書き忘れた女の子が旦那様に耳を調教される官能小説とかどうでしょう?」
「どうでしょう?って言われても・・・」
「嫌な耳無し芳一じゃな」
と、そこに異変を察知した守鶴前達も駆けつけた。
「ダンジョンで発生した気配を監視しておれば、面白い事になっておるな」
「クラリースが二人だって!?」
一緒に来たアンジェリカも頭を抱えている。
「真に完成されたクラリースは私の方です!お父様を裏切った失敗作と一緒にしないで下さい」
「そうか!コロジョンの最後っ屁か」
「亡きお父様の夢の実現の為、そして変態失敗作にこれ以上好き勝手させない為に私と勝負しなさい!!」
「良いでしょう、私もナイアールの妻としてナイアールの技をある程度は学びました。今この場で妹を躾けるついでに技の実験台になってもらいます!!」
「クラリースが竜二君の技を!?一体どんな技が・・・」
対峙する二人を固唾を飲んで見守るギャラリー、やがて二人は同時に動いた。
一瞬の攻防、位置を入れ替え着地する二人。
「あ~ん私のパンツ返してよ~」
「これぞナイアール直伝、下着抜き取りの術!!」
そこにはパンツを握りしめるクラリースと魔物の姿があった。
魔物は涙目になりながらクラリースからパンツを奪い返そうとしているが、スケベな事には殊更強いクラリースからパンツを取り戻す事は叶わず、遂にはマジ泣きしてしまった。
そこへ竜二も帝国からテレポーターで様子見に来た。
「うわ!また知らない女の子を連れ込んでる。いい加減俺の知らない場所で俺の妻を増やすの止めれ」
「あっ、お前はもう一人のターゲットのナイアールだな!?」
魔物は泣き止みバッと竜二に近寄った。
「な!クラリースに似ている!?」
「貴様がここの主だと言うなら貴様を押さえれば勝ったも同然!!」
魔物の瞳からエメラルドの光が溢れ出る。
「止さぬか!竜二は魅了催眠クソザコ勢じゃから効き過ぎてしまうぞ」
「はっはっは、それは良い事を聞きました。さあ!私の奴隷におなりなさい!!」
しかし、魅了が完全にキマった竜二の理性は吹き飛び、目の前の牝に興奮を隠せず性欲魔人になってしまったのだ。
「あ・・・あの~、私の命令をですね・・・」
「ふ~ふ~、メス・・・オンナ・・・オレノモノ」
「これはいけません、ステイ、ステイですよ竜二様。何事にも順番と言う物があります。今、シスターを呼びますから本番は誓いのキッスの後でにして下さい」
「そうじゃなくて!!」
「まあまあ慌てない慌てない。竜二様、落ち着いてベッドで解呪してあげますからね~」
「オ・・・クラリース?アイシテル」
・・・
・・
・
~数分後~
「失敬、どうやら正気を失ってたらしい」
「こちらこそ大変失礼しました」
クラリース似の銀髪の魔物は土下座していた。
「で?誰コイツ?」
「話を聞くに前領主コロジョンが死の間際に頭の中で思い描いた自身の理想とするクラリース像が沼の中で具現化した存在じゃろう」
「そんで?降参って事で良いのか?」
「はい!もう二度と逆らいません!!」
「タヌキ姉さん何かやった?」
「人聞きの悪い・・・お主がお楽しみの最中に少し遊んでやっただけじゃよ」
「だから心配なんだよ」
モザイクまみれのクラリースがモザイク越しに何やら身振り手振りしている。
「だったら二人っきりでデートすれば仲良くなれると思いま~す」
「「は?」」
「なるほど、妾も少し遊びが過ぎた。この場は気軽な楽園なればこの娘の緊張も・・・ときに娘よ、お主名は何と申す?」
「私はクラリース・ダンドレジーとして生み出されました。例え親が邪悪で外道であろうとも悪意で以て付けられた名であろうとも今更変えようとは思いません」
「道理であるな、名とは力そのものでもある(それは遠藤段蔵だった時期が長すぎて龍として機能不全を起こしている竜二が顕著だが)」
「ならミドルネームを付けたらどうだ?」
「その手で行こう、それならば多少変質はしても力が落ちる事はあるまい」
「流行りのオルタナティブは?」
「安易に流行りに乗るのは嫌」
「アナザーとかシャドウは」
「別物でも影でもありません」
「それじゃあダッシュ、ターボ、ハンター、セイバー」
「邪いや、改心したのにそれも変か?」
魔物がピクリと反応した。
「それが良いです!クラリース・エビル、邪悪な意思により誕生したクラリースの妹機、それが私」
「お・・・おう(誕生経緯は姉とあんまり変わらん気がするが)君が良いなら」
「それでは姉様の命によりご主人様のデートのお相手を勤めさせていただきます」
皆がニヤニヤと竜二を見ている。
「・・・何期待してるか知らんが帝都辺りを遊んで来るだけで手を出す予定は無いぞ」
「はいはい、妹をよろしくお願いしますね」
・魔王クラリース・エビル
クラリースのデータを元に完全な魔王として再設計された個体で、本来は魔物の特性として性別は無く中性的な容姿になる予定だったが赤城家に張り巡らされた浄化結界を突破する際にデータが変質し、魔物娘として誕生した。
魔物・女性・魔物娘と魅了・強化の範囲がやたら広いオリジナルのクラリースに対してエビルは通常の魔物にのみではあるがオリジナル以上の強制力を行使出来る。これはそもそも設計者であるコロジョンが魔物娘なんてイレギュラーを想定していなかった為である(完全無効では無く多少の効果はある)。
余談だがこの日以降、澱みの沼からエビルのコピーと思われる司令官タイプの悪魔系魔物が出るようになったが、他の魔物同様に食欲だけで動く為に司令塔としては欠片も機能せずバフを掛ける知能も無い為、単に目が光るだけのクソザコモンスターと化している。
と、解説も終わったところでデートが終わって二人が帰って来た。
「ほら、もうエビルが竜二様にべったりくっついてる。瞳の中にハートマークまで浮かんでるじゃないですか!!」
「いや・・・ほらさ、偶然が重なった末の流れってあるだろ?ちょっとの散歩のつもりが偶然ギャングの抗争に巻き込まれて丁々発止、汚れを落とそうと近場のホテルに入ったら」
「ご休憩というワケですね」
「ちゃんと誓いのキッスはしたよ・・・直前に」
「やめてくださいお姉様、私と竜二様はもっとピュアーな関係なんです!お姉様と竜二様の相性の良さは知っていますし、羨ましくも思いますが、私はお姉様みたいに全身モザイクが必要なエグいプレイなんてしません!!」
「お?言ったわね?貴女もお母さま共々全身モザイクにしてあげるわ♥」
「ちょ!俺を勝手に巻き込むな!!」
そんな母娘団欒を遠巻きに見ながら守鶴前はうんうんと満足気に頷いていた。
「一件落着じゃな?」
「ダンジョン内の澱みの沼から発生したそうですが、彼女は魔物なのでしょうか?」
「それなのじゃが調べたところ妾達の張った結界を抜ける際に沼自体がかなり変質しておるのが確認出来た。魔物娘が誕生する時に非常に酷似した状態になっておったよ。あの娘も通常の魔物では無く魔物娘に変質しておる」
「ダンジョンに発生したピンクの沼は?」
「しばし監視は必要じゃが、善き力を感じる。研究してみよう」
エビルは後にモルガンと組み節度を守った生活を営む為の風紀取り締まりを始め、そして結局何だかんだで流されてスケベしてしまう自分達に頭を抱えるのであった。




