第百二十話 一人にして複数の彼女達
「外見はビアンだけど複数の人格で一つの身体を共用してるって事か?」
「わん♥️」
「ん~、もうちょい色々試してみるか」
魔物娘、それは人類の天敵魔物の発生源である万能細胞と魔力の混ぜ物、通称『澱みの沼』を通常よりも強く複雑な術理にて浄化した際に誕生する魔物の特徴を備えた女性の事だ。
これまで魔物娘を生み出せるのは地球から来たアカギ家のみの力と思われていたが、ここに来てアケチ皇の愛妾が魔物娘である事が発覚し(妹姫であるルミナスは知らなかった)、この惑星にも魔物娘を生み出す術や魔道具が存在する事実を知るに至った。
魔法生物である彼女達は実に不思議な生態をしている。
様々な環境に適応可能なゴブリンプリンセスのアスタルト、全身から老廃物に至るまで全て果物なイズン、人の姿と異形の蟹の姿を自在に使い分ける蟹坊主の救蟹がいるかと思えば人の姿への変身が不得手な人魚の乙姫もいる。
また、沼の発生には人の負の意思が関係するのか、生前の記憶を有する蘇生者も存在する。
アンデッド娘、オーククイーンとして蘇ったクラリースの母アンジェリカ、スライムに飲まれた直後にスライム娘やぬっぺふほふとして蘇ったコアクト家の面々と、今回のビアン達もそうだ。
だが、如何に身体が大きいとは言え一つの肉体に複数の魂が同居している例はビアンが初めてだろう。
今回新しく紹介する魔物娘も死者蘇生で一つの身体に複数の魂を有するタイプである。
◇ ◇ ◇
橋の下の殺人鬼
帝都より東にある街でその犠牲者が初めて発見されたのは十三人目を数えた時だった。
他の十二人と同様に橋の下に打ち捨てられた彼女達は発見された時には発生した澱みの沼に沈みかかっていたと言う。
幸い近くに浄化出来る光魔法使いがたまたま来ていた為、魔物による被害こそ無かったものの近隣住民はこの橋の下の殺人鬼に恐怖した・・・浄化したのが誰だったかなど気にもならない程に。
しかし、街にやって来た探偵によってその正体は暴かれた。
犯人の名をクラウン・ゲーシーと言い帝国の東側を管理する東王ナチェ・アトラクア女史とも会食した事もある慈善事業家であった。
切っ掛けは事件を嗅ぎ付けた探偵アラン・スミシーこと竜二がパインや地元の憲兵と手分けして怪しい場所の張り込みをしていた際に魔薬(この惑星での麻薬と同義の魔法薬)を所持していたところを発見、シャツに僅かに付着していた血痕を見つけた竜二は単なる中毒者では無いと判断、憲兵と協力して捕縛を試みるが竜二にしては珍しく捕り逃してしまった。
今、クラウンは逃走の為の人質確保か、あるいは最後のお楽しみを満喫したいのか、とある女子寮に押し入っていた。
「動くなよ、こうなりたくなきゃな!」
侵入して真っ先に目に入った女性を手始めに心臓をナイフで刺した。
「オラ!テメェら!こいつみたいに死にたくなきゃ股開いて命乞いして見せろや!!・・・ったく、探偵とか言うヤローに難癖付けられて今日は気分が悪ぃんだ。さっさと・・・」
だがクラウンは違和感に気付く。
「おい!何だそのツラは!何ニヤついてやがる!!」
「あ~、これは覚えてはいないタイプか~」
「何を言って・・・」
とクラウンが言いかけた時に、足元で転がっていた死体がムクリと起き上がる。
「覚えてないクセに寸分違わず前と全く同じ位置を刺すんですね?イカレ過ぎて一周回って感覚が研ぎ澄まされるのかしら?」
「なっ!?!?」
十三人の美女は寄り添い合い絡まり合って怨敵に対し宣告する。
『忘れたなら思い出させてあげましょう』
美女達は絡まり繋がりまるで巨人の如く組み上がり、その皮膚が一斉にドロリと溶け落ちる。
「ひ・・・ひいぃぃぃいい~~~!?!?何がどうなって・・・」
『まだ気付かないか!私は・・・私達はお前に犯し殺された怨念だよ!!』
巨大な髑髏がクラウンを掴み上げた。
・餓者髑髏 大髑髏
滝夜叉姫伝説等複数の骸骨に纏わる伝承が融合して近年に成立した巨大な髑髏の大妖怪。
この個体は放置された十三人の美女骨の怨念無念が集合し、実体化した姿で、竜二達に浄化された為に無関係の人を襲う事はしないが自身を殺害した犯人であるクラウン・ゲーシーは当然別である。
女子寮は幻の如く消え去り巨大な髑髏の姿が浮かび上がる暗黒の空間にクラウンは閉じ込められてしまっていた。
『フンッ!!』
餓者髑髏が鋭い骨が無数に突き出した巨腕を振るえばクラウンの右足は無惨にもズタズタに削り落とされる。足を失い倒れたクラウンの右腕を今度は骨の足が踏み潰す。
「いだい・・・いだいよぉ・・・ちくしょう・・・殺したい・・・もっとコロシたかったのに・・・何でオレが殺されなきゃいけないんだよぉ・・・パパがいつも言ってたんだ・・・弱い奴はコロスって・・・」
『・・・・・』
何を思ったか餓者髑髏は消え去り暗闇は晴れ空き地で重傷を負っていたクラウンは憲兵に発見され逮捕された。
クラウンの半生を調べた竜二は彼が父親に虐待されていた事実を突き止める。後は彼の故郷で起きた不審な火事と動物虐待の形跡。
「毒親・放火・動物虐待・・・シリアルキラーのお手本みたいな人生だな、犯罪心理学の教科書に載せて良いレベルだ。ルーヴィエのプロファイルも犯人特定の参考になったしな」
「慈善事業家だって聞いていたのに・・・」
「それも獲物を物色するのが目的だ。お前達は全員、過去に何らかの形でクラウンの活動に一回でも参加していた。慈善事業は都合が良かっただけに過ぎない、おっと、忘れるところだった」
竜二は体の一部がくっついたアクセサリー類十三個を餓者髑髏・・・サツキヒメの前に置く。
「クラウンの自宅に隠してあった、殺人鬼の中には犯行時に記念品を持ち帰るヤツもいるって聞いてたが、ヤツもそのタイプだったんだろ。ああ、防腐処置と洗浄は済ませてあるよ」
サツキヒメは置かれたアクセサリーに手をかざしてそのまま吸収してしまった。そして髪留め、ネックレス、指輪に腕輪にピアスやイヤリング等計十三のアクセサリーが一瞬で全身に装着されていた。
「そんで?何で最後に見逃したん?」
「別に見逃してはいません、アイツの骨に呪いを掛けました。じわじわと死に向かう恐怖を感じるでしょう」
その言葉通り数日後、クラウンは牢の中で死体として発見された。他の囚人の話では毎日骨の軋む音と共に激痛が走ると訴えていたらしいが光術師が治療しても改善はされなかったし、医者の診断も異常無しであった。
クラウンの死体は解剖され、その内臓には無数の骨の欠片が刺さっていたという。
・・・
・・
・
「ひょひょひょひょひょ~、これが魔導蒸気機関ん~?酷い欠陥品だぁ~、んにゅふ・・・にゅふふふふ~!でも~我っち様ならぁ~完んっっっ璧にぃ~作り直してぇ~あ♥️げ♥️る♥️」
星の智慧社系列百貨店帝国支店の地下は既にナイアールの秘密基地と化していた。
ラブは与えられた作業場でひたすら魔導蒸気機関の分解と組み立てを繰り返している。
竜二とパインは廊下の窓からその様子を眺めていた。
「リュウちゃん、私にも魔導蒸気機関の資料頂戴よ~♥️」
「ダ~メ♥️」
「どうして~?」
「だってお前、俺と出会ったあの日から一度も笑ってないじゃん」
竜二のその言葉にパインが自分の頬を咄嗟に押さえる。
「ああ、笑顔は崩れて無いぞ。だが、笑顔を貼り付けているのと笑っているというのは根本から違うんだよ」
「・・・・・」
「任務の為と常に自分を殺して来たんだろうが、そのままだとアンタの心は本当に死ぬぞ」
ここで押し黙っていたパインの口が開く。
「だが強いのは非情になりきれる者だ」
「お前も・・・俺と同じ勘違いをするか・・・。結論から言えばそれは否だ。俺が戦った強敵は皆、我の強いヤツばかりだった。お前は勘違いをしてるんだよ」
「勘違い?」
「国に忠を尽くすヤツは好きだ、好感が持てる。だが娯楽を理解出来ない者に国を良くする事なんて出来ない。お前は気付くべきだ、国に忠を尽くす事と快楽に浸る事は両立出来るのだと」
竜二がパチンと指を鳴らせばいつの間にかパインの両脇に女性が立っていた。
「その辺はカスミの方が飲み込みが早かったんだが、お前さんは見た目以上に病んでいる。故に・・・」
女性達がパインの両腕を押さえ込む。
「荒療治だが遊んでこい、美味い飯喰って高い服着て女の子同士でスケベして、心から笑えるようになったら正式に結婚しよう」
「リュウジ・アカギ!!」
「それまでは抱く気は無いよ。安心しろウチには調教のプロフェッショナルがいるからな」
最後の抵抗か、パインは口の中に隠していた針を吹き矢にして飛ばすが、竜二は高速で飛来する針を同じく吹き矢で弾き落として見せた。
「まっ、精進するこった、俺みたいに大事な感情が抜け落ちる前にな」
落ちた二本の針を拾いながら竜二は連れて行かれるパインを見送ったのだった。
◇ ◇ ◇
おまけ
この惑星でも十三は不吉な数字とされている。理由は神々の敵であった“緑の太陽”の使徒たる巨人族の長が十三柱だった事に由来するのだとか。
また数千年前に世界の殆どを恐怖で支配したとされるパープル帝国の大幹部も十三人だったらしい。
だが、この話を聞いた巨人の転生した魔物娘であるトラソルは疑問符を浮かべた。
「造られたジェネラルクラスは私達二人を入れて十二体だったハズだけど、私達が滅ぼされた後に補充したんですかね?」
との事だ。




