第百十九話 スミシー探偵事務所開業
帝国諜報員さん初登場じゃなくて二回目だよ。
「これが帝都シェリンか・・・話には聞いていたが、やっぱ聞くと見るとでは大違いだな」
帝国首都シェリンその都市は竜二がこれまで通って来た帝国の地方都市と比較しても異様と言えた。
「高いな」
そう、シェリンには十階建てを超える建築物が乱立しているのである。その光景は現代地球のビル群にも劣らないだろう。
文化的には中世ヨーロッパに近く、しかして竜二の見立てでは建物の強度に不足は一切無い、この時点での竜二は知らなかったがこれは皇室に伝わる伝承の影響である。
曰く
『コナン宮殿を破壊せし皇帝は名君となる。また、宮殿を破壊せし皇帝は己が全力を用い宮殿を再建し、その技を民に余す事無く伝えよ』
と。
一見バカバカしくも思える伝承ではあるが、これこそ帝国の建築技術の高さの秘密である。
これにより皇帝の仕事の一つに宮殿を破壊可能な兵器・魔道具・人材・技術を探すというモノがあるが、ここ数百年は破壊出来た者は極星ですら居ないと言う。
ちなみに帝都シェリンにはコナン宮殿は存在せず、北側の平地にかなり距離を置いて一軒だけ建てられている。破壊前提で建築されているので他を巻き込まない為の配慮である。
それとは別に首都中央にシェリン城が存在するが、こちらは実際の行政機関・皇帝の仕事場と言ったところか。
話を竜二達に戻そう。
「あっ・・・ここ憶えてます」
「ん?ディリは帝都出身なのか?」
「よく・・・分かりません、私は小さい頃にパパとママの仕事で一緒に旅をしてて、それでアイツ等に・・・」
「ふむ、では元々の故郷はこっちだった可能性が高いな、んでラブはドコ出身よ?」
「我っち様は帝国内のダンジョン管理してる土地ならドコでも住んでたぞ!ダンジョンあるトコロに魔道具アリだからな!」
「ををう、左様か・・・と、言ってる間に着いたな」
「?この建物が何か?」
一行の前にあるのは建設途中のビルだ。周囲より若干控え目の三階建てになる予定だが、その分土地は広く取っている。
「ここが俺達の帝国での拠点になる」
「一等地じゃないか、よくこんな土地が空いてたね?普通は大金積まれたって買えんぜ?」
「そうなんですか?」
竜二が不審がるラブの言葉にニヤリと笑う。
「ああ、金だけじゃ無理だからな、ちょいとばかし元々の土地のオーナーとお話させてもらったのさ。今頃前のオーナーは国外逃亡の準備で大忙しだろうぜ、まあ逃げても帝国軍には捕まるだろうがな」
「こっわ!」
「さあ、テレポーターで愛すべき妻達を呼んで建築を一気に進めっちまおう」
・・・
・・
・
◇ ◇ ◇
~コナン宮殿~
「ナイアールはまだ見つからぬか?」
「はっ、四王領や地方貴族領にも手を回していますが成果は無く」
ベッドに寝そべりながら行儀悪く皇帝秘書官エミリー・レフュースリバーと会話する顔をヴェールで隠したこの人物こそ帝国皇帝キンメリアその人である。
「よもや王国に帰っているのではあるまいな?」
「あるいはそれ以外の国で遊んでいるのか・・・」
その時、無風だった部屋の空気が微かにしかし確実に動いた。
「ナイアールは確かに国内に居ますよ」
いつの間にか部屋には青髪のリス獣人の女性が立っていた。その出で立ちはラフな白シャツにズボンと、とても一国の主に謁見する格好では無い。
エミリーは渋い顔で女性を睨み付ける。
「また貴女ですか“バナナ”無礼が過ぎますよ」
「構わぬエミリー、日頃から言っているが余は有益ならば多少の無礼は許す。有益ならばな」
エミリーは溜め息一つして“バナナ”に向き直った。
「だそうです。つまらない知らせなら許しませんよ“バナナ”」
「その珍妙なコードネームは何とかならないんですかね?私にはパイン・テール・パスウェイって名前があるんですからね!」
「バナナとパインで同じ果物では無いか、気にするでないぞ」
「世界中の果物屋さんも仰天の発言ですね。それはさておきご報告をば、ダンちゃん・・・もとい今はリュウちゃんでしたね、彼は根っからのクライムキラーとでも言いますか悪人を見つけては始末するのが非常に得意でして、その線で裏道を探し回ってみれば出るわ出るわ、壊滅したギャングに強盗団、店主の代わった娼館だのが一直線に帝都方面まで続いていましたよ」
「それじゃあ現在地が分かったのですね?」
「あ~~~いえ、私が嗅ぎ回っているのに気付いていたらしくて途中からぷっつりと・・・どうしよっかな~って考えてたら彼から『住所が決まったよ~』って手紙が来ましてね」
「調査のくだりがまるっと無関係じゃないですか!」
「そういえば貴公は我が国で初めてナイアールと接触した諜報員であったな、苦しゅうない案内せよ」
だが当然エミリーの待ったが入る。
「ダメですよ」
「むぅ」
「皇帝陛下ではダメです。ここはエミリー・レフュースリバーにお任せ下さい、その為の私です」
「道理であるか」
「それでは“バナナ”さん準備をしますから外でお待ち下さい」
「了解です」
・・・
・・
・
◇ ◇ ◇
「ふふふ、まさか帝国軍中央指令部の目と鼻の先に拠点を構えるなんてね」
「いや~盲点と言いますか大胆と言いますか」
竜二達の新たな拠点、星の智慧社帝国支店に二人組の客が訪れたのは丁度昼食時だった。
「んで?何の用だよ?昼食集りに来たってワケじゃ無いんだろ?」
「ガツガツ・・・カレー美味いね。あっ!リュウちゃんお代わり、それと食後のデザートも用意しといて」
「私アレが良い、何だっけ?スドーフのチリトテチン風味ってヤツ」
「んっだよ、馬の処分押し付けたのまだ根に持ってんのか?それとも護送中に逃げた件か?」
「馬?ウマ・・・あっ!!あの時はよくもあんな面倒な仕事を押し付けてくれたわね!」
「チッ忘れてたのかよ、言わなきゃ良かった」
竜二はお茶を一杯啜りながら悪態を吐く。
「それにしても良い店ね。一階は百貨店で二階は倉庫、三階は・・・『アラン・スミシー探偵事務所』?」
竜二が待ってたしたといわんばかりに身を乗り出した。
「これこそが俺の新しい遊び、探偵業だ。迷子探しから浮気調査、果ては帝国軍でも手に余る事件の捜索なんかも報酬次第で引き受けましょう」
「へぇ~、面白いわね。そもそも貴方を呼んだのは帝国内の不穏分子を王国と同じ様に調査してもらう為です、こちらの目的とも合致しますね。とりあえず詳しい契約内容はカレーのお代わりと甘味を頂いてからにしましょう」
竜二が怪訝な表情でバナナに問いかける。
「なあ、秘書官の人ってこんなハッチャケた性格だっけ?」
「エミリー秘書官もあんなスットコ皇帝の思い付きに付き合わされたらストレスの一つも溜まるってモンでしょ?」
だが、それを聞いたエミリーが『ゴゴゴゴゴ~』と効果音が出そうな黒い笑顔を浮かべた。
「バナナちゃ~ん、前々から思っていたけど不敬が過ぎますよ~」
「え~!秘書官殿だってしょっちゅう文句言ってるじゃないですか~」
「私は良いのよ、それよりも丁度貴女の不敬罪に対する罰と調査費用の両方を満たす妙案が浮かびました」
「わ~ロクな事じゃ無さそう」
エミリーはビシッとバナナを指差した。
「コードネーム“バナナ”ことパイン・テール・パスウェイ、貴女に特命を授けます。リュウジ・アカギ氏と婚姻を結びなさい」
「マジですか!?」
「私は前々から思っていました。皇国の諜報員も彼と婚姻を結んでいると報告を受けています」
「あ~、カスミちゃんね」
「我が国も遅れを取るワケにはいきません、好色バカな彼に簡単に取り入る手っ取り早い手段です」
「好色バカって・・・否定はしないが、それでも俺や彼女にも選ぶ権利は有る。バナナ・・・もといパインちゃんには彼氏とか好きな男とか居ないのか?俺は男女の仲を引き裂く程の外道じゃ無いぜ?」
「あっはっは、そーいうトコロは優しいんだから。でも私にそんな人居ないのはとっくに調べてあるんでしょ?」
「まあな、それでも最終確認だよ。ガンガンしてる時に別の男の名前でも呼ばれたら冷めるし、そんな女性を寄越した帝国政府にも返礼しなければならなくなるからな」
「帝国はそんな不義理はしません」
「う~ん、リュウちゃんと初めて出会った時(※第四十四話ぐらい)から何となくそうなる気がしてたんだよね~。お手柔らかによろしくね♥️」
「軽いな~」
「それより食後の甘味はマダ~~~?」
こうして新メンバーを迎え竜二の新たな遊び、『アラン・スミシー探偵事務』が開業したのだった。
二章のサブタイトル回収。




