第百十八話 クラリースの事件簿
実はかなり初期から考えていた話の一つです。
一人の美女が小さな檻に入れられ泣き叫んでいる。
「お願い助けて!貴方達の事は誰にも言わないから!!」
しかし無情にも檻の真下の床がパカリと開き、檻を吊るしている鎖は滑車によって焦らす様に降下して行く。
「い・・・いやぁぁぁぁ~~~!!!」
美女の絶叫に興奮したか二人の男はニヤけた下劣な顔を見合わせる。やがて絶叫が途絶え男の片割れが鎖を引けば絶望に顔を歪ませた美女の石像を載せた檻が引き上げられるのだった。
◇ ◇ ◇
ナイアール一行がアーヴィン公国を去る前に立ち寄ったのは首都ストレゴイのとあるオークション会場だった。
「やや?リュウジ様ではございませんか、総帥御自ら参加なさるとは、今日の出物に何ぞ気になる物でも?」
「ああ、クラリースが珍しく強請ったのでね」
竜二と会話している身なりの良い老紳士は星の智慧社の取引相手である。竜二自身は他国まで足を運ぶ機会がこれまであまり無かったので王国外で彼と会うのは初めてではあるが、そこは社の代表として慌てる事無く談笑している。
「おや?そちらのお嬢さん方は総帥のお連れですかな?」
「ええ、今後は帝国進出を見据えての人材育成を、と思いまして研修がてら連れて来た次第ですよ」
竜二の背後にはたコーデリアとしっかり髪を整えられたラブの姿があった。
「ひそひそ(何か金持ちそうなヤツと平気で話してるけど、もしかしなくてもリュウジって偉いヤツなのか?)」
「ヒソヒソ(クラリース様からはそれとなく聞いていましたけど想像以上の資産家みたいですね)」
二人が改めて目の前の青年の凄さを実感していると周囲の人々の動きが変わった。
「おっと、そろそろ開場か?それではまた後程」
「ええ、掘り出し物があれば良いですね」
そうして老紳士とは別れて三人は席へと着いた。
「変な魔道具あったら買ってくれ」
「ん、まあ良いか」
ラブの才能は見せてもらっている、魔道具を買い与えてやる事で面白い発見があるかも知れないと考えた。
「あっ、始まるみたいですよ?」
始まって暫くは動きを見せない竜二にコーデリアが尋ねる。
「クラリース様は何を落札して欲しいのでしょう?」
『二百万、二百万が出ました。他はありませんか?』
「さあな、手紙には見れば分かるとだけ」
『出品番号二十七番【アジオ侯爵印ドラゴンステーキ肉十キロ】肉そのものが魔道具になっており腐らず味も特上の逸品です』
「テキトーだね」
「まあそう言うな・・・」
次の出品物を見た瞬間、竜二の目は釘付けとなり・・・瞳に怒気を孕んだ。
「あの・・・リュウジ様?」
「ははは、そうか、そう言う事か・・・クラリース、何か厄介事に首を突っ込んだな?全く、突っ込むのは俺の役目だってのに」
『出品番号三十九番、ピッグマン兄弟作苦悶の美女シリーズ新作【歪み】です。先ずは三十万から~』
それは精巧にして悪趣味な悲痛に顔を歪ませた美女の石像だった。
「うわ・・・趣味悪ぅ」
『五十万、他には?五十三万・・・』
竜二サッと挙手。
「六百万」
『ろ・・・え?六百万!?何かの間違いでは?』
司会が狼狽するも竜二に訂正する気は無い。
『他には・・・ありませんね。それでは六百万で落札!!』
「人の身をこんな安値で競り落とすなんて、不愉快だな」
「リュウジ様?」
「まあ良い、クラリースの方に送って仕事は完了だ」
「ちょっと!魔道具は!?」
「分かった、分かったから袖引っ張るな!服が伸びる!!」
◇ ◇ ◇
クラリースは女友達の犬獣人ビアン・フローラムから一通の手紙を受け取っていた。
その友人はクラリースにかなりエグめの官能小説を勧めた元凶で学院時代で一番の親友であり、そんなビアンからの手紙には彼の作家ピッグマン兄弟からの招待状が届いたと浮かれた文面が見て取れた。
ビアンが姿を消したとの知らせをクラリースが受けたのは手紙を受け取ってから五日後の事だった。
アレな内容の官能小説家に会いに行くと言うことでクラリース以外には行き先を誤魔化していたのが仇となり帰宅予定日を過ぎても連絡出来ない有り様だったのである。
知らせを聞いたクラリースはピッグマン兄弟関連の仕事を探る内に兄弟が最近は精巧な石像の製作も行っている事を突き止め、一体購入したのだが・・・。
「ぐ・・・これは・・・」
守鶴前は額に冷や汗を流して石像を検分する。
「流石クラリースじゃな、一目見ただけで本質を見抜いたか」
「では御前様」
「ああ、この石像の材料は人じゃよ。微弱ながら魂もまだ死んではおらぬ」
守鶴前は五芒星の描かれた紙を取り出すと石像の顔に張り付けた。
「これで魂の衰弱を止められる、後は・・・」
クラリースは他の女性達にピッグマン兄弟の石像をあらゆる手段を用いて回収するべく指示を飛ばし、自分はピッグマン兄弟のアトリエに乗り込むべく支度を始めたのだった。
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ホルウォード王国、アーヴィン公国と同じくエルキュリア王国とコナン帝国の間に位置する小国だがこちらは独立国、農業・畜産・工業と平均的ながらこの国の異彩を放つ特色は古来から幾人もの著名な芸術家を輩出してきた世界的な芸術の国である事だろう。
そんなホルウォード王国の首都から外れた人目の少ない林に囲まれた土地にピッグマン兄弟のアトリエがあった。
クラリースは睨み付ける様に周囲を見回すが外見上は何の変哲も無い家である。しかし、そのエメラルドの瞳にはハッキリと地中から沸き上がるドス黒い波動が見て取れた。
クラリースはドアノッカーを少々乱暴に鳴らす。
「はい、どちら様で・・・ああ、お手紙を頂いたダンドレジー男爵ですね?」
「突然の連絡にも関わらず見学を了承して頂きありがとうございます」
出迎えたのは人間とエルフの兄弟だ。どっちが兄で弟かはクラリースは忘れたが、今更どうでもいい事だろう。
「何でも作家時代からのファンだとか、このような美しい方にそう言われては執筆の方も再開するべきですかな?」
嘗て竜二がクラリースと出会って間もない頃に彼等の小説を読んだ時、作者は妄想豊かな童貞野郎かクソ外道の強姦殺人鬼だと評した事があるが、悪い予想は当たる物、クラリースが中に入ると早速入口に鍵を掛けられた。
「細かな御託は結構、貴方達の犯罪は全て知っています。大人しく自首しなさい」
男達は一瞬驚いたらしいが直ぐに笑顔を張り付ける。
「何をおっしゃっているか分かりませんね」
「そうだ!今から作品を作るところをお見せしましょう、きっと気に入りますよっと!!」
エルフの方が隠してあったレバーを倒すとクラリースの真下の床が開き、そのまま奈落へと一直線。
「全く、何処で嗅ぎ付けたのやら・・・まあ、始末は下のバジリスク共に任せれば良い幸い一人で来たみたいだしな」
「檻に入れてないから回収出来んな、脚の折れた女としてその手の趣味のヤツに高く売れたろうに」
「ああ、次からはどこか折ってから石にするのも面白そうだ・・・ん?」
しかし、異変は直ぐに起こった。落とし穴を仕掛けてある床板かみるみる内に石化していったのだ。そしてビキビキとひび割れる床を砕いてクラリースが地上に気軽な足取りで戻ったのだ。
「な・・・何故!?どうやって!?!?」
「兄貴!見ろバジリスク共が!!」
上がってきたのはクラリースだけではない、血走った目の大型爬虫類を思わせるバジリスクまでも女王を狂信する尖兵の如く続いたのである。
兄弟は気付かなかったがクラリースはバジリスクの群れを階段状に並べて脱出したのだ。
クラリースの号令にてバジリスクが一斉に石化の猛毒を吐き出す。憐れ兄弟はそれまで自分達が行って来た悪行が返ったかの様に石塊に変わり果ててしまった。
それからはアッサリしたものだ。
通報を受けたホルウォード王国軍の調査によりピッグマン兄弟の悪行は白日の下に晒され、事態にいち早く気付き石像を回収して事件解決の切っ掛けを作った星の智慧社は石像を遺族に返して全てが終わった・・・・・表向きは。
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ピッグマン兄弟アトリエの地下、星の智慧社は事件解決の功労者として捜査の完了した地下の浄化を申し出たのだが、無論、ただ澱みの沼を浄化するだけではない。
今、沼の中には石像に変えられた美女が全て並べられている。
「では、魔物化甦生の儀式を始めるとしよう」
守鶴前の号令に修道女や巫女が準備を始める。
そう、遺族に引き渡した石像はそっくりに作った偽物で本物はこの通り魔物化で甦らせようとしたのだ。
無論、魔物として新生すれば現在の社会ではまともに生活を送る事は叶わない、故に身勝手ながら赤城家で保護しようと言うのだ。いや、本当に勝手な話である。
「一・二・三・四 五・六・七・八 九・十」
合唱が地下に木霊し、沼が光り輝き石像達を包み込んで行く。
「布留部 由良由良 由良由良止 布留部」
光が消え、そこに現れたのは・・・。
「・・・何か思ってたのと違う」
そこにはクラリースの親友であるビアンをより犬っぽくして額に瞳を一つ足した様な魔物娘が一人だけお座りの姿勢で鎮座していた。
「ビアン!」
「その声はクラリース?私・・・“私達”助かったの?」
「どう言う事でしょう?てっきりバジリスクの魔物娘か動く像になるかと思っていたのに」
「ビアン、助かったのは貴女だけなのですか?」
「違うよクラリース、今、皆出すね」
そう言ったビアンの身体が異様に巨大化して、まるで地下に新たな壁が一枚追加された様になった。
そして壁から無数の美女が生えたのだ。
石像にされた女性だけではない、犯し殺されこの地下に棄てられた全ての女性がそこには居た。
「壁の様な身体に三つ目の犬・・・まさか!?」
・塗壁
人前に突如現れ行く手を遮る悪戯を仕掛ける妖怪、基本は驚かすだけで無害ではあるが、創作物の一部では人を自らの身体に塗り込めてしまう恐ろしい攻撃をする者も描かれたりする。
この個体の場合は自身の中に同じ無念を持つ魂を取り込んでいて、壁の中はそういった者達にとって快適な空間になっている。
「壁の中に女性・・・身体の一部だけ出す事は出来ますか?」
「出来るよ?」
「閃いた!」
「止めんか!!」
こうして竜二の知らぬところでまたしても大勢の嫁が勝手に増えていくのであった。
ビアン・フローラムの由来は石化だからド○クエのビ△ンカとフ□ーラね、ちなみにビア○カ派です。




