第百十五話 東部劇開始!
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縄やら鎖やら枷やらでぐるぐる巻きにされた俺は現在王国西部、帝国から見れば東部側の王国国境付近まで連れられていた。
とは言っても帝国と王国は直接隣接している土地は無く、これから向かうのは帝国の属国である小国アーヴィン公国である。
鉱山を多数所有しており上質な金属・宝石・魔石他鉱物資源が豊富である事から王国とも貿易が盛んに行われている国でもある。
反面、食物生産能力が乏しく帝国から(近年では王国からも)の輸入に頼っている状態である。
何故帝国の属国なのかと言えば、そもそも山の調査や採掘技術の伝授が二百年前に帝国から行われたからだそうだ。
千年以上前にとっくに拡張路線を棄て去っていた帝国としては面倒な統治はせず商売相手になってくれればそれでよかったのだが、時のアーヴィン王は帝国に臣従を表明したので現在の形に落ち着いたそうだ。
長いものに巻かれるというのは楽だ、俺も是非見習いたい・・・まあ帝国としては面倒だったろうが。
そうこうしている内にアーヴィンの国境へたどり着いたらしい、何か同乗してた王国兵が手続きらしい事してるし・・・。
そんで雁字搦めで座ったままの俺を「せ~の」で持ち上げて、んで百人くらいの帝国部隊に突き出された。
隊長だろうか?ガッチリと鍛えられた髭の男エルフが俺をじろじろ見てる。髭オヤジに見られると正直テンション下がるわ~。
「ガッハッハッハ!王国の兵はこんなヒョロいのに翻弄され続けてたのか?」
「油断はなりませんぞ、彼は脱出不可能と思われる状況から幾度も逃れています。先ずは拘束が緩んでいないかご確認を」
「あ~、大丈夫大丈夫。貴殿等王国兵ならば心配なのだろうが我等帝国兵ならばこれだけ縛り上げられていて逃す事なぞ無いわい、後は我等に任せて報告に戻られるがよかろう。ガッハッハッハ」
しかし、バカにされているとも取れる発言を前に王国兵達は髭の隊長さんを生暖かい目でみていた。まるで『うんうん、その気持ち分かる』『俺達も昔はそう思ってたな~』とでも言わんばかりだ。
「それでは後はお任せしますね」
王国兵が帰ったのを見計らって、俺は格好つける為に指をパチンと鳴らした。
・・・
・・
・
「むぐ~~~!!ふんぐ~~~!!」
と、縛られながらもジタバタしている隊長さんを尻目に部隊を見る。
縛ったのは全体の八割、二割残したのは縛られてる奴等を助けさせる為だ。
荒野のド真ん中で全員縛ったら不測の事態に対処出来ないかも知れないからな。
そう、荒野。
何かもう見渡す限りの荒れ地に地球のサボテンみたいな植物が所々生えている(便宜上今後はサボテンと呼ぶ)。
ふと横を見れば部隊が連れて来たであろうキラキラした瞳の栗毛色の牝馬が立っていた。
なんとなくシンパシーを感じた俺はその馬に跨がった。
「あっ!!コラ貴様!!隊長のヒッポーをどうするつもりだ」
「お前ヒッポーってのか?んじゃ跳ばすぜ!!」
ヒッポーは瞳をキラリと輝かせ「ヒヒ~ン」と一鳴き、俺の思い通りカッ跳ばしてくれた。
「それにしても・・・」
ホント荒野だ。向こうに見えてる山が件の鉱山の一つなのだろう。
あそこまで行けば鉱夫の住む町の一つもあるかも知れない、ヒッポーも特に指示しなくても山の方向へ向かっている事から行軍の際に立ち寄った経験があるのだろう。
「どうせアテも無し、ヒッポー任せで行ってみるか!」
「ヒヒ~ン」
までは良かったが・・・。
「よお、兄ちゃん、良い馬乗ってんじゃん」
「金と馬を置いてきゃ命はカンベンしてやんよ」
盗賊か、王国の賊とは随分毛色が違う。
ティンガロハットにシャツにズボンにブーツ、口元をバンダナみたいな布で隠した“ザ・西部劇の悪漢”みたいな連中が十人程こちらを囲もうと馬に乗って仕掛けている。
一点、西部劇の悪漢と違う部分があるとすれば、その武器だろう。
「魔法の杖か?」
それは通常よりもかなり短くなっているが、先端に炎の魔石を取り付けた魔法の杖だった。
拳銃の代わりといったところか。
「止まらねぇと撃つぞ」
背後から飛んで来た炎の塊を首の動きでかわした俺は、妻達に作ってもらった新兵器を早速試してみる。
俺は悪漢の一人に右手を向けた。
「何のつもりだ兄ちゃ」
バシュッと服の袖から金属製のマジッククローが付いたワイヤーが射出され悪漢の腕を掴む。
それを巻き戻し機能と合わせて思い切り引っ張る。
「ぎゃ!!」
と、短い悲鳴を上げて悪漢が落馬した。
首から行ったから死んだかな?
「ブラボーが殺られた!」
「ヤロー!撃て!丸焼きにしろ!!」
更に俺はマジッククローで相手の杖を奪い反撃。
「ビンゴ~♪」
撃ち出した二発の火炎弾は見事に一人ずつ命中、こういったアイテムは魔法が苦手な俺でも使いやすいのが救いだ。
残り七騎。
前方に大きめの木が見える。
俺はヒッポーをポンポンと叩くとヒッポーはそれだけで俺の意図を読んでくれた。文字通りじゃじゃ馬のクセして何て頭の良いお嬢様だ、益々気に入った。
俺は木にワイヤーを射出、ヒッポーの後を追う悪漢を木の上で待ち伏せする。
「あれ?奴はどこに・・・」
「ここだよ!」
最後尾の奴を蹴飛ばし馬を奪う、うんヒッポーと比べたらイマイチだが敵を狙い易くはなった。
敵の先頭に向けてワイヤー射出、そのまま先頭の奴を後続にぶつけるようにして振り回す。
それもかわした奴には火炎弾をお見舞い。
残り一騎。
俺は口笛を吹き鳴らしヒッポーに合図を送る。するとヒッポーは大きくUターン、ヒッポーと共に最後の一人を挟み撃ち。
最後の一人は覚悟を決めたか馬を止めて地面に降り立ち杖を構える。
俺も馬を降りて相手の出方を待つ、何故俺がさっさと殺さずに相手を観察しているかと言えば・・・。
「そ・・・それ以上近寄るとブッ殺すわよ!」
カールしたブロンドのロングヘアから覗くエルフ耳、濃い目の地肌に更に濃い日焼け跡とシャツを突き破らんばかりに主張する胸部のスイカが二つ。
しかして顔立ちは年若く背もあまり高くない。
ノーマン姉妹よりは年上だろうか?この世界の成人ギリギリだと思う。
彼女は杖を構えるがマジッククローで奪い取る。
何より彼女の目には覚えがあった。
ナイフを取り出すも俺の投げたトランプ型手裏剣が当たり取り落とす。
「あ・・・ああ」
あの目はジャクリーンや俺に近しい物だ。
恐らく彼女も元々は連中の戦利品だったのだろう、そして奴等に心も身体も犯されてしまった。
生きて行くには連中の技術を学び連中の仲間になるしか道は無かったのだ。
「怯えなくても良い、もう嫌なんだろ?」
「ヒッ・・・」
「君の屈辱と絶望は知っているつもりだよ、終わったんだ。俺は君を殺さないし、兵にも引き渡さない、美味しい飯を食って綺麗な服を着よう」
「ウソよ・・・そんなの」
「じゃあ直ぐに見せる」
俺は簡潔な手紙を書いて、持たされていたテレポーターを設置し少女を・・・あっ!!忘れてた。
「お嬢さん、名前は?」
「・・・コーデリア」
「信じる必要は無いさコーデリア、ただこれまでと同じように受け入れれば良い」
テレポーターが起動し驚く少女を一瞬で転移させた。
後は向こうに任せよう、さてこちらも・・・。
「で?あんたは確か皇帝陛下の秘書官だったか?」
さっきから岩山に腰掛けてずっと俺達の戦闘を見ていた女に声を掛けた。
「おっ?戴冠式の時はあんなに遠かったのにちゃんと見えていたんですね~」
「あんたも、さっきの戦闘は最初から最後まで良く見えてたみたいじゃん」
「なっはっは、お恥ずかしい」
見た目は十代後半、さっきのコーデリアより年上の黒髪眼鏡の人間の女性か。
「それより護送部隊はどうされました?」
「あ?撒いて来た」
「撒いて来たって・・・彼等は貴方を護送するだけじゃなくて、この先の町で起きてる事件を解決させる為にアーヴィン王の要請で来たのに!」
「やっぱ町あんの?んじゃ俺は先に行ってるから盗賊共の馬の面倒を頼むわ」
「え?ちょっ!?勝手に行くな~!!」
どうやら早速厄介事らしい、俺はヒッポーを跳ばして町へと向かった。
今回のヒロインはコーデリアでも秘書官の人でもなくヒッポーちゃんでした。




