第百十四話 いざ皇国へ!
「竜二殿~~~!」
廊下で竜二の妻の一人であり皇国のスパイでもあるカスミが慌てた様子で飛び込んで来る。
「よっ!今日も綺麗だな」
「綺麗だなじゃないでござる!!拙者の報告書に細工したでござるな!!」
「何だ、やっと気づいたのか?」
「報告書を提出したら仲間に追い回されたでござるよ!」
「おお、ちゃんと撒けてんじゃん、偉い偉い」
「偉い偉いではござらぬ、報告書は暗号文にしていたのにどうやって解読したでござるか!?」
「皇国語をアルト語に直して更にキンダー語にして一音ずらしただけのモノは暗号とは言わない」
「数字も解らないように複雑にしてたでござるよ?」
「だったら詩集を持ち歩くのを止めるんだな、不自然な箇所で詩の引用が挟まってるから詩が載ってるページ数がそのまま数字になってるのバレバレだぞ。あとお前の仲間も同じ詩集持ち歩いてるから見分けるの楽勝だぞ」
「実家の家族に何と説明すれば・・・」
「まあ、それは俺の方で皇国のスパイ取っ捕まえて交渉を・・・・・んぅ!?!?」
竜二が急にトーストのバターを塗った面が高級絨毯に落ちたような声を上げた。
「どうしたでござるか?そんなトーストのバターを塗った面が絨毯に落ちたみたいな声を出して」
「ぬお~~~~ん!!!」
そして竜二は庭の方へ全力でダッシュした。
庭には二羽・・・もとい既に妻達が何人か集まっていて、中でもタヌキ姉さんが驚愕していた。
「バカな・・・妾の結界がこうもあっさり・・・」
庭に立っていた女は異質だった。
普通屋敷に近づく者はタヌキ姉さんやスプリングとオータムの探知結界に引っ掛かり家人に来訪を知らせる。
なのにその女は一切引っ掛かる事無く庭に侵入したのだ。
その容姿は長身黒髪で隠密活動用なのか黒いシャツとズボンに鎖帷子を身に付けている。
種族は人間だと思うが、異質なのはどう見てもここまで入り込める実力が有るように見えなかったのだ。
こちらに実力を悟らせない程の達人か、あるいは何らかの裏技か、どちらにしろヤバイ相手らしい。
「お初にお目にかかります。私、アケチ皇国の諜報部である“御庭番衆”頭領セブンと申します」
「これはご丁寧に、私は星の智慧社の~え~社長だの会長だの総帥だの言われている何かです」
「それと多面怪盗ナイアールですよね?」
「まあね」
丁度その時、カスミが庭にやって来た。
「頭領・・・」
「カスミ、今回の件は私が謝罪せねばなりません」
「頭領が?」
「龍皇陛下は最初から報告書が改竄されていた事を知っていたのです」
「なっ・・・!?」
これには竜二も驚いた。
こちらの介入を知ってて今まで放置していた事だから最初からカスミを諜報員としてはアテにしてなかったのだ。
「ですが今回、部下が改竄に気付いてしまい貴女が裏切ったと判断して捕らえようとしたみたいです。誤解無きよう言いますがこれは諜報部の総意ではありません」
「ではセブンさんは何のご用でこちらへ?」
「それはカスミに新たな任務を与える為です」
セブンはカスミに向き直り一枚の書状を手渡した。
「カスミ・アカギ、御庭番衆の任を解き新たに特務外交官に任命します。最大限ナイアール一味に協力しなさい、またその際に皇国への損害が発生した場合にも貴殿やその血縁者に対して罪は問わないものとします」
「随分とカスミに有利な人事だな」
「ですがその為にはナイアール!貴方の実力を見せていただきます!!」
『ばっ』と距離を離したセブンは隠し持っていたナイフを構える。
(まあ、諜報部のトップを名乗るだけあってそこそこ戦えるみたいだけど)
竜二も同じく短刀を構えセブンと斬り結ぶ、その動きはセブンと真逆に合わせるように打ち払っていく。
五度十度と応酬が続くがそんな中、竜二がため息を一つ。
「残念だよニンジャマスター、そら!」
竜二は空いてる片手で鎖分銅を投げつけると、セブンはあっさり鎖に巻かれ動きを封じられた。
「これで合格かな?」
セブンは俯いたまま動かないが、その口が歯を覗かせる程ニヤリと歪む。
瞬間、鎖分銅を残してセブンが完全に消失したのだ。
「!!?」
背中から寒気を感じた竜二は振り向き迫るナイフを迎撃する。
「あれ?防がれた?なら」
またしても消えたセブンは今度は庭木の木陰から姿を現した。
「何がどうなって・・・」
そしてセブンの体が一瞬地面に溶けるように消えると再び竜二の背後から姿を見せる。
セブンの一連の動作を観察していた守鶴前はその特異な能力にデジャヴを感じていた。
全く同じではないものの近しいものを地球で見たような気がしてならない。
セブンが竜二の背後から出現した瞬間、守鶴前の一流の武人にも劣らぬ瞳はその現象の正体を正確に看破した。
「そうか影じゃ!!竜二、その娘は人では無い!影女に類する魔性の者ぞ!!」
「何だと!?」
それを聞いた竜二は短刀を持つ右手を軽く振る、すると短刀は木刀に持ち変わった。
そして出現したセブンの喉を思い切り突いた。
「ゲバッ!?ゴホッ・・・ゴホッ・・・」
「気が変わった、皇国の秘密を吐いてもらうぞ」
カスミはまたも影に逃れるが・・・。
「見えてんだよ!」
竜二は庭に設置されているテーブルの影から実体化しようとしているカスミの目の前に木刀を振った。
「王手だ、あんた影から実体化しないと攻撃出来ないと見た。なら対処は難しく無い」
図星だったか、ゆっくり実体化したセブンの額に玉の汗が浮かぶ。
「さあ、皇国に魔物娘が存在する理由を語って貰うぜ!」
しかし、セブンの持っていたナイフが怪しげな光を発するとセブンの表情から焦りは消えた。
そして影渡り、竜二が出現位置まで駆けて木刀を振るもセブンは体を捻り綺麗にかわして見せた。
「!?」
次に焦るのは竜二の方、相手の動きを読んだハズの連撃が次々かわされ遂には相手の逃走を許してしまったのだ。
去り際にセブンは、
「カスミをお願いします」
と言い残した。
竜二に残るのは不可解、最後の連撃はセブンの技能を読んだ上での不可避の攻撃だった。
なのに避けられた。
竜二の中で皇国への興味が殊更増した出来事だった。
一方のセブンはと言うと・・・。
「ハァ・・・ハァ・・・、信じられない・・・出現位置を全て見切られた上で私に一撃入れるなんて・・・」
実際、セブンだけでは竜二の攻撃をかわすだけの技量は無い、そもそも彼等の屋敷に気付かれず侵入する事自体不可能なのだ。
ならばそれを可能にした絡繰とは?
「助かりました“剣様”」
セブンの持っていたナイフは怪しい光を湛えている。
セブンはナイフと会話していた。
「ええ、剣様の忠告を破り腕試しをしたのは申し訳無く・・・はい、誘導していただき助かりました」
そう、結界を人知れず破ったのも竜二の追撃を回避し屋敷からの撤退を成功させたのも全ては皇国に伝わる伝説の宝剣【ハイドテル】の子機とも言えるナイフの力だったのである。
「お帰りになられますか?分かりました。それでは私も陛下の護衛に戻ります」
役目を終えたナイフは光の粒子になりその場から消え去った。
◇ ◇ ◇
さてセブンの来訪から数日後。
「皇国へ行くぞ!」
そこにはいつものタキシードに仮面を着けた怪盗モードの竜二が居た。
「あの、段・・・竜二様、屋敷が王国特殊部隊に包囲されています」
「ナンデ!?包囲ナンデ!?」
「ついでに私達妻軍団も御前様とクラリース様の命により裏切らせていただきます」
「ナンデ!?裏切りナンデ!?」
「それには俺から説明させていただこう」
現れたのはナイアールの生徒にして愛すべき宿敵の一人、国王ポアロ四世だった。
「EXパロット・・・」
「前から言ってるそのEXパロットってのはよく知らんが、ほら、前に先生は帝国軍医を名乗ってた事あったじゃん?(※七十二・七十三話参照)アレ帝国的にはかなり重罪らしくてさ、政治的経済的なあれやこれやの末に犯罪者引き渡しの書類にサインしちゃった♪」
「しちゃったじゃね~~~!!!いや、どうやってタヌキ姉さんやクラリースを丸め込んだ!?」
「タヌキ姉さんという人は知らんがクラリース卿なら『帝国美女とキャッキャウフフ出来るよ』って言ったら喜んで協力してくれたぞ」
「しまった!そしてタヌキ姉さんはクラリースのやる事には基本反対はしないんだった」
「つー訳で奥様方、ヨロシク~」
「うわ!何をする!離せ!くぁwせdrftgyふじこlp」
こうしてナイアールは帝国行きの馬車に放り込まれたのだった。
今回の副題に誤りがありました。正しくは
ナイアール、帝国へ放り出される
です。
訂正と共に深くお詫び申し上げます。




