第百十一話 極刑判決
逮捕されたナイアールことダン・エンドー子爵は大人しいものだった。
少なくとも脱獄はしていない・・・まあ、拘束具を勝手に外したり、看守用のトイレを使ったり、本来の囚人用の給食と違う分厚いステーキを何処からか用意して食べていたりと奔放ではあったが、それでも監獄の敷地からは出ようとはしなかった。
当然看守は殴りかかったが拘束状態でも十対一であっさり逃げられ、何故か内鍵に改造されていた独房に引き籠られたのでは多少の奇行は諦めるというものだ。
彼にしては十分大人しいと言えるだろう。
毎日の尋問にも受け答えは素直にしていたが、共犯者については頑なに単独犯を主張した。
無論、これまでの事件内容から単独犯はあり得ないのだが、ここでダン・エンドーは取引を持ち掛けた。
共犯者について一切問わないのであれば、これまでに盗んだ美術品の隠し場所や、今回の件で殺害した遺体の場所を全て自白すると言うのだ。
アイリーン達は最初こそ取引を蹴ろうとしたが、受けざる負えない状況に陥る。
アイリーンが主導で設立した対犯罪研究所がダン・エンドー子爵が代表を勤める星の智慧社から技術的・金銭的に多大な支援を受けていた事で他二将軍からの追及があったのである。
曰く『アイリーン・ショルメ将軍が執拗に共犯者の調査を行うのは自身の違法行為の口封じの為なのではないか』と、アイリーンにしてみれば『お前らが言うな』案件なのだが、当時は王国刑法の黎明期で合法だった事とは言え、犯罪者がトップで運営する組織から支援を受けていたとなれば、事業の実態は健全であっても邪推されてしまうのも仕方無い話だろう。
王国としても色々取引がある星の智慧社そのものは可能な限りナイアールとは切り離しておきたかった為、余計な詮索で本来王国の利益になる話まで潰して欲しくは無いという思惑もあった。
アイリーンの元上司であるマイクローナ・ホムズ将軍に対しては当時のアイリーンに対する監督責任を問うたり妹のシャーロットが弱味に突け込めば黙らせられると思われたが、諜報部のマスクド・メアリ将軍との連携がアイリーンの予想以上に上手く舌戦での苦戦を強いられていた。
マイクローナ『確かに星の智慧社の“トップは”犯罪者やったけど星の智慧社そのものは健全やろ。ナイアールは単独犯を自供してんのに執拗に詮索するって事は対犯罪研究所絡みで何や後ろめたい話でもあるんちゃうか?(意訳)』
アイリーン『当時、対犯罪研究所の設立に最終的なGOサイン出したのアンタやろ!ウチに後ろめたい事があったとしても当時の監督責任はアンタにあったんとちゃいまっか?邪魔すんならアンタも道連れやで!(意訳)』
マイクローナ『ぐぬぬ(意訳)』
マスクド・メアリ『マイクローナ将軍は星の智慧社との契約までは許可しとらんで、意図的な申告漏れとちゃうか?そうなると責任を負うべきはそっちだけやし、対犯罪研究所に迷惑掛けん為にも、ここは穏便に引き下がるんがええのとちゃうか?(意訳)』
アイリーン『ぐぬぬ(意訳)』
みたいなやり取りがあったかは不明だが、一方捜査ではダン・エンドーの妻であるクラリース・エンドー・ダンドレジーやオデット・エンドーへの尋問はと言うと協力的ではあったが、やはり一貫して夫の正体は知らなかったとしらばっくれるだけだった。
ナイアールの共犯者だった事を自供し地方へ放逐された(最近どっかで会った気もするが)メアリ姫も他の支援者については知らないの一点張りだ。
嘘はついているのだろうが、それぞれの家宅捜索でも成果が一切出なかった以上は引き下がる他無い。
星の智慧社、エンドー・フーディー領、ペレンナ家、やはり協力的であったが何も出なかった。
結果の出ない捜査に二将軍からの突き上げも強くなりアイリーンはナイアールの取引に応じる事となった。
これが王国の記録に残っている正規の手続きで行われた最初の司法取引だと言われている。
この後、民間と国営組織間の支援・協力・取引に厳しい審査が入るようになったのも当然と言えよう。
ナイアールの証言通り犠牲者は発見され、盗まれた品も全て発見された。
盗品の隠し場所にたどり着いたアイリーン、リト、パロット、シャーロットはあまりの光景に絶句する。
絵画・版画・スケッチ 三十七点
彫刻・陶芸品・オブジェ 二十四点
宝飾品 六十七点
武具・希少魔道具(エドガーの武具二点含む) 四十八点
宝石の原石(魔石含む) 二十八種
稀覯本 五十二冊
それらが細かくジャンル分けされ丁寧に飾られている様はちょっとした美術館であった。
ナイアールが盗んだ物だけでは無い、それよりも遥かに古い時代に行方不明となった宝まで鎮座している。
そんな事よりも隠し場所が一番の問題だった。
「たいちょ~、ここって・・・」
「まさかまさかの展開でしたね閣下」
「まあ、同情はしてやる・・・」
「だって・・・こんなところにあるなんて思いませんわよ~~~!」
【ナイアール=アイリーン説】
二百年程後に小説から映画にもなったこの珍説の根拠と言われている話は複数あるが、一つは先の二将軍から疑惑を向けられた事と、もう一つがコレである。
「まさかショルメ公爵領の・・・それも領主館の隣の家の地下に隠していたとはな・・・」
「閣下があまり自領に戻らない事を逆に利用されましたね」
「どうするんスか?王都に持って・・・」
「・・・帰れる量じゃありませんわよ。絵画やアクセサリーは持ち運び易いからともかく、陶器やオブジェが輸送中に一つでも破損しようものなら・・・」
「・・・しゃ~ねぇ、今は置いておこう。入り口はしっかり閉めてな」
映画でアイリーン将軍を演じたのは多面怪盗ナイアールと大女優ユノ・ダンドレジーとの子孫を自称するユーノ・アカギであった。
彼女はインタビューにてこう答えている。
『いや、ナイアールが女性だったらウチの子・・・ん゛ん゛っ、私は生まれてない事になるんだけど、それにショルメさんと竜二・・・もといナイアールは何度も直接対決してるわよね?設定ガバガバじゃない・・・え?影武者を使ったトリック?監督、別の歴史映画でも似たような事言ってませんでした?まあでも、派手なアクションにサスペンスにラブロマンスと絶妙にバランスの取れた面白いストーリーだったわ。娯楽作品としては大成功じゃないかしら・・・私は絶対に歴史映画とは認めないけどね。結果的には楽しませてもらったわよ・・・百年ぶりに女優業を再開した価値もあったというもの・・・ん~ん、こっちの話よ』
そんな未来の話は一旦置いて現在の話をしよう。
ナイアールの自供により罪状が固まり、いよいよ裁判が近づいて来る。
中でも注目だったのはナイアールに自身の息子であるタマス少年(猫獣人)を助けられたグランディー裁判長(エルフ)がどのような判決を下すかであった。
そう、裁判長はナイアールに個人的な恩がある。これによって甘い判決を下すか否かが焦点となっていたのだ。
傍聴席は抽選になる程の人気で一般人から隠れナイアールファンの貴族まで多くの人が応募した。
いよいよ裁判の当日、大企業総帥であり子爵でありナイアールでもある男、ダン・エンドーが出廷した。
「あれがナイアール?」
「なんか思ってたのと違う」
現れた男はシンプルな白シャツと紺ズボンに頭を丸刈の短髪に切り揃えた覇気の無い青年だった。
いや、アレこそはナイアールだ。周囲を騙す為に覇気を消しているのだと彼の事件を一つでも知る者は思い至る。
「弁護士はどうすんだ?」
「ナイアールは弁護士を付けないらしいわよ?」
「何を考えてんだ?」
「ナイアール様にはきっと無罪になる秘策がお有りなんだわ」
最初は淡々と罪状が読み上げられるが、ナイアールからの自己弁護は一切無く、むしろ不足している情報に訂正を入れる始末である。
「貴方は確かに私達の恩人です。本日傍聴に来た方の中にも助けられた人が居るかもしれません。また、星の智慧社は国内の技術発展に多大な貢献をし生活水準を大きく向上させました」
裁判長は一瞬だけ逡巡する素振りを見せたが次の瞬間には覚悟を決めた顔になった。
「ですが数多の窃盗に王国法を無視した私刑による殺人の数々、更にエルキュリア王国への反逆とも取れる先の犯罪王国樹立宣言、これ等の罪は貴方のこれまでの功績を考慮に入れたとしても減刑しきれる物ではありません。遺憾ながら被告ダン・エンドーの判決は死刑とする」
その時のナイアールの表情は満足げにウンウンと頷いている。
「ちょっと待ってよ父さん!!」
死刑判決に異義を唱えたのは裁判長の息子のタマス少年だった。
「その人は僕を助けてくれて悪者をやっつけてくれたんだ。何で死刑なんだよ!!」
彼の言葉に同調する様に傍聴席からも声が上がる。
「そうだそうだ!他にも助けられた奴は大勢いるぞ!」
「彼は悪人を倒してくれたのよ!」
「あんたは恩を仇で返すのかよ!」
俄に騒がしくなる法廷に殺気を伴う一喝が響いた。
「黙れ!」
声の主はナイアールその人であった。
「さっきから聞いていれば俺が人を助けただの悪人を懲らしめただの勘違いも甚だしいな」
ナイアールが冷めた瞳で傍聴席を見渡す。
「俺は悪人だぞ?盗みたいから盗んで殺したいから殺した、ただそれだけだ。俺のお陰で助かっただと?そんなモノは単なる偶然だ。そもそもお前達は一体いつになったら犯罪者なんぞに頼らず生きていけるようになるんだ?」
その時、寒気を感じる程の黒い気配を放つナイアールを見た彼等は息を飲む。
その怪人には顔が無かった。
先程まであった青年の顔がポッカリと穴が空いた様に消えてしまったのだ。
それも一瞬の事、誰もが呼吸を整え改めてナイアールを見れば相変わらず青年の顔がそこにはあり、先程のは単なる錯覚だったのだと安堵した。
タマス少年は尚も叫び続ける。
「それでもナイアールは僕を助けてくれたんだ!」
「少年・・・君のお父さんの判決は正しい、いつか君にも分かる日が来る。君は俺みたいな犯罪者には絶対になるんじゃないぞ」
最後にナイアールはグランディー裁判長に礼をした。
「この国が正しく法治国家であると証明され嬉しく思います」
「貴方はその為に・・・だとしても他にやり方はあったハズだ!・・・貴方がこの道を選んだ事を残念に思います」
「さっきも言った通り俺は薄汚い犯罪者です。犯罪者にとってはこれが正しい在り方なんですよ」
判決が覆る事は無く、程なくしてナイアールはアイリーン将軍とパイロット王子の立ち会いの下、絞首刑に処されたのだった。
わー、主人公がしんじゃった~(棒)
メアリ姫の変装はマンガとかでよくあるどう見てもバレバレだけど何故か一部の人以外には絶対バレない変装です。




