第百八話 犯罪王 上
「では以下の法令を制定します」
王国法の改定、追加された内容は多岐に渡る。
緊急時を除いての犯罪者への私刑の禁止もその一つである。
これまでは現場指揮官に一任されていた部分もあった為、重要な情報を持った犯罪者をその場で処刑して情報が失われたり、その事を逆に利用して犯罪者と繋がった兵が証拠隠滅の口封じを行っても罪には問われなかった。
だが、これからは厳正な裁判によって正しく犯罪者が裁かれる時代がやってきたのだ。
無論、全てが上手くいく訳では無いだろうが、王国にとって新たな時代の一歩となる事は間違い無い。
「多くの貴族が賛同しましたわね。エンドー・フーディー子爵・・・ナイアールも。中には自分が不利になる法案も多数あったハズなのに」
「だが、アレは止まらんだろう。ヤツにとってはこの程度の障害なんぞゲームを楽しむ為のスパイスに過ぎない・・・いや、君にとってもかな?今回の改正は必ずしも犯罪者だけが不利になるとは限らない、厳格化した分、捜査側にもこれまでと違った不都合が生じるのは目に見えている。分かってるなアイリーン」
「上等ですわ」
「やる気に満ちてて大変結構、王家としては婚約者には大人しくしててもらいたいが、そもそも武勲で出世したヤツに何言っても無駄だな」
「ええ、ナイアールは私に対してはっきりと宣言しましたわ『近く、大虐殺を行う』と」
(先生、貴方は一体何をお考えで)
その答えを二人は直ぐに知る事となった。
◇ ◇ ◇
数日後のある日。
その日はやたらと霧の濃い夜だった。
『あっ・・・あ~、テステス・・・ごほん』
「ん?何か聞こえねーか?」
突如、響いた謎の声に誰もが周囲を見回すが、声の主は見つからない。
「上だ!」
白い霧が上空に集まり巨大なスクリーンの様になり、巨大な人物が映し出された。
金縁の派手な礼服を着て派手な装飾のステッキを持ったどこか爬虫類を思わせる老人の姿がそこにはあった。
『王国民の皆様、私の名は多面怪盗ナイアール』
「でっけ~、これもナイアールの魔法か?」
「やだ~、私ファンだったのにシワシワのおじいちゃんじゃな~い」
「まさか新しい予告か?」
一方、王城でもこの光景は見えていた。
「アイリーン!」
「とうとう来ましたわね!」
これと同様の映像は王国の各主要都市に流れていたのだ。
『対ヨグス国での戦勝、犯罪結社ジム・モロアッチの壊滅に王家の後継者争いの終結、私ナイアールは心よりお喜び申し上げます』
慇懃無礼に会釈をする。
『これより私のかねてよりの計画も漸く実行に移せるというものです』
今や誰もが空を見上げる中、ナイアールは勿体ぶって大袈裟な身振りをする。
『そう、私を中心とした犯罪王国【アザトース】の建国を此処に宣言する!』
「なっ!・・・」
「・・・に?」
『犯罪王国、犯罪者達の楽園、私は王として全ての犯罪を思うがまま行使しようではありませんか』
これに笑みを浮かべたのは同じく空を見上げる犯罪者達。
「へへっ、ナイアールも良いこと言うじゃねーか」
「犯罪の楽園、たまんね~な、オイ」
犯罪者共はこれからの幸せを夢に見たが、続けてナイアールから発せられた言葉に驚愕する。
『では最初の王命を下す。凶悪犯は鏖にせよ!!』
強盗を生業とする男が相方に問うた。
「はあ?意味わかんね、どういう・・・」
だが、問いかけた男に返事は無かった。何故なら本来頭のあるハズの位置には既に何も無いのだから。
「は・・・?」
遅れて背後から衝撃、強盗の男が視線を下げると胸から刃が突き出ていた。
「な・・・ぜ・・・」
『何故と問う間抜けも居るだろうから手短に説明しよう。簡単な話さ、君達だって商売敵が居たら始末するだろ?悪事によって利益を得るのは我々アザトースだけで良い、我々以外の犯罪者など邪魔でしかないのだよ』
盗賊団の下っ端がナイアールの宣言を聞き、慌ててアジトに走っていた。
「ボスー!!大変で・・・」
彼がアジトに入った瞬間、眩い閃光と共にアジトは消滅した。
彼が不幸だったのは他の盗賊と違い中途半端に巻き込まれた為、数秒間は文字通り身を引き裂かれる激痛に苦しみながら死んだ事だろう。
王国の各地で血の雨が降った。
『目立つのは粗方片付いたかな?おっと、忘れるところだった。ナイアールは仕事をする時に必ずもう一つ仮の名を名乗るのだったな。今回は・・・うむ、ジム・モロアッチから名前を盗んで私風にアレンジして・・・ジェームズ・モリアーティ・・・犯罪王ジェームズ・アザトース・モリアーティとしよう』
王城でその映像を見ていたパロット王子はダン!と机を叩いた。
「これの事か!!」
「今、部下から報告があったっス。こちらでマークしていた危険人物も何人か消されたみたいっスね。ナイアール、まさかこんな手で来るとは・・・」
「国民の混乱や同調者あるいは模倣犯の横行も懸念されますわね」
三人は窓からナイアールの姿を見上げる。
『まあ、完全な掃除には数日掛かりそうだが、全ての掃除が終わったら王国の至宝【虹の式典冠】を頂戴するとしよう。王になったからには冠の一つも必要だからね』
「父上に報告・・・は、するまでも無いな。どうせどっかで見てるだろ」
「噂をすれば直々においでみたいですわよ」
「へ?」
ノック後に開かれたドアからラフな格好のアーサー王が入ってくる。
「逢引中に悪いな、状況は見ての通りだ。パロットを総司令、アイリーン・ショルメ公爵及びリト・ウッズ女男爵両名を総司令補佐に任命する!動かせるだけの治安維持部隊を預ける故、必ずナイアールを逮捕せよ!!」
「「「承知致しました!!!」」」
「正式な命令書は追って作成する。それまで大まかな準備をするなり逢引の続きを楽しむなり好きにしろ」
「父上~~~」




