第百三話 新・三将軍
エルキュリア王国赤髪のエルフ、パロット・エルキュリア王子は悩んでいた。
先の様々な混乱によって王国軍の中枢とも言える三将軍の内、テロ組織と繋がりがあったブラクラ将軍は逮捕され、ネコ夫人ことオルタンス将軍は行方不明と言うか表に出せなくなってしまい、国防に隙がある状態だ。
「ヨグス国は実質無効化したとは言え世界の調停者たる帝国に管理不行き届きを指摘されれば領地を取られるところだった。実際荒れてた頃はヤバかったが・・・」
「帝国も今更領地拡大なんて望んでいませんわよ」
「限度があるんだよ。魔物化薬が帝国方面まで大量に流れてたらそれこそ殴り込んで来るぞ」
「向こうだって清廉潔白では無いでしょうに」
「だから少量の流出分については解毒薬を送る方向で見逃してもらった。むしろ諜報部のお陰で色々と有利に立ち回る事が出来た」
「諜報部ねぇ」
アイリーンは怪訝な顔でパロットを見据える。
「ん゛ん゛・・・話が逸れたな。王国としては国防能力を安定させ帝国を中心とした諸外国にアピールしなければならない『エルキュリア王国ここにあり』ってね。帝国だって今の時代に一々こっちの面倒まで見てられないからそれで安心するだろうさ」
「それで、なぜ私が呼ばれたのかしら?」
「近々、実績のある者を集めて試験を行い三将軍の穴を埋める」
「それで?」
「率直に言えば参加して欲しい、んで三将軍になって欲しい、てか成れ」
アイリーンは実に面倒臭そうな顔をした。
「今面倒臭いって思ったろ」
「は~~~、面倒臭いですわ」
「言いやがったよこいつ」
「何故私ですの?」
「現状残ってる将軍がホムズ将軍だが、証拠こそ無いもののメアリの親友である以上確実にナイアールの息が掛かってる」
「まあ、そうですわね」
「そんで次の試験には絶対にナイアールの部下が出張って来る」
「ナイアールは王国の役職に興味無いと思いますわよ?」
「まあ、ナイアール本人はそうだろうが、部下はそう思って無いんじゃないか?三将軍の席を全てナイアールの息が掛かった者に任せるのは不味い、せめて一席だけでも確保したい」
「わかりましたわ。そのお話、謹んでお受けいたしますわ」
◇ ◇ ◇
~試験当日~
「おい見ろよ、あの黒鎧」
「ああ、極星オデル様だ」
「アレに勝てって無理だろ・・・」
「あちらはベテランのマットー少将ですか」
「まもなく筆記試験を開始します。時間内に会場に入られ無い場合は失格といたします。繰り返します・・・」
オデットは鎧の下で不敵に笑った。
(ふっ・・・、いよいよ私も将軍か。祖先の代から重用して頂いた王家に御恩を返すとしよう)
「あの・・・オデル様」
「ん?何だ?」
「大変申し上げ難いのですが、鎧の着用は実技試験までご遠慮願えますでしょうか・・・」
「えっ!?」
「一応カンニング防止の為と言いますか・・・、あっ、いえ、疑っているわけではありませんが、その~・・・」
「・・・・・(どうしよう、一応外では男として通してたけど別に隠してるわけでも無いし、でもイメージが)」
そこへ鹿獣人の中年男性がオデットを手招きした。
「あっ・・・、えー、私に何か用か?」
「ヒソヒソ(俺だよ、お前の夫の段蔵だ)」
「ひそひそ(え?あ、何でこんな所に!?)」
「ヒソヒソ(そんな事より困ってんだろ?あっちの更衣室で男に見えるようにメイクしてやるから付いて来い)」
「ひそひそ(何企んでるかは知らんが助かる)」
更衣室にてメイクと衣装替えを行う二人だが・・・。
「いだだだだ!胸締めすぎ、縮んだらどうする!もう挟んでやらんぞ!!」
「うるせー、もうすぐ試験開始なんだから文句言うな!カツラは・・・無い方が自然か」
「それじゃあ行ってくる」
「おう、頑張れよ」
そして試験開始。
「・・・・・(じぇんじぇんわかんにゃい)」
問い7 通常壊滅とは部隊の損害が何割の時点?
(壊滅なんだから十割じゃないのか?)
ここでオデル(オデット)の華麗な経歴を見てみよう。
・幼年期 勉強嫌い、男の子に混ざって遊ぶのが好きだった。(その事もクラリースにからかわれる一因だった)
・青年期 極星に選ばれ領兵になるも、剣術は独学で強力な魔法を広範囲に撃ち込むタイプな為に集団行動と相性が悪く戦術・戦略は考えた事も無い。
つまり最強の兵士ではあるが指揮官向きの能力はほぼ無いのである。
ともあれ筆記試験終了、オデットは早くも死んだような目をしていた。
「オークがマンドレイクをカッパらったらドラゴンした。なぜだろう?」
採点に参加した王子はその回答用紙に大爆笑したと言う。
そして第二試験は実戦、それもただの実戦では無い。
会場は複数の無人の建物が乱立した不思議な場所だった一段高い舞台の上でパロット王子が参加者にルール説明をしている。
「我が諜報部の者がナイアールに扮しこの会場の何処かに潜ませてある。生け捕りにしてこの舞台に連れて来れば・・・」
しかし、その最中に高笑いが響き渡る。
「ンハハハハハハハ!」
「だ・・・誰だ!!」
舞台上にドサリと何か大きな物体が落とされた。
「これは・・・潜ませていた諜報員!?」
縛られ目を回している女性諜報員が落とされた空を誰もが見上げた。そこには黒いマントとシルクハットを被った何者かが宙に浮いていた。
「国防能力の強化、三将軍の選定大いに結構!だが、私の名と姿を無許可で使用したのは気に食わん!よって私自身がこの試験を担当してやろう。何、礼はいらんぞ!」
王子も空を見上げて冷や汗を流している。
会場からは「本物か?」「初めて見た」なんて声が聞こえてくる。
「それでは見事私を捕まえて魅せろ!!」
上空のナイアールはふわりと会場の参加者達の中に落下した。当然参加者達は落下したナイアールのマントを掴み上げたが、そこには誰も居なかった。
「少々予定が狂ったがやる事に変わりは無い!ナイアールを捕まえて俺の前に引きずり出せ!もし捕まえられたならその者に即時三将軍の席を渡す!!」
王子は参加者の中のアイリーンに目配せすると、アイリーンは自信を持ってゆっくり頷いた。
真っ先に動いたのは極星オデル、鹿獣人の中年男性に目を付けると腕を掴んで引っ張り上げた。
「な・・・何をなさるのですかオデル様!」
「とぼけるな、貴様がナイアールだろ!(さっきの変装のまんまでいてくれるなんて、私を採用させる為かな?)」
王子は鹿獣人を連れたオデルをまじまじ見た。
「あ~、オデル殿。彼は試験官の一人だが彼がナイアールの変装であると?その根拠は?」
まさかさっき会ったからとも言えないオデルは何とか誤魔化そうとする。
「極星の勘というヤツですよ殿下、私程になると空気で違和感を読めるのです」
「ふ~~~ん」
オデルは試験官の髪を引っ張った。
「いだだだだ!」
「あれ?カツラが取れんな、なら・・・」
オデルは他にも様々な場所を引っ張るが変装が解ける様子は無い。
「あれれ~、おっかし~ぞ~?」
「おかしいのは貴公の推理だ!やり直し!!」
「そんな~~~」
他の参加者は周囲の建物を調べたり、オデルと同じく変装を疑ったり、捜査方法は様々だったが、アイリーンだけはそんな周囲を呆れた表情で見回しため息を吐いて舞台につかつかと上がった。
「アイリーン?」
アイリーンは王子の後ろに控えていた先程縛られていた女性諜報員の前に立つと思いっきり彼女の服を引きちぎった。
「なっ!?」
呆気に取られる王子やたまたまその現場を目撃した他の参加者達が見たのは、千切れ舞う衣服の中でセクシーポーズをするハート柄のトランクスを履いた男だった。
「いや~ん♥️まいっち~ん(男の裏声)」
誰得なお色気シーンを披露しつつナイアールはくしゃみを一つ。
「ぶぇっくしょい!こんな冬の寒空の下で人様の服を脱がすんじゃないわよ(男の裏声)」
「貴方相手に下手な遠慮はしないと決めているのですわ。ついでにこの場で逮捕させていただきますわよ」
「御免被る」
ナイアールはハート柄のトランクスの中からボールを取り出すと床に叩きつけた。お得意の煙玉だ。
「ちっ、逃がしましたわ」
「お前よく気づいたな」
「被害者なら疑いの目は向けられない、参加者の中に飛び込んだように見せ掛けたのも舞台上から目を逸らさせる為、後はアレの性格ですわね」
「性格?」
「アレは絶対に特等席で騒動を見たがるタイプですわ」
「それでこの舞台上か」
「直ぐに控室に人を送ってくださいまし、本物の諜報員が縛られているはずですわ」
こうしてアイリーンは三将軍の一人に任命された。
あと一人はって?
それは・・・。
「と言うわけで新たに三将軍に任命されたマスクド・メアリよ。よろしくね」
変なマスクを着けたどっかの誰かに非常によく似た人物だったと言う。
「なあ、メアリ・・・」
「私はマスクド・メアリ、兄上の妹などでは断じて無い!」
「でも履歴書の内容がまんまメアリの従軍経験・・・」
「偶然の一致だ」
「だが」
「私はマスクド・メアリ」
「・・・」
王子は深く考えるのを止めた。
クリスマスには間に合わなかったけど大晦日には間に合った。
それでは、よいお年を。




