第百一話 妙ちきりんな結婚祝
王立美術館。
ここでは今、歴史ある武具の一つが皇国から貸し出され展示されている。
永らくアケチ皇国内でも所在が曖昧だった【エドガーの盾】であるが、近年マーシュ一味のアジト跡から発見された事で皇国では百年ぶりのエドガーブームが起こっていた。
そんな中、皇家はエルキュリア王国との友好と王国貴族へと嫁いだ水の極星ルミナス元皇女の結婚祝いも兼ねて皇家が元々保有していた【エドガーのブーツ】を王国へと貸し出す運びとなったのだ。
「“エルキュリア王国エンドー・フーディー子爵夫人”“極星・水竜姫”ルミナス・エンドー殿、御入室」
龍皇側妃“十二神妾”が本丸御殿の左右に六人ずつ座り、上段には龍皇の隣に第三皇妃シルヴァーが侍り、武者隠しには龍皇を守護する第一皇妃姫武者スケルツィと第二皇妃姫法師カークスが控えていた。
「・・・・・Zzzzzz」
「おい!カークス寝るな!」
訂正、一人寝ていた。
ともあれルミナスは兄、フラット・光・アケチに平伏した。
(今まで気付かんかったけど、側室のねーちゃん達は何モンや?てっきり兄貴が顔で選んだ愛妾やと思っとったけど、こいつらまるで・・・)
ルミナスの脳裏を過るのは自身の夫と自分を含めたその妻達。
(多分、今のウチが本気出しても勝てるかどうか・・・)
「面を上げろよ。血を分けた兄妹なんだから楽にしようぜ」
くつくつと笑う兄の顔はイタズラが成功した悪ガキのようだった。
「久しぶりやね兄さん」
「おう、そっちも壮健そうで何よりだ。おめーみてーな、がめつい奴は銭と結婚するモンだとばかり思ってたから俺も親父も安心したぜ」
「さっそくやけどネーさん達は前からそんなやったっけ?」
「ああ、勿論。お前が極星だの世界一の貿易商だのと浮かれていた頃から、こいつらはお前よりも強かったのさ。やっと気付けるだけの力量を身に付けたか」
極星以上の実力者なんて世界中探しても稀だろう、事実世界中を旅するルミナスでもエンドー家以外に知らなかった。だとすれば龍皇は魔力を増強する何らかの手段を持っているのだろうか?
「まあ、そんな顔すんな。理由はその内教えてやる」
「今や無いんやね」
「今じゃあ面白く無いからな、少し遅くなったが今日は幾つか結婚祝を渡しておく、精々ありがたく受け取っとけ」
これが王家姉妹最終決戦直前の話。
その後、ブーツが何者かに奪われるといった事件が起こったり、いつの間にか戻って来たりとトラブルがあったものの、現在は無事に展示されている・・・ナイアールが所有していたハズの短剣・ガントレットと共に。
警備を任された犯罪捜査部隊のアイリーンは青い顔でまたしてもブーツを履いていた。
「さあさあ御覧下さい皆々様、それぞれの武具が共鳴して輝いてんのが見えまっか?この力で英雄エドガーは何百種というモンスターをバッタバッタと薙倒していったんやで。この隊長さんを見てみぃや、“まるで履き慣れているかの様”にキマってるやん」
「えええ、そそそ・・・そうでもありませんわよ?」
「そうか?まるで以前に履いた事があるみたいにするっと足に入ったやん、モデルに選んで正解やったわ~」
「いえまさかそんなことあるわけありませんわよほほほ」
こうして期間限定の展示は大成功、王国は返礼として【エドガーの短剣】を貸し出す事を決定した。
無論皇国からの祝い品はこれだけでは無い。
「時計だ」
「時計だね」
ルミナスがエンドー家の面々に出したのは手の平サイズのゼンマイ時計。
「で?」
「で?やないわ!アンタらはあっちの世界で見慣れてるか知らんけど、カラクリ仕掛けの時計はこっちじゃ皇国が初めてなんやで!」
日時計、水時計、砂時計はこの世界にもあるが、機械仕掛けの時計は惑星ユグドではこれが初である。一方で地球の時計を知っていたり、そもそも細かな時間に頓着しない生活を送っている者が大半であるエンドー家では今一つ反応が鈍い。
しかし、エンドー家家長遠藤段蔵はゼンマイ時計を見た瞬間ギョッとした顔になり、まじまじと時計を見つめた。
「段蔵はんはコレの価値を分かってくれるやろ?」
「ああ、このレベルの物が出来るのは流石自他共に認める技術大国だな」
「そんでや、この時計を“星の智慧社”でライセンス生産してみーひん?」
「マジで?」
「マジのマジマジ大マジや、他にも友好国には声掛けるんやけどエルキュリア王国・・・いや段蔵はんには先行で契約結ぼうっちゅう話がウチの兄貴から出たんや」
「いや~、時計の構造には詳しく無いから助かるわ~。色々夢が広がりんぐ。是非、契約を結ばせてもらいます」
今までナイアールの予告状には夕方だの夜中だの何処其処の教会の鐘が鳴った時だの曖昧な指定しか出来なかった。まあ、それはそれで味がある気もするが、段蔵的には時間ピッタリに「あっ!無くなってる」とか一度は言わせてみたい。
「契約金だ!持ってけ!!」
段蔵がテーブルの上に布を被せて指パッチン、布をめくればテーブルの上にはゴールドのインゴットが山と積まれていた。
「ちょ!明らかに多い多い」
「俺の義兄たる方にマトモな挨拶もしてないからな、友好の証だ」
「金塊なんて逆に嫌らしいわ、契約金はコレの三分の一でええから献上品は物納にしたってや」
「ふふふ、そう言うと思って実はこの金塊の三分の二は偽物だ」
ルミナスがインゴットを手に取ると妙に軽い。
「砂糖菓子や!しかも無駄にクオリティが高い!」
「所謂、山吹色のお菓子だな」
「山吹色の菓子はホンマモンの菓子の事ちゃうわ!」
「献上品はちゃんとしたの用意するから時計の設計図をギブミー、ハーリーハーリー」
◇ ◇ ◇
~数ヶ月後のアケチ皇国エドガワ城~
「エルキュリア王国のエンドー氏から契約金と変な砂糖菓子と献上品が届いております」
龍皇専属メイドのエイトが持って来たのは上質な木箱で梱包されたひと抱え程の物体。
「一国の主へのプレゼントにしては随分小さいな」
とは十二神妾九位、通称『シャナ天狗のナイン』の言である。
同じく控えるは皇国の神事を担当する尼僧であり十二神妾一位、アン・ルポ(ルポは聖ルブラン国で授かったホーリーネーム)。
「悪意は感じられませんから危険はありませんよ」
彼女は強力な光魔法と人物のみならず物品に宿った悪意を読み取る不思議な超能力を持っていた。しかし、悪意が見えてしまうこの能力が災いしてやさぐれて、側室の中では一番夜が激しいロックな破戒僧になってしまった。
「んじゃ、開けてくれ」
上段で正室三人を侍らせながら龍皇は何が出て来るかニヤニヤ見守っている。
エイトが箱から紫の布に包まれた物体を取り出し布をめくると、その場に居た全員が目を奪われた。
「時計だ・・・」
「時計・・・ですがこれは!?」
それは輝かんばかりに貴金属と宝石をちりばめた豪華なゼンマイ時計だった。だか問題はそこでは無い。
「どうなってんだ?こりゃ!?」
「文字盤と針が水晶の中に浮かんで動いてる!?」
「向こう側が透けて見えるぞ!」
そう、段蔵が献上したのは所謂ミステリークロックである。
「これは・・・“星の智慧社”は時計の中に何らかの魔道具を使っているのか?」
まじまじと時計を見た龍皇はこれが渡した設計図の応用を逸脱した技術が使われていない事を看破した。
「よく見てみな、水晶部分に透明な何かが動いてる。恐らく根幹部分は台座に納めて針を小さな透明パーツで連動させて水晶の中で針を動かしてるんだな」
「何と、わずかな期間でこれ程の物を作り上げたとは・・・」
龍皇は身体を反らし、背後に飾られる豪奢な大剣に向かって語りかけた。
「流石、ツルギ様の語られた存在だな」
大剣はそれに答えるように妖しく輝いていた。
◇ ◇ ◇
~おまけ~
「アケチ皇家ってドラゴンの子孫って触れ込みなんだろ?魔物のドラゴンとか竜ってどういう扱いなんだ?」
「不遜にも初代龍皇様を模倣した愚かな蛇。もしくは、神話の時代に神々を裏切って緑の太陽に与した悪竜の眷属って感じで、皇国やとメッチャ嫌われとるで」
「こっちにもロキ的なトリックスターが居たのか」




