第百話 むかしむかし(およそ二十年くらい前)のお話
「・・・以上の理由から隊長に相応しい女性は私なのです」
「なーに言っちゃってんの頭のお固い文官さんが。隊長の背中を護れるのは俺だけだってーの」
「まったく、これだから脳味噌まで筋肉が詰まってる田舎出の蛮族が・・・もう一度説明しましょうか?私が兵站を整えてるから隊長は完璧に戦えるのです。あの方の戦果は決して貴女だけの援護で成り立ってるわけではありません」
「にゃ・・・にゃにお~。俺だって前のヨグス戦で隊長を助けたし、二人で敵将を討ち取ったりしたぞ」
二人のタイプが異なる美女が城の廊下で言い争いをしていた。
「やれやれ、またあいつらか?毎日飽きずによくやるよ」
「あの隊長さんも、おモテになって独り身の自分としては羨ましい限りですわ」
「この調子だと二人とも娶らなきゃ収まりそうに無いな」
「そうなったら今度はどっちが第一夫人かで揉めそうだな」
明るく談笑する集団を遠くから忌々しく睨みつける影がある事をこの時はまだ気付いていなかった。
「そんじゃあ続きは任務が終わってからだな」
「望むところです」
しかし、これが最後の任務となってしまった。
◇ ◇ ◇
「冗談・・・だろ?」
俺の眼前に広がるのは血溜まりと仲間の死体の山、そして・・・。
「グルアァァァァ!!」
今まで見たことも無い強力な魔物。
「アンジェ!君は撤退して報告をするんだ!!」
「そんな!?隊長は?」
「早く・・・うぉ!?」
魔物の突進が僅かにかすっただけで隊長の肩がズタズタに裂けた。
「クッ・・・何なんだこのバケモンはよ!」
「隊長!やっぱり私も加勢します!」
隊長は呆れた顔で一瞬俺を見た後苦笑してバケモンに向き直った。
「全くお前は大バカだぜ、援護射撃期待するぞ!」
「そう来なくっちゃ!」
俺がバケモンの周囲に矢をブチコミ気を引いている間に隊長が最高速で斬りつける戦法、先の戦でも敵隊長クラスを何人も血祭りにした俺と隊長だから誤射せずに動ける最強の連携だ。
(チッ、あのバケモン矢を怖がって無いし刺さってもあまり効いて無い)
それでもバケモンは飛んで来る矢を目で追ってはいた。
そして俺の矢にバケモンが気を取られている間に隊長がバケモンの額を剣でブッ刺した。
「やっ」
バケモンの頭から血が吹き出している間違いなく頭を貫いた。
(なのに何であのバケモンは動いてんだよ!)
「ア・・・ンジェ・・・逃げ・・・」
「た・・・」
バケモンは隊長の頭を掴み上げ腕に風の魔法を集中させた。
隊長が細切れに千切れ飛ぶ光景に俺は生まれて初めて本当の絶望を知った。多分この時に俺の何かが壊れたんだろう。
「あああああぁぁぁ」
ポタポタと気に障る音が頭の中で響いて煩い。
それは俺の冷や汗か
それは俺の涙か
それはバケモンの手から滴り落ちる血の雫か
それはバケモンの口から垂れる唾液か
俺は矢を構え有らん限りの魔力を注ぎ込む。
俺の周囲には魔力で生み出された小石が浮かび上がる。
狙いは隊長が空けたバケモンの額の穴。
「くたばりやがれこのバケモンが!!」
矢は過たず額の穴を押し広げ、続けて飛翔した小石がその中に入り頭蓋の中身を蹂躙する。
俺は魔力の使いすぎで気を失いその後の事は知らない。
・・・
・・
・
「まさか検体五号が敗北するとは実に興味深い、あの女を次の検体として確保しておけ」
「畏まりました。女伯爵と名乗る女性の方は如何いたしますか?」
「こちらに出資したいと言っていた小娘か?私の崇高な理念が理解出来るとは思えんが研究資金にも限度がある。何処で私の研究を知ったかは知らんが利用するのも悪く無いだろう。話次第だな」
◇ ◇ ◇
オルタンスは泣いた。
最愛の人を喪い喧嘩友達も再起不能の重傷を負ったと聞く。
数日間泣き続け、ともすれば発狂寸前まで追い詰められた彼女の精神はある飛躍した結論を導き出す。
(私達を嵌めた奴がいる)
証拠は無く推理もへったくれもあったモノじゃない結論ではあったが、正解を射抜いていたのも事実だった。
ほら、そこかしこで悪人達の悪巧みが聞こえるだろう。
「目立つような真似をするからこうして潰されるのだよ」
「しかし、タンドレジー男爵も不気味な男よな」
「まあ、利用出来るなら利用してやるさ」
「女が残ったようだが?」
「放っておけ、誰かが手助けしない限り奴の再起は無い。近い内に城を出て行くさ」
だがしかし、壊れたオルタンスを利用しようとするバカが現れた事で悪徳貴族達の思惑が盛大に外されてしまう。
「あれがオルタンスか?魔物討伐の失敗で上司が死んだとか、俺の派閥拡大に利用出来るかも知れんな」
若かりし頃の野心に満ち溢れたジーク・ペレンナ伯爵である。
彼は傷心のオルタンスを利用して自身の勢力拡大の手駒にしようと画策したが、心のタガが外れたオルタンスにとって野心家としては分りやすい程バカ正直なジークは御し易い人物であり、気付けば奪える物は全てオルタンスに奪われ、ジークは泣きながら自領に引き下がる事になってしまった。
「どんな手を使っても必ず復讐してやる」
彼女はこの後、手段を選ばなくなり三将軍の地位に昇り詰める冷血の軍師へと変貌してしまうのだった。
◇ ◇ ◇
~現在~
「それがこうやって同じ男に抱かれてるんだから運命ってわかんね~よな」
「今から考えるとペレンナ伯爵には悪い事をしました」
「いいのいいの、元は義父上が似合わない野心を出したのが悪いんだから」
「それにしてもズルいわよね、貴女そんな若返っちゃって」
「こっちは一回死んだ上に豚鼻だぜ」
「私なんか陰湿な策謀を巡らせてる間にすっかり年増よ」
「俺はどっちも好きだぜ、アンジェリカの豚鼻可愛いし、オルタンスは俺に初めてを残してくれてたし、タヌキ姉さんやネフティスに比べたら十や二十の年の差なんて誤差だよ誤差」
「段蔵君ストライクゾーン広すぎだろ」
「アンジェは君付けで呼んでるんだ。私は貴方を何て呼べば良いかしら?」
「好きに呼んでくれ」
「それじゃ私もダンゾー君て呼ぶわ」
「今夜は寝かさないぞ段蔵君」
「あの薬を飲んでから一年位経たないと妊娠しないのよね?ならアンジェに先越されちゃうかな」
「どうだろう?確率が少し上がる程度らしいし、魔物娘は更に低確率みたいだし、段蔵君の濃さに期待だな」
「善処します」




