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馬場さんのオナラ

作者: ぼっち球

 まず、“オナラ”について少し語ろうと思う。

 “オナラ”とは“放屁”の事であるのは周知の事実であろう。また、それが一般に『嫌なもの』『汚いもの』という認識の下で忌避されているのもまた事実である。


 だが、私はその浅はかな考え方に異を唱えたい!

 そもそも、“オナラ”を意識的に吸い込み、また、堪能した経験があった上での事だろうか!

 多くの者は、先述したマイナスイメージから、じっくりと堪能することなく、鼻をつまんで息を止め、それでいながら「臭い臭い」と卑下しているのではなかろうか!


 たしかに、オナラは臭い。それは認めよう。

 だが! それを自らじっくりと体感した経験も無しに、くだらない一般的な認識の下で『臭い』と言っているのであれば、私はそれを浅はかである、と断言しなくてはならない!

 『臭い』とは言ったものの、それが即ち『嫌なもの』『汚いもの』に直結するとは限らないのだ。



 例えば、考えてみよう。

 仮に、想い人が目の前でオナラをしたとする。


 嗅ぎたくならないのか?

 深呼吸をするように息を吐き出した後、その想い人のオナラを全力で吸い込みたいと、そうは思わないのか?


 おおっと! 一般認識は抜きにして考えてみてくれ。

 “オナラ”のマイナスイメージの一切を心の奥底に仕舞い込んだうえで考えてみてくれ。



 どうだ? 嗅ぎたくならないか?

 想い人が、その清く美しい鼻や口から体内に取り入れた空気が、肺に集まり、全身に送られ、そして腸内に溜まり、放出されたオナラだぞ?

 想い人の体内を縦横無尽に旅した空気だぞ?


 それを吸い込むことで、想い人の目に見えない内側まで全てを、己の体内に取り込み、己の肉体に流したいとは思わないか?




 さて、前置きが長くなったな。

 つまり好きな人、若しくは好みの容姿を持った人間の体内から出される“オナラ”とは、普段は若干嫌悪してしまう『臭い』すらも付加価値に変えてしまうだけの力がある、と私は思うのだ。


 私の語彙が足らないが為に、このような矛盾したような話になって申し訳ない。

 だが、せめて“オナラ”からマイナスイメージを払拭した状態で、次に語る最高の体験を聞いてほしい。




オナラナオラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラオナラ




 私のクラスには、馬場さんという美少女が居た。

 彼女は日本人の母とドイツ人の父を持つ、所謂ハーフである。

 彫りは深めで目鼻立ちはクッキリとしつつも、日本人である母親の影響か、どこか柔らかさを残した顔をしていた。

 胸は大きく、私の通っていた高校の中でも1、2を争うほど。

 スラリとした手足は透明感のある白さで、肩口で切り揃えられた茶色味がかった黒髪と、よく似合っていた。

 異を唱える者などいない程の美貌の持ち主。それが馬場さんである。


 本名は、馬場・ハルンコート・志津子(しつこ)と言い、些か古風な感じだ。

 馬場さん自身も、この名前に思うところがあるのか、名前をイジられると頬を少し染めて恥ずかしがりながらも怒り出す。

 普段、堂々として勝気な馬場さんが恥ずかしがりながら怒る。

 そのギャップもまた人気を支える一端となっていた。



 そんな人気者の馬場さんが、ある日の授業中、オナラをした。

 “プスゥゥゥ……”という、すかしっ屁に失敗したような間抜けな音が教室に響き渡り、先生を含めたクラス中の視線が馬場さんに集まった。

 私は幸いにも馬場さんと隣同士の席であった為、その俯いた頭から覗く真っ赤な耳や、身を縮こまらせて震える姿をじっくりと観察することが出来た。

 その姿を微細に語るのは、後に取って置こう。



 まずは、オナラの(にお)いから語らせて頂きたい。

 馬場さんのオナラは、(くさ)かった。

 普段、ドイツ寄りの肉の多い食事をしているからだろうか。


 隣の美少女から臭って来るオナラを深呼吸するように己の鼻腔から一気に吸い込んだ時、私は新たなる扉を開いてしまった。


 最初に気付いた事は、オナラにも“味”がある事だ。

 鼻腔から勢いよく吸い込まれたオナラは、私の喉の奥、舌の根元辺りを(かす)めて肺に収まる。

 その際に、濃密でいて(ほの)かに甘く、芳醇でいて後味が残る“味”を私は敏感に感じ取った。


 ケーキのような強い感じではなく、どちらかと言えば葛餅にフルーティさを加え、少々の嫌悪的刺激をトッピングしたような(にお)い。

 それが馬場さんのオナラだった。

 いや、『(にお)い』というよりも『(にお)い』という表現が正しいか。



 音は教室中に聞こえる程だったが、馬場さんから放出された匂いはそれほど広範囲には広がっていないようだった。

 精々、私を含めた両隣と、後ろの席の連中に匂う程度の範囲らしい。もしかすると、前の方に座る人間にも行き渡っているかもしれないが、表情を窺い知れぬ今、確認することは叶わない。


 という事は、だ。

 私は馬場さんのオナラを嗅いだ数少ない人間ということになるわけだ。

 どことなく誇らしい気持ちが胸に湧き上がってくる。


 ところで、馬場さんのオナラから数分経っても、未だに匂いが残っていた。

 何事も無かったかのように授業を再開した先生は気付いていないだろうが、その残留する匂いは、未だ臭く、馬場さんの真後ろにいる女子(ビッチ)西舘(にしだて)カナさんに至っては露骨に嫌そうに顔を(しか)めている。

 たった一発のオナラが、これほど残るとは考え難いが、西舘さんの表情を盗み見る限り錯覚ではないだろう。これが、血統の違いなのだろう。


 当の馬場さんはというと、未だに俯きがちで耳や首筋から赤い色が抜けきっていない。

 黒板をノートに写すために時折上目がちに前を見る、その瞳は若干潤んでいるようにも見える。

 冷や汗の為か、数本の髪の毛が肌に張り付いていて、どことなくエロティックである。

 いつもは強気で活発な馬場さんが、しおらしくなった姿は大変に可愛らしいものだった。


 その時、不意に、私の脳内を叶いもしない妄想が電撃のように駆け巡った。

 私の愚かな脳内には、顔を真っ赤に染め上げて涙目で私を睨み付ける馬場さんと、馬場さんの御尻に顔を(うず)めて変態のように匂いを嗅ぎまくる私が映っていた。


 これはきっと、直接オナラを嗅ぎたいという願望が飽和し、溢れ出したが為の妄想だろう。

 そう、冷静に自身を分析するが、反面、脳内は未だ恐れ多い妄想が飛び交っていた。

 どうやら、馬場さんのオナラは私を狂乱させる効果があるらしい。


 馬場さんのオナラの匂いが霧散しきった後も、私の妄想は止めどなく溢れ、荒れ狂い、ついには私の精神力は耐え切れなくなってしまった。

 それは行動となって私を突き動かした――



 そこからの事はあまり憶えてはいない。

 夢見心地で幸せな気分だった。


 私が憶えていない以上、語ることは出来ない。

 後から聞いた話では、駄犬のようにスンスンと鼻を鳴らしながら四つん這いになっていた、との事だ。


 馬場さんは泣き出し、先生に力づくで引き離され、クラス中から蔑んだ視線を受けた記憶は無い。

 1週間の停学処分。それが夢から醒めた私に突き付けられた現実だった。


小ネタ


馬場⇒ばば⇒大便の意

ハルン(Hr)⇒小便の意

コート(Kot)⇒大便の意

志津子⇒しつこ⇒しっこ⇒小便の意


西舘カナ⇒にしだてかな⇒なかにだして⇒中に出して

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