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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

偽りのプリンセス

作者: 星影悠理




「今から文化祭で発表する人を決めたいと思います」

…今年もこの時期が来てしまった。

学校行事ほど俺の嫌いなものはない。

「まずは…女装コンテスト。出たい人?」

司会の八木原が勢い良く手を挙げる動作をした。

しかし、誰も挙手をする気配はない。

「推薦でもいいんでー」

と付け加えると、前に座る俊英が手を挙げずに

「雪人がいいと思います!かわいいし」

と言った。


俊英が振り返り、ドヤ顔をしてきたときに

「なんで俺が。しかも可愛い要素の欠片もないのに?」

と言い放った。

「いいじゃねえか。みんな同意してるぜ」

周囲を見渡すと、それは同意ではなく、嘆息や不信によるざわめきだった。

「全然同意じゃねえけど」

俺が相変わらずの俊英のペースに呆れて何も言えない状態でいると

「じゃあみんな、女装コンテストに出るのは雪人でいいね?」

みんな頷いてた。お前ら、ひょっとして誰でもいいのか?

「そうそう。今年の女装コンテストに出る3年生はペアで出場するらしいよ」

「マジで?」

「うん。これに書いてる」

そう言うと八木原は俺のもとにわざわざ来て実行委員に配られた資料を見せた。

「うわ…ホントだ」

「誰かペアになってくれる人いる?」

「いねえな。うん、絶対いない」

「それは困るなあ。うーん…」

ここでもやはり俊英が一言。お前は鶴並みにに一言付け加える奴だな。

「翔馬なんてどうだ?」

「翔馬?雪人と仲いいの?」

「俺は覚えてるぜ。高1のとき、理科の時間とかにけっこう話していたってことを」

「だってよ、翔馬…というかまず翔馬、参加しなさいよ」

八木原は翔馬の読んでいた本を取り上げた。

「うおっ、八木原。いつからそこに」

「いつからそこに、じゃないわよ!しょうちゃん(翔馬の愛称らしい)、本読んでばっかりで議事に参加してなかったでしょ!!」

「いいじゃねーか。文化祭ごとき適当になればいいんだよ」

「文化祭ってのは聞いてたのね、偉い偉い」

「で、何の用だ?」

「女装コンテストの…」

「俺が出れるわけねーだろ。はい論破」

「違うの。今年の女装コンテスト、雪人が出ることなって」

「なんだと…!?」

「そんなオーバーリアクションいらないから。んで、エスコートするペアの人を今決めてたの。俊英がしょうちゃんのこと推薦してるんだけど、やらない?」

「雪人をエスコート?」

「そう。ステージ上をただ腕を組んで歩くだけ」

「なんで俺が雪人なんかと」

やはりそういうリアクション。わかってるって、嫌ってることくらい。

「あれ?しょうちゃん、赤くなってない?」

「ばっかじゃねーの?なってねーよ!」

「あーはいはい。やればいいんだろ、やれば!」

「じゃあ王子様役はしょうちゃんこと翔馬に決定!!」

「マジかよ……」

俺はしばらく顔を表に上げられなかった。






――――――――ということを、部活にたまたま来ていたコスプレイヤーの藍谷に話した。

「あー、ドンマイ」

「ホント、もう最悪だし。文化祭休みてーよ」

「でもさ、これを機会に雪人もコスしてみたらいいんじゃね?」

「たしかに一理ある…って何言わせるんだ!」

「まあまあ。でも結局は私と一緒にコスして歌うんだからさ」

「まあそうだけど…」

そう。俺は文化祭最後のイベント、有志発表で藍谷と一緒にアニソンなどを歌う予定でいる。できればコスプレはそのときだけにしたかった。

「今更もう1着衣装用意できねえよ…どうすっかな…」

「私のやつ貸してあげようか」

珍しく西村が首を突っ込んできた。藍谷は西村を嫌ってるので急に無言になった。

「前、制服貸した時サイズピッタリじゃんって思ったし」

「あー、あれか」

たしかに俺は、去年の文化祭のときに西村が俺の制服着たいって言ったから貸してやった。

「だから、俺のコス衣装を貸してやろうかと思って」

「どんなのあるんだ?」

西村は自分の持ってる衣装を語りだした、およそ5分間。

「…とこんなとこかな」

「すげーな。でもそれ基本男装じゃね?」

「女装のもあったじゃん」

「そう…だね」

「じゃあ借りるよ」

俺は某歌うアンドロイドのお姫様の衣装を選択した。

「おう。じゃあペアの人にはこの執事系衣装を貸すとするか。ペアは誰だ?」

「翔馬だ。わかるか?」


「翔馬あ!?」

突然声を荒げて、翔馬と同じ中学の渡瀬と綿貫が叫んだ。

「お前、翔馬にエスコートされんの?」

「俺は嫌だったけどな、そういうことになった」

「はあ……あいつ、赤くなってなかったよな?」

「赤くなってる、って八木原が茶化してた」

「八木原もか……」

「これはいい感じになりそ」

「ちょっと渡瀬は黙っててねー」

綿貫は渡瀬の口を塞ぎながら話を続けた。

「メイクとかはどうするんだ?」

「うーん……」

悩んでると、5時を告げるチャイムが鳴った。

「わり、親待たせてるんだ」

と西村は帰っていった。

「ふう…。やっと帰ったか」

藍谷が10分ぶりに声を出した。

「お疲れさん」

「で、メイクどうするよ?」

「とりあえず有志発表のときはどうするんだ?」

「それは、あたしが責任とってメイクする。コンテストのとき、3組のほう来たらあたしがやってあげようか?」

「頼みます」

「任せといて」

こうして、俺のメイクは藍谷が担当してくれることになった。







―――――――そして、いよいよ本番当日。

「女装コンテストも次で最後となりました!エントリーナンバー12番、3年4組の候補者、雪人with翔馬です!!」

司会の合図と共に俺は翔馬と手をつないで歩いて行った。

「え、あれ雪人!?」

「別人みたい!」

「かわいい!!」

などという騒がしい歓声には耳もやらず、俺は翔馬と手をつないでステージ端まで歩いた。

「キメポーズをお願いします!」

そう言われ、俺は一回転しようとした…が、ドレスに引っかかりよろけてしまった。

あ、転ぶ。そう思ったとき、

「大丈夫ですか、僕のお姫様」

と翔馬は俺の背を抱え、転ぶのを阻止した。

するとさっきまであんなに盛り上がってた観客が急に静かになった。

「べ、別に助けて欲しかったわけじゃないのよ?」

俺は翔馬から視線をそらしてそう言った。

「では、一緒にお城に戻りましょうか」

と、翔馬は俺をお姫様だっこしてステージの元の位置に向かい、歩き始めた。

『ちょっと、翔馬。なんだよ、これ』

俺は観客に聞こえないように翔馬に言った。

『いいじゃねえか、ちょっとくらい』

『でも……』

『静かにしないお姫様には、お仕置きだ』

…翔馬は、俺とキスをした。絶対見られたな、これは……。



俺は翔馬の腕に抱えられたまま、司会が手招きをしているほうへ向かった。

「いやー、トリに相応しい!かなり練習したんじゃない?」

「練習なんてしてないよ?」

「ま、まさかあのお姫様だっこはアドリブ?」

「うん。今日まで翔馬と手を握ったこともなかったし、というかさっき初めてかな、あんなに翔馬の近くにいたのは」

「そうですか…じゃあ翔馬から一言。というか翔馬、口紅付いてない?」

「そりゃそうだろ。キスしたからな」

『えええええ!?』

司会及び全校生徒、いや体育館にいる者一同、同じリアクションをした。

「キ、キス!?女装してるとしても、雪人は男だぞ?」

「男にキスして何が悪い。俺は王子に相応しいようなことをしただけだ」

「でも、翔馬ってこいつと仲悪いんじゃなかったのか?」

「仲悪い?誰がそんなことを言った。俺はずっと、雪人が俺のほうを向くのを待ってたんだぜ」

「そうなの…?」

「ああ。一昨年の5月頃からお前は急に俺と話さなくなったよな。あのときはもう2度と仲良くなれないのかと思ったぜ」

「それは……ネット上で翔馬がアクセス禁止にするから、翔馬は俺と仲良くしたくないんだと思ってたから…」

「すれ違ってたんだね」

司会は納得したように腕を組みうなずいた。

「ということで、雪人with翔馬でした!…あ、最後に雪人から一言お願いします!」

「みんな、抱きしめて!銀河の」

「お前と来たら…ここまでアニメネタを持ち込むのか」

「以上、女装コンテスト及び夫婦漫才のコーナーでした!引き続き、男装コンテストと行います!」

こうして、無事に終わった。








控え室で俺を待っていたのは、藍谷と西村、綿貫、渡瀬、そして綿貫・渡瀬・翔馬の幼馴染、佐神だった。

「おつー」

「はあ…疲れた…」

「とりあえずメイク落とそう」

「そうだな…」

「ちょっとストップ!」

俺と藍谷が話してる最中、佐神が乱入してきた。

「写真撮らせろ」

「どうぞどうぞ」

おい、藍谷。気軽に受け渡すなよ。俺はこいつが大嫌いなんだから。

「はい、撮るぞー!ハイ、チーズ」

綿貫の合図と同時に俺はあえて視線をどこか遠い方向へ向けてやった。

「翔馬も撮る?」

「お姫様抱っこで、一枚だけな」

また抱かれるのかよ。

「いっくぞー!ハイ、チーズ」

撮られる瞬間、翔馬はまたキスしてきた。

「うわあああああ」

佐神は負けを感じたように逃げていった。

「サンキュー、綿貫」

「おう」


「じゃあ落とすか」

翔馬についた口紅は渡瀬が、俺のメイクは藍谷が落としてくれた。






――――そして、ついに結果発表。

「今年度の女装コンテスト、優勝は…………3年4組、雪人with翔馬のペアです!!」

おいおい、優勝しちまったよ。

「優勝した雪人with翔馬には、これからの発展を祈り、ホテルマリアのペア宿泊券をプレゼントします」

ホテルマリアというのは、学校から1番近くにあるラブホだ。

学校の前に大きな看板が建っているため、その名を知らない人はいない。

『おい、それラブホだろ。どうやって手に入れたんだよ』

俺は司会にこっそり尋ねた。

『兄に言ったら貰えたんだよ』

『すげえお兄さんだな』

「それでは、授与します」


俺らはラブホの宿泊券を手に入れた。




その後の文化祭は、滞ることなくスムーズに行った。









――――そして、文化祭の次の日。


「かんぱーーい!」

オフ会と称されたただの慰労会が行われた。

誰の企か知らないが、男子で行ったのは俺と翔馬だけだった。

「なあ、雪人」

「んあ?」

「この後、暇か?」

「まあな。対した用事は無いぜ」

「一緒に行きたいところがあるんだが…いいか?」

「別にかまわねえけど…」


そして、ついた先は近くのゲーセンだった。

「プリクラ…撮らないか?」

「男二人で?」

「嫌か…?」

「別にかまわないけど……」

「よし、そうとなったら」

翔馬は俺の手首を掴み、店内へ堂々と入っていった。


…そこで俺らは、初めてキスをした状態でプリクラを撮った。

「my princess…っと。ほら、雪人もmy princeって書け」

「えー……」

「いいから、ほら早く」

「はいはい」


出てきたやつを見ると、since 10/26と今日の日付まで入っていた。

俺は苦笑いでそれを見つめていると、八木原たちが入ってきた。

「あ、しょうちゃん。プリ撮ったの?」

「ああ。これだ」

翔馬は八木原にさっきのを見せた。

「しょうちゃんたちラブラブだね。じゃあまたね」

「おう」


去り際、八木原は俺の耳元でこう言った。

「永久にお幸せに」





――――そして、高校卒業後、3月26日。

「おい、雪人。まだか?」

「ちょっと待ってよ!」

「早くしろよ、遅刻しちまうぞ!」

俺らは、とある街のマンションの一室で一緒に住むことになった。

進路は違うけれど、互いの進んだ先が似たような場所だったから。

「おい、雪人!」

「ああ…今行く!」

「ったく……」


今日で5ヶ月。

だけど俺らの関係にはまだ埋めるべき溝があるようです。





END

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