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緋色の波涛  作者: ELYSION
第1章 開戦
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第7話 鹵獲

一人の女性が項垂(うなだ)れる様にして机に向って腰掛けている。

大きく波打つ金色の髪は、量が多い事もあって、襲い掛かるかの様に露わな背中に降り注ぐ。

いや、露わなのは何も背中だけでは無い。彼女はその身に一切の衣服を纏ってはいなかった。

背丈は座っているので明確ではないが、それほど高くはなさそうに見える。

しかし、がっしりした肩先から骨太の体躯である事が伺い知れる。

そして、たわわな大きさの乳房は、重力の法則に従って下へと向かい、机面に充分達している。

この全裸の女性こそ、戦艦『サウスダコタ』に宿りし艦魂であり、彼女の周りには五人の仲間-

妹のインディアナをはじめ、メリーランド、ウェストバージニア、テネシー、カリフォルニアも又、

同じ様に項垂れ、悶々とした雰囲気の中に居た。

そんな彼女たちが向う先は、母港の真珠湾(パールハーバー)では無い。

横須賀か呉、あるいは彼女たちも知らない別の場所。しかし、日本本土のどこかである事は間違いない。

そう、彼女たちの宿りし戦艦は、日本によって鹵獲されてしまったのだ。

あの日、1941年12月24日に・・・




日本が開戦に踏切るとして、真っ先に攻撃を仕掛けて来るのは何処か?

アメリカの見解では、大多数がフィリピンを挙げた。これは至極当然である。

東南アジアにあるこの植民地は、日本本土からも近く、今後狙うであろうオランダ領インドネシア

(いわゆる蘭印)の資源地帯との中間に立ち塞がる邪魔な存在だからだ。

一方で、日本が艦隊基地化を積極的に進めているトラック諸島も又、このフィリピンと真珠湾が在る

ハワイ諸島との中間に位置し、アメリカにとっては厄介な存在だった。

そんな中、太平洋艦隊司令長官に就任したハズバンド・キンメル大将は、自分が指揮するこの真珠湾(パールハーバー)に、

日本が攻めて来るのでは? という考えを捨て切れないでいた。

そこで、サウスダコタ級を初めとする主力戦艦6隻を、2000km離れたミッドウェイに避難させると共に

盟友ハルゼーに命じて、空母4隻を中心とする機動部隊をトラック諸島攻撃に向わせたのである。

果たして日本は、真珠湾(パールハーバー)に攻めて来た。キンメルの読みは当ったのだ。

しかし、詰めが甘かった。被害を更に拡大させる方向へと走らせる結果となったのだ。

真珠湾に戦艦が4隻しか存在しないと解った日本は、続く第二波攻撃で、史実では見落としてしまった

重油燃料タンクやドッグといった港湾施設を重点的に狙い、徹底的に破壊したのである。



そして日本は、キンメルも思いつかなかったミッドウェイにまで攻めて来た。

通常なら、この避難していた6戦艦をもって、最新鋭艦『大和』をはじめとする日本の主力戦艦部隊に

勝つまではいかないまでも、かなりの手傷を負わせる事が出来たであろう。

しかし、それが出来なかった。何故か?

避難をしたのは良いが、なかなか攻めて来ない日本に対し、業を煮やした乗員たちは、年内の攻撃は

無しとして、クリスマス休暇と称し真珠湾(パールハーバー)へと戻ってしまったのである。乗務する戦艦を残したまま。

たしかにミッドウェイというのは、サンド島とイースタン島の2つの島から成る環礁であり、

航空基地以外に在る物といったら、四方を周む海だけという状態の孤島なのだから、

退屈この上ない場所である事は確かなのだが。

結果として日本は、航空隊の迎撃によって僅かばかりの被害が出たものの、ほとんど無傷で

ミッドウェイの占領に成功したばかりか、戦闘に何ら関与出来なかった6隻の戦艦を鹵獲する

おまけまで付いたのである。

この6戦艦にしても、戦闘に関与出来ないのなら、せめて自沈という選択肢もありそうなものだが、

考え(あぐ)ねいている内に包囲され、旭日旗の軍門に下ってしまったのだから、全く情けないの一言だ。

サウスダコタたち艦魂が落胆するのも無理は無い。



ハルゼーが指揮したトラック島攻撃はどうだったのだろうか?

日本による真珠湾攻撃、このアメリカによるトラック島攻撃。

それぞれが相手の海軍本拠地に向って放った攻撃は、奇しくも相撃ち、ボクシングで言うところの

クロスカウンターという形になった訳だが、ここでも日本が優勢だった。

いや、ハルゼーの渾身一滴の攻撃は、決してミッドウェイの様な情けないものではなかった。

ただ、相手が悪かったのだ。

日本は事前に来襲を予測して艦隊を置いておかず、周りのサイパン島等に避難させていた。

これには真珠湾と違って、まだ艦隊基地として充実してない事から艦船が少ない事も助けになったが。

そして、偵察機によって来襲を察知した防衛側である日本は、虎視眈々と迎撃機を飛ばして

待ち構えていたのである。ハルゼーは奇襲に失敗したのだ。

日本側のパイロットが凄い。笹井醇一、坂井三郎、西沢広義、太田敏夫、羽藤一志といった、

主に台南航空隊(台南空)から出張して来た猛者(もさ)が、相手取ったのだから。

彼らによってハルゼーが放った攻撃隊は蹴散らされ、充分な攻撃が出来なかった。

中には、追われて血迷った挙句、民間施設や原住民集落を爆撃し、後に各国から批判される原因を

作りもする有様である。

怒り猛るハルゼーは、三次にわたり攻撃隊を繰出したが、悪戯に彼らの撃墜スコアを増やすばかりで

遂にトラック島基地を壊滅させるには至らなかった。


傷心を内に真珠湾へと帰還するハルゼー機動部隊に、追討ちを掛ける様に悲報が舞い込む。

雷撃に遭い、先に戦線を離脱した『レキシントン』が、護衛の駆逐艦『シムズ』『ハマン』を片付けた

日本の元ドイツ製巡洋戦艦『生駒』『高野』によって鹵獲されてしまったのだ。

この手負いの空母+護衛の駆逐艦2隻vsドイツ製巡洋戦艦2隻という図式は、史実における

1940年6月2日アルファベット作戦での英空母『グローリアス』+駆逐艦『アカスタ』『アーデント』

vs独巡洋戦艦『シャルンホルスト』『グナイゼナウ』の戦いに、奇しくも一致するものである。

もっとも、この時はイギリス側が全滅したのであるが。



こうして、都合三ヶ所で繰広げられた日米の戦いの第一幕は、全てアメリカ側の惨敗に終わった。

同国にとっては最悪のクリスマスイヴとなったのである。

三ヶ所の戦い全てに中心となって関与したキンメルは、相次ぐ敗北結果に加えて、主力大型艦7隻

(戦艦6隻、空母1隻)を鹵獲されるという状況に至った事から、これからの事を次席司令官である

ウィリアム・パイ中将に託して長官室に篭もると、拳銃で自決し果てたのだった。




サウスダコタたちが悶々とした状態で居るところを、突然、光を伴って三人の裸身が現れる。

揃って黒髪であるところから、元より日本の艦魂である。

そして、三人の中で最も若い艦魂が、一歩進み出ると、サウスダコタたちに向って言った。

「あの・・・新年会の用意が出来ましたので、お誘いに参りました」

多少おどおどしながら言うその艦魂は、全くの少女然とした容姿ながら、胸は人一倍大きい。

戦艦『サウスダコタ』の艦魂である自分よりも、ひょっとしたら大きいくらいだ。

自分たちが宿りし艦を日本に明渡した際、初めて見た若い艦魂である。

彼女の宿りし艦は、竣工したばかりのノースカロライナ級を一周りも二周りも大きくしたものだった。

たしか名前は『大和』と言ったはずだ。

「・・・新年会?」

サウスダコタは不審そうに訊く。

「正月ちや! ”はっぴぃ にゅういやぁ”ぜよ!」

土佐が豪快に笑いながら言う。

「・・・新しい年を迎えた祝いの(うたげ)だ。戦時下であるし、洋上を走る(ふね)の上だ。大した事は出来ぬが。

お前たちは既に日本艦に宿りし者となった故、我々の仲間だ。此処で悶々としている訳にはいくまい・・・」

サウスダコタは三人の言い分を聴き、しばらく睨みつけていたが、

「・・・そうだな。解った。一緒に参加しよう。みんなもだ!」

そう言って残りの五人も促す。そして、九人は一つの大きな光の塊となって消えた。



一方、レキシントンは、自分用に宛がわれた部屋で横たわっていた。

露わにした身体には、二度の爆発による火傷や裂傷が全面に覆い、痛々しい限りだ。

彼女は、まだ幼い二人の駆逐艦の艦魂シムズとハマンを失い、自分は鹵獲された事に、

やるせない気持でいっぱいだった。そんな元にも、裸身の二人の艦魂が光を伴って現れた。

「無残なものだな。しかし、私やザイドリッツ、フォン・デア・タンは、もっと死にそうな目に遭ったぞ」

慰めにもならない言葉を吐くのは、共に銀髪翠眼の艦魂の内、長髪の方だ。

「私を侮辱しに来たのっ!」

上半身を起こしたレキシントンは、鋭い目付きで相手を見据える。

「いやいや、我々の新しい仲間となった貴様に、新年の挨拶でもと思ってな」

銀髪の艦魂は、悪びれた様子も無く答える。

「あ、貴方たちの仲間だなんて、そんな屈辱的な事・・・」

彼女は不貞腐れ、ぷいとそっぽを向く。

「今の貴様の気持は、私にも良く解る。私もかって経験した事だしな。

しかし、艦魂である我々が嫌がったところで、どうする事も出来ないではないか。

宿りし艦が敵の物となってしまえば、我々もそれに帰属して戦うしかないのだ。

たとえ、かっての同僚に刃を向ける事になろうとも・・・ま、私は幸いそこまでは行っては無いがな」

彼女は今までの威圧的な態度を潜め、いくらかトーンを落として寂しそうに言う。

そんな彼女の姿を見ながら、レキシントンは自分の知識を手繰(たぐ)り寄せる。

その結果、この銀髪の艦魂が、かってドイツ巡洋戦艦『デアフリンガー』の艦魂だった事に気付く。

彼女(デアフリンガー)は自分の正体が解ったのに頷くかの様に語りだした。

「つまらぬ小話を一つしようか。

私が戦利賠償艦として、この妹のヒンデンブルグやナッソーにオルデンブルグ殿、それに、

あの憎たらしいプリンセス・ロイヤルもだが、一緒に極東の島国である日本に回航される時の事だ。

その時の私は、今の貴様と同じに屈辱に満ちたものだった。

これには、一緒に戦った艦魂の同士たちが戦勝国によって別れ離れとなり、宿りし艦が廃棄(スクラップ)にされ

命を滅する中、限られた自分たちだけが生き恥を晒さねばならぬ後ろめたさもあった。

そして、アジア圏へと抜ける為にスエズ運河に入ろうとした時、一隻の艦が我々を見送りに来てくれた。

私自身は面識無かったのだが、巡洋戦艦の先輩で、トルコ艦籍となって名をヤウズ・セリムと改めた

ゲーベン殿だった。

思い掛けないかっての同士との再会に喜び合う我々だったが、彼女は一通のメッセージを持って来たのだ。

その内容とは『日本に行けるのは幸せな事だ。日本は親切で義理堅い国だからだ。トルコの人々は皆、

あの時受けた恩義を忘れはしない』というものだった」

彼女はそこまで話して一息入れた。

「どうゆう事なの?」

レキシントンは催促する様に訊く。

「私もその時は解らなかったのだが、後に調べたら、日本への親善航海の帰途、台風に遭って遭難した

トルコ船エルトゥールル号の事を言っていたらしい。余程その時受けた恩義に感激したのだろう。

私も話半分の気持でいたが、それ以来、日本の艦となって20年あまり。確かに悪い国では無い。

我々艦魂をちゃんと認めてくれる人間も居るしな。ま、そのあたりは、自分の身をもって今後経験しろ。

それより、正月でもあるし、これでも呑まぬか?」

彼女はそう言って、レキシントンの前にどっかりと座り込むと、ガラス製の瓶-一升瓶と、

陶器製の小ぶりなコップ-お猪口(ちょこ)を物質化させる。

「日本の米を原料として作った酒だ。最初は違和感があるが、呑み慣れれば、これはこれでイケる。

遣える国というのも、これと同じかもしれん」

彼女はお猪口に注いだ酒を一気に呑み干し、レキシントンにも勧める。

お猪口を受取ったレキシントンも又、黙って呑むのだった。

あけましておめでとうございます。

本年第1回目の投稿をさせていただきました。


しかしながら、前回までこれからいよいよ本格的戦闘というところを、ダイジェストであっさり終わっているし、

アメリカの主力艦7隻を鹵獲してしまうなんて、御都合主義も良いとこ、どこぞの榛名羽黒だとお思いでしょうorz

もっともです。すみません。

私は条約前のアメリカ籠マスト戦艦の最高峰、史実で未成に終わったサウスダコタ級が好きでして、

これを生半可な事にしたくなかったもので。

元はといえば、加賀級の登場も、サウスダコタ級を登場させる為には、日本も加賀級程度は造ってないとおかしい

という逆算した結果だったりするのです。


という訳で、次回からは鹵獲されたアメリカ艦と、それに宿りし艦魂たちの活躍をお楽しみに。

もちろん、元来からも日本艦も活躍しますよw

ただ、この鹵獲艦全部、電気推進(エレクトリック・ターボ)式なんだよね・・・どうしよ?



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