第5話 6隻の戦艦
12月28日 題名を「真珠湾攻撃(3)」から変更しました。
ほぼ同じ時刻、異なる場所で、3機の日本機が着陸した。
1機は空母『天城』から発艦し、真珠湾攻撃を終えて帰還した淵田中佐搭乗の97式艦攻であったが、
残りの2機について、これから記してみる。
史実と同じく軽空母である『龍驤』に着艦したのは、一式艦上偵察機だ。
この機体、史実の艦上爆撃機「彗星」にそっくりの外観をしていた。
それもそのはずで、この世界でも99式艦上爆撃機の後継となる「彗星」の量産試作機を、
一式艦上偵察機として先行運用していたのである。(史実でも「彗星」偵察型を二式艦偵として運用)
小型である同機は、軽空母でスペースが少ない『龍驤』には、うってつけの機体であると言える。
「戻って来おったのう・・・」
この艦に宿りし艦魂である龍驤は、飛行甲板の片隅から眺めながら呟いた。
『龍驤』は、『天城』や『赤城』、当初から空母として建造された艦としては世界最初である『鳳翔』、
ドイツ戦艦『オルデンブルク』改装の『淡路』と並び、空母としては古参である。
当然艦魂の龍驤もそれ相応の歳を重ねているはずであるが、
軽空母の艦魂ゆえにか小柄で、露わにしている身体は、まるで少女の如き幼さがあった。
そのくせ喋り方がやたら年寄じみているのは、自分の容姿に対する反発だともとれる。
エレベーターが下がり、一式艦偵が艦内に収納される。
それと入れ替わるかの様に、今度は零戦が上がってきて、甲板上に並べられる。
「これからが本番じゃ」
幼き姿の龍驤は、零戦の列を見ながら頷く。
『龍驤』は、山本司令長官が直卒する5隻の戦艦『大和』『加賀』『土佐』『長門』『陸奥』から成る精鋭、
第一戦隊の後方に離れて随航している。
役割は、この第一戦隊目指して攻撃を仕掛けて来る敵機を、艦載機でもって迎撃する事だ。
その為、先の一式艦偵数機を除けば、艦載機は零戦-零式艦上戦闘機で占められているのが特徴だ。
これは小型艦ゆえ、発艦に必要な長い飛行甲板を求める雷撃機(97式艦攻など)の運用が難しい
同艦ならではであり、艦隊随航の護衛空母を目指したものである。
この5隻の戦艦プラス『龍驤』の脇を固めるのが、阿武隈級防空巡洋艦(分類上は軽巡洋艦)
二番艦『阿賀野』率いる2個駆逐隊によって編成される秋月級防空駆逐艦10隻である。
纏めれば以下の通り。
単独旗艦・戦艦『大和』
第一戦隊・戦艦『加賀』『土佐』『長門』『陸奥』
第二防空戦隊
・旗艦 防空巡洋艦『阿賀野』
・第23駆逐隊 駆逐艦『宵月』『満月』『花月』『清月』『葉月』
・第24駆逐隊 駆逐艦『山月』『浦月』『大月』『夕月』『磯月』
空母『龍驤』(零戦30機)
この一個艦隊を持って、
まずは来襲するであろう敵航空隊を『龍驤』の艦載機と各艦の対空兵器によって排除・壊滅。
次に、ミッドウェイまで接近、五戦艦の艦砲射撃で敵基地を無力化。
しかる後に、遅れてやってくる別動の上陸部隊によって占領。
以上が、ミッドウェイ攻略の概要である。
しかし、先ほどの一式艦偵によって得た情報によって、この概要に大きな変更は無いものの、
修正作業の必要に迫られていた。
「戦艦が6隻居るって?」
山本は驚きの声を上げる。
「はい、級までは不明ですが、確かに6隻と。
おそらく真珠湾の太平洋艦隊所属艦10隻の内の6隻が分派して、此処に居るのでしょう」
宇垣参謀長は、この様な時でも淡々と話す。
「という事は、我々の真珠湾ならびにミッドウェイ攻略作戦は、連中に察知されていたのかね?」
「いえ、そこまで考えるのは早計かと。たまたま此処に居るだけかもしれませんし」
「いずれにしても、我が艦隊はその6隻と刃を交える事になるね」
「そうなります」
「その場合の勝算は?」
「最悪その6隻の中にサウスダコタ級2隻、コロラド級2隻、4隻の40cm砲搭載艦が含まれるとしても、
我が方の5隻は全て40cm砲以上を搭載しています。
加えて連中の戦艦は脚が遅い。アドバンテージは確実に我が方にあります。
5隻対6隻という数の上での劣勢は何ら不利になるとは考えられません」
「うむ。そうだな。しかし我々はまず、連中の航空機とやり合わないといけない。勝負はそれからだ」
「6隻の戦艦ですか・・・」
艦魂担当官・鈴木維夢少佐の元に集まった、大和とはじめとする艦魂たちも又、驚きを隠せなかった。
「ええ、その中に現時点でアメリカ最強艦とされる、サウスダコタ級が含まれているか不明だけど」
重々しい空気が流れる中、いきなり土佐が言い放つ。
「ぼっちり(丁度)良かったが!
ミッドウェイば、しゃっちみち(わざわざ)行って、艦砲射撃ばあ(だけ)じゃー退屈じゃったきね!
あしらぁ(私たち)軍船の艦魂ちや。相手とするにゃ不足しやーせんよ」
「・・・たしかにそうだ。サウスダコタ級であれば、私や土佐と同じ「偉大なる6隻」の一つ。
相手とするに不足は無い・・・」
「ていうと、陸奥、私たちの相手は、さしずめコロラド級って事になるかな?」
「そうなりますね。姉さん」
土佐に始まり、加賀、長門、陸奥が次々明るく言うのを聞いて、戸惑いがちだった大和も次第に和んでくる。
維夢はそんな彼女の露わな肩に手を添えると言う。
「大丈夫。貴方が宿りし艦以上のものはアメリカだって持っていない。貴方の力、見せ付けてやりなさい」
維夢はそう励ましてから、彼女たち全員を見渡し、
「でも、みんな。その前に敵航空機による空襲が予想されるわ。対空兵装の準備は万端にね」
続いて彼女は、戦艦の艦魂たちの脇に控える、もう一人の艦魂を見た。
はち切れんばかりの体躯を誇る戦艦の艦魂たちの中にあっては、随分貧弱には見えるが、
スレンダーながらも整った裸身を晒す彼女は、防空巡洋艦『阿賀野』の艦魂である。
真珠湾攻撃に向った6隻の空母を護衛している阿武隈の妹に当たる。
彼女は維夢から一瞥されただけで、言わんとしている事が解った様だ。
「大丈夫です。敵機についての対処は任せて下さい」
阿賀野は控えめながらも力強く言う。
「龍驤は大丈夫かしら?」
「はい。配下の花月、清月、大月、夕月が護衛に付いておりますから」
本隊の後方を航行している龍驤たちは、艦魂の転移出来る範囲を越えており、集まりに参加出来ないのだ。
「解ったわ。みんな、くれぐれも頼んだわよ!」
維夢が激励して締め括った。
そして、三機目が着陸した場所は、トラック諸島のうち、夏島の飛行場である。
大日本帝国海軍の一大拠点が形成されつつある、此処トラック諸島。
降り立った機体は、双発のスリムなものであった。一式陸上偵察機「爽雲」という。
先の一式艦偵が「彗星」にそっくりなのと同様に、この「爽雲」も又、陸軍の100式司令部偵察機と瓜二つだ。
実際そうなのである。あの史実で「ビルマの通り魔」と称された同機と。
100式司偵の高速性に注目した海軍が、自軍用にも「爽雲」と名付けて採用しているのである。
その「爽雲」のもたらした情報に、このトラック諸島の海軍基地は色めきだす。
空母4隻を中核と成すアメリカの機動部隊が接近中との情報だったのだ。
この世界における真珠湾攻撃は、クリスマスイヴである24日に行われた事としてますので、
それに倣って投稿させていただきます。
そう言いながら、今回は真珠湾攻撃の話じゃないんですよね。駄目じゃんorz
読んでいただければ解ると思いますが、同日に三つの戦域が舞台となり、各話のタイトルも、
もはや真珠湾攻撃ではなくなってきてます。
ですから、一通り終わったらタイトルも変更しますね。
最初からですと、ネタバレにもなりかねないので、フェイクなタイトルですみません。
(前書きの通り、12月28日に変更しました)
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