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緋色の波涛  作者: ELYSION
第1章 開戦
6/10

第4話 真珠湾攻撃

今回の話では、残酷な描写の箇所があります。

自分の筆力ごときでは、生々しくは感じられないかもしれませんが、読まれる方は注意して下さい。


12月28日 題名を「真珠湾攻撃(2)」から変更しました。

1941年12月24日 ハワイ・真珠湾(パールハーバー)基地・現地時間7:52AM


真珠湾(パールハーバー)軍港の中央に浮かぶフォード島の海岸線に沿って、3隻の戦艦が停泊していた。

先頭から『ネバタ』『アリゾナ』『オクラホマ』の順だ。

それら3隻の戦艦を宿り主とする3人の艦魂も又、思い思いに佇んでいた。

彼女たち3人は揃って、アメリカ戦艦に宿る艦魂でありながら、髪は黒く、褐色の肌をしている。

これはどうやら、己の名前の由来となる州が存在する場所に影響されていると見るべきだろう。

何故なら、ネイティブ・アメリカン-いわゆるインディアンが、今なお多く居住する地であり、

メキシコと国境を接し、ヒスパニック系住民が多かったりするからだ。

そして、褐色の肢体を惜しげもなく晒している姿は、ここ常夏の島ハワイにおいては良く似合っていた。

その彼女たち(正確にいえば彼女たちが宿る戦艦だが)に対し、似た人種(少なくとも白人よりは)である

日本人が攻撃を仕掛けて来るとは、ある意味皮肉な事ではあったが。



アリゾナは、己が宿る戦艦『アリゾナ』の第二砲塔の天蓋に、その身を仰向けに横たえていた。

突如として鳴り響いた空襲警報によって、辺りは急に騒がしくなり、彼女は身体を起こす。

遠くに黒煙や水柱が立ち込めるのが見える。

「えっ? いったいどうしたの?」

状況が理解出来ない彼女は、驚き、そして焦る。

その横を飛行機が通り過ぎる。見慣れた自国の飛行機ではない。翼には赤い丸が描かれている。

「日本機!」

彼女が叫ぶやいなや、左脚の太腿が裂け、血が噴出す。

「ぐはっ!」

痛みに彼女は悲鳴を上げる。

しかし、彼女の受難はこれだけでは終わらなかったのだ。



オクラホマは、戦艦『オクラホマ』の甲板で佇んでいた。

華奢で折れそうなくらいに細い雷撃機が列を成して、宿りし艦の艦舷目掛けて突っ込んで来る。

そして、次々と機体と同じく細長い物を海面に投下していく。魚雷だ。

彼女は最初、「バッカじゃないの!」と、醒めた思いで、その様子を眺めていた。

平均水深が12mしかない真珠湾軍港では、投下した魚雷は沈んで海底に刺さってしまい、用を成さない。

魚雷を直接敵艦にぶち当てた方が、どれだけマシと言えるだろう。

しかし、魚雷は海底で爆発した様子は無い。

「!!」

彼女は声無き叫びを上げる。それと同時に水柱が立続けに3本上がる。

魚雷は沈む事無く水中を走り、『オクラホマ』の艦舷に命中したのだ。

艦が攻撃を受ければ、宿りし艦魂も又、己の身体の相当箇所に手傷を負うのが運命(さだめ)

爆発のショックで彼女の身体は宙を舞う。

その露わな褐色の脇腹は大きく裂け、どくどくと噴出する血は、まるでロケットの炎だ。

血という炎で飛んでいるかと錯覚する程に。

甲板に叩き付けられた彼女にとどめを刺すかの如く、再び2本の水柱が沸き立ち、その姿を覆う。

既に意識が無い彼女は、今一度ピクリと動いたきり、もう二度と動く事は無かった。

更に大きく開いた脇腹から流れ出した血は、人には見えない大きな溜まりとなって甲板に広がる。

次の瞬間、横たわる彼女の身体は、どす黒い光に覆われ、溶け崩れるかの如く輪郭が無くなってゆく。

死を迎えた艦魂の姿だ。そして、オクラホマという艦魂の存在は消え去った。

それと共に、艦魂という拠所(よりどころ)を亡くし、文字通り抜け殻となった戦艦『オクラホマ』は、

ゆっくりと崩れ落ちる様に転覆し、赤い艦底を海面へと晒した。



停泊していた3隻の中で、先頭の『ネバタ』だけは回避行動を取る事が出来た。

「早く早く!」

機関がどうにか動き出し、よろよろと隊列を離れる宿り主に対し、

艦魂のネバタは、たとえ1インチでも先に行かそうと躍起になる。

だからといって、艦魂は己が宿りし艦を動かす事は出来ない。

せいぜい機関の調子を上げる程度の気休めにしかならない。それが酷くもどかしい。

背後で再び爆発音が響く。

「オクラホマ! アリゾナ!」

ネバタは、(オクラホマ)親友(アリゾナ)の身を案じて叫ぶが、今は自分の事だけで精一杯だ。

そんな彼女、いや彼女が宿る『ネバタ』にも日本機が次々と攻撃を仕掛けてくるが、

幸い致命傷となる程ではない。それでも彼女の露わな身体のあちこちに裂傷を帯びているが。

這う様な速度で進む『ネバタ』の前に、やがて湾口が見えてくる。

それを見ながら、彼女は別の心配をし始めた。

もし、ここで自分と宿りし艦が力尽き、沈む事となれば、どうなるだろう。

湾口を塞いでしまい、戻ってくるエンタープライズやサウスダコタといった仲間たちの迷惑になる。

しかし、彼女のこの思いは、結局杞憂に終わる。

「ネバタさん!」

ふいに聞こえた声に、彼女は我に帰る。

見れば、金髪を三つ編みにした女性が、自分の宿りし艦上から必死の形相で叫んでいる。

軽巡洋艦『デトロイト』の艦魂だ。彼女は前方を指している。それでネバタにも解った。

フォード島を挟んで、『ネバタ』ら戦艦群とは反対側に、軽巡洋艦群は係留されていた。

その先頭だった『デトロイト』は、『ネバタ』と同じ行動を採ったのだ。

結果、日本機の攻撃に気を取られていた両艦は、相方の接近に気付かず、衝突の運命にあった。

彼女たち艦魂には、解っていてもそれを止める術は無い。

『ネバタ』の艦首は『デトロイト』の艦舷を(えぐ)る様にして衝突し、そのまま頓挫した。

デトロイトは脇腹から血を流しながら倒れ、衝突のショックに投げ出されたネバタも又、

もんどリ打って倒れると、そのまま意識を失った。



『ネバタ』をはじめ3隻が、状況はどうであれ、退避という選択肢が持てたのに対し、

それが最初から持てなかった艦もあった。ドックに入渠していた『ペンシルバニア』だ。

他の3人とは違い、アメリカらしい白い肌に茶髪という容姿の艦魂ペンシルバニアは、

入渠中で暇を持て余していたので、艦魂たちのみでクリスマスパーティーを催す予定を立てていた。

招待者は先の3人の他、一緒に入渠中の駆逐艦の艦魂カッシンとダウンズ、

それに、彼女にとっては先輩艦魂であり、今は標的艦となった元戦艦のユタといった面々だ。

彼女自身楽しみにしていたが、突如飛来した日本機の編隊によって予定は台無しにされた。

それだけでは無く、日本機は攻撃を仕掛けて来る。

さすがに魚雷攻撃は無いが、動けない事を嘲笑うかの如く、爆弾を彼女が宿りし艦に降らせて来る。

ペンシルバニアは、それを右往左往しながら悲壮な思いで見守る事しか出来ない。

「カッシン! ダウンズ!」

彼女は悲痛な叫び声を上げる。

目の前で一緒に入渠していた駆逐艦2隻が、相次いで爆弾攻撃に耐え切れず爆発したのだ。

宿りし艦魂も運命を共にしたのは間違いない。

破片が降り注ぎ、彼女の身体の傷を増やしていく。

そして彼女にも、先に逝った駆逐艦の艦魂2人を追わせるかの様に、最期の時が刻一刻と近付いていた。

何処からか漏れたオイルか何かの油類に火が点き、それがやがて大きな炎となって、

『ペンシルバニア』に迫っていたのだ。

必死の消火作業も効果は無く、動く事の出来ない『ペンシルバニア』に回避する術は無い。

「い、いやあ! こんな事で死ぬなんて!」

ペンシルバニアは、宿りし艦と共に炎に包まれた。



アリゾナは己の宿りし艦の甲板上に立っていた。

彼女の褐色の裸身は、至る所に傷を負い、元の肌の色なのか、流れた血で汚れたものなのか

解らなくなっている。右腕は肘から先が消え失せていた。

己がどんな状態であるかは、もう今の彼女には理解出来ない。生きているのか死んでいるのかも。

ただ呆然と、群がる日本機を光が消えた眼で見上げているだけだ。

彼女を含む『アリゾナ』という艦全体が、既に日本機の執拗な攻撃で廃墟と成り果てていた。

そして、終止符を打つ様に一発の爆弾が放たれる。

閃光が輝き、朽ちた銅像となった彼女の身体を腹部から上下に二分する。

宿りし戦艦『アリゾナ』も又、大爆発と共に船体を二分され、(こうべ)を垂れる様に艦橋が崩れ落ち

真珠湾の海底に没していった。




ハルゼーは、旗艦エンタープライズの艦橋で、(いか)つい顔を更に厳つらせていた。

無理も無い。日本が宣戦布告したのを喜んだのも束の間、30分も経ぬ内に母港である真珠湾(パールハーバー)が、

その日本軍の攻撃に遭ったという連絡が入ったからだ。被害は深刻だという事も。

言葉も掛けられぬ雰囲気が漂う中、主席参謀が勇気を持って進言する。

如何(いかが)致しますか? 助けに戻りますか?」

おずおずと尋ねる主席参謀をハルゼーは睨み、怒鳴りつける。

「馬鹿野郎っ! 今から戻ったところで、奴らはさっさとトンズラした後に決まってるだろっ!」

機動部隊を指揮するハルゼーは、日本人(ジャップ)がどの様な方法で攻撃して来たか解っていた。

空母の艦載機によるものだと。そして攻撃が済めば、素早く撤退するだろう事も。

彼の予想通りの挙動に、主席参謀は怯えつつも、続けて訊く。

「それでは、作戦遂行に変更は無いという事ですね」

「ああ、このまま続行する。我々はそうするしかないんだ!」

ハルゼーはきっぱりと答え、更に次の一言を加える。

「奴らにも真珠湾(パールハーバー)と同じ目に遭わしてやらない限り、どうにも腹の虫が治まらねえ!」

彼は自分にも言い聞かす様に吼える。

これには多分に私情を含んでいる。

というのは、真珠湾を拠点とするアメリカ太平洋艦隊、その司令長官ハズバンド・E・キンメル大将は、

自分の上司であると同時に親友でもあった。

アメリカ海軍兵学校(アナポリス)の落ちこぼれだったハルゼーは、同期のキンメルが上位31人を一挙に飛越して

太平洋艦隊司令長官の座に登り詰めたのを、自分の事の様に喜び、尊敬もしていたのだ。

そのキンメルが率いる真珠湾基地が、太平洋艦隊が、危機に瀕している。

遠く離れた太平洋上に居る自分たちに出来る事は、空母4隻をもってしての(かたき)討ちのみ。

ハルゼーに一つの思いが(よぎ)る。

キンメルが自分に空母4隻を付けて送り出してくれた時の事だ。

彼は「護衛に戦艦も連れていくか?」と訊いた。

自分は「冗談じゃない! あんな愚順なものは足手纏いなだけだ!」と断った。

そう言って残してきた戦艦が今、悲惨な目に遭っているという。

「ひょっとして、避難させたあいつらにも・・・」

彼は顔を(しか)めた。

自分で書いていても滅入る回でしたorz

アメリカ戦艦の艦魂たちには可哀想な事をしてしまいました。

明るくえっちな戦記とはならないところが、自分の性分なのでしょうかねぇ。

真珠湾に戦艦が4隻しか居ない事を除けば、概ね史実通りです。

ただ、史実では軽傷だった『ペンシルバニア』『デトロイト』も、ここでは廃棄されそうですが。

少ない艦船に攻撃が集中すれば、そうなりますよね。



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