第3話 トラ・トラ・トラ
12月28日 題名を「真珠湾攻撃(1)」から変更しました。
1941年12月24日 アメリカ・ワシントンDC・東部時間0:50PM
駐米大使・野村吉三郎は若い次官と共に、国務長官・コーデル・ハルを訪ね、
日米交渉打切りの由を記した最後通牒を手わたした。事実上の宣戦布告である。
(やっと、その気になってくれたか・・・)
ハルはいささか安堵した気持になりながらも、それはおくびにも出さずに言う。
「随分と引き伸ばしてくれたものだな。もうクリスマスだぞ」
「・・・は、はい・・・申訳ありません・・・」
野村は相変わらず低姿勢で答える。しかし、共とする次官は違った。
彼は鋭い眼差しでハルを睨み付けると言った。
「長官にお訊きします!」
「何だね?」
「アメリカは正義を何よりも重んじる国だと聞いております」
「いかにも」
ハルは平然と答える。
「その国が、この様な愚劣な挑発を行い、我が国を戦いへと誘い出した。
これが貴方がたの言われる正義なのですか?」
彼はこの次官の遠慮の無い物言いに、いささかの恐怖を感じながら答える。
「ああ・・・そうだ」
二人は睨み合う。その様子が気が気でないのは野村だ。
「白洲君、それくらいにしておきたまえ!」
しかし、白洲という次官は躊躇しない。
「戦いましょう。貴方がたの言われる正義とやらと」
憮然としながらも、ハルは平静を装いつつ訊く。
「言いたいのはそれだけかね?」
「はい」
白洲は僅かながらも笑みさえ浮かべながら返事をした。
「解った。もう私からも言うべき事は無い。出て行ってくれ」
野村と白洲は出て行った。
ハルは溜息を一つ吐くと、受話器に手を掛ける。
「大統領、国務長官のハルです。只今、日本が宣戦布告しました」
若い次官-白洲次郎は長官室を出るなり時計を見た。
午後1時丁度だった。
遥か西にあるハワイは同日午前7時半。
6隻の空母から飛び立った第一次攻撃隊は、この時間、オアフ島北端のカフク岬上空に一時集結。
これから南端の真珠湾基地を目指し散開しようとする、まさにその時であった。
日本が宣戦布告をしたという事実は、直ぐさま母港である真珠湾基地を経由して、
この太平洋をひた走るアメリカ艦隊にも知らされた。
「やっと腰を上げてくれたか。だが、そうでなくてはならん」
知らせを聴いた厳つい顔の艦隊司令官-ウィリアム・ハルゼー中将は満足気に呟く。
「ジャップにクリスマスプレゼントをくれてやるのに、どれくらいかかるんだ?」
傍らに控える参謀に訊く。
「はっ 攻撃圏内に入るのに、あと三時間ほど掛かります」
「オーケー。直ぐに出撃準備を整える様に全艦に伝えろ!」
ハルゼーは活き活きと命令を下す。
その様子をこの艦エンタープライズの艦魂は、艦橋の片隅から見ていた。
「ふふっ ハルゼーのおっさん、楽しそうなんだから!」
自身も悪戯を思いついた少女の様な笑みを浮かべつつ、彼女は呟く。
中型空母に宿る艦魂だけに小柄で、晒した胸も控えめな方だが、金髪をツインテールにし、
釣上がり気味の眼も相成って、身体全体で小悪魔的魅力を漂わせている。
「さてと、私も飛魂たちに発破を掛けてくるかなあ・・・」
そう言ってエンタープライズは光に包まれて消えた。
鈴木維夢少佐が艦橋から出ると、そこには一人の少女が立っていた。
一糸も纏わぬ全裸姿であるからにして艦魂である。
顔立ちはまだ幼さを残している。人間でいえば16、7歳といったところだろうか。
長い睫毛の下には、無垢で潤いに満ちた大きな瞳が、まるで高原に佇む神秘的な湖の如く位置している。
視線を身体に移せば、まず目につくのは、日本の艦に宿る、日本女性を模した艦魂としては
極めて大きいその胸である。しかし、乳房に対して乳輪は小さく、その先には淡い桜色の乳首を供え、
それらは、160cm代半ばという年頃の少女にしては高めの身長と相成って、清々しさを湛えた
未成熟な色気を醸し出している。
そして、ともすれば幼さを残した顔立ちとは相反するこれらの要素を、絶妙なブレンドをもって
両立させる事にも成功しているのだ。
更には、腰の先まで届く長く真直ぐな漆黒の艶ある髪と、若々しく長くすっきりと伸びた四肢が加わり、
無敵の美女(いや、まだ充分少女の範疇に入るので美少女)を形作る。
彼女こそまさに、大日本帝国海軍が誇る最新鋭超々弩級戦艦『大和』に宿る艦魂であった。
「どうしたの? 大和」
維夢は、彼女が不安そうな表情をしているので訊く。
「心配なのです。私が役目を果たせるのかどうか・・・」
大和はその際立つ裸身を維夢に委ねて言う。
「大丈夫。貴方が連合艦隊旗艦という重圧に不安になるのは解るけど、これは先輩諸艦魂たちも
みんな通ってきた事なんだから、気を大きく持たないと駄目。
貴方には、それを果たせるだけの能力が充分備わっているわ」
維夢が諭す様に彼女に言い聞かせていると、他の女性の声が聞こえてくる。
「・・・その通りだ。案ずる事ではない・・・」
「姉やんの言う通りぞね。気ば、大きく持たんといかんぜよ!」
光を纏いながら艦魂が二人現れる。
顔立ちが似ているので姉妹の艦魂だと解る。しかも空母の艦魂である天城と赤城の姉妹にも似ている。
それもそのはずで、空母に改装されなければ巡洋戦艦として竣工するはずであった彼女たちとは、
準同型艦の関係にある加賀級戦艦に宿りし艦魂の姉妹だからである。
天城たちとは姉妹とまでいかなくも、従姉妹くらいの関係にはなると思って良いだろう。
この姉妹-加賀と土佐の容姿だが、姉の加賀が大和と同様、長く真直ぐな髪を首の後ろで結っている。
対して妹の土佐は、ウェーブのかかったざんばら髪程度の違いだけで、あとは同様と言えた。
即ち、大和を越える170cm近い長身や、同じく大和並みの立派な胸は共通である。
更に、人間でいえば20代後半に入った程度の容姿を持つ彼女たちは、
まだ幼さの残る大和には無い大人の色気というものを、その全てを露わにした身体から発散している。
大和が成長すれば、土佐はともかくとして、加賀の様になるだろう事は、想像に難く無い。
しかし、そんな二人は、天城たち姉妹と同様、性格は正反対であった。
姉の加賀は、とにかく寡黙。
妹の土佐は、その名に由来するのだろう、土佐弁で喋り、坂本龍馬の如く豪快奔放であった。
「うん、心配する事ないよ」
「そうよ。がんばって」
更に艦魂が二人現れる。
誰なのかは話の流れから見当つくだろう。そう、長門級戦艦に宿りし艦魂姉妹である。
これから先は、同じ様な文章をだらだらと書くのも読者様も飽きるだろうから、簡潔に記す。
長門と陸奥の二人は、大和や加賀級姉妹より小柄で、160cm程度。
胸も身長に合わせるかの様に、幾分小ぶりだが、それでも戦艦の艦魂であるからして立派なものだ。
姉の長門は大和や加賀ほどではないにしろ、背中までゆうに届く長い髪をしている。
妹の陸奥は肩に届く程度で、ぷっつりと切り揃えている。
年齢は宿りし艦の艦齢からいっても、加賀級姉妹より若干上のはずだが、彼女たちより小柄なせいか
逆に若く見えたりする。それでも大和に較べれば全然お姉さんである事に変わりはないが。
性格も加賀級姉妹や、天城級姉妹に較べれば、姉妹間での差は少ない。
姉の長門がさばさばした明快なのに対し、妹の陸奥は天城と同様、癖の無い優等生タイプと言えた。
とにかく、彼女たち4人が大和を囲み、たわわな胸をはじめとする身体の全てを露わにして立つ姿は、
勇壮と感じる前に威圧感が先立つのは、何も戦艦の艦魂である事だけが理由ではないと思われる。
「私たちの可愛い妹に何するものぞ!」というオーラが発せられているからだろう。
維夢にして、この様な役職に就いていればこそで、自分より数段優れた容姿の美女が複数、
しかも全裸で迫られれば、怯えて泣き出すに決まっていた。
「ほら、みんなだって貴方を励ましてくれているわ。だから、がんばらないと」
「はいっ!」
維夢に言われ、不安気の大和にもやっと笑顔が戻る。
条約後、本当に久方ぶりに現れた戦艦の艦魂-大和は、かように皆から愛されていたのだ。
「何や、これだけしか居らんのか・・・」
カフク岬上空で散開した淵田中佐率いる第一次攻撃隊は南下を続け、20分近く経った7時49分、
アメリカ太平洋艦隊の本拠地がある真珠湾の上空に達していた。
淵田たちの眼前には、フォード島を中央に置いた真珠湾軍港の全景が広がる。
これまで迎撃らしい迎撃には遭っておらず、それこそ拍子抜けするくらいすんなりと侵攻した
攻撃隊であったが、軍港の状況は更に落胆させるに充分だった。
停泊している特徴ある籠マストの戦艦は、僅かに3隻だけだったのである。
空母に至っては1隻も存在していない。
事前の調べでは、現時点でアメリカ最強戦艦であるサウスダコタ級の2隻、『サウスダコタ』
『インディアナ』を筆頭に、『メリーランド』『ウェストバージニア』『テネシー』『カリフォルニア』
『ペンシルバニア』『アリゾナ』『ネバタ』『オクラホマ』の戦艦10隻、
それに『レキシントン』『サラトガ』『ヨークタウン』『エンタープライズ』の空母4隻が居るはずなのに。
「隊長、あそこにも1隻います」
操縦士が淵田の気持を読み取って指差す。見ればドックにも1隻入渠しているのが解った。
「それを入れても4隻やで。えらい少ないわ。ほんま、どこに隠しおったんや!」
淵田ならずとも愚痴りたくなってくるが、今更攻撃しない訳にもいかない。
「居らんもんは、しゃあない。居るもんだけでも攻撃するで。全機突撃や!」
淵田機が発する突撃信号を合図に、各機は飢えた狼の如く獲物に襲いかかる。
その様子を確認しつつ、淵田は続く命令を下す。
「『天城』に連絡しとってや! 『ワレ奇襲ニ成功セリ』-『トラ・トラ・トラ』や!」
12月8日は、史実においても真珠湾攻撃が行われ、太平洋戦争に突入した日でありますので、
急ぎ書き上げてみました。
しかし、艦魂である大和の紹介に文字数を割きすぎた気がしてなりませんorz
その大和をはじめとする艦魂の性格や容姿といった設定は、諸先生方による既成の艦魂作品、
中でも工藤傳一先生の「明石艦物語」から多かれ少なかれ影響を受けている事を白状すると共に、
ふしだらな姿にさせてしまった事をお詫びいたしますorz
書いている内に、大和は箱入りのお嬢様で、加賀たちは彼女を守る親衛隊みたいな構図に
なってしまいました。全裸巨乳美女部隊、我ながら凄いなw
真珠湾攻撃関係だけで数話分費やすと思います。あちこちで暗躍してますからねw
(追記1)考えてみたら、この世界では真珠湾攻撃のヒントとなったタラント空襲は行われてないや。
う~ん、日本海軍独自の発想という事でお願いしますorz
(追記2)思えば、今年は真珠湾攻撃70周年なんですね(そこまで気がつかなかった)
そんな節目の年にこんな作品で申訳ありませんorz
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