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緋色の波涛  作者: ELYSION
第1章 開戦
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第1話 艦魂たちと二人の亜子

1941年12月24日 布哇(ハワイ)近海・現地時間3:00AM


第一航空戦隊旗艦・空母『天城(あまぎ)』艦内の士官会議室は、異様な雰囲気に包まれていた。

その部屋には、十数人が詰めていたが、その全員が女性であった。

しかも軍装に身を固めた士官姿の二人を除いて、残りの女性は身体の全てを露わにした全裸なのである。

これは日本、しかも1940年代の更には軍艦内となれば、断じてありえない状況といえた。

しかし、この世界ではありえる事なのだ。ある特殊な存在がある、この世界においては・・・



「みんな、未明から集まってもらって御苦労様。

では、早速本題に入りましょう。攻撃隊の発艦は6時と決まりました」

軍装の二人のうちの一人、年長と見える方が事務的に告げる。

「6時だって? 最初の予定より2時間も遅ぇじゃねぇか!

そんなこっちゃ、ハワイに到達する頃にはよ、お目覚めとなった連中が迎撃準備をして待ってやがるぜ」

「そうだよ! そんな中、突っ込んでいったら損害が大きくなっちゃうよ!」

身長差のある裸の二人が早速、相次いで反対意見を述べながら、予定を告げた彼女に食って掛かる。

それを制止するのもやはり裸な一人なのだが、その顔立ちは、先にべらんめえ口調で文句を言った

女性とよく似ていた。

赤城(あかぎ)飛龍(ひりゅう)も言いたい事は解るけど、広瀬(ひろせ)少佐の言う事に従いなさい。

これは源田航空参謀が考えた末に決定された事なのよ。

黎明(夜明け前)時の発艦は、危険を伴うという理由からね」

「黎明時の発艦が危険? はんっ! 帝国海軍は、何時からそんな腰抜けになったんでぇ!」

「そうは言うけど、赤城。もし無理して発艦しようとして、甲板上で事故を起したらどうする?

以降の発艦は不可、攻撃に参加出来る機数が減り、作戦の遂行そのものが危うくなるのよ」

「そうですね。それはまずいと思います」

「私も、お姉ちゃんの言う事に賛成!」

別の一人が賛成し、もう一人が更に同意する。この二人、双子と思えるほど容姿が似ていた。

翔鶴(しょうかく)瑞鶴(ずいかく)新米(しんめぇ)だからって弱腰になるんじゃねぇよ! 蒼龍(そうりゅう)、おめぇはどうなんだい?」

赤城と呼ばれているその彼女は、黙ってやりとりを聴いていた比較的小柄な女性に振る。

「・・・天城さんや翔鶴、瑞鶴と同じ・・・」

蒼龍と呼ばれた彼女は、無表情に必要最小限にしか答えなかった。

「同じかよ・・・相変わらず無愛想だよな。おめぇは。加賀(かが)と一緒だと、いつでもお通夜状態だぜ」

赤城が愚痴ると、先の広瀬という士官が手をパンパンと打ち制止する。

「赤城、場を仕切るのはそれくらいにして。天城が言った通り、これは既に決定事項であって、

今更貴方たち艦魂が口出ししてどうなるものでも無い。従ってもらうしかないの。

防空部隊については、伏見宮(ふしみのみや)中尉、貴方から告げなさい」

「は、はいっ!

榛名(はるな)霧島(きりしま)利根(とね)筑摩(ちくま)、それに阿武隈(あぶくま)ならびにその麾下の駆逐艦は、防空体制に努めて下さい。

空母は艦載機を発艦させてしまえば、全く無防備な状態となります。

特に発艦時に狙われるのが一番危ないのです。それを守るのが、貴方たち防空隊の役目です。

どうか各自、宜しくお願いします!」

軍装姿のもう一人、伏見宮と呼ばれた中尉は、どうやら先の女性の副官に当るらしい。

たどたどしく事を伝える。

「そうね。ふっし~ちゃんの言う通りね。みんな、がんばろっ!」

「おい榛名、これは遊びではないのだぞ」

甘ったるい声を発して拳を突き上げ、ガッツポーズを作る女性。それを冷静に(たしな)める一人。

二人の性格は正反対に思えるが、顔立ちはそっくりであった。

「あ~ん、きっちゃんたら、いつでもそうやって堅苦しいんだから。

これくらい気楽に構えていた方が良いのよ」

榛名と呼ばれた彼女は、ぷいと拗ねてみせる。

「でも、利根()ぇ、私達が出る幕って、あるのかな?」

「そうね。連中の持っている飛行機じゃ、私達の居場所が解ったところで航続距離が足りないから、

反撃に出る事は無いんじゃないかしら?

唯一懸念すべきはB-17という四発の大型爆撃機だけど、これだって鈍調だから私達の対空砲火の餌食よ」

「そういう事かぁ。やっぱり私達の活躍の場は少なそうね。阿武隈はどう思う?」

話を振られた最後の一人、阿武隈と呼ばれる彼女は、こほんと一つ咳払いをして答える。

「たしかに利根殿の言う通りです。しかし、連中だって空母を持っています。

それが待ち構えていて、攻めてくるという可能性も充分考えられます」

「う~ん、なるほどねぇ。さすが秋月たち駆逐艦を統率するだけの事はあるね」

筑摩という彼女が感心していると、先ほどの広瀬という士官が話を続ける。

「阿武隈の言う事は全くもって正しいわ。

連中はレキシントン、サラトガ、ヨークタウン、エンタープライズ、少なくともこの四隻の空母を

太平洋に置いている。そして現在、彼女らの動向がはっきりしないの。注意するに越した事はないわ。

それでは解散! それぞれが宿る(ふね)に戻って待機していて。

阿武隈は悪いけど、麾下の駆逐艦たちに今の事を伝えるのを忘れないで」

彼女が言い終わると、全裸の女性たちは揃って敬礼をし、驚くべき事に光に包まれてその場から消えた。

残ったのは、軍服に身を包んだ広瀬、伏見宮の二人の女性士官だけとなった。




古来より人が造りし船には魂が宿るとされていた。

そんな船に宿りし魂の内でも、軍船(いくさぶね)に宿りし魂は、特に「艦魂」と呼ばれている。

艦魂は人間と酷似しているどころか、総じて美しい女性の容姿をしており、

更にはそれを誇示するかの様に、一糸纏わぬ全裸姿でいる事が常であった。

船を女性名詞で呼ぶ理由(わけ)とか、精霊呼ばわりするのは、その辺りにに由来するのかもしれない。

又、艦魂の美しい容姿には、宿りし(ふね)が建造されし国の影響が大きく関わっているとされる。

即ち、日本で建造された艦に宿りし艦魂ならば黒髪も麗しい美女となるが、西洋で建造された艦ならば、

金髪碧眼の艦魂もありえたのである。

事実、日本が日露戦争を控えイギリスから輸入した6隻の戦艦の艦魂や、巡洋戦艦『金剛』の艦魂は、

その事実を裏付けるものであった。

それから、同型艦に宿る艦魂同士は自ずと似た顔立ちとなる。姉妹艦と言われる由縁でもある。

先ほど登場した艦魂では、天城と赤城、蒼龍と飛龍、翔鶴と瑞鶴、榛名と霧島、利根と筑摩がそうだ。

そんな艦魂ではあるが、残念ながら見る事が出来るのは、ほんの一握りの人間でしか無い。

それも艦魂とは同性となる女性のみなのである。

これが、艦魂が伝説で謳われながら、長い間謎の存在とされてきた理由でもあった。

何しろ船を操るのは男性の仕事であり、軍に従事するのも又、男性であったから、

艦魂が見れる数少ない機会というのは皆無だったのだ。

この事実に偶発的とはいえ気付き、体系化させる事に成功したのは、何を隠そう大日本帝国海軍である。

帝国海軍はこれを軍事機密とすると共に、艦魂との協調を模索する。

その為には仲介役となる艦魂の見える女性を、出来るだけ多く集める必要があった。

しかし、軍事機密な上、女性という条件のみで場当たり的に一般から探し出す訳にもいかない。

仕方無く、軍人の子女の中から密かに艦魂と面接させる等して、選び出す以外に方法は無かったのだ。

こうして発掘された艦魂が見える女性は、想像以上に少なかった。

一個戦隊に一人充足出来る程度にしか居なかったのである。

帝国海軍ではこの貴重な人材を、表向きは軍の広報担当士官として採用し、仲介役に充てたのだ。

欧米列強に先駆けて、最初の女性海軍士官が誕生した訳であるが、その実情は厳しいものがあった。

軍と艦魂との仲介役として艦の運用、作戦行動を男性参謀並みに熟知しておかねばならず、

いざ戦闘が起これば、軍人であるからには死をも覚悟しなければならない。

又、改善されたとはいえ、女性を乗艦させるのを嫌う風潮も未だ残っている。

艦魂担当の女性士官は、そんな逆境の中、日々任務遂行に励んでおり、それは先ほどの広瀬、伏見宮、

両士官とて例外ではなかった。


そんな二人には、他の女性士官とは異なる特徴があった。

それは髪の色だ。二人とも亜麻色をしていた。もちろんこの時代ゆえ染めている訳では無い。

顔立ちも日本人にしては彫が深く、二人が混血(ハーフ)だという事を暗に物語っている。

年長の広瀬亜子(ひろせ あこ)少佐の父親は、日露戦争の英雄である広瀬武夫中将(最終軍歴)

その母親はロシア貴族の娘で、彼の恋人であったアリアズナ・ウラジーミロブナ・コヴァレフスカヤ。

この世界において広瀬は日露戦争を生延び、戦後再び駐露武官となってアリアズナと再会、

結ばれた末、出来た子供が彼女という訳である。

そして、もう一人は何と皇族だ。伏見宮亜子(ふしみのみや あこ)女王(女王は直系皇族以外の子女に対する敬称)である。

父親は伏見宮博義(ふしみのみや ひろよし)王。祖父に至っては帝国海軍において多大な権力を誇った博恭(ひろやす)王なのだ。

それでは母親は?というと、これがもっと凄い事となっている。

旧ロシア帝国皇帝ニコライⅡ世の第四皇女であったアナスタシア・ニコラエヴナ・ロマノヴァなのだ。

では何故、ロシア帝国皇女が日本の皇室に嫁ぐ事になったのか? その経緯を簡単に記してみよう。

第一次世界大戦末期、ロシア革命が起こり、栄華を誇った皇帝一家が次々と捕えられ処刑される中、

アナスタシア皇女だけが何とか日本への亡命に成功した。

そして、日本に来た彼女は、亡き家族や祖国を憂いつつ、この地で生涯を全うする事を決心する。

しかし、婚姻をする段階になって問題が生じた。

何しろ彼女は、既に亡国とはいえ、大国ロシアの皇女である。並の貴族では釣合が取れない。

いきおい皇族からとなるが、神武天皇の時代から脈々と継がれてきた皇室の血統に、

異国人の血が混じるのは潔いものではない。

そこで直系ではない傍系から選ばれる事となり、白羽の矢が立ったのが伏見宮家であった。

この一連のアナスタシア皇女に関する時事に、先述の広瀬武夫も深く関与している。

駐露武官として妻アリアズナと共に皇女の亡命に尽力し、その後彼女が日本に来てからの婚姻にしても、

ロシア人を妻に持つ者の先例として、侍従役を拝命するに至ったのだ。

この二組の夫婦の関係は双方の娘にまで及び、いわば二人は乳姉妹の関係にあるといえた。

とはいえ、広瀬が現在28歳に対し伏見宮は18歳と、10歳の開きがあり、当然軍歴も同様で、

広瀬が既にベテランの域なのに対し、伏見宮はまだ駆出しと、地位と軍での階級は逆転している。

なお、広瀬亜子と伏見宮亜子、二人に共通する「亜子」という名前は、露西亜の「亜」と、

二人の母親の名前がそれぞれ「ア」から始まる事に由来するものである。

11月23日は戦前から続く祭日(たしか戦前は新嘗祭)なので、連日投稿です(意味不明)


遂にやってしまいました。艦魂全員すっぽんぽんorz

ま、某掲示板で盛んに叩かれている某戦記の女性型アンドロイドと同じで、

作者である私の活力(モチベーション)の源程度にお考え下さい。

そうは言っても、既存の艦魂作家様たちは憤慨するでしょうね・・・やっぱり。


それから、架空戦記で度々取上げられるロシア皇女の亡命を、私も今回扱ってみました。

又、日本の皇室をこの様な愚作に登場させるのも恐れ多い事なのですが、大鑑巨砲の権化として

何かと悪役扱いされる事の多い伏見宮家なのでお許し下さい。


何だか謝る事ばっかりです・・・



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