第八話 魔剣 テネブラエ
「すごいすごいすごいすごいすごいすごいすごいすごい!!!!!!」
『のわあぁぁーーーーー!!!』
剣がしゃべれる。
そんなありえないことが目の前で起こった。
驚きこそしたが、まあ、異世界ならありえるのかもな。と思ったのだが、こっちの世界でも大変珍しいものだったらしい。
さっきから剣がイスカに弄繰り回されている。
昨日財布を見せたときよりもさらにテンションが上がっている。
「これ魔剣ですよユーイチさん!! しかもユーイチさん以外に抜けなかったということはあの『聖剣』エクスカリバーと同じ伝説級の魔武器です!!」
『だ、だからいい加減触るのをやめろ!! あ、そこは敏感なところ……あふん…!』
なんだか気持ち悪い声が剣から聞こえ始めたのでそろそろイスカを止めることにした。
「イスカ、そろそろ離してやれ。これじゃ話が聞けない」
何とか剣からイスカを引き離すことに成功した。が、いまだに興奮冷めやまぬといった風に剣を見つめ続けている。
『き、気色悪いガキだな……まあいい、オイ! 黒髪のガキ! お前が俺様を抜いたのか?』
黒髪のガキ……多分俺のことだろうな。イスカは緑がかった髪の色をしてるし。
「ん? ああ。一応俺が抜いた。だが俺の名前はガキじゃない、雄一だ」
『あっはっは。それは失礼した。お詫びにユーイチ、お前にこの俺様、魔剣『テネブラエ』を所持することを許す。存分に力を振るうがいい!』
「…………なんかエラそうだし、イラネ」
「『えっっっっっ!!!!?』」
イスカと剣……テネブラエっつたか?とにかく一人と一本が同時に驚いた。
なんか上から目線だし、一人称『俺様』だし。
「正気ですかユーイチさん! 伝説級の魔剣って言うのは扱えるのは世界中でたった一人なんですよ?それがユーイチさんだったというのはとんでもない奇跡なんです!」
『そ、そうだぞユーイチ! それにお前さん武器が手に入らないと困るんじゃなかったのか!?』
確かに武器が手に入らないと仕事ができなくて困る。
だが、しゃべる剣が欲しいかと聞かれたなら答えはNOだ。
「確かにそうだけど、これが珍しい魔剣とやらと分かった以上、店側としてももっと高値を付けるんじゃないか?」
何しろ伝説級の魔剣なんてものなら初めにテネブラエが言ったように白金貨一万枚はしてもおかしくないだろう。あいにく俺は銀貨一枚の剣にも手が届かないほど金欠だ。とてもじゃないがそんな金は出せない。
「いえ! その心配はありません! この国の法律では魔剣に選ばれた者はその身分がなんであれ、その人間の所有物であらねばならない。とあります。ですから銀板5枚と言わずこの魔剣は無料で差し上げます!」
『おお! 太っ腹だ! 眼鏡の兄ちゃん。ホラ、眼鏡の兄ちゃんもこう言ってくれているんだ、遠慮せずに俺を受け取れ!』
ん~、確かに無料って言うのは魅力的だ。しゃべる剣っていうのは気持ち悪いが、それを除けば超高性能の剣らしいし、ここは…………
「だが断る!」
断ってみる。
「『なんで!!?』」
再び一人と一本がハモる。
普通ならここで受け取るのが常識だろう。
しかし、俺はある言葉が耳に入ったのだ。
『魔剣に選ばれた者はその身分がなんであれ、その人間の所有物であらねばならない』
逆に言えば所有しなければ罰せられるということだ。
これは俺だけではなく、イスカにとっても弱みになる。
なにせ俺が「この人が魔剣を譲ってくれなかったんです!」と裁判官(いるかは不明だが)に泣き付けば罰せられるのはイスカのほうだからだ。ケケケ。
「俺にテネブラエをもらって欲しくば何かおまけを付けてもらおうか!」
「『ええええええええぇぇぇ!!!?』」
「ちょっとひどいですよユーイチさん! 僕の店を潰すつもりですか! 見損ないましたよ!」
失礼な。
合理的と言ってもらいたいものだ。
それにこれはイスカにとっても悪いことではない。
俺はイスカの肩に腕を回し、耳元にこうつぶやいた……
「考えてもみろ、この店で伝説級の魔剣が見つかったと噂を流せば、「もしかしたら他にも」って客が増えること間違いないぞ? そうすれば売り上げもうなぎの滝登り状態になるにちがいない(多分)」
そうすればおまけ分もすぐに取り返せるだろう。
「う、うぅぅぅぅーー。わがりまじだ。ずぎなのもっでっでぐだざい」
泣かせちゃったよ。
まあいいか、くれると言っているのだ。しょうがないからもらってやろう。
「おい、テネブラエ。この中で使えそうな防具ってあるか? 俺には良し悪しが分からないからな」
『あ、あんたも鬼だな。あ~、この中でってぇと……その篭手と胸当てと……盾……は必要ないか、俺様両手剣だし。じゃあそのすねあてだな』
他にも選ぼうと思ったが、イスカがガチで泣き一歩手前だったのでこれだけにした。
篭手、胸当て、すねあてを装着してみると制服には合わなかったのか、少しぐらつく。
でもまあ、この程度なら大丈夫だろう。
おお! 冒険者っぽくなったんじゃないか?