第六十話 元
『元所有者だ』
「…………」
『元所有者だ』
「あ、いや。二回言わなくても分かってるから」
元所有者。つまり俺より前にテネブラエを扱っていた人間と言うことになる。だが、確かテネブラエは伝説級の魔武器とか言って、扱えるのは世界でただ一人と前に聞いたことがある。昔に所有者がいたとしても、それはもうすでに死んでしまっていないものだと解釈していたのだが、どうやら目の前に居る少年を見るにその解釈は間違っていたようだ。
「なに? 御存命だったの?」
『いや……死んでるはずなんだがなぁ』
「いやいや、生きてるじゃん。目の前に居るんだから。おかしいだろ」
『おかしいなぁ……』
死んだ奴が生きていたなんて話は大体が漫画の中だけの出来事である。ほぼ間違いなく死ぬであろうシチュエーションで、死体が見つからなかったと言うだけで生存フラグになる位のことだろう。
「大丈夫だよテネブラエ。僕はちゃんと死んでるからさ。ここに居るのはちょっとした手違いなんだよ」
『ああ、なんだ。なら一安心だな』
「おい待て、突っ込み待ちかそれは?」
目の前の人間が「実は僕死んでるんですわっはっは」なんて突然言い出したなら、まずそいつの頭を疑うことから始めるべきだろう。どのあたりが一安心なんだよ。
「とりあえずあれだ。お前は敵じゃないって認識で良いんだな?」
少年に指さして聞いてみた。すると少年は大変に申し訳なさそうな表情を浮かべ、苦笑い気味に返答を述べた。
「うーん……申し訳ないんだけど、ユーイチくん……っだったっけ? 君を殺すように命令を受けているんだ」
『ああん? 害獣駆除すら嫌がってたお前らしくもない台詞だなオイ。一体何があったんだよ』
「色々あるんだよテネブラエ。僕じゃどうしようもない力が働いているんだよ」
その力とやらにちょっとは抗ってもらいたいものだ。
「ある人……まあ人かどうかは疑問だけど。とにかくその人に大勢が操られてるんだ。僕も含めてね。今この森に来ている人達はそのほんの一部でしかないそうだ」
『ベネ達も同じってか……死人がよみがえる? 冗談だろ』
「あれか? こっちの世界じゃ死人はMP消費で蘇るのが普通なのか?」
『普通でたまるか! んなことできる輩がいてたまるか! そんなもん神かなんかでなきゃできるわけがねぇよ!』
その神様を知っている身としては、あんまりできるようには思えないなぁ。髭面のおっさんにカタコト少女だもん。死人の復活! なんておどろおどろしい発想自体しなさそうだ。
少年は頭を二、三回掻くと、再び俺の方へと歩み寄る。さっきまでと違うのは、今度はテネブラエにそっくりな剣に手をかけたと言うことだ。正直ビビるね。テネブラエの元所有者。世界にたった一人の使い手。そんな肩書を持つならば、弱いわけがない。
「ユーイチくん。申し遅れたけど、僕の名前はコモン・フラットだ。よろしくしなくていいよ。全力で抵抗してくれ」
言われなくても全力で逃げさせてもらおう。フランを抱えてダッシュと言うのはどうだろうか?……あ、駄目そう。フランの体に触れた瞬間に静電気の数万倍の電撃が直撃しそうだ。機嫌が悪いだけじゃなくて酔っ払ってるからなぁ……この状況を正しく認識してくれているとは思えない。今も不機嫌な顔で俺の背中めがけてにらみを利かせてる状態だもん。
そんなことを考えているうちに、コモンと名乗った少年はテネブラエを抜き放った。……そう。コモンが持っていた剣は、まごうこと無きテネブラエだった。そしてそのくすんだ刀身は、ゆっくりと俺の胴体へ水平に襲い掛かった。
ま、まさかこれは……有名なアレか!? 光景がスローモーションになって走馬灯が見えたり、一瞬で300文字くらい心の中で喋ってみたりする……死ぬ前の……
「のわぁっ!?」
ギィンッ!!
…………別にそんなことはなかった。とっさに振った俺のテネブラエは、コモンの剣を普通にはじき捌いた。つまりなんというか……本当にゆっくりだったのだ。コモンの太刀筋は。走馬灯とか死ぬ寸前とか、そんなチャチなもんじゃ断じてなかった。
「え……なに?」
「たあーー!!」
カンッ! 二度目の振りもやはり遅い。
剣は遅くて筋は見え見え。踏み込みと腕の動きがバラバラで、柄の握りさえも逆。
「弱い……ってか素人?」
『剣の腕は相変わらずか……鍛える間もなく死んじまってるから無理もないが』
呆れ声でテネブラエがそう言った。一方のコモンの表情もばつが悪そうに苦笑い。何だろうこの空気。少なくとも殺すとか殺されるとかの雰囲気では無いな。
「すごい! 強いなユーイチくん! なんで避けられたのか全然わからないよ!」
「いや……単にアンタが弱いだけだろこれ……」
拍子抜けと言うかなんというか。
「……ユーイチ様~。結局この人なんなんれすか? はっ!? まさか……この人とも関係を!?」
「やってたまるか!! いいからフランは黙っててください!!」
フランが腐り始めている。でもそんな趣味は俺にはないので全力で否定させていただく。
左手で暴れるフランを押さえつつ、右手では剣技になってない剣をふるうコモンを捌く俺。
「やぁー!」
「ええい、鬱陶しいわっ!!」
「痛い!?」
うざいコモンの頭に空手チョップ。だって本当に弱いんだよこいつ。焦りもせず、怖くもないが、大変に鬱陶しい。テネブラエを使うまでもない。と言うか使っちゃ可哀そうに感じるくらいに弱い。
今の空手チョップだってかなり手加減してやったのに、両手で頭を押さえて涙目で唸る有様。
「……なあ? 本当にこいつ、お前のもと相棒なのか? ちょっと弱すぎるような……」
『まあ、コモンは剣をちゃんと習ってたってわけじゃないしな。剣術に関して言えば素人かそれ以下だ』
「素人以下ってカテゴリーがあるのが驚きだよ」
でも思わず納得してしまうほどの腕前をコモンは持っていた。ただ剣術を知らないと言うだけじゃなく、根本的に才能と言う物がないのかもしれない。
「ま、まいったな……君に勝てる気がぜんぜんしないよ」
「ああ。俺もお前に負ける気が全然しないよ」
『泣ける話だ』
「つか、もうやめようぜ。お前の腕じゃ無理だって。そんなんじゃ一発も喰らわな……あれ、これフラグじゃね?」
自分の言葉の端にフラグが立つ光景が見えた。いかん、ただでさえいつも傷だらけで戦っているのに、フラグまで立ててしまえばなおさらズタボロになってしまう。
「でもそう言うわけにはいかないんだよね……たぁっ!」
「はぁ……まったく」
今度は剣先を俺に向けて突っ込んできたコモンを、ちょっとだけはじいて軌道をずらした。体重移動も滅茶苦茶なコモンの体は簡単によろけておかしな方向へと突き進む。挙句、コモンのテネブラエは大木へと突き刺さってしまった。
「ちょっ……抜けな……!」
「ふむ……よし! じゃあこの辺りで俺とフランは御暇させてもらおう。逃げるがビクトリーって言うしな」
『言葉の意味は分かんねぇけど絶対間違ってるだろそのことわざ』
コモンのテネブラエは大木に深く突き刺さったようで、あれはしばらく抜けそうにない。弱い上に剣まで無ければもはやモブキャラ。全然怖くないし脅威でも無い。
さて、じゃあ宣言どうりに御暇しよう。つまり逃げるってこと。コモンからと言うよりは他の連中からだ。コモンを除く他の敵たちは本当に強い。なら無理に戦うことはない。里から出て他の街を目指したって罰は当たらないはずだ。アエルやステラさんもいるんだし、多分何とかなるだろ。……ちょっと無責任かもしれんが、「じゃあ俺の責任って何?」って話になるので止めておこう。
「…………ユーイチ様……もう夜れすか? なんだか暗くなっれます」
「フラン、お前はちょっと酔い過ぎ。逃げる前に水でも飲んだ方が良いな」
フランの両眼は俺ではなくなぜか斜め上方向へと向いていた。こりゃいかん、アルコール中毒とかになってなきゃいいけど。
だが、フランの言動に呆れていたすぐ後。それが決しておかしなものではないと言う感覚に襲われた。なぜなら、周りに居たマギサ達ガキどもも、同じように斜め上を眺めて口と目を大きく開けていたからだ。……なんだ、流行ってるのか? なら習って俺も見てや…………あ?
『言い忘れてたがユーイチ』
「……あ、ああ……?」
『コモンは確かに剣術は弱いが……』
視線をあげた先には、突き刺さった剣を支柱にして大木を丸ごと持ち上げているコモンの姿があった。
『強いぞ』
そしてその大木は、当然のように俺たちの頭上へと降ってきた。
* *
「ぬぅ~~っ……だっ! あ、やっと抜けた」
大木に深々と突き刺さった剣を抜くと、コモンは達成感のある表情でこちらを見てから、今度はがっくりと肩を落とした。その視線の先にあるのは、胸を押さえて息を整えながらフランを抱える俺と、辺りに散乱しているマギサ達ガキどもの姿。
「し、死ぬかと思った……! お花畑見えたっ!」
心臓がバクバクと鼓動を打って息が乱れる。実際は無傷だったけど、コンマ一秒判断が遅れていれば死んでいたのは確実だ。すぐ隣りに横たわる大木を見て、潰される俺を想像してゾッとする。
大木が目の前に迫った瞬間、俺は空間術を展開。大木の影がすでに広がっていたので後は沈み込むだけだった。フランを抱え、ついでにマギサ達も一緒に取り込んで避難させた。
「やっぱりこれじゃ駄目か……うーん…………」
頭を掻いて唸るコモン。どうやって俺を殺そうかと考えているのだろうか? そんな物騒な考えは捨てて欲しいものだが、世の中そう上手くは行かんだろう。
まだ全然戦う気であるコモンの様子を確認して、俺は自分の中の警戒レベルを引き上げた。テネブラエの言うとおり、コモンは強い。剣術なんてオプションだと言わんばかりの怪力。コモンの剣をはじいたり流したりせず、真正面から受けていたらとんでもない目にあっていただろう。下手をすればテネブラエがへし折られていた所だ。
『へし折られてたまるか! 伝説級の魔武器なめんな!』
なんかテネブラエが抗議の声をあげているがここは無視の方向で。
ともかくコモンから距離を取ろう。あの怪力だと、かすっただけでも致命傷になりかねない。骨折とかで済むかなぁ……済まないよなぁ。
「……よしっ。少し疲れるけど、あれで行こう」
「ちょっ、何するかしらねぇけど疲れるんなら止めておいた方が良いぞ! 自分の体をもっと大切にしろ!」
『なんだその弱腰』
うるせぇよ。コモンは疲れるし、俺は心臓に良くないし。どちらにとっても良い選択じゃないか。
だが、そんな俺の心遣いはコモンに届かなかったようで、普通に剣を構えられた。相変わらず滅茶苦茶な構えだが、さっきまでとは違ってやや上段気味。それに何の意味があるのかは……すぐに分かった。
なんかコモンが持っている剣が光り出した。電球に電気を通したみたいに少し赤みがかった光がボヤーっと。
『おいおいマジか! なんで使えるんだよ!?』
「えっ? なに? もうちょっと分かるように説明しろ!」
『と、とにかくアレだ! 避けろ!!』
「なにを!?」
俺は気配なんてものは読めない。コモンが何かしらをしようとしているのは見た目で分かるけど、具体的に何をするのか察知などできないのだ。
「はあっ!!」
コモンが剣を振ると同時に、剣にまとわりついていた光が俺めがけて飛んできた。
『アレをだ!!』
「アレをか!?」
と反応できた時には時すでに遅し。タイミングや俺の反応速度的にもう動くことができない。死んだね。これは死んだわ。ああ、まったく短い人生でした。
……なんて諦めの境地に達した瞬間、俺の後方で『ドォーン!』『バキバキッ!!』『ドッシャーン!!!』と言う三段活用的な轟音が響いた。……そう。コモンが放った光は、物の見事に外れて俺の後ろにあった大木にぶち当たっていたのだ。
「あ、外した。良かった」
……どうやら走馬灯を見るには早いらしい。何と言うノーコン。
だが、その威力はまったく油断していいものではなく、哀れ大木は真っ二つ。なんて言うんだろ? 光の斬撃って言うのか? そんな物が俺の体に当たれば確実にスプラッターなことになる。そんな物に当たってたまるか。死ぬ時は胴体真っ二つじゃなくて布団の上で老衰と決めているんだよ、俺は。
「何アレ! 何アレ!?」
『お前も知ってるだろ、俺の能力の「放出」だ。刀身に納めた魔力を増幅して打ち出してんだよ。ふざけんな畜生! あの剣、俺の能力そのまんまに使いやがる!』
「つっても、死人が動き回ってる時点で驚きようがないだろう。双子の兄弟って所じゃないの?」
『双子の兄弟なんて居ないわ! 妹は居たけどな!』
妹は居るのかよ。
「えっと……あれ? どうだったっけ……あ、持ち手が逆なのか」
ようやく剣の持ち方を理解したのか、逆だった手を直すと、さっきよりかは幾分かマシな構えになったコモン。どうやら……いや、間違いなく。ここから先は一筋縄ではいかない。
「あれこれ考えるのは後だ、戦うぞ! あんな飛び道具持ってるんじゃ、いくらノーコンでも背中見せちゃまずい!」
『ああクソ! あの偽物野郎め、叩き折ってやる! 俺の個性を返せ!!』
そう言う話じゃないと思うが。
さて状況整理。逃げる選択肢が無くなった。隙があれば逃げたいが、フランを抱えて逃げるとなると隙がでかすぎてさすがにヤバい。なら戦って勝つ方が早いし確実だ。コモンは間違いなく強いが、それでも前に戦った神父や二人組の男よりは実力は下。ただ厄介と言うだけ。まともに戦えば勝つのは俺だ。
『一応言っておくが、あいつの攻撃範囲は結構広い。できれば嬢ちゃんを抱えたまま戦った方が良いぞ。巻き込みたくなきゃ』
「…………ま、まともに戦ってくれれば……お、俺の方が強い!」
『声震えてるぞ』
一発でも当たれば即アウトなんだから、フランを抱えてようが放置してようがフランの安全性は変わらないだろう。だけど抱える俺はそうはいかない。人を抱えて戦うと言うだけじゃなくて、電撃が飛んできますからね。
「ふぅ……っ!」
コモンがさっきの構えを取った。同じく光る刀身は、先ほどよりも数段でかい光源として俺の目をくらませる。
『さっきよりデカイの来るぞっ!』
「見りゃわかるわっ! お前らも避けろ!」
フランを抱えたまま、マギサ達に警告を与えると、俺はおだててもないのに空を飛んだ。ただのジャンプだが。
直後、俺がいた場所に斬撃が直撃。地面をえぐり取っておまけに数本の大木をなぎ倒してかき消えた。さっきよりも数段威力が上。いくらノーコンとは言え、持ち方を直したのでわずかにコントロールが良くなってるし、あれほどの範囲攻撃なら多少ノーコンだろうが関係なくぶっ飛ぶ。
「こんにゃろがっ!」
吹き飛んだ枝を足場にコモンへと突っ込む。さすがにあれだけの攻撃を連発はできないようで、奴の表情は強張ってこちらを見ていた。これで決める! さっきの手加減空手チョップではなく、全力の右ストレートを顔面に叩き込む!
「ちょっろ痛いですユーイチ様! 離してくらさい!!」
「あばばばばばばばばばっ!?」
フランの電撃、プライスレス。
電撃を喰らっても割と平気なポケットにモンスターをひそませている少年とは違い、佐山雄一と言う少年はもろにダメージをもらってしまうのでホントこう言う行為はやめて欲しいのですと言う長い台詞が頭をよぎった。そして直後に地面へ落下。
「なにすんじゃこらぁ!!」
「むにゃむにゃ……ユーイチ様~」
って、寝とる!?
俺の腕の中で眠るフランと言うのもなかなかグッとくるシチュエーションである。こんな危険な状況でなければだが。
眠った状態でさえ俺の心臓をどきどきさせてくれるとは、中々フランも罪な女だ。いや、逆に心臓が止まりかけてしまったけどな。
「えっと……ごめん、攻撃するよ?」
電撃で身を焦がしつつ空を見上げてみれば、そこには剣を振りおろそうとするコモンの姿があった。せめてもの誠意なのか、攻撃予告とは良い奴じゃないか。
だがその誠意とは関係無しに剣は俺に振り下ろされた。当然だよね、うん。
「させるかっ!」
とっさにコモンの足を払う。バランスを崩したコモンは、それでも剣を振りおろした。剣筋は俺の髪の毛を掠めて地面へと吸い込まれ、そして俺を地面ごと吹き飛ばしてしまった。
『こんの馬鹿力! ちったぁ手加減しろ!!』
「ごめんよテネブラエ!」
「何なんだこのやり取り!」
吹き飛ばされながら突っ込みを入れた。戦いたくないなら戦わなくていいんですよコモンさん。
飛び散った砂や小石で細かい傷を負いながら俺は考える。考えるなんて似合わないことをやりたくはないが、考えないと勝てな…………あれ?
「何やってんだ俺?」
『あ?』
ふと我に返った。相手が強いとか、どんな能力を持っているとか、なんで俺はそんな小難しいことばっかり考えながら戦ってるんだ?
面倒くさい。そもそも俺はそんなことを考えて戦うスタイルじゃないはずだ。元の世界の喧嘩ではそんなこと考えた事すらなかっただろうに。
すー……はー……
深呼吸。
よし落ち着いた。俺は馬鹿だ。……泣ける話だ。
グダグダと状況を心の中で文章化するのはもうやめだ。夏休みの宿題では小説の感想文を書く作業が3番目に苦手だった。
状況? 単純じゃないか。コモン=敵。敵=ボコる。はい、説明終了。
「おいマギサ!」
「あ、ああ?」
「フランを頼む!!」
端的に要件だけを伝えると、空間術にフランをしまい込む。そしてほぼ同じタイミングで木陰からフランが落下。見事マギサの頭上へと着地した。
「痛っ!?」
『どんどん使い方がうまくなってるな……』
「ふふ、だろ?」
自画自賛。その直後にマギサから「そんなに大事なら影に仕舞いっぱなしにしとけばいいじゃないか!」と言う至極まっとうな訴えをもらったが、実は空間術の都合上それができない。
テネブラエからの空間術の説明で、『生き物を空間に仕舞い続けるのは避けろ』と言う物があったのだ。理由として、空間術の中にはそれほど空気が入っておらず、長時間生物が入っていたら窒息してしまうとのこと。
出来ないのには出来ないだけの理由があるのである。決して後付けなどでは無いと付け加えておこう。
「さて、んじゃ闘るか!」
片方の拳をもう片方の手のひらにぶち当てて、俺はコモンを真正面に見据えた。んでもってダッシュ。
流れた攻撃がフランに当たらぬように位置取りだけは確認しつつ、距離を詰めてテネブラエを振り上げた。
「うわわわっ!?」
功を焦ったのか、コモンはろくに溜めもせずに剣をふるった。剣先から出現したのは先程の巨大な斬撃とは打って変わってミニサイズ。
少し横にずれてソレを交わすと、振り上げているテネブラエを思い切り振りおろした。
「ぜいっ!!」
「っ!!」
この一発は防がれる。剣を横にして俺の一撃をいなしたコモンは、自慢の怪力でビクともしない。一応俺の力も相当な物なんだけど、そう平然と防がれるとなかなかショックである。
「シッ!」
「ぶっ!?」
間髪いれずに左手をテネブラエから離してボディーブロー。体の中の空気を吐き出すコモンをしたり顔で見る暇もなく、すぐさま次の攻撃に移る。
右ほほに一発。ボディにもう一発。剣を持ちかえて右フックを左ほほ。
よろけるコモンに蹴りを入れると、さすがに防御をするようになってしまった。肩をすくめて両手を前に。まるでこっちがいじめをやっている気分だったけど、さんざん殺されかけているので罪悪感なんてものはこれっぽっちも感じてはいない。ざまあみろちくしょうめ。
『ああ……前の相棒なのに…………哀れ』
「ふはははは! まともに戦えば俺の方が強ーーい!!」
ここまでくればこっちのペースである。防御と言っても完全に素人。腕の隙間に向けて拳を放てば簡単にクリーンヒットするのであまり意味はなかった。
「このっ! いい加減にしろ!!」
そりゃまあキレますよね。コモンはやけくそ気味に剣を振り上げると、俺の頭のてっぺんを狙って剣筋が落ちて来た。
だけど現在の立ち位置はほとんどゼロ距離。力は乗らず、速度もない。俺は「見えたっ!」と言いたくなる口を紡ぎながらコモンの腕を取った。
「でえぃ!!」
華麗なる一本背負い。武術経験者相手ではなかなか上手く決まらないであろう技を大変気持ちよく決める。受け身も取らず、背中と後頭部を打ちつけたコモンの目は左と右を激しく往復していた。
そんでもって次が止め。もはや俺をちゃんと見れているのかどうかという状態のコモンに向かい、テネブラエの切っ先を向ける。
「待っ……!!」
ドスッ!!
鈍い音が響いた。………………ああ、いや。実際に顔面に突き刺したりはしてませんよ? この歳でそんな凶悪犯罪の前科もちになってなりたくないしな。
突き刺したのは地面。切り裂いたのも地面である。そして実際の止めはもうワンテンポ遅れて放つ。剣じゃなくて拳の方。
「そんじゃオヤスミ」
右拳が顔面にめり込む音は形容し難く、恐ろしいので割愛するが、決着はついたと言っていいだろう。
コモンの顔面には俺の拳の痕がくっきりと浮かび、黒目は消えて白目のみが俺を見ていた。
『コモン……不憫な子っ!』
「ふわーっはっはっは!! 勝ぅーー利ぃ! まったくの無傷とはさすが俺!」
なーんだ、やっぱり俺は強いんだな。これからは何も考えずに闘うことにしよう。グダグダ考えながら戦った時と傷の量に差があり過ぎる。解説に気を取られ過ぎなのかもしれん。
「さて……そんじゃま、フランを回収して逃げるとしますか」
『俺様的にはベネ達とコモンが生き返った理由が知りたいんだが……』
「俺そんなこと興味ない」
別にベネ達やコモンに直接面識があるわけでもないし、生き返ったと言っても「異世界だ」と言う一言で俺の中で解決だ。あれだ、チート能力を持っている奴がいるってだけだろ? そんな奴よくいるよ。フィクションの中でだけど。
「おーい! フラン! そろそろここ離れ……」
瞳に映るフランの姿。周りにはマギサ達エルフのガキどもの姿もある。果てしなく興味のないガキどもだったが、この時はなぜか俺の注意はフランよりそちらの方へと向けられた。
フランは相変わらず眠りこけて何のアクションもなかったが、マギサ達は違ったのだ。なにやら必死な形相でこちらを見ながら大きく手を横へと流している。
俺はその意味を、直後自分を襲った衝撃と、空中から見るコモンの立ち姿で理解した。
「だから俺は気配なんて読めな……ごほっ」
空中を舞いながら俺が吐いたのは赤黒い血。
そして今瞳に映るのは、影がうぞうぞとまとわりつく、元コモンの姿だった。




