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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第三章 エルフの里でラブコメディ
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第五十九話 ある意味最強の酔っ払い



ベネディクト達が居た場所から離れていくと、先程までけたたましく鳴り響いていた戦闘の轟音がだんだんと聞こえなくなった。

とにかく真っすぐ、結構なスピードで走り続けているのだが、一向に森に変化が起きる様子がない。どこまで行けどもずーっと木のみが続いているだけだ。


『…………い。おい!』

「あ? なんだ?」


テネブラエの声に大きく動かしていた足を止めた。息を吸い込み、吐き出して乱れた呼吸を整える。


『お前どこに向かってんだよ』

「さっき言ったろ、フランを探しに…………あ」


ここまで走っておいて気がついたのがテネブラエの一言だったのが悔しいが、そう言えば俺はフランの居場所を知らなかったのだ。しかもとにかく真っすぐに走り続けていたため、自分が今どこに居るのかさえ分からない状態。

そうなんです、俺は遭難したのですよ。くだらなくてすみません。


「……どうしよう」

『ホント行き当たりばったりだな』


とは言え今更引き返したところで元の場所に戻れるとも思えない。余計に状況が悪化することは必至である。ではどうすればよいか。

選択肢一、やっぱり来た道を引き返す。……先に述べた理由で却下。そもそもよしんば元の場所へたどり着いてもベネ達との戦闘に逆戻りである。

選択肢二、助けを信じて動かずに待つ。……いやいや、助けに行こうとしてるのが俺だから。助けられてどうするんだっての。

選択肢三、俺たちの捜索はまだ始まったばかりだ! と言って再度前進。……どう考えても打ち切りエンドです。本当にありがとうございました。


「本当にありがとうございました」

『は?』

「あ、いや……心の声がちょっと」

『お前は時々意味わかんねぇな。で、どうすんだよ。フランの嬢ちゃんを捜すにも手掛かりがないと……』



ドゴオォッン!!!



「うわぁおっ!?」

『おわっ!?』


物理的に体が一瞬浮きあがった。それほどの爆音が辺りに鳴り響いたのである。あまりに唐突で大きな音に恥ずかしい叫び声をあげてしまったほどだ。

音の下方向へ目を向けると、空には数本の稲妻がバチバチと言う音を立てて走っていた。かすかに残る太い光の痕は、多分落ちた雷によるものだ。どんだけでかい雷なんだよ。そしてその雷を見て、俺はあることを思い出した。


「……確かフランって雷の魔法が使えたよな?」

『……奇遇だな、俺も今そう聞こうと思った所だ』


あんなにデカイ雷を起こしたところを見たことはさすがに無いが……何だろう、雷に俺への怒りが込められているのが感じ取れる。なんだか雷の痕に怒ったフランの顔が浮かび上がっているようにさえ見えてしまうのだ。

ゴクリ。

思わず唾を飲み込んだ。冷や汗が体中から拭き上がり、色々な場所を流れて地面に落ちるのが分かる。正直、あの雷を見て最初に感じた感情は「恐怖」だったのだ。


「やっべぇ……俺あっちに行きたくない」

『……気持ちは分からなくもないけどな、嬢ちゃんを見つけたかったんだろ。腹くくって行け』

「ぐっ……」


フランを見つけると言うか……彼女に見つかったら先程見えた雷が俺の頭上に降って来そうで怖い。もちろん俺はフランに後ろめたいことなど何もしちゃいないし、怖がる理由なんてないのだが、俺の中の危険信号がこれでもかと言うくらいに赤信号を送っているのだ。味方であるフランに対してなんでこんなにも警戒しなければならんのだか。


「テネブラエ、俺が死んだら骨は拾ってくれるか?」

『この体じゃ無理だ。諦めて土に還れ』

「死ぬって言うのは否定してくれないのかよ……」


頬をつたう汗とも涙とも知れぬ液体を腕で拭うと、俺は意を決して雷の見えた場所へと走り始めた。







「にゃははははっ! 皆さんだらしにゃいですよ~!」

「く、くそ……人間ごときにこの体たらくとは……」




木々をかき分け、雷が落ちた現場へと向かってみれば、そこにはマギサ達子供エルフを跪かせているフランの姿があった。…………フラン?

辺りは焼け焦げ、ついでにマギサ達の体も黒く染めあがって服もボロボロになっていた。どういう状況だよこれ。ここまで至った経緯が全く想像がつかない。


「なにしてんのお前ら……」


状況を整理するためか、もしくはあきれ果てた末なのか、俺の口からようやく出たのはそんな言葉だった。


「あっ、お前! この女どうにかしろ! 手に負えない!」

「あ~、ユーイチ様だぁ…………にゃんでユーイチ様が三人もいるんですか~?」

「は? 三人?」


怒りの果てに俺への抗議を叫ぶマギサの向こう側に、よく見れば酒瓶片手にハイテンションなフランの姿を確認した。どうやら彼女は完全に酔っ払っているようだ。顔は赤く染めあがり、服も少しばかりはだけて体を左へ右へと揺らしていた。俺が三人に見えると言うことは目の焦点すらあっていないのだろう。

…………なんで酔っ払ってるの? 俺はそんな言葉をこぼしてみた。


「それはこっちが聞きたい! あれはおばあさまの酒だぞ! なんであいつが飲んでるんだよ、しかも何本も!!」


さらに良く見れば、フランの傍には数本の空き瓶が散乱していた。もしかしてあの数の酒を一人で飲みほしたのだろうか。


『おお、嬢ちゃん酒癖は悪いが酒豪だな』

「あんだけ飲んで大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないから僕たちがこんな目にあってるんだ!!(泣)」

「「そうだそうだ!!(泣)」」


マギサ達の言葉は真に迫っていた。その悲痛な叫びは彼らの姿を見るに想像に難くない。多分彼らは酔っ払ったフランにおもちゃにされていたのだろう。


「えっと……いや、まあ。とりあえずみんな落ち着いてくれ。話が全然見えないって」

「あの女がおばあさまの酒瓶を盗んだのが見えたから追ってきたんだ。それで今はこのざまで……」

「返り討ちにあったと?」

「うるさい黙れ!!」


理不尽なマギサの怒りが俺にぶつけられた。なんだよ、事実じゃないか。別段間違っていることでも無いだろうに。


「……それで? フランはなんで盗んだりしたんだ?」

「…………ユーイチ様が悪いんですよ」

「あ? 俺が?」


俺は首をかしげた。酒を盗むことと俺にどういった関連性があるのかが分からなかったからだ。


「ひっく……アエルさんやステラさんにデレデレして……しかも気がつけばレディさんって言う美人な方もはべらしてたし。ひっく……ユーイチ様の女癖が悪いんです!」

「はぁ? 待てよフラン。女癖って……アエルとステラさんにデレデレしたことなんてないし、レディだって成り行きで連れて来ただけだぞ?」


女性をはべらすなんて行為、これまでの人生で一度だってあったためしがない。まあ17歳で女をはべらしていたらそれはそれで不自然ではあるが、今はそういう話ではあるまい。


「それに盗んでにゃんて居ません、人聞きが悪いです。ちゃんとステラさんから許可をもらってます」

「お、おばあさま……」


あの人、結構ろくなことしないな。マギサもがっくりと肩を落としてため息をついている。

ふんっとそっぽを向いて酒をあおるフラン。どうやらまともに話ができる様子では無いらしい。発情期がどうとかで情緒不安定な上に、酒まで入ってしまえば手の着けようがない。例え勘違いであったとしても、話を聞いてくれないのではどうしようもないのだ。


「と、とにかく。話は後で聞いてやるから今は落ち着け。今はそんな場合じゃないんだよ」

『そういや本題から大分ズレてたな』


本題はフランが酔っ払っているとか、勘違いがどうとかでは無い。俺はここにフランを保護しに来たのである。……正直今ではそんな必要はなかったのではという思いが俺の頭の中を占領しているが。


「マギサ達も聞け! 里が知らない奴らに襲われてる! お前らも逃げるか助けに行くか考えろ!」


俺がそう叫ぶと、マギサを除く子供たちが互いの顔を見合わせて困惑した表情を浮かべた。どうやら彼らは里が襲われていることを知らなかったようだ。まあ、ここは恐らく里から相当離れた場所にあるので、気付かないと言うのも頷ける。だが、ひとつ疑問に残ることがあった。先程、子供たちから除外したマギサの存在だ。彼の表情は子供たちとは違う、青白く血の気の失せた表情。それは困惑と言うよりも、ショックを受けた人間が浮かべるものだった。


「ウィ、ウィズ兄が……本当に…………?」


誰に聞かせると言う物では無く、一人つぶやいたマギサの声が俺の耳へと運ばれた。俺は難聴が取り柄の鈍感主人公群とは違うのである。


「マギサ、何か知ってるのか?」


そう尋ねると、マギサは顔をあげて全力で頭を振った。顔は青白いくせに汗だけは大量に噴き出している。その表情に、俺は確実に何かを隠しているだろうと言う答えを導き出した。まあ俺以外でもマギサの表情を見れば分かることだろう。それぐらいあからさまにマギサは動揺していたのだ。ひょっとしてこいつは嘘とか付けないタイプの人間なのではないだろうか。


「ウィズ兄……なにそれ? 俺が忘れてるだけってわけじゃないよな?」

『俺も一応初耳だな』

「で、なに? ウィズ兄って? て言うか誰?」


一字間違いで某ネズミが生息している夢の国ではないだろうな。

俺の疑問に対する答えは首を横に振るマギサジェスチャーだけであった。意地でも言いたくないらしい。


「ま、それはそれで良いけどな。結局俺には関係のない話だし……前の街とは違ってフランが人質になっているわけでもないしな」


とりあえず逃げるか。


『お前って変な所だけ淡白だよなぁ。結局巻き込まれることになりそうだ』

「フラグを立てるのはやめろ!」


本当に巻き込まれたらどうする気なんだこいつは。

まあそんなわけで俺とフランはここからトンズラこかせてもらいたいと思います。食料問題が解決できていないのが痛いが、それで留まって死んでしまいましたー、なんて言うのは本末転倒である。当分激マズ魔物肉オンリーの生活だろうが、そこはあれだ、料理スキルを磨くいい機会だと思えばよかろう。


「と言うわけだ。フラン、とっととズらかるぞ」

「…………嫌です」

「よし! そうとなったら持てるもんだけ持ってすぐに………………「嫌」?」


あれ? 聞き間違い……じゃないよな? なんか、嫌って言われた気がしたんだが。


『気がしたんだが……じゃなくて言われてるぞ、実際』

「あの、フランさん? 状況が分かっていらっしゃらないようで……」

「さっきから難しいことばっかり言って……私を置いてきぼりにするつもりですね!!」


フランが吠えた。人間の言葉を発しているが、その奥底からは肉食獣が放つ重たい方向が混じっているように俺の鼓膜を震わせる。その迫力は認めよう。ハッキリ言ってカッコイイと思えるくらいである。だが待って欲しい、彼女が何を言っているのかが分からない。


「もう良いです……ひっく。私を置いてアエルさんの所へ向かうつもりなんですね!!」

「いやいや! 今さっきアエルの所から逃げて来たわけで……」

「じゃあレディさんですか!? 現地妻ですねいやらしい!!」

「ちょっとは話を聞いてくれよ!!」


著しく話がかみ合わないこの状況。なんて面倒くさいのだろうとため息をつくことすらできずに俺は困っている。いやはや酒の力とは恐ろしい。いや、加えて発情期もあるんだったな。

チラリとマギサ達を見てヘルプの視線を送ってみた。マギサはうつむいてこっちを見てくれないし、他のガキどもは目を合わす傍から逸らしてしまう。……まあね、知ってたよ? 味方なんて居ないってさ。


「と、とにかく落ち着こう。クールだ! クールになるんだフラン!」

「なんですかくーるって! 難しい言葉は分かりませんって言ったでしょう!!」

「ああ……余計ややこしく!」


ドオォン!!

誰か助けてー! なんて叫ぼうかなと思った矢先、すぐ近くの森の中から辺りに響き渡る重低音が聞こえて来た。その音が発せられると、次はバキバキッ! と言う音を鳴らしてもう一度低音が地面を揺らした。

俺やフラン、マギサ達も一斉に音の下方向へ視線を向けると、なぜだか木が一本、また一本と倒れている光景があった。しかもそれは、徐々にこちらへと近づいているように見える。


「なにアレ」

『俺に聞くな、知らん』


バキバキッ!! ドオォン!!

目算で数百メートルくらいの距離で、倒木の行進は止んだ。なにやら嫌な気がする。嫌な気配とかじゃなくて、嫌な気がする。絶対これ面倒なことに巻き込まれる雰囲気だろ。

視線を倒木の方向へと向けながらテネブラエに手を掛け、息を整え、いつでもフランを抱えて逃げられる姿勢を取っておく。


『闘わないのか?』

「避けられる戦いは避ける。これが俺の処世術!」

『これまで避けられた試しがあるのか』


呆れるテネブラエをよそに、目の前に『何か』が来るのを待つ。待つ必要はないかもしれないが、何に追われるかどうか知っておくことも逃亡に際しては重要なことだ。相手が鈍足の不良程度なら良いが、もしアスリート並みの脚力を持つ殺人犯なら逃げる前に警察を呼びます。そんなifに意味はあるのかと聞かれれば「ある」と答えよう。ようは心構えの問題なのである。


『来るっ!』

「来たかっ!」

「……あ、どうも」


…………ん?

目の前に現れたのは、ハッキリ言って地味と言う意外表現しようのない少年だった。のんきな挨拶をこちらへと投げたため、危うく挨拶を返しそうになってしまった。

少年と言っても、俺とそう変わらないほどの年頃の男。髪の毛は茶色で背丈は俺よりやや低く、服装も戦闘向きのものでは無く、むしろ仕事着のような革製のものだ。

さっきまでの嫌な気はこいつが原因であると言うことが疑問に感じるほどの凡人っぷり。「こいつ……強ぇ!」なんて少年漫画チックな登場でも無く、全身全霊で目の前の男に脅威を感じることができない。ただ、その男が持っている剣だけに、俺の目線は吸い込まれた。


「あれ、テネブラエ?」


黒のベルトにぐるぐる巻きにされたその姿は、俺が手に持っているテネブラエの特徴と非常に良く合致する。なんだ、双子だったとは初耳だ。


『おいおい……マジか、どうなってやがる』

「やあテネブラエ。やっぱり、そっちが本物(・・)なんだね」


のんきに挨拶を言葉にする男とは裏腹に、テネブラエはやけに驚いた様子だった。

テネブラエ(仮)を携えた男は、すたすたとこちらへ近づいてくる。あまりに敵意のないその姿勢に、俺はもはや戦闘態勢を崩していた。


「また知り合いかよ」

『ああ…………こいつは俺の……元所有者だ(・・・・・)




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