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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第三章 エルフの里でラブコメディ
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第五十四話 ピンク色一色

俺が目を覚ました時、世界はひっくり返っていた。

別に、ゾンビが蔓延していたり、宇宙人の攻撃があったり、文明が崩壊していたなんてことではない。

今回の場合、そう言った時に使う比喩表現ではなく、俺が見ている風景が上下逆さまに映っていたと言うだけの話である。


――――と言うか、縛られて木に逆さまに吊るされていた。


「……待て、なにがあった」

『おっ、やっと起きやがったか』


現状の疑問を口にすると、テネブラエの声が真下から聞こえた。

目を向けてみると、俺の真下。テネブラエが木に立てかけてあった。


『酒乱ってのは聞いてたけど、まさかあれほどとは思わなかったな。ジジイとやらの教えも納得だ』

「…………ごめん、何の話?」

『覚えてないのかよ……』


テネブラエの言っていることが良く分からん。

なんだっけ? 俺が最後に覚えている記憶と言えば、祭りの場でステラさんに酒を勧められた所までだ。その後の記憶がぶっつりと途切れてしまっている。

やけに体が痛いのと、なにやらわからない達成感があるのだけど、


「えーっと……なんだ? 酒に酔って暴れたとか?」

『まあ、暴れたってのは間違い無いんだが…………いや、やめとこう。お前の名誉のためだ、知らない方が良い』

「なにがあったの!? そして俺は何をやらかしたの!?」

『兎も角、その結果が今のユーイチの状況だ。それぐらいで済んで有難いと思え』


本当に何があったんだよ……

俺ってそんなに酒癖が悪いのか? ジジイとか護とかが大げさに言っているだけと思ってたけど……本当に俺は酒を飲むべきではないのかもしれない。



「おー、なんだアンタ。やけに面白いことになってんな」



飲酒に関して今後の戒めをしていると、聞きなれない男の声が俺の耳に届いた。

吊るされた状態の俺のやけに狭い視界に入ってきたのは、金髪で金色の瞳。耳は長く、やや男性よりな中性的な顔立ちのエルフだった。

エルフと言うのは、かなりの割合で男女の見分けがつきにくく、おまけにみんな美男美女ばかりなので見分けがつきにくい。

だけど目の前に居る男は、ステラさんやマギサのように、他のエルフにはない独特な雰囲気を放っていた。


「誰?」

「ニンゲンに誰と聞かれて答えるような趣味はねぇよ。カッ! どうしてもってんなら、そっちの名前から教えてもらおうか?」


なんだ、この態度の大きい野郎は。

マギサもこんな感じだけど、それよりもはるかに敵意と言うか、悪意が一言一言に込められている気がする。


「……じゃあ教えてもらわなくても結構だ。野郎の名前に固執する趣味なんてこれっぽっちもないんでね」

「カカッ! そりゃそうだ。ちなみに、お前が名前を教えた所で、俺の名前を教えるつもりもないけどな、ユーイチ・サヤマ?」


知ってんじゃねぇか俺の名前。

……なんかこいつと喋ってるとイライラするなぁ。完全に俺を見下してんだろこの野郎。

ああ、物理的に言えば俺がこの野郎を見下してることになるんだけどな(笑)


「で? 名無し野郎が俺になんか用か? できればすぐにでも俺の視界から消えて欲しいんだけど」

「カッ! ニンゲンごときがずいぶんとでっかい態度だなぁオイ。まあいいや、じゃあ一つだけ…………お前デウス(・・・)エクス(・・・)マキナ(・・・)って知ってるか?」

「……は? なんだその「かっこいい単語を並べました」みたいな言葉。なんかの呪文か?」

「……ふぅ、やっぱり知らないか。なんであの人(・・・)もこんなやつに興味を持つんだか」


なんなんだこいつは。勝手にやってきて、勝手に質問して。挙句の果てに呆れたと言わんばかりの表情を向けられた。

理不尽とか言うつもりはない。なんかムカツク。ただそれだけ。

何かを勘違いしたチンピラに絡まれている感じだ。暴力に訴えないこういったタイプの方が俺は苦手なのである。


「さっきから何を言ってんだよ。そう言う何かを含ませた台詞って、そろそろお腹いっぱいなんだけど?」

「良いんだよ、理解なんてしなくても。大体お前は……っと、これはやめといた方が良いか」

「?」

「ま、お前には関係のないことだよ。だから関わってくるんじゃね(・・・・・・・・・・)()


そう言うと、男は俺に背を向けてこの場から去って行った。

「関わるな」? 何のことを言っているのかさっぱり分からないが、関わり合いになるなんてこっちから願い下げだっつうの。俺は基本的に平和に暮らせればそれで良いんだから。

根本的に面倒くさい出来事は俺の意志に関わらず、向こうからやってくるんだよコンチクショウ。


「ったく、どいつもこいつも……」

『あ?』

「伏線ばっかり用意して回収できなかったらどうするつもりだコノヤロー!!」

『何の話だ!?』


そろそろ重力的に頭に血が上って来たので、俺の体を拘束していた縄を力づくで引きちぎった。

そして重力的に考えて、


「ぶべらっ!?」


地面に真っ逆さまに墜落した。


『何やってんだよお前は』

「痛たた……俺じゃなきゃ死んでるなこれ」

『なんか最近、ユーイチが人間に見えなくなってきたよ……』


失礼な奴だなオイ。俺だって人間だ。ぶたれりゃ痛いし、頭から落ちれば死ぬ可能性だって大いにあるっての。

まあ、確かに最近「俺、人間辞めてね?」なんて思うこともしばしばであるが、人間を辞めたいと言う願望は持ち合わせていないのである。


『ところで、さっきの野郎は知り合いじゃないんだよな?』

「そうそう異世界に知り合いはいない」

『そりゃそうか。そうでなくても、奴さん、ハイエルフみたいだったしな』

「ハイエルフ?」

『ああ。言わなかったか? エルフって言うのは三種族あってだな、ダークエルフ、エルフ、ハイエルフなんだが、そのうちのハイエルフが長老やマギサ、さっきの野郎の種族なんだ』


やれやれ……昨日は五大始祖とやらの説明。今日はエルフ講座か……なんで異世界に来てまで勉強をしなきゃならんのだか。


『ハイエルフってのは他の種族よりも立場が上だと思っている奴が多い。マギサやさっきの野郎みたいに人間を見下すのもそう珍しくないらしい』

「ふーん……じゃあさ、エルフの見分け方ってのはあるのか?」

『ああ。ダークエルフは肌が少し暗い色だからすぐに分かるが、エルフとハイエルフはちょっと難しいな。だが、目が碧いのがエルフ、金色がハイエルフって覚えておけば何とかなるらしいぞ?』

「……なんかさっきから、らしいらしいって……いまいち説得力に欠けないか?」

『しょうがねぇだろ。俺だって聞いた話で実際に見たのは初めてなんだから。基本的にエルフ族は自分たちの領域からほとんど出ないからな』


そこまで興味のない話であるが、意外に博識なテネブラエにちょっと感心した。

しかし、そうか……今思い返せば、確かにステラさんやマギサ、名無し野郎は他のエルフとはどこかしら雰囲気が違ったな。

人種で優劣があるとは思わないが、特殊な人種だってことは何となく俺にも分かる。


「あれ? でも前にアエルもハイエルフだって言って無かったか? あいつ金髪でも金色の瞳でも無いし、おまけに耳も長くないぞ?」

『ああ……あいつは、ちょっと特別なんだよ』


ずいぶんと重い口ぶりでテネブラエが言った。特別……ねぇ?

ま、俺は別に人の秘密は知りたくなるって言う性格でも無いし、深くは聞かないけど……アエルもアレで苦労しているのかもしれないなぁ。


「で、どうしよう……これから」

『とりあえず、マギサに出会ったら全力で土下座しとけ。運が良ければ死にはしないだろ』

「だから俺何やったの!?」


俺の生死に関わるほどのことをやらかしたのかよ……

肺に命一杯息を吸い込んで、命一杯のため息をついた。ため息ばっかりで嫌になる今日この頃である。

そんな時、近くの木の陰から見覚えのある人影が登場した。


『おう、嬢ちゃんか』

「あ……ど、どうも」


なぜか緊張した様子で、体を縮めながら俺の目の前までやってくるフラン。

その表情はと言うと……一切目を合わせてくれない。

……やべぇ。俺フランにも何かやったのか? と言うわけで、



「申し訳ありませんでしたーーー!!!」



いざ、土下座敢行。比喩ではなく、地面にめり込むほど思いっきり頭を下げた。


「は、はいっ!?」

『うわぁ、これまた綺麗な土下座だな』

「マジでスマン、フラン! こんな俺でよければ、煮るなり焼くなり引ん剥くなり好きにして下さい!!」

『オイ待て、最後はおかしいぞ』

「べ、別にユーイチ様に何かされたと言うわけでは……」

「本当に? でもなんか顔赤いし、緊張してるみたいだし……」


そう言うと、フランは指摘された顔を両手で覆った。


「あ、いえ、これは……」

「いや、やっぱり大丈夫か、それ? 熱でもあるんじゃ……」


良く見れば汗もかいているようだし、息も荒い。となれば疑うべきはまず風邪だろう。

俺は普通に、誰でもそうするだろうと言う行動をとった。具体的には、俺の右手をフランの額へ手を当てる。ただそれだけ。が、



「あっ……ん、ふぅ…………」

「『!?』」



フランから帰ってきたのはあえぎ声(・・・・)だった。

思わずフランから手を離し、同時に10メートルくらい後ずさったが…………何、今の?


「す、すみません……んっ。さっき目が覚めてから、ちょっと、あっ……肌が敏感に」

「……………………」

『……………………エロッ』


言っちゃったよ。

いや、でもテネブラエの言う通り。ヤバい……マジでエロい。

フランの様子を『風邪』と表現したが、訂正を入れたい。これは『官能』だ。

思春期だからって馬鹿にするなよ? 誰だって今のフランを見ればそう思うに決まってる。それほどに今日のフランは色っぽい。


「…………えっと、大丈夫なのか?」

「た、多分んんっ……こんなのは初めてですけど、なんとか……」


本当に大丈夫なのだろうか……見た目かなり辛そうだ。


「もう少し大人しくしてれば、あっ。落ち着くと思いますし……」

「………………いや、駄目だ」

「はい?」

「このままじゃ色々と駄目になる気がする。主に俺が!」

「どういう……わひゃっ!?」


俺はフランを抱え上げた。見た目的にはお姫様だっこである。

正直こんなの目の毒です。健全な青少年の育成の場には不似合いすぎます。


「じゃ、行くぞ?」

『なんだ、ベットか? めくるめく官能の世界か?』

「お前は黙ってろよ!! 医者の所だよ!!」








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「メディーーーック!!」


そんな言葉を叫びつつ、俺はフランを抱えてステラさんの家の扉を思いっきり蹴破った。割と分厚く丈夫な扉も、俺の蹴りの前にひしゃげ砕け散る。

ちょっと力を入れ過ぎたかもしれんと言う若干量の後悔を胸にしまいこみ、家の内部を見渡すと、


「ぐあぁぁ…………さ、さすがに飲み過ぎた……頭がぁ……」

「うぶ……ぎぼちわるい…………おばさん、解毒魔法使って……」


阿鼻叫喚の有様である。難しい言葉だけど、多分使い方としては合ってるよな?

目の前には二人の女性。アエルとステラさんが酒のにおいをぷんぷんとさせながら床に突っ伏していた。


「何やってんだよ二人とも……」

「お、おお……ユーイチか。昨日は中々楽しい酒盛りじゃったのう……うぐぁ」

「その状態で言う言葉ではないと思います……」


恐らく二日酔い全開状態なのだろう。頭を抱え込んで非常に辛そうである。

だが、俺の目的はフランの治療にある。大変申し訳ないことであるが、


「悪いけどさ、こっちも急用なんだ。フランがちょっとおかしくて、アエルに見てもらいたいんだけど……」

「う~……フランちゃんどうし…………うっぷ? ~~~~~っ!?」




大変お見苦しい映像が流れております。しばらくお待ちください。




と、テレビならばテロップ的な物が流れるであろう光景を目の前に、俺は実際にしばらく待たされることになった。

何とか解毒魔法で二日酔いから脱したらしい二人は、何とも清々しい表情で笑っていた。

これが、酒に混じっておう吐物の匂いがする部屋でなければ素晴らしい光景なんだけどなぁ……


「よしっ!」

「この惨状を見て何が「よしっ」なのかは分かんないけど、とにかく早く診てやってくれ」

「うん。じゃあフランちゃん、あーってして?」


アエルに促され、指示通りにフランは口を開けた。

その後の診察は、元の世界とそれほど変わりのないようなもので、熱を確かめたり脈を診たり。まぁ対してファンタジーが絡むことはなかった。そうした結果、


「大して異常無いわねぇ」

「え、でもさっきから何か、敏感になってると言うか……とにかく普通じゃないんだぜ? 何かしら……」

「でもちょっと熱が高めな以外はおかしな所もないし、少なくとも病気とかじゃ無いんじゃないかなぁ」


俺は息を吐き出すと同時に肩を落とした。

病気じゃない? ではこのフランの状態を何と言うべきなのだろう。ただ単に肌が過敏になっているだけとか? もしくは、二日酔いの一種とかか。


「ふむ…………エクレールよ、お主歳はいくつじゃ?」


唐突に、ステラさんが会話に加わってきた。


「えっ……えっと、多分14か15歳位だと思いますが……」

「では、これまでに同じような症状になったことは?」

「ありません…………?」


2、3の質問を終え、ステラさんは納得がいったと言うように頷いた。

フランの方は、質問の意味が分からないようだ。俺も分からん。



「これは……あれじゃな。赤飯でも炊くか」

「……は?」



赤飯? 何、おめでたいことでもあったのか? いや、それ以前に赤飯って言う文化が存在するってどんな世界観だよ。


「言いたいことが良く分かんないんですけど……」

「だから……発情期(・・・)が来たんじゃよ」

「ああ~…………うん? 『発情期』!?」


驚いた。ああ驚いたさ。ちょっと納得しかけたけど驚いた。発情期って……だってフランは人間……あ、いや。獣人だったな。でも、なぁ? 発情期ってことは…………


「敏感になるのは仕方ないのう。性的な意味(・・・・・)で」

「「!!」」


ふとフランと目があって、すぐに逸らした。フランも同様である。

だって恥ずかしいじゃない! 年頃の男と女だよ!? 一瞬で俺の脳内はピンク色の花咲か爺さんだっつうの!! 何を言ってるんだ俺は、つまらんわ!!


「ちなみに」

「うおっ!?」


いつの間にかステラさんが息のかかるような距離まで俺に近づいていた。


「王猫族と言うのは、猫とうたっているがその特性は虎に近くてな? 発情期間は大体一日二日程度で収まる」

「な、何の話ですか?」


そう聞くと、ステラさんは俺以外には聞こえないように耳元でこうつぶやいた。


「その二日間で大体100回近く交尾(・・)をするそうじゃ」

「!?」


こ、交尾って言ったらつまり、セッ…………いやいや待て待て!! そんな明確に言っちゃうと耐えられん!

落ち着け、落ち着くんだ俺。そうだよ、ただの生理現象じゃないか。言いかえれば繁殖行為だ。…………ああっ!? 言い変えちゃダメだ! なんか背徳感が増した!!

そうじゃなくて、生理現象なんだよ。保健体育でも習ったろ? 当たり前のことなんだって。さあ、授業を思い出すんだ俺!!

………………あ、だめだ。俺、保健体育の授業サボってたわ。


「ユーイチ様?」

『何をさっきからぶつぶつと……』

「はっ!? いかん、ちょっと現実逃避しかけてた」

『いや、十分にしてたと思うぞ?』


心配そうに俺を見つめるフランの目は潤み、顔は赤く息もあらい。もうぶっちゃけてしまうけど、ホントエロいよこれ。

発情期だの交尾だの、トリビアな知識を仕入れたもんだから、もう今のフランを見ると下のネタ的な発想しか出てこねぇよ。


「ごめん……フラン」

「は、はい?」

「こんな邪な目を持つ俺を笑ってくれーーー!!」

「ちょっ……ユーイチ様!?」


俺は走った。ひたすらに走った。

フランやアエル。ステラさんやテネブラエさえも置き去りにして、俺は走った。

目的地なんてない。その場に居たくなかった、ただそれだけだ。



「青春じゃな」

『青春だな』

「ああ~、あれが青春って言うんだ~」

「皆さん、やけに冷静ですね」



「「『だって他人事だから』」」



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