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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第三章 エルフの里でラブコメディ
82/91

番外編 与り知らぬところで

雄一がイチャコラしていた時の裏話です。

時間が飛び飛びなうえにグダグダです。非常に申し訳ない。


「まったく忌々しい! なんで僕が人間なんかの世話をしなきゃなんないんだ!!」


空桶に水を汲みながら、僕は従者のまねごとのようなことをさせられていることに憤りを感じて叫んだ。

おばあさまの命令とはいえ、人間なんて近づきたくもない人種を世話するなんてエルフの……ましてやハイエルフのやることじゃない。

それなのに「迷惑をかけたのだから、エク……フランと少しの間でも代わってやりなさい」なんて、なぜわざわざ僕が……せめてエルフの連中にやらせればいいじゃないか。


「……あ、マギサさん」

「あ」


水を汲み終わり、人間が居る部屋へと続く廊下の途中。女の方の人間……フランだったか? そいつとばったり出くわしてしまった。

寝不足なのか、目の下にクマを蓄えて歩く姿もフラフラだ。おまけに髪はぼさぼさ。女だと言うのに、とてもみすぼらしい。


「あ、あの」

「……男の方は?」

「……はい?」

「一日中寝てるやつだよ。どうしたんだ?」

「あ……一応怪我は治してもらいましたし、容体も悪くありません。もう大丈夫だと思います」


そんな風に、フランは元気なく笑って見せた。その疲れた顔を見る限りでは、看護が必要なのはお前の方なのでは? と思うくらいだ。

とはいえ、どうやら僕がわざわざ世話をしにいった所でどうにも意味はないようだ。

フランが言うように、それだけ元気なら意識を取り戻すのも時間の問題だろう。


「それで、お前はどこに行くんだ?」

「テネブラエさんに言われて、少しだけ休憩を……あ、でもすぐに戻ってくるつもりですけど」


まあ、ほとんど丸一日看病していたのだから休憩ぐらいは当然か。彼女のフラフラな見た目からも、あの魔剣が休めと言いたくなるのは良く分かる。

もしかしたら、おばあさまもころ合いを見計らって僕をここに送ったのかもしれない。


「……ん? ちょっと待て」

「? はい」


このまま別れようと歩き始めたフランを呼びとめた。

キョトンとするフランの目の前に立ち、後で考えれば自分でもなぜそんなことをしたのか分からなかったが……フランの髪の毛を指先でいじった。

当然、女は驚いた表情で体を強める。


「あ、あの……?」

「ああやっぱり。お前、何日も風呂入ってないだろ。髪、痛みきってるぞ」

「は、はぁ……」


風呂に入っていないのは、旅をしていたのならまあ仕方ないだろう。

だけど、この女の髪は風呂に入っていないどころか、手入れの痕跡すら見当たらない。

櫛で梳いたり、枝毛を抜いたりすることもなく、放って置いたままの髪である。

まあ、それにしては艶もあるし、綺麗と言えてしまうのがすごい所なのだが。


「仮にも女だろ。少しくらい見た目に気を使ったらどうだ? ああ! 肌もガサガサじゃないか!」

「あの、えっと……すみませんマギサさん…………近いです」


気が付けば僕は、女と息が当たるほどに近くに寄っていた。

あまりにずさんな肌や髪の毛の扱いに、自分でも意外なほど僕は興奮していたらしい。

女は顔を赤らめてたじろいでおり、僕も慌てて女から距離を取った。


「わ、悪い!……ってなんで人間なんかに謝って……ああもうっ! とにかくその恰好を何とかしろ! 近くに温泉があるからそこに行け!」

「温泉……ですか」


なぜかギクッと体を硬直させた女は、あさっての方向を向いて滝のように汗をかき始めた。


「あの……温泉はちょっと、好きじゃないと言うか……」

「なんだ、風呂嫌いなのか?」

「水に浸かるのはちょっと……あ、でもこの場合そうじゃなくって耳が……」

「は? 耳?」

「あ、いえっ! 別になんでもありません! やっぱり御迷惑ですし、遠慮して……」


さっきからこの女、なぜか挙動がおかしい。人間なんて生き物はこいつら以外見たこともないけど、こんなに落ち着きのない生き物なのだろうか。

しかしなんだな……見ていると若干イラッと来る。


「ああもう! つべこべ言わずに行って来い! 祭りで今は誰もいないし、迷惑をかけることもない!!」

「わあ! すみません!!」


ウジウジとする女に苛立ちを覚え、背中を押して追いやった。

うろたえながらもフランは温泉の方へと向かって行ったが、なんであんなに風呂に入りたがらないのだろう。

人間には風呂嫌いなのもいると聞いたこともあるが、フランは人間とは言え女である。女が風呂嫌いと言うのは中々珍しいのではないだろうか。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「さーてと、あの男、今頃どうなってるのかなっと」


男の方……ユーイチとやらに風呂の場所を教えた後、僕自身も風呂にやってきていた。

さっきフランに温泉を進めておいたので、上手くいけばはち合わせて面白いものが見れそうだ。


エルフの里の大部分とは違い、大衆浴場であるこの部分だけは異世界と言っても良いほどおかしな空気を放っている。

しかも、おかしなことにこの温泉。入口と脱衣所は男女別に分かれているくせに、なぜか二つの入り口が合流して同じ風呂に入るようになっている。

そのため、普段は時間帯を決めて男女交代で入っている。が、よそ者の人間たちがそれを知っているわけもない。

上手くいけばフランが入っている風呂に、ユーイチが鉢合わせすることになる。

ふふっ……互いにどんな反応するか楽しみだ。


『おう? なんだエルフっ子。出歯亀か?』

「…………げっ、お前居たのか」

『そりゃまあ、居るわな。俺様剣だし』


脱衣所の一角、脱いだ服をしまう籠の傍に、ユーイチが装備していたインテリジェンスソードが放置されていた。

そのすぐ横にはユーイチが来ていた服が一式。どうやらあいつがここにきていることは間違いないらしい。

でも、この分だと作戦失敗みたいだ。


「……はぁ、で? やっぱり、ご主人さまへ報告でもするのか?」

『ごしゅ…………ああ、ユーイチのことか? 報告……ねぇ? まあ条件次第だな』

「は? 条件?」

『おう。ズバリ…………俺も出歯亀に連れて行け!』


…………な、なんだこの剣。

偉く俗っぽいと言うか、絵本とかのインテリジェンスアイテムのような高貴さのかけらも持っていない。

インテリジェンスソードなんて初めて見たけど、他のもみんなこんな感じなのか?

……と言うか、


「ぼ、僕は別に覗きが目的じゃ……っ!」

『あーー! なんか急に大声を上げたくなってきたなぁーー!』

「あわわっ!? や、やめろ! 分かったから!」


仕方なくこの下品な剣を抱えた。少し大きめの両手剣なため、僕の腕力では少し重い。

……今さらだが、こいつとのやり取りで中の奴らにばれているのではないだろうか。




『で、見えるか?』

「むー……湯気が濃すぎて見えない……」


剣を抱え、引き戸の隙間から温泉の中を覗いた。

中は湯気が揺らめき、目を凝らしてもユーイチ達の姿は見えない。



「ババンババンバンバン! ああ~ビバノンノン!!」



岩で囲まれた温泉の内部から、ユーイチのものと思われる歌声が聞こえて来た。

……何の曲だ? 歌詞の意味が全く分からない。


『む、あの辺りか!』

「よし。滑る(Ventulusp)そよ風(rolabentem)


子供が使うような超初級魔法を詠唱した。

そよ風程度の風が、ユーイチ達が居る湯船へと届く。

湯気は風にさらわれてゆき、そこに二人の人間の姿が露わになった。



「ふ、フラン……さん?」

「きゃあああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!」



そこには……一糸まとわぬ姿のユーイチとフランの姿があった。

簡潔に言えば丸裸。タオルで大事な部分を守っているわけでも無し。

そして湯気すらもその身を守る役目を負っていない。まあ、僕がやったわけだけど。


『よっしゃぁ!! 見え……だあクソッ!! ユーイチの野郎邪魔だ! 野郎の裸しか見えねぇ!!……って、ああ?』


僕は湯から目をそらした。体ごとそむけたので、まだ中を見ていたいと剣が文句を言ってきた。

で、でもこれ以上は無理だ。予想外だったのだ。


「は、は……裸が」

『は?』

「に、人間の裸が……ふ、ふ、不潔だ! 裸になるなんて……」

『い、いや……風呂なんだから当然だろ』

「ぐっ……」


確かに、この剣が言う通りである。

風呂に入るのに服を着ているのはおかしい。少し考えれば分かることだ。

で、でも……僕はあくまで、慌てふためく人間どもを見たかっただけであって……は、は、裸が見たかったわけじゃ……


「駄目だ……僕はもう帰る!」

『なぬっ!? そんな殺生な! まだほとんど野郎の裸しか見れてないのに……』


文句垂れたれのインテリジェンスソードだが、そんな剣のことなど床に放り投げて、僕は風呂場を後にした。









◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「う~~~~、けがらわしい物を見てしまった……」


何と言う不潔。

何と言う下劣。

さすが人間。他の者に裸体を晒すなんて真似、まったく程度が知れる。

…………いやまあ、僕に責任があったと言えなくもなくもないし……一方的に攻めるのもお門違いかもしれないな。

うん、少しだけ反省してやっても良いな。そうしてやろう。



「あっ、マギサ様! こんなところにおられたのですか?」



ちょっとばかり反省をしながら歩いていると、顔に治療用の布を張り付けた男が話しかけて来た。

若干くすんだ金髪に、青色の瞳。エルフ族の男だろう。


「あー……お前は…………誰だっけ?」

「先日お会いしたばかりなのですが……」


ああ、そう言えば昨日おばあさまにお叱りを受けていた中にこんなやつが居たかもしれない。

確か僕が放った魔法でユーイチと一緒に吹き飛んだ奴だ。

名前は……えーっとなんだっけ?


「えっと……このやり取りも何十回とやっているのですが……覚える気が無いのですね」

「うん。興味もない」

「隠しもしないんですね(泣)」


だって本当のことだから。


「もういいです。それより、マクファーレン様がお探しになってましたよ? ああ、でもその前に……」

「ウィズ兄が!? ど、どこだ! ウィズ兄はどこにいる!? 帰ってきているのか!?」


男の肩を掴んでガクガクと前後に揺さぶった。

ウィズ兄が帰ってきている? なんでこの男はそれを最初に言わないんだ?

それが一番重要なことだろうが。


「は、はい今朝方里の方に……で、ですがその前に長老様に会っていただかないと……そろそろ式典も終わりますし」

「む、そう言えばそうだったな。で、おばあさまはどこに?」

「え、さあ?」

「………………」


この野郎……役に立たないにもほどがある。

そんなだから名前すら覚えてもらえないんだ、馬鹿者め。





「式典も終わったと言うのに、おばあさまは一体どこに……」


役に立たない男を置いて、屋台などでにぎわう会場をうろついていると、やけに騒がしく大勢のエルフたちが固まった場所にたどりついた。

エルフもハイエルフも、とある一点のみを見ながら笑ったり、うろたえたりと賑やかな様子だ。

何だろう? 催し物でもやっているのだろうか?


「これは何の騒ぎだ?」


一番外側に居たエルフへと声をかけた。


「あ、マギサ様……えっとこれは……」

「? なんだ歯切れの悪い。ちょっとそこをどけ」


苦笑いを浮かべたエルフを押しのけ、人垣をかきわけながら中へと進んだ。

少し進んだ所で、何と言うか……嫌な物が目に入ってきた。



「お~うマギサ~。ヒック、お主もこっちに来ていっひょに飲まんかぁ?」

「おばあさま!?」



人垣の中心地には、酒瓶を抱いたおばあさまが地面に座り込んでいた。

顔を真っ赤にし、目はうつろ。僕がいる事に気が付き、手まねきをしてきたが、近づくまでもなく彼女からは強烈な酒の匂いが放たれていた。


「うっ、酒臭っ!?」

「あっはっは! 久々に……ヒック! 楽しいしゃか盛りができて、愉快じゃぞ~!」

「まさかまた人間の酒(・・・・)を飲んだのですか!? 悪酔いがひどいから止めてくださいとあれほど……」

「うるしゃい! エルフ酒じゃあ普通に酔うこともできん! 酒は酔ってこそなんぼじゃろうが!」


そう言っておちょこを僕へと投げつけるおばあさま。焦点が合っていないのか、おちょこは見当外れの方向へ飛んで行った。

やれやれ……まあ、おばあさまのこう言った癖は今に始まったことではない。

ずいぶんと昔の話だが、たまたま手に入った人間の酒を飲んで以来、すっかりその味の虜になってしまったらしい。

味そのものはエルフ酒の方が断然上なのだそうだが、ほとんど酔うことのできないエルフ酒よりも、ちゃんと酔える人間の安酒の方が楽しめるのだそうだ。

……まったく、ここまで酔ってしまっていては今日一日は業務に戻ることはできそうにないな。一応里の長なのだから少しは自覚してくださいおばあさま。

と、おばあさまの様子に嘆いていると、目の端にとある光景が映った。



「ユーイチ様! そんらにおっぱいが大きい人が良いのれふか!? あんらの脂肪の塊なんれすからね!? 聞いてまふか!?」

「あーん! アルくん、どうしてケイトちゃんについて行っちゃったのぉ? 私の方がアルくんのこと好きなのに~!」

『だぁ! 俺に絡むな、アエル! なんでそんな大昔のことを今さら……てか、絶対これエルフ酒じゃねぇだろ!!』



うわぁ……

地獄絵図と言うのはこう言う物なのだろうか?

おばあさまと同じように顔を真っ赤にさせた女たちがそこに居た。

フランはなぜか木に向かって怒声を浴びせ、アエレシスの奴は剣に向かって泣きながら愚痴をこぼしている。

恐らく、おばあさまに酒を付き合えと言われたのだろう。気の毒な奴らだ。

おばあさま以上に悪酔い……と言うか壊れてしまった二人。だけど、あれ? もう一人。こいつらの仲間が居るはずのだが……


「おい」

「ん?」


声をかけられ、振り返って見てみれば、そこには男の胸板が広がっていた。

顔を挙げれば、ユーイチの顔。そう。そこには上半身裸のユーイチが居たのだ。……なんで裸?


「座れ」

「は?」

「そこに座れ、マギサ」

「は、はぁ? なんでお前なんかに命令されな…………うわぁ!?」


抗議の声を上げようとした瞬間、ユーイチは僕の肩を鷲掴みにして強制的に座らせた。

抵抗しようにも、体格差がある上に力は向こうのほうが圧倒的に上。あっけなくユーイチに屈してしまった。

そして、ユーイチは僕と対面するような形で奴自身も地面へと座り込み、



「マギサ、俺は…………おっぱいが好きだ」



意味のわからない言葉を口にしだした。


「…………は? え、えーっと、あ~…………うん?」


一瞬ユーイチが何を言ったのか理解できなかった。

そして、しっかり言葉の意味を吟味し、なぜ今この場でその言葉を発したのか考えたのち、やっぱり理解できないことに気が付いた。


「俺はおっぱいが好きだ。それがどんなものであれ、それがおっぱいならば俺はそれを愛することができる。誰のものでもどんな形でも、大きくても小さくても。それがおっぱいと言うだけでご飯を何杯でもかきこめる自信がある。皿型もおわん形も半球型も円錐型も釣鐘型も三角型も、どれだって素晴らしいおっぱいだ。巨乳は正義? 貧乳はステータス? 違う。違うぞ。まるっきり違っている。おっぱいはおっぱいだ。他の何物にもとらわれない。ただそれだけの存在だ。だがそれを踏まえた上であえて言わせてもらう。おっぱいは!…………神様であると」

「やっぱりこいつも壊れてる!!?」


他の奴らに比べて顔は赤くなく、目の焦点もきちんと合っている。

けど変態だった。

上半身は裸で、胸を信仰する変態だった。


「こ、この変態! おっぱいおっぱい連呼するな!!」


聞いているこっちが恥ずかしくなってきた。


「変態? 違うな、マギサ。俺は変態じゃない。仮に変態だとしても、それは変態と言う名の紳士だよ」

「意味が分からん!」

「だが、そんな紳士な俺でも許せないものがひとつある。……何か分かるか?」

「知るかっ!!」

「それは男の胸だ! なんだあれは! そしてなんだこれは!」

「自分の胸を指さすな! 気色悪い!!」

「女の子のおっぱいは神様だ! だけど男の胸ってなんだ!? 最悪だ! 存在する意味が分からない!!」


だ、駄目だこいつ。早くなんとかしないと……

ずいぶんと熱を入れてご高説を垂れてらっしゃるようだが、これっぽっちも興味が湧かない。

胸の話なんてどうでも良いんだよ。それとも何か? 人間と言う種族はみんなこうなのか? こんな変態ばかりの種族なのか?


「聞いているのか、マギサ!?」

「ひゃ、ひゃいっ!?」


いちいち僕の顔に迫ってくるユーイチに、声が裏返ってしまった。


「だから俺はいつも考えているんだ。俺はおっぱいを愛する男! ならばこそ! 男の胸も愛するべきではないのか!?」


わぁどうしよう……本当にどうでも良い。どうしようもなくどうでも良い。

なんでこいつはそんなことを僕に話すんだよ。男でも女でも良いから胸を追いかけていろよ、僕以外で。


「さっきから自分の胸を眺めたりもんだりしてるんだが、何かが違う気がするんだ」


そう言いながら自分の胸をもむユーイチ。

うわぁ、気持ち悪い。


「うわぁ、気持ち悪い……」


思考がそのまま口に出てしまった。


「まあ、それでだ。マギサ、協力してほしいことがある」

「何をされるのか分からないが断る」

「…………」

「…………」


ユーイチとにらみ合いが続く。

奴の目は、まるでこれから戦場に行く兵士のように鋭く、そして真剣そのものだった。

その目を見れば、誰でもこの人間はとても誠実で、一途で、純粋な男だと言う感情を抱くことだろう。

僕自身不意なことであるが、一瞬ユーイチのことをかっこいいと思ってしまったほどだ。

だが、上半身裸で「おっぱい」と言う単語を連発する男だと言うことを思い出し、このユーイチへの感情は元通り低辺へと落ち着いた。

と、その時。ユーイチの目線が僕の視線から外れた。

奴の目線は僕の目から少し落とされ、


「…………えいっ」

「?」


僕の胸を、両手で鷲掴みにしてきた。


「むっ? これは……」


…………え、なに?

胸? 胸がなに?……触られてる? あれ? なんだろう……何かがおかしい。

ユーイチが僕の胸に触れている。どころか何かが気になる様子で揉みしだき始めた。

ムニムニ、プニプニ、フワフワ。擬音は色々とあるだろうが、とにかくそんな音が出るように揉みしだかれた。

…………状況が見えない。いや、落ち着こう。きっとこれはアレだ。夢とかなのだろう。

目を閉じて、次に開いた時にはベットの上で見慣れた天井を見ているんだ。そうに違いない。

そんなことを考え、僕は目を閉じて、開いた。


「ふ~む。これは中々……」


状況変わらず。いまだにユーイチが僕の胸を揉んでいた。


「い……」

「ん?」

「イヤアアアアアアアアァァァァァァッ!!!」

「ぶっ!?」

『はっ! ユーイチが飛んだ!?』


とっさに放った僕の拳がユーイチのあご下に見事にヒットした。

骨と骨とがぶつかりあう鈍い音が響き、ユーイチが宙を舞い、重力に従って地面へと落ちる。

しかし、そんなことは意にも介さぬ様子でユーイチは起き上がった。


「ふっ……中々良いパンチだ。それと、素晴らしいなぁ! 貴様のおっぱいは!!」

「なっ!?」

「控え目なおっぱい、大いに結構! 感触、弾力もまさに……ぶっ!」


いまだに妄言を吐き続けるユーイチに、今度は前蹴りを喰らわせた。

地面を削るように吹き飛んでいったユーイチに対し、



「忘れろ! このくそ馬鹿っ! 死ねっ!!!」



と吐き捨てて、僕はその場を去った。








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