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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第三章 エルフの里でラブコメディ
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第五十三話 ラブコメってこんな感じ?



「のわぁっ!?」


変な叫び声をあげてしまった。

ベットに横たわっていたのか、俺はタオルケットを握りしめながら起き上がった。

背中は汗でぐっしょり。自身の動悸が呼吸を乱し、自分では分からないが俺の目は血走っていることだろう。


『おう、やっと起きやがったか』

「ひ、ひどい悪夢を見た……」

『あん?』

「エルフの知り合いについて行ったら竜巻の中にのみ込まれて、おまけにその知り合いにボウリングの玉並みの宝珠(オーブ)を頭にぶつけられて失神した。そんな夢だった」

『いや、それ全部現実だから。夢オチで済まそうとするな』

「………………」


俺はふと上を見た。

……知らない天井だ。

いや、言ってみただけだけど。

夢ではなく、あれは現実だったらしい。頭から痛みは感じないので現実味は無いが、どうやら俺は実際に失神してしまっていたようだ。

妙にだるく、たるみきった体を大きく伸ばすと、日が差す窓から外を見た。

そこには一面の緑色が広がっていた。

生い茂る木々に草や花。巨木の根元に立ててある家々には苔が張り付き、一見廃屋のようにすら見える。

だが、ファンタジーっぽく見えなくもない。というか、あんなデカイ木が何重何百と生えている時点でファンタジーである。

街中では味わえない新鮮な空気、表現を変えれば草木の独特なにおいを肺に命一杯吸い込む。ああ気持ちが良い。

と、森林浴に浸っていると、俺の耳にとある音楽のようなものが聞こえて来た。

まつりばやし……とは違うが、楽しそうな音楽。そして、それに合わせる歌声。それを称賛する声の波。

窓から見る限り、なにも見えないが、少し遠くでは何やら祭りがおこなわれているようだった。


「……あれ? 俺、どのくらい寝てた?」

『丸一日』

「!?」


俺は盛大に噴き出した。

一日? 丸一日!?

あんなギャグみたいな展開で丸一日無駄にしてしまったと!?

……馬鹿馬鹿しすぎる時間の使い方だ。体がだるいのも、一日中横になっていたのが原因だろう。

しかも、それならそれでお約束として、フランとかアエルとか……いっそステラさんでも良いけど『起きたら膝枕されてた』みたいな展開が欲しい。

それがどうだ? 今現在、部屋の中には俺と剣(男)が一本いるだけ。むさくるしいにもほどがある。

昨日ステラさんが言っていた収穫祭も、すでに始まっているようだ。この賑やかな音はそれが元なのだろう。


「…………フランは?」

『ああ、嬢ちゃんなら俺が言って休ませたよ。ほとんど一日中付きっきりだったからな。アエルも一緒だ』

「おお……あの子は期待を裏切らない! 素晴らしいな!」

『ユーイチが気絶してから「こ、これ以上ユーイチ様の頭がどうにかなったらどうしましょう!?」ってめっちゃ心配してたぞ』

「…………」


心配してくれていたのはうれしい。

でも、心配する方向性が……なぜだろう、胸が痛い。そして涙が出てくる。



「あっ、やっと起きたか人間」



目頭を押さえて嘆いていると、部屋にマギサが入ってきた。

その手には水の入った桶とタオルを持っている。


「あれ、マギサ?」

「気安く呼ぶな人間。まったく……起きたなら起きたと言え。無駄足になってしまったじゃないか」

「え、なに? まさか看病しに来たの?」

「おばあさまに言われて仕方なく、だ。勘違いするな!」


おう、ツンデレ乙。

……だけどこいつ、って言うかエルフの大半に言えることだけど、中性的な顔立ちだから、いまだにマギサが男なのか女なのか分からん。

特にマギサは、まだ容姿が子供だからか、どちらでも通用しそうな顔立ちだ。

…………もし男なら、ツンデレなんて属性、無駄でしかない。というか気持ち悪い。


「なに僕をジロジロ見てるんだよ。変態か?」

「いや、別に…………あ、そうだ。フランたちどこに行ったか知らないか?」

「フラン? ああ、あの一緒にいた女か? それなら…………」

「…………?」


やけに長い間を開けるマギサ。

ふと、何かに気づいたように言葉をつづけた。


「あ、えっと……どこにいるかは知らない。多分、収穫祭の式典でも見に行ってるんじゃないのか?」


まあ、あれだけ賑やかなんだから、息抜きに行きたくなるか。

祭りって言う位だから、美味い物もあるだろうし、俺も後で行ってみることにしよう。


「そうだ。ほら、お前()これ持って風呂に行って来い」


と、マギサは持っていたタオルを俺に渡した。


「風呂………………えっ!? 風呂あんの!?」

「あ、ああ。妙に喰い付きが良いな」


風呂。

それは日本人が思い浮かべる極楽浄土……

一日の疲れを湯に溶かし、明日への気力を湧きたてる。

朝に入っても良し。昼に入っても良し。家の風呂から銭湯、温泉、露天風呂。

素晴らしき風呂。ああ、ビバノンノン。


「な、なんだこいつ。急に悦に入りだしたぞ」

『さすがに気持ち悪いな、これ』


そりゃあ悦にも入るさ。

この世界に来てからと言うもの、実は風呂に一度たりとも入ったことがない。

異世界であり、基本的な文明が中世くらいのこの世界では、風呂と言う者はあまりポピュラーではないらしいのだ。

貴族とか金持ちの商人とかは入ることもあるらしいのだが、一般民衆はそうでない。

一般的には行水……タライに水をためて、簡単な水浴びをする程度。それすら良い方で、大半はタオルとかを濡らして体を拭いたりするのである。

勿論、これは非常にツライ。井戸を見つけるたびに行水をしているが、それでもやはりツライ。

そりゃ、旅している間とかはどう考えても風呂になんか入れないし、そこは我慢できる。でも、宿屋に泊まった時にさえ風呂に入れないのは精神的に、そして衛生的に耐えられない。

暖かい風呂に、肩まで使ってこそ満足がいくと言うものだ。

そんなわけで、この世界で風呂に入れるなんて夢のような出来事なのである。


「うし! 行くか、風呂!!」

「そうしろ。正直言って、お前臭いぞ」

「!?」












臭いと言われてしまった。

いくらなんでも人に向かって「臭い」なんて言うのは失礼だと思う。

いや、そりゃね? 自分がちょーっと匂うかな~、とは思ってたよ?

何週間かまともに風呂入れてないんだもん。臭くて何が悪いんだ。


「………………そんなに臭いかなぁ、俺」

『いや、俺に聞かれても匂いわかんねぇよ』


まあそりゃそうか。剣だもんな。


あの後、心ない言葉に傷つきつつ、マギサに教えてもらった風呂に向かった俺は、いわゆる脱衣所と言う場所に来ていた。

………………いや、何と言うか……そこはまんま日本(・・)だった。

床はなぜか畳。服を入れるためのかごが棚に並び、ご丁寧にも瓶に詰められた牛乳が氷の上に置かれている。

どこのスーパー銭湯だここは! と突っ込みを入れるべき場所である。


「どこのスーパー銭湯だここは!」


とりあえず思った通りに突っ込んでみた。


『へぇー、変わった脱衣所だな。この床、草で編んであるのか?』

「あ、やっぱりこの世界でも変なんだな。良かった」


これが常識なのであれば、異世界と言えども世界観を疑ってしまう所である。

慣れ親しんだ和風な光景に和み混乱しつつ、服を脱いで素っ裸に大変身。タオルは肩。

大事なところを隠す必要などない!


「あ、てかテネブラエは風呂に浸かっても大丈夫なのか?」

『風呂なぁ……俺に体があればよかったんだが、錆びるだけだしなぁ』


まあそりゃそうか。剣だもんな。


と言うわけで、テネブラエは脱衣所で初めてのお留守番。

剣を持っていないと言うのは、いささか心もとなくなるのだが……ほら、俺って拳術の方が得意だから。無問題。


風呂へと続く引き戸を開く。すると、そこには湯気でほとんど見えないものの、岩で囲まれた俺の良く知っている露天風呂が広がっていた。

良かった。これでもし壁に富士山が描かれたタイル張りの風呂とかだったら突っ込みが追いつかなくなるところだ。

露天風呂独特の開放感を味わいつつ、軽く体をお湯で流してから湯に浸かった。勿論、タオルは頭の上。お湯にタオルを付けるのはマナー違反です。


「ふわあぁぁぁ…………」


風呂に浸かる瞬間、思わずこんな声が漏れた。

まさに疲れが湯に溶けるような感覚。至福の時。

元の世界ではさすがにここまでの感覚は味わえなかっただろう。

風呂と言う物にこれほどの感謝の心を持つこともなかっただろう。

それほど気持ちが良い。洒落にならん。このまま風呂で溺死しても、俺は一片の悔いもない。

よーし、気分が良いから歌っちゃうぞ。


「ババンババンバンバン! ああ~ビバノンノン!!」

「ひゃっ!?」


…………ひゃっ?

今のは俺の歌への合いの手だろうか? いや違う。落ち着け俺。

明らかに驚きの声。しかも女の子の声。さらに言えばフラン(・・・)の声。

そして、タイミングが良いのか悪いのか、その時、辺りに風が吹いた。

湯気が風にさらわれ、露天風呂の全景が俺の目に映った。思ったよりも広い風呂だった。

…………違う、そうじゃない。感想を抱くべきはそこじゃない。

割りとすぐ近く、俺の目の前と言っても良い位置に、素っ裸のフランの姿(・・・・・・・・・)があった。


「ふ、フラン……さん?」

「きゃあああああぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!!」


耳を襲うフランの悲鳴。

鼓膜が破れそうになるほどの声量を耳に受けた俺は、慌ててフランから目をそらす。

フランはフランで俺から離れ、胸を隠して全身を湯に浸ける。幸い、お湯の表面には今だ濃い湯気が揺らめいており、ギリギリ隠すことができている。


……いや、しかし。服の上では分からなかったが、フランは中々良いプロポーションしている。

胸はフランくらいの年代ならそこそこ有る方だろうし、初めて出会った時と比べて、栄養状態が良くなっているのか、非常に張りのある肌だ。

その若い肌は、お湯をはじくほど艶めいている位だ。

…………


「って、なにを考えとるんじゃぁ俺はっ!!」


不謹慎極まりない自分の思考に突っ込みを入れた。

でも、だってしょうがないじゃない! 男の子なんだもん!! しかも思春期の!


「ゆ、ユーイチ様……目が覚めたんですか?」

「お、おう!…………てか悪い! フランはてっきり、祭りの方に行ってるんだと……」

「い、いえ。マギサちゃんに言われて、休憩がてらお風呂に……」


……あれ? ってことは、マギサはフランが風呂に居たことを知っていたことに……


「は、ハメられた……」

「……?」

「ちょっと待ってろフラン。風呂からあがったらすぐにあの野郎を……」


俺をハメたマギサに復讐するため、風呂から上がろうと踵を返した。


ボインッ!


うん?

何かおかしい擬音が耳に入った。と言うか俺の顔面に、この世のものとは思えないほど柔らかい物体がぶつかっていた。

一度、経験があるこの感触。


「わあっ! ユーくん、元気になったんだぁ!」


アエルの胸(・・・・・)だった。

湯からあがろうと歩きだした俺は、すぐそばにいたアエルの胸に顔面から突っ込んだのである。

風呂なのだから当然だなのだが、アエルはフラン同様、素っ裸である。

しかもあろうことか、アエルは驚いたり拒絶したりすることもなく、俺の顔をより一層胸に沈めるように抱き寄せて来た。


「だーーーっ!?」

「良かったよ~。ごめんね? 頭痛かったでしょ~?」


こ、この感触はヤバい。

反論しようにも、反抗しようにも、あまりの気持ちよさに口も体も動かなかった。

あ、鼻血出て来た……


「う~っ!」

「……あ」


アエルの胸に溺れていると、フランと目が合った。

顔を真っ赤にして、胸を隠しながら湯に隠れているが、その表情は何かを言いたいといったものである。

目には涙さえ浮かべていた。


「う~っ! ユーイチ様…………わた、私も…………う~~っ!!」


自身の胸をアエルのと比べ、より一層大粒の涙を浮かべるフラン。

そんなフランに、なぜか罪悪感のようなものを感じた。

まだここに居たいと言う悪魔と、フランを裏切るのかと言う天使が俺の頭の中でアームレスリングをしている。

だが、この急に出て来た天使と悪魔なんぞ関係ない。こんな状況で、俺がすべきことはたった一つである。


「は、離せっ、アエル!」


天使も悪魔も押しのけ、俺は自身の欲望にあらがった。

胸が何だ! どうせ飛び込むならフランの方に行きやがれ!!

そんなキャッチフレーズを自身に言い聞かせ、アエルを押しのけた。


「あんっ」


そんな色っぽい言葉が、俺の耳に突き刺さった。

手には二つのスイカ。もとい、おっぱい(・・・・)

押しのけるはずが、俺の両手はがっちりとアエルの両胸を鷲掴みにしていたのである。


「ああっ、ユーイチ様!? は、鼻血が噴水のように!?」

「わあ!? 傷開いちゃったの!? ち、治癒魔法を……!」

「む、胸が……胸に……おっぱ…………ガクッ」

「ユーイチ様ーーーー!?」


こうして、俺は天国と地獄の間をさまよいながら、意識を閉じたのだった。













◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




驚いた。

なにが驚いたって、こんな短期間に何度も三途の川に来るってことに驚いた。

しかも、俺はすでに船の上。

知ってるか? 今時の三途の川の船って、モーターボートなんだぜ?


そんな感じで、科学の力であっという間に向こう岸に到着。

船から降りようとすると、向こう岸から、誰かが手を振ってきた。

手を振り返すと、霧で霞むその場所から、今度はそいつが走りだした。

だんだんとこちらへ向かってくる謎の人物…………いや、近づいてくるにつれその顔が見えるようになると、その人物は俺が知っている人間だったことが分かった。


「ジジイ!?」


佐山孝三。俺が住んでいた児童用語施設の責任者。ある意味、俺の父親代わりの人である。

杖をついていてもおかしくない年齢なのだが、そんな年齢を感じさせないように、全力疾走でこっちに向かっていた。

懐かしい顔に、思わず笑顔がこぼれ、俺は船から身を乗り出した。


「なんだジジイ! いつの間にこっちに来てた……」

「ワシャまだ死んどらんわっ!!!」

「ぐはっ!?」


全力疾走の勢いそのままに、ジジイの飛び蹴りが俺の顔面に炸裂した。











「初登場が飛び蹴り!?」

「わっ!? なに!?」



俺は目を覚ました。どうやら少しトリップしていたようだ。

風呂場で気絶した後、癖になってしまったのか何度も意識が飛んでしまうようになってしまった。

今も、祭りの場に来たと言うのに、立ちながら一瞬気絶していたらしい。

しかも、その内容が、何気に初顔見せだったジジイの飛び蹴り。……意味がわからん。

せっかく、屋台から大量の料理を買い込んで祭り気分を味わっていたのに、これでは台無しじゃないか。


「大丈夫~? やっぱり横になってた方がいいんじゃなぁい?」


そう言って俺の顔を覗き込んだアエル。

俺に上から見下ろす形で胸を強調する姿勢となり、凶器ともいえるそれ(・・)は、俺の鼻の粘膜を全力で攻撃してきた。

俺は鼻を押さえ、かつ少し前かがみになる。


「は、鼻血が……ていうか、あんまり近づかないでくれ!」

「? 私、ユーくんに嫌われるようなことしたかなぁ?」

『自覚が無いってのは怖ぇなぁ……アエル、あんま触れてやるな。男の生理現象ってやつだ』

「ん~……ああ。くしゃみとか? 私そんなの気にしないよ~?」


あ、アエルの天然っぷりが怖い……

あれだけのプロポーションを持ちながら、今まで言い寄ってきた男はいないのだろうか。

…………いや、まちがいなくいたのだろうが、ことごとくこの天然ではねのけられたんだろうなぁ。

見る限り恋愛経験とか思いっきり疎そうだし。


「どうせアエルさんの胸でも見てたんでしょう」

「………………」


フランさんが冷たい。

吐き捨てるように、そしてゴミを見るような眼で俺を見ていた。


「あの……フランさん。そろそろ機嫌を治していただけないでしょうか?」

「怒ってないです」


…………ほら!

もう、なんか言葉数自体少ないもん!!

そりゃフランの裸を見たのは確かだし、悪いとは思ってるけどさぁ! あれは事故とか濡れ衣みたいなもんだろ!


「結局、男の人なんて胸が大きければいいんですよ…………私くらいのがちょうどいいって言ってたのに」

「いやだから! 別にわざとやったわけじゃないし、アエルのが良いって言ったわけじゃないだろ!」

「ん~、二人とも胸が大きいのが良いの? これ、肩こっちゃって大変なのよぉ?」


そう言って自身の胸を寄せて、アエルはため息をついた。


「あ、馬鹿! それ禁句……」

「胸が大きい人はみんなそう言うんです!!」


頬を膨らませてフランはそっぽを向いてしまった。

どうやら完全に機嫌を損ねたようだ。

やっぱり、女の子であるからには、胸は大きい方が良いと感じるのだろうか。大きい物をお持ちのアエルはあまりそうではないようだけど。



「ぶはっ! おお、やっと見つけた!」



と、機嫌を損ねてしまったフランをなだめようと、あれやこれやと料理を差し出したりしていると、大勢のエルフの囲いから抜け出るようにステラさんが合流した。

まるで大物スターのようにエルフたちに取り囲まれていたステラさん。しかし、囲んでいたエルフたちは俺やフラン。アエルを一瞥すると、蜘蛛の子を散らすように離れていってしまう。

やっぱり、人間というのはこの里では珍しいらしく、妙によそよそしい。愛想を振りまいていた屋台のエルフたちも、俺たちが買い物に行くと、警戒心を隠そうともしていなかったし。


「む? ああ、あやつらのことは気にするな。さわらぬ物にはなんとやらじゃ。ユーイチ達が変なことをせん限りは害を成すことはせんよ。多少不快かもしれんが……」

「はぁ……それなら良いんですけど」

「それよりどうした? エクレールがむくれておるが」

「エクレール?…………ああ、フランのことか」

「違うよぉ伯母さん。フランちゃんは~、フランちゃんって言うんだよ~?」

『…………アエル、お前昨日の話聞いてたか?』

「…………?」


いかん、アエルがアホだ。アホの子だ。

ちょっと勘弁して下さいよ。俺とキャラがかぶっちゃうじゃないですか。


『まあ、アエルは放っておくとして』

「やーん、放っておかないでー」

「フランですけど、ちょっと複雑な事情が……」

「ふむ、のうエクレール。人間、生きておれば色々ある。いちいち気にしておってはキリがないぞ?」

「ステラさん…………ん?」


フランの肩に手を置いて慰めようとするステラさんだったが、フランの目は別の物を映したようだった。

ズバリ、ステラさんの胸(・・・・・・・)

アエルほどではないが、ステラさんも十分に爆乳と呼べるレベルの胸の持ち主である。

そんな人物が傷心のフランに、(わざとではないだろうが)胸を見せつけたのだ。その結果は、


「……ユーイチ様、私はもう駄目です。結局胸は大きいのが正義なんですね……」


両手を地面につき、燃え尽きてしまった。


「フラーン! しっかりしろーー!!」

「おお!? なんじゃ、胸のことを気にしておったのか。胸なんぞ肩がこるだけで良いものでは……」

「…………うぅ(泣)」

「やめてステラさん! フランのライフはもう0よ!!」


これ以上の胸の話題はフランを傷つけるだけだ。

よし、話題をそらそう。


「ステラさん、さっき俺たちを見つけたって言ってたけど、なんか用でもあったんですか?」

「あ、ああ。ユーイチが気絶したり、式典の都合でお主らとまともに話せていなかったからな。息抜きついでに酒でも飲もうと思ったんじゃ」


そう言ってステラさんは、ゆったりとしたローブの中から瓶を取り出した。


「酒?」

『おお、エルフの酒か。俺もこんな体じゃなきゃ飲んでみたいもんなんだがなぁ』

「エルフの酒と言っても、エルフ族自体あまり酒を飲む習慣は無いのじゃ。他の連中もあまり付き合ってくれん」

「あー…………酒……酒か」

「あれ? ユーくん、お酒飲めないの?」

「いや、飲めないって言うか……まあ未成年だし」


お酒は二十歳になってから。日本なら誰でも知っている言葉である。


「未成年? ユーイチの故郷は飲酒に年齢制限があるのか?」

「ええ、まあ。それに…………」

「それに?」

「…………昔、おちょこ一杯だけ飲んだことがあったんだけど……その時、ジジイに……」

『ジジイって誰だっけ?』

「ああ、俺の……育ての親みたいなやつ。それで、その…………ジジイに殺されかけた」

『どんな育ての親だ』


いや、冗談抜きであの時のジジイは阿修羅のごとく恐ろしかったよ。

普段の武術の訓練でもまあ手加減抜きで殴られてたけど、あのときはガチで殺しにかかってきたからな。

酒飲んだ後の記憶はほとんどないが、気が付いた時にはボロボロになった道場でジジイに腕ひしぎ決められてたし。


「なんか、悪酔いしたってことは護とかに聞いたんだけど、詳しいことは教えてくれなかったんだよ。そん時「お前は今後永久に酒は飲むな!!」って言われたんだ」

「ふ~む。酒乱と言うやつかのう?」

「あ、でもね~。エルフのお酒は悪酔いしない事で有名なのよぉ? 二日酔いとかもほとんど無いらしいし」

「うむ。アエルの言う通り、エルフ酒ではめったに悪酔いすることは無いぞ」

『それになユーイチ。エルフ酒つったら超が付く高級酒だ。こんなところ以外では飲むどころか見る事すらできねぇンだぞ』


まあ別に、俺は酒が飲めないと言うわけではない。飲んだ瞬間は気持ち良かったような記憶もあるし、酒自体は嫌いではないのだ。

しかも、高級かつ悪酔いをしない酒と言われれば興味は当然出てくる。

さらに、ここは異世界。どんな間違いがあっても、ジジイに出会うことはあるまい。となれば、



「じゃあ……一杯だけ」



と、言ってしまったのが運の尽き。

なんでこの時、首を縦に振ってしまったのかと言う後悔をしたのは次に目を覚ました時だった。

酒が喉を通ったとき。いや、口に含んだとき? もしかしたら匂いを嗅いだ瞬間かもしれないが、俺の意識は闇に沈んでしまった。……………なんか、最近ブラックアウトし過ぎだと思うのは気のせいだろうか。











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