第七話 おお! テンプレ!
俺は今、困っている。
それはもう……引きこもりのニートがいざ働こうとして就職できたものの初日に『必要な資格持ってないから君クビね』って言われたような状況にある。
そういうことは採用前に言っておいてもらいたいものだ。
ギルドに登録したはいいものを、武器がないと仕事ができない。しかも武器を買う金も無い。
結局さ、世の中金だよ……兄貴。
「なんだい、えらく沈んでるねぇ。兄貴がどうしたって?」
「いや、俺に兄貴なんていないんですけどね」
「なんだそりゃ?」
すごすごと食堂に戻ってきた俺は、客が入る時間帯ではないのか暇そうにしているアズラさんに愚痴を聞いてもらっている。
と言ってもほぼ独り言をアズラさんが勝手に拾い上げているようなものだが……俺のプライバシぇ……
「なるほど、武器ねぇ…………イスカの店なら安いのが置いてあったと思うけど……」
「イスカ? 誰?」
「昨日坊やに教えた雑貨店があるだろう? あそこの坊やがイスカって言うんだよ。大層な珍しい物好きでねぇ、珍しいものならガラクタでも高値で買い取っちまうけど、ガラクタなんて売れないだろう? だから結果的に売り物の値段が下がるんだよ」
そういえば昨日も財布(セール品で千円)を高値で買ってくれてたな。財布見たとたん目の色変えてたし。
趣味を商売にして失敗した典型だったのか……あいつ。
てなわけで雑貨店に到着。展開早いなオイ。
二回目であるが、また雑貨に埋もれていたイスカをレスキューすると、さっそく本題に入った。
「イスカ。ちょっと聞きたいんだけど……」
「あ、昨日のお客さんですね。あれ? そういえば僕、あなたに名乗りましたっけ?」
「ああ、食堂のアズラさんからの紹介でな。ちなみに俺は佐山雄一だ。よろしく」
「サヤマユイチ?」
「某アニメの冒頭部分を思い出すからやめろ。ユーイチで覚えれば良いよ」
「はあ、ではユーイチさんで」
「っとそれよりも、この店に武器って置いてないか? できるだけ安いのがほしいんだけど」
「武器ですか? うちは専門じゃないですが……そうですね。これなんかどうですか? 切っ先が欠けているので銀貨1枚でいいですよ?」
銀貨1枚。
……手持ちでは微妙に足りないな。
「銀貨1枚…………もう少し安いのは無いのか?」
「ん~、そうですねぇ……ちなみにどれくらいなら払えますか?」
「……銀板8枚だ。ドヤァ」
「ドヤ顔!? ぎ、銀板8枚ですと……えーっと…………」
俺の無茶な要求に答えようとイスカが雑貨の山を崩しながら武器を探している。
……また埋まるんじゃなかろうか。
さすがに、中古でも銀貨3~4枚の世界で銀貨一枚にも届いていないと厳しいらしい。
「あっ、これなら銀板5枚で売れますね。ただ……」
「ただ?」
「これ抜けないんです。多分刀身がさび付いちゃってるんだと思います」
イスラが取り出したのは、鞘に黒いベルトが巻きついた剣だ。ただ抜けないらしい。
そりゃ安いだろう。抜けない剣なんてただの棒だからな。
まぁ、試しに力試しでもしてみようかなっと。
「腕に集え! 全身のビフィズス菌よ!!」
「びふぃずすきん?」
あれ? 乳酸菌だったっけ?
あ、そもそも運動前にそんなのは溜まらないか。
カキンッ
あれっ?
予想外というか、案外簡単に剣は抜けた。
しかも刀身にはイスカの予想をはずし、さびの一つもついておらず、刀身全体が黒みがかっているだけである。
……なんで今まで抜けなかったんだ?
「ユーイチさんって、見た目と違って怪力なんですね……」
「いや、大して力入れなくても抜けたと思うぞ? えらくスムーズに抜けたし」
剣を抜くときに力はこめたが、力で無理やり抜いた感触ではなかった。
そもそもが錆びてさえいない剣が抜けなかった方がおかしい。まぁイスカに力が無さ過ぎただけかもしれんが。
「…………あっ、もしかして抜けたから値段が上がっちゃうとか、ある?」
「ああ、いえ。元がガラクタなので値段は銀板5枚でかまいませんよ」
『ああん!? 誰がガラクタだこのクソガキ!!』
……………………ん?
『しかも俺様の価値がたった銀板5枚だと!? 最低でも白金貨一万枚は積みやがれ!!』
「イスカ……今しゃべった?」
「い、いえ、僕は何も……」
『どこ見てんだよガキ共! 俺はこっt……』
チンッ
俺は剣を鞘にしまった。
うん。何だろう……瞬間的に、俺は剣を鞘に納めるために生まれて来たんだ……って思ったんだ。
「これ返すわ」
イスカに剣を返そうとするが、いきなり剣がカタカタと震えだした。
『わぁ! うそうそ! 冗談だから、とりあえず俺様の話を聞け!! つか、喋りづらいから一旦抜いてくれ』
「…………」
まぁ、あれだ。テンプレと言うべきだろう。
剣がしゃべりだしたーーーーーーー!!?
ビフィズス菌が通じず、ドヤ顔が通じる世界ってどんなところだろう……
ちなみに、ビフィズス菌も乳酸菌も間違い。乳酸が正解。念のため。