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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第三章 エルフの里でラブコメディ
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第五十話 里へ



「ぶうぇーっくしょんっ!!!」

『ずいぶんと派手なくしゃみだなオイ。旅の途中で風邪とか、洒落になんねえぞ』

「いや、なんつーか……どっかの馬鹿が俺の教えを拡大しつつ曲解して、なおかつ俺のことを馬鹿にした感じがする」

『どんだけ具体的な説明だ!』



こんな感じの冗談はさておき、北に進むにつれて少し肌寒くなってきたか?

ワイシャツとコート一枚じゃ若干寒いかもしれん。

エリスたちの街から逃げ出したせいで、馬車の手配もなし。だだっ広い平野をひたすら歩き続けているので、もう足はガタガタ。

正直疲れた。もう数日も舗装されてない道を歩きづめだもの、そりゃあ疲れもするさ。



「あの、ユーイチ様?」


歩くのにもいい加減飽きた頃、俺の服の後ろっ側を引っ張りつつ、上目遣いでおずおずとフランが尋ねて来た。

ぐはぁっ!!

なんて的確に俺のツボを刺激してくるんだこの子は!?

惜しむらくは、これにメガネをオプションで付けくわえればパーフェクトなんだが……それさえあれば世界を狙える!!


「あ、あの……?」

「っと、悪い悪い。んで、なんだ、フラン?」


しばしトリップしてしまっていたようだ。心配そうにフランが声をかけて来た。


「やっぱり良かったんでしょうか、エリスちゃんたち。置き去りにしてきちゃいましたけど……」

「ああー……」


実はあの騒動の後、空間に入れたまま街を脱出させたエリスたちを、近くの廃村に適当に放置してきた経緯がある。

あれだけ感動的な救出劇があったのだから、さぞかし感動に満ちた感謝を受けるのではないだろうか……と俺は思っていたのだが、現実は非情である。

さーて解放してやるぞーっと空間を開けたところ、


「変な所に閉じ込めんなこの野郎!!」


こんな感じでグーパンチ。顔面に見事にヒットし、鼻血はさながら滝のごとし。

何と言う理不尽!

エリスさん! アンタ鬼や!

まあ別に感謝が欲しくて助けたわけじゃないんだけど、さすがに肉体言語が飛んでくるとは予想外だった。

そのため、閉じ込め直してそのまま廃村へ直行。当分食うに困らないだけの食料を置いて解放し、顔を合わせないまま俺は立ち去ったのである。


『ま、あんだけお膳立てしたんだ。エリスはともかく、恨まれるような筋合いはないと思うぜ?』

「それはそうですけど……ちゃんと、エリスちゃんに挨拶をしたかったと言うか…」

「縁があればまた会えるって。色々落ち着いたらまた探してみようぜ」


俺の若干適当な言葉に、満面の笑顔で「ハイ!」と返事をするフラン。うん、すごくピュアだね。

俺大したこと言ってないのにね。


『俺はそんなことより、数十人が当分食うに困らない食料をユーイチが持っていたことに驚きだよ』

「あー……たくさん買いましたからねー。いくつかの店が閉まる位買い占めてましたから」

『しかも、それだけ渡してもユーイチが食うだけの量がまだ残ってんだからな……あきれると言うか何と言うか……』

「なんだ? 飯食えなくて嫉妬してんのか? もぐもぐ……」

『馬鹿にしてんだよ!! 物を食いながら喋んじゃねぇ!!』


背中に背負ったイスカからの贈り物。その名もリュックサック。

いや、別段特別な物ではないが、食料を詰め込み過ぎてパンパンに膨れ上がっている。

あれ? 空間の中にしまってるんじゃないの? って思った人もいるだろう。

けどアレね? すごく燃費が悪いの。

小腹がすいた時にいちいち開いてたら食料なんて一時間で空っぽだよ。

なので、歩きながら食べる分はこうして背負ってるわけ。

幸いなことに、筋力がすごく発達?しているので、そこまで重さも苦になっていない。

ビバ異世界!

ビバご都合主義!!


「びば? ユーくんって時々おかしな言葉使うね~」


と、相変わらず天然っぷりがハンパ無い話し方をするのがアエル。なぜいちいち語尾を伸ばす……キャラ付けか? キャラ付けなのか!?

そんなアエルは、数日間だが、俺たちと一緒に旅をしていた。

街を脱出する際、兵士たちに俺たちの共犯だとされてしまい、一緒に逃げる羽目になってしまったのだが、なぜいまだに一緒にいるのかというと、


「で、アエル。まだ着かないの? エルフの里(・・・・・)の……何て言ったっけ?」

『「シールヴァ」だよ。いい加減覚えろ、何回目だ。この馬鹿』

「失礼な! 俺は覚えられないんじゃない! 覚える気が無いだけだ!!」

『なおさら性質悪いわ!!』


そう、俺たちは今、アエルの故郷であるエルフの里に向かっている。

俺たちの目的である国外脱出の道筋の途中にある、ということも理由なのだが、一応他にも理由がある。

すなわち、食料不足である。

目一杯詰め込んだリュックサックでも、これは半日分の「間食」である。

正直、三食プラス間食を食べ続ければ、後二、三日で底をつく。どこかで補給の必要があるのである。

そこで、今いる位置から一番近く、確実に食料も手に入れられると言うことで、エルフの里へと向かっているのだ。


俺とテネブラエの言い争いにフランが仲裁に入った辺りで、アエルがその脚を止めた。


「ん? どうした?」

「ん~、えーっとね……正確にはもう到着してるんだけどぉ……」

「は? いや……だって何もないぜ、ここ」


どう見渡しても、そこは本当に何もない平野。

地平線の向こう側にさえ、森のひとつも見えないような場所。

そこに来て「到着してる」とはこれいかに?


「ユーくん、ちょっとテネブちゃん抜いてくれる~?」

『あん? 俺か?』


言われた通りにテネブラエを抜いてみる。


「あと、手も出して~」

「ん、こうか?」


テネブラエと、俺の手をアエルの前に差し出す。

すると、


「えい!」

「はい?」




テネブラエが俺の手に刺さった。

当然ながら血が流れ出る。




「痛ぇ!!?」

「ユーイチ様!?」


なんで!?

てかアエルが刺しやがった! えい…って可愛げにテネブラエを叩いて俺の手を刺した!!

なんでやねん!! 俺が何したっちゅーんじゃ!!


「ごめんなさいねぇ。後で治してあげるから~」

「いや、今治せよ! ちょっと!!」

「お、お、落ち着いてくださいユーイチ様! 傷は浅いです!」

『何やってんだよお前ら……』


明らかにテンパっている人間がこの場に約二名。


「あ、それと……フランちゃーん……」

「ひっ……あ、アエルさん…目が据わってます……」

「大丈夫~。痛いのは初めだけだから~」

「それって痛いってことじゃないですか! や、やめ……」




そして、




「うっ…うっ…………ユーイチ様。フランは……フランはキズものになってしまいました…」

「気持ちは分かるが、その言い方はひたすらに誤解を与えるので止めなさい」


手のひらをばっさりやられた俺とは違い、指先をちょっとだけ切られただけなのだが、フランは涙目になってしまっている。

まあ、女の子だし、当然っちゃ当然か。

そんなフランをよそに、足元にある小さな岩に、俺とフランの血をなすりつけているアエルの姿があった。

……本当に何がしたいんだこいつは……


「後は私の血も塗って~」


おいおい、今度は鼻歌交じりに自分の手を切って血を塗り始めたぞ。


『なあアエル。そろそろ説明してくれないか? ユーイチ達、どん引きしてるぞ』

「すぐ分かるよ~。えーっと……」


アエルが自身の袖をまさぐると、こう……にゅっと、明らかに入らないサイズの杖が飛び出した。

街の方でも見たが、アレ、あそこにしまってたのか…………ん?


「いやいや、その理屈はおかしい」

「ん~?」

「どうなってんだそれ? 空間術……じゃないだろうし、まさか……四○元ポケット?」

「それはよくわかんないけど……これのこと~?」


そう言って、アエルは腕に付けたブレスレットを俺に見せつけた。

どう見ても飾りです。本当にありがとうございました。


「違うよ~。これは召喚石って言って、物とかを収納できる物なんだよ~?」

「へぇ、それはまた便利な…………てか、空間術の希少性に疑問が出て来たな……」

『なんだと!? 無制限かつ広範囲に使える空間術をそこらの召喚石と一緒にするんじゃねぇ!!』

「なんでお前が怒るんだよ!」


ああ、そう言えば、神父との戦いのとき、空間術が使えなかったのだが、今は普通に使用できる。

というか、エリスたちを助ける時にも使えていたので、いまいち発動条件が分からないのだが、テネブラエに聞いても「分からない」の一辺倒であった。


「あ、それにね? これすっっっっっっっっっっっっっっっっっっごく高価だから、普通の人は持てないんだよ。数も少ないしね~」

「お、おう……そんなにか」

「うん。じゃあさっそく始めようか」


アエルはそう言い、杖を地面に突き刺すと、岩の前で手を神社参りのように二回たたいた。

そして、



「森よ、普く神の森林たちよ。

その姿は人には見えず、エルフも見るも触れるも叶うこと無し。

ならば血を捧げよう。

エルフと人と獣の子らが、自らの血を捧げよう。

門を開け。扉を開けよ。

我は彼女のしもべなり。

(Με το δάσος, δάσος του Θεού εσείς ευρέως.

Χωρίς αυτό δεν είναι ορατή με την ανθρώπινη φιγούρα, βλέπε επίσης ξωτικά γίνει πραγματικότητα, ακόμη και άγγιξε.

Θα αφιερώσω το αίμα αν.

Ξωτικά και οι γιοι του ανθρώπου και κτήνους, θα προσφέρουν το αίμα τους.

Ανοίγω την πόρτα. Άνοιξα την πόρτα.

Εμείς υπηρέτης της.)」








なんとも長ったらしい呪文を唱えた。

魔法の呪文は何度か聞いたことがあるが、それとは何となく別の言語に聞こえた。

アエルが呪文を唱え終わると、数秒の間をおいて辺りが急に光り出した。


「うお!? なんだこりゃ!?」


よく見ると、俺たちを囲むように魔法陣のようなものが光っているのが分かった。

そして、その魔法陣は俺たちの体を通り抜けるように上昇する。

ぬるま湯に浸かるような感覚を覚え、ビックリして縋りついて来たフランの体の感触を楽しみつつ、あまりのまぶしさに目を瞑ってしまう。


「ユーくん、フランちゃん。もう目を開けても大丈夫だよ~」


アエルの言葉に、目を瞑っていながら、光が弱まっていることに気が付いた。

恐る恐る目を開く。確かに目を開けても平気なようだ。だが、俺の目には意外というか何と言うか……すごい物が見えていた。


「うわぁ…………」

「ふわぁ…………」


不覚にもフランと同じような反応をしてしまった。

いや、この場合、誰であろうと同じ反応になるに違いない。

さっきまで何もなかった場所に、大木が何千本と生える(・・・・・・・・・・)大森林が広がっていた(・・・・・・・・・・)のだから。

辺りを見渡しても、先程までの光景の名残もない。360度すべて木々で囲まれている。

あまりの状況に、大木にすら威圧感を感じてしまう。

いやいや、待て俺。落ち着け俺。

こんな時こそ持ち前のクールさを発揮するんだ!

とりあえず深呼吸、深呼吸……


『いやぁ、しっかし……俺も初めて見たが、すっげぇのな。エルフの隠匿魔法って言うのは』

「正確には認識魔法の応用らしいんだけどね~。中に入るには、エルフの血と、入りたい人たちの血を捧げて、特定の呪文とかを唱えないといけないんだよ~」

『たったそれだけの手順で入れるってのも怖いけどな。簡単に悪用されそうだし』

「大丈夫。森の外にいるエルフなんて数えるほどしかいないから~」

「ひっひふー、ひっひふー……よーし落ち着いて来た」


テネブラエとアエルが話しているうちに、どうにか呼吸を落ち着かせることに成功。

よし。今ならどんな状況にも冷静に対処できる気がする。


「ユーイチ様、それ深呼吸じゃ無い…………ん?」


突然、フランの耳がビクッと反応した。

オウ猫耳。イエス猫耳。


「どうしたフラン? イエス猫耳……じゃなかった。耳、変なことになってるぞ?」

「あ、いえ……なにか……」


自身でもよく分かっていないようなフランは、辺りをキョロキョロと見回すと、やはり分からないといった具合に首をかしげる。

同時に俺も首をかしげた。


「ユーくん。フランちゃん」

「ん?」


アエルが俺たちを呼んだ。

美人さんが満面の笑みを浮かべ、両手を広げてこう言った。





「ようこそおいで下さいました! エルフの里『シールヴァ』へ!」




嬉しそうに言うアエルに、自然と俺たちの笑顔もこぼれる。

うん。美人さんの笑顔ってのも良いものだ。

……だけど、俺たちの笑顔はすぐさまお亡くなりになり、逆に顔をしかめることになってしまった。

アエルが両手を広げる姿……の後方。

数十人くらいか?

俺たちに弓を構える男たちが(・・・・・・・・)見えたのである。

ああ、フランが反応していたのってこのことなんだ……


「どうしたの? 二人とも固まっちゃって~」


弓を構える男たちに気が付いていないのか、首をかしげるアエル。

一方で、俺たちはすぐさま次の行動へと移る。




「えーっと…………ホールドアップ?」










雄一は書いていて楽しいです。

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