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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第二章 -外伝- 真実と勇者
74/91

番外編 騎士と姫の物語 後編

一人称なのに視点が変わりすぎ……難しい。

ちなみに、今回はエアリィ視点です。




私の母、ソフラ・ラ・モントゥは父であるワング・ジ・アラム・モントゥと結婚した。

元々王国有数の大貴族の出であった母は、政略結婚の道具として、その身を国へとささげた。

だけど、母は父に恋をした。会うだけで……いや、その姿を見るだけで胸が高鳴ったと、常々私に話してくれた。話をしている母は、幼い私でも分かるほど、心の底から父を愛していた。

それでも、父は母ではない人間を愛してしまった。

下級貴族の出であるサラと呼ばれる女性は、妾として父のもとにやってきた。そして、彼女もまた、父を深く愛していた。

政略結婚の母と、恋愛で結ばれたサラ。

父が深く愛したのは母ではなく、サラの方であった。

その後、母のもとに私が生まれたことにより、母はさらに立場を失ってしまった。

モントゥ王国は、長年魔軍と戦争をしてきたこともあり、王位を継承するのは、王族の中で最も『武』に優れた人間だ。

魔力が最も高い者。剣技にもっとも秀でた者。とにかく、戦闘を行える人間が最も王位に近くなるのだ。

私にはどちらも無かった。

魔力はおろか、魔法すらろくに使えず、身体能力もそこらの女中以下。

最初から私に王位を継ぐ資格は無かったのである。本来ならば、王位第一継承権を持つ長女にもかかわらず……

おまけに、元々病弱であった母は、私を産んでから体調を崩してしまい、それ以上子を成すことができなくなってしまった。

正妻にもかかわらず、私のせいで母の立場は無くなってしまったのだ。


その後、サラのもとに三人の子供が生まれた。

一人目は男。幼いころより、超人的な剣技を持つ長男。

二人目は女。どのような傷も一瞬で癒してしまうほどの治癒魔法を難なくこなす次女。

そして、三人目。シルフィは史上初、若干十二歳で魔導師の資格を取るほどの魔法の天才。

父は彼らを大層かわいがった。

愛した女性が産んだ愛する子たち。その中に、私は含まれてはいなかった。

どんどんやせ細って行く母を看病し、私は自身を殺したいほどに憎んだ。


私のせいで母は父に愛してもらえない。

私が生まれたから母は死にかけている。


そんな私に追い打ちをかけるように、『血色の月事件』が起こった。

シルフィの母、兄、姉が一挙に事件に巻き込まれ、死んでしまった。

父は怒り狂い、この事件にかかわった王党派の人間はすべてが極刑に処された。

ゲイルの父も私を庇って亡くなり、トニトロス家はその影響力を無くしてしまう。幼馴染で、教育係で、私が愛したゲイルが私から離れていった。


その少し後、母が死んだ。


私は、唯一私を愛し続けてくれた人を失った……








「そんな感じの可哀そうな女の子が居ましたとさ」

「……っ!?」


ロキがつらつらと話したのは私の……エアリィ・ラ・アラム・モントゥの過去だった。

ゲイルが敵と戦っているすぐ横で、なぜか私は襲われずにロキの話し相手をさせられている。

どういうことだ?

ロキがなぜ私の過去を知っている?

事のあらましはともかく、当時の私の心情までズバリ言い当てている。

いくらなんでもそんなことが……


「できるわけないってか?」

「……! 心を読んでいるのか……ずいぶんと悪趣味ね、あなた」

「あっはっは! 間違ってはいねぇが、チョイと違うな」


ニヤニヤと笑いながら腰かけていた木から降り、私へと近づいてきた。

いつでも逃げられるように身構えるが、どの道逃げ場などない。

周りではゲイルが魔族たちと戦っている。正面にはロキ。おまけに私は体力もなく、敵を振りきることなんてできない。

自分のひ弱さに唇を噛みつつ、ロキの接近を許してしまう。そして、ロキはつぶやいた。


「『お母さん、エアリィを一人にしないでください』」

「…………は?」


ロキの口から発せられたのは、とても……そう、とても聞きなれた声。

先程までの卑しい男のではない。透き通った、少女の声。私自身の声(・・・・・)だった。

それも、昔の……私が発した台詞を当時のまま、ロキは口にしている。



「『なんでお母さんががこんな目に合わないといけないの?』」

「『なんでお父さんはお見舞いに来てくれないの?』」

「『私が役立たずだから?』」

「『私が生まれちゃったから?』」

「『こんな思いをしなくちゃいけないなんて……』」

「『シルフィなんて生まれてこなかったら良かったのに』」



「やめろ!!!」



気がつけば私は叫び、ロキの頬を叩いていた。

私の台詞を、私の気持ちを他人にささやかれるのは、とても不愉快だった。

それが昔とはいえ、私の本心を……母の前でしか言えなかった本心を、他人に言われるのはとてつもなく不愉快だったのだ。

唇から血を流すロキ。だがその顔は、叩かれたにしては大変うれしそうに笑っていた。


「とまぁ、これが本当の能力ってやつだ」

「……心を読むだけでなく、他人の過去すら冒涜するのか……先程の発言は取り消そう。悪趣味どころか貴様は下劣極まりない!」

「悪趣味ってのは取り消さなくて良いぞ? 自覚してるしな。っていうか、そうムキになってるってこたぁ、お姉さんも自覚ありってことかな?」

「ち、違っ……」

「違わないだろ。父親に愛されず、弟妹達は自分を置いて行ってしまう。そんな奴らを疎ましく思うことのどこがおかしい?」


ロキは私に語りかける。

お前は悪くない。

お前は可哀そうだ。

他人を恨んでも仕方がない。

自分を卑下しても仕方がない。

そう言う人生だったんだ。

つまらない人生だったんだ……


「違う!!」

「違わねぇよ。可哀そうなエアリィ。妹達の影に隠れる哀れな子。同情されて憐みを受けるだけの空しい人生。空虚な人生それだけだ」

「違う!!」

「違わねぇっつってんだろうが!! お前の人生に価値はあったか? たかが妾のガキどもに地位を奪われて! 勘違いした貴族どもに初恋相手を奪われて!! そこに何の価値がある!?」

「違う! 私は違う! 誰も恨んでない!! 陛下も、シルフィも、ゲイルも……私は皆のために……」

「皆のために……なんだ? 自分の身を捧げますってか? 贖罪のためにあきらめますってか? 何もない自分でもこんなに頑張ってますって言いふらしてきただけだろうが!」


……ロキが言っていることは正論だ。

私は父を恨んだ。

シルフィを恨んだ。

ゲイルのためになるよう、自分を捧げると誓った。どれも否定できないことだ。

すべて認める。なのに……なんでこんなにも心が痛い?

いつも感じてたことだったのに。

人から言われただけで動じてこんなに苦しいのだろう。


「……なぁ、お姉さん。俺ぁあんたに同情してんだよ。だからこうして話をしてんだ」

「…………」

「本心では認めてんだろ? だったらさ、いっそのこと……楽になっちまえよ」


ロキは耳元で優しくつぶやいた。

だが、その表情は優しい口調とは違い、卑しく、禍々しく笑っていた。

ロキは私の心配などしていない。そんなことは分かりきっている。

それでも、ロキの言葉は不思議と私の心に突き刺さった。

今まで貯めて来たものを吐き出すように私の目から涙が流れる。

誰にも知られていなかった自分の本心を、全くの他人。それも敵に悟られてしまうと言う悔しさも入り混じっているように思う。

そして、ロキはそんな私の首を握った。


「大丈夫。すぐに楽にして……」


力なく、ロキに身をゆだねた。

ロキの手に力がこもり、首に痛みが襲うと同時に、空気が肺に入ってこない苦しみがやってきた。

だがその瞬間、一筋の閃光が走った。

まぶしすぎるその光に眼がくらみ、ロキの手から離れてよろけてしまう。

眼を開くと、そこにはロキを庇うように、焼きただれた魔族たちが居た。

炭化してしまった魔族たちは、すぐにその傷を回復してしまう。


「ああん?」


ロキが顔をしかめ睨みつけたのは、同じくこちらを見て顔をしかめているゲイルだった。

しかも、その視線はロキではなく、私へと向けられている。


「いい加減にしろよ、エアリィ」

「……え?」


ゲイルが私に向ける表情は、明らかに怒っているものだった。

眉を寄せ、口角を下げ、私に怒りを抱いている顔だったのだ。

突然、負の感情を思い切りぶつけれらてしまい、私の体はすっかり竦んでしまった。


「さっきから聞いていれば、ロキに言われるがまま……ふざけるな!!」

「……っ!」

「君が弱いだって? 君の人生に意味がなかった? 何だそれは!!」


ゲイルは叫ぶ。

以前襲い掛かる魔族たちを薙ぎ払い、一言一言、私に言葉をぶつけて来た。


「私は知ってるぞ? 君が魔法や剣技ができなくて、他の分野で取り戻そうと政治や医学を学んだことを」

「…………あ」

「私は知っているぞ!? 君がシルフィや……私を愛してくれたことを!!」


…………ああ、そうだった。

何をやってるんだ私は。

分かっていたことじゃないか……

当たり前のことじゃないか……

それを、今会ったばかりの人間の言葉で落ち込んだりして。

私は馬鹿だ。


シルフィを憎んだ。

父を恨んだ。

ゲイルには後ろめたさがいっぱいだった。

けど…………私はそれ以上に彼らを愛してしまった。

愛してしまったのだ。


「私は……たとえ本人でも、君を否定する人間は許さない!!」

「ゲイル…………ありがとう」


涙を流した。

先程までの悲しさからくる涙じゃない。

とても暖かい。心から流れ出てくるような……うれし泣きだった。


「あーあーあーあー!! 気持ち悪ぃなぁおい!! 劇場の三文芝居魅せられてる気分だ。つらつらと意味の無い台詞吐きやがって!! 良いからお前は死んどけよ!!」


ロキが手を振った。それが合図だったのか、魔族たちは防御など全く考えない動きでゲイルへと向かって行く。

あっという間に、ゲイルの姿は見えなくなり、魔族たちの剣はゲイルが先程まで居た空間へと突き刺されている。


「はぁ、やっと終わりやがったか……さて、お姉さん。さっきの続きを……」


バチンッ!!

大きな音が辺りに響いた。

その音の発生場所は私。自らの顔を手加減なしで思いっきり叩いた。

頬がジンジンして次第に熱くなってくる。多分、今鏡を見れば、赤く張りあがった自らの顔に吹き出してしまうことだろう。

でも、これでスッキリした。そしてはっきりとわかった。


「……ふぅ」

「…………何してんだお姉さん」


私はロキの顔を見た。

さっきまで嫌らしく笑って、ずいぶんと醜悪な顔だと思っていた。けど、そんなことは全くなかった。

私の目の前にいたのは、ただの人間だった。

ボロボロの服を着て、無精ひげを生やしたその辺にいるただの人間。

怖がる理由が全くない。


「ありがとうロキ」

「……あぁ?」

「私は…………もうあなたが怖くなくなったわ」


思わずいつもの口調に戻ってしまった。

私の発言に、ロキの顔はみるみる歪んで行く。それは怒りか失望か……それは今の私には関係がない。

ロキの言葉が……いや、ロキが居なかったら私はこんな気分にはなっていなかっただろう。

とても清々しい。こんな気持ちになったのは生まれて初めてかもしれない。

だからこそ、私はロキにお礼を言った。心からの感謝をこめて。


「駄目だ……」

「なに?」

「駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だっ!!!!」


息や唾がかかるほど近くに顔を寄せ、ロキは同じ言葉を吐き続けた。

その顔は私のこれまでの人生でも見たこともないような。人を嫌悪し、見下し、本気でその存在を否定するような……そんな顔をしていた。


「それじゃ駄目なんだよクソガキ!! つまんねぇこと言うなよ!! お前は! もっと憎しみをばら撒かせてわめきながら死ぬべきなんだよっ!! そんなことも分かんねぇのか!?」

「…………ああ、そうか」

「あぁ!?」

「あなたって……思ってたよりも小さいのね(・・・・・)


血管が切れる音がした。

私の言葉に、ロキは見てとれるように切れた(・・・)

私の首を鷲掴みにして、怒りを暴力としてぶつけて来た。

体が宙に浮く。片腕で軽々と持ち上げられ、足の踏ん張りが効かずに思わず嗚咽が漏れる。


「あぅっ!」

「もういいや。喋んなくてもいいからさ、死ねよお前」


ロキの腕に力がこもり、同時に私の体から力が抜けて行くのが分かった。

口からはだらしなく涎が垂れてくる。気を抜けば下からも色々と漏れてきそうだ。

だけど、そんな中で私はロキに伝える。


「私……はっ……」

「…………」

「私は……あなたは怖くないっ…………確かに、あなたが言ったことは間違ってない……けどっ」


いつの間にか、喋れる程度にロキの力は緩まっていた。

最期の言葉として聞いてくれているのかもしれない。


「しょうがないじゃない……それだって私なの! シルフィ達を憎んだのも……ゲイルに罪悪感を抱いてたのも、……シルフィ達を好きになったのも……ゲイルを愛したのも……全部エアリィ・ラ・アラム・モントゥなの!!」

「……命乞いでも聞かせてもらえるのかって期待したんだが……時間の無駄だったな」


ロキの腕に再び力がこもり始める。

だからこそ……肺に残ったわずかな空気で、私はもう一言だけ叫んだ。


「だから……これからもみんなと生きたい! 助けて! ゲイル!!」


この言葉を発した直後、私の視界は真っ白になった。

でも、これは私が死んだからとかそういうことじゃない。

一瞬の閃光は、魔族たちから発せられていたのだ。いや、より正確に言うにはその中から(・・・・・)

魔族たちが襲いかかった、先程までゲイルが居た場所から、光は放たれていた。



「わかったよエアリィ」



そう聞こえた。

とても聞きなれた、優しいゲイルの声だった。


(summon)(itionem)!」


ゲイルは唱える。さっきと同じ呪文だ。

だけど、さっきよりも遥かに大きな振動が私を襲った。

魔法がほとんど使えない私でも分かるほど巨大な魔力の波動。

そしてそれは、魔族たちやロキも同様。いや、ゲイルから敵意を持たれている以上、私よりも遥かに今の状況を把握しているだろう。

そして次の瞬間、魔族たちは文字通り跡形もなくけしとんだ。

大勢の魔族を一瞬のうちに蒸発させ、ゲイルはその姿を現した。

魔槍ケラウノスを携え、新たに召喚した聖獣『スレイプニル』に跨るその姿は、まさに『騎士』と呼ぶにふさわしい様相だ。


「なんだありゃぁ」


ゲイルの姿を見たロキの一言。

余裕を含んでいた顔はどこかに行ってしまい、初めてロキの顔は青ざめていた。

ロキと私の目に映るのは八本足の巨大な馬。鼻息荒く、蹄は地面を蹴りたてる。

王国で数千年飼い続けている、この世で最も気高く強い軍馬とされるそれは召喚されて早々、自らの敵をはっきりと認識してロキを睨みつけている。


「私のすべては、君のものだ」


ゲイルはスレイプニルの横腹を蹴った。

待ってたと言わんばかりにスレイプニルは疾走する。再生し始めた魔族たちを蹴散らしながら、ただひたすらに突き進む。

勿論ロキも黙って見てはいなかった。魔族たちに手を振って命令する。

再生し続ける魔族たちはロキの壁になるように集結し、剣や槍をゲイルへと向けた。


「蹴散らせ! ケラウノス!!」


ゲイルが叫んだ。

雷撃が槍からけたたましい音を立てながら魔族たちへと襲い掛かり、その身を一瞬のうちに蒸発させた。

運よく生き残った者たちは、スレイプニルの猛烈な突撃により吹き飛ばされ、踏みつぶされる。

それすらも避け、横っ腹に剣を突きたてようとする玄人も、ケラウノスを携え、雷を纏うゲイルには近づくこともできずにその身は焼かれた。

さらに攻撃むなしく空を切った敵の剣戟たちは、追いすがることもできずにゲイルの背中を見つめるだけ。

もはやゲイルを止めることのできる人間などこの世には存在しない。

行く手を遮るものはスレイプニルが蹴散らし、横っ腹を突く者はその身を焼かれ、見ることのできるのは過ぎ去ったあとの騎士の背中。

それが『(いかずち)』のトニトロス。

この世で最も『騎士』と呼ぶにふさわしい人間なのである。


「が……ああああぁぁぁっ!!!」


窮したか、ロキは私を放った。勢いよく突き進むゲイルのもとへと。

私が障害物になるとでも思ったのだろうか? だとしたらお笑い草だ。

『騎士は君主を守る者』なのだ。この程度の逆境、乗り越えられないはずもない。


目を開ければ、そこにはゲイルが居た。

いつだって私の傍にいたし、いつだって私は彼の傍にいた。

そんな彼だからこそ、私の胸は高鳴って、顔は熱くなった。

涙はもう流さない。

私はこれだけで幸せだ。


「ゲイル、あなたが好き」


偽りの無いただ私の想い。

姫だ騎士だと言っても、そんなものをかなぐり捨てて残ったただ一つの気持ち。


「ああ。私も、エアリィを愛しているよ」


ゲイルは私を抱きながらそう言った。

そして、その言葉が私の耳に届いた時、一筋の雷光がその場に走った。









「あ~あ、死んじゃったよ俺」


戦いは終わった。いくらでも再生していた魔族たちはその体を崩し、もはや戦うことはできない。

一方、木の幹に張り付いてロキは私たちを見下ろしている。ただし、その体には大きな風穴が開き、内臓は消し飛び、体中の血液が流れ出ていた。

誰がどう見ようとも生きているようには見えない。精神力云々ではなく、物理的に身体機能は停止し、魂は間違いなく昇天されている状態だ。

にもかかわらず、何事もなかったかのごとくロキは飄々と喋っている。

自らが死んでしまったと、まるで些細な失敗のように言い放つ。

まったくもって異常な光景だが、喋れるのであれば私が取る行動は一つきりだ。


「ロキ、あなたの目的は何?」

「さっきから何度も言ってるだろ。あんたらを殺すことだよ。まぁ失敗しちまったけど」

「では質問を追加して、あなた(・・・)の目的は誰の目的なの(・・・・・・・・・・)?」


ロキは言った。『神に逆らう実験』だと。

言っては何だが、目の前の男は微妙に主張が一貫していない。

『目的』と言うからにはその道をひたすらに突き進むのが普通だ。そして、ロキの目的は私とゲイルを殺すこと。

ただ単に殺そうとするのなら、長々と話したりはしない。むしろ、『暗殺』と言う手段を使えばゲイルはともかく、私は苦も無く殺せたことだろう。

ではなぜゲイルと一緒にいる時を狙って、しかも正面から堂々と襲ってきたのか。

私は思う。ロキと言う男は楽しんでいたのだ。

私の心を弄び、ゲイルに見せつけ、その後で殺そうとした。

私たちを殺すことは、ロキの『目的』であるとはいえ『信念』では決してない。ならば、その『目的』を示した他の人物が居るのではないか? 私はそう考えるのである。


「はっ、まあ俺をここに遣わせたのは別な奴だけどよ。あんたらを殺したかったのは俺の意志だ。あいつ(・・・)の目的は、俺のと大きな差はないが、また別の所にある」

「……? あなたに指示を出した人とは別の意志で動いていた……?」

「まあな。残酷な神様が生んだ哀(・・・・・・・・・・)れな羊飼いが守ってる(・・・・・・・・・・)羊の一匹(・・・・)なのさ、俺たちは(・・・)。だけど、羊だって一匹一匹『意志』ってもんがあるんだぜ?」

「……先程から『神』と言っているが、それは一体なんの事だ? 信仰が絡む話なのか?」

「あっはっは! そんなことお前らに言っても意味ねぇよ。理解もできなきゃ想像すら難しいだろうな」

「じゃあ、その哀れな羊飼いとやらが私たちを殺そうとしていたわけではないの?」

「ああ。あいつ(・・・)がお前らを殺したいっていうのはありえねぇよ。むしろあいつ(・・・)ならこう言うだろうな『僕は君たちを愛してる』ってな」


……は?

疑問符しか出てこないロキの台詞。

殺そうとする人間に『愛している』? どんな愛なの、それは?


「ま、そんなわけだ。質問にも答えたし、俺はそろそろ逝くとするよ」


ロキがそう言うと、ぐちゃぐちゃになっていたロキの肉片が灰のようにボロボロと崩れ始めた。

肉は灰に、血は砂に。まるで、先程まで人間であったことを否定するように、ロキの体は物へと変わってゆく。


「待て! まだ質問に答えてもらった訳じゃ……!」

「つっても、言えることはこれくらいだしな。ああ、そうそう。じゃあひとつ、さーびす(・・・・)をしてやるよ」

「さーびす?」

「羊飼いの羊はもう一匹(・・・・)。この近くにいるんだがよ、そいつには気を付けた方が良いぜ? なにせ、羊飼いに忠実なくせ、俺以上に俺の目的に熱心な奴だからな」

「待っ……!」


叫ぶ間もなく、ロキの体は消滅した。後には血の痕すら残さず、そこにいたのかさえ疑問に残るほど綺麗に。

そして、あまりの非常識な出来事に呆ける時間すらままならない。

ロキの仲間がもう一人……ここに居ないなら何のために近くにいるのか。

その答えの一つに、私にとって最悪なものがある。





「シルフィ……」






シリアスは…………苦手だ!!

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