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理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第二章 凍てつく大剣
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第四十七話 バトル展開 中編



「フラン!!」


目の前にフランが居た。

ロープで縛られていたが元気そうだ。

思わずテネブラエを投げ捨て、抱きしめた。


「ああ~……良かったぁ。どこも怪我してないか?」

「は、はい。私は大丈……って、きゃあ! ゆ、ユーイチ様! 腕が! 腕が変な方向に曲がってますよ!?」

「うん? ああ、大丈夫だってこんなの。平気平……あっ、やっぱ駄目だ」


調子に乗って折れた左腕を大きく回すと、痛いものは痛かった。

フランに会えた喜びで麻痺しかかっていた激痛が再発する。


「だ、大丈夫ですか?」

「~~~~~~~っ! 大丈夫」

『全然大丈夫そうに見えないな。まあいい、とりあえず助けろ』


見ると、テネブラエが瓦礫の山に突き刺さっていた。

何やってんだこいつ? と思ったが、そう言えばさっき投げ捨てたのは俺だったな。

仕方無く瓦礫から引っこ抜いてやる。瓦礫が崩れ落ち、あることに気がついた。

金貨の山である。


「うおっ!? 何だこりゃ!?」


薄暗い地下室に目が慣れてくると、そこにはまさに金銀財宝。

金貨、銀貨、宝石、金ののべ棒。あらゆる財宝があたり一面に敷き詰められていた。

まあ間違いなく一生豪遊して暮らせるほどの量である。

財宝に思わず見とれていると、フランが必死そうに話しかけてきた。


「ユーイチ様、あの神父さん一体……」

「ああ、悪いけど説明してる暇が無いんだよ。すぐに戻らないと……神父が下りてきたら巻き込まれるぞ」


後ろ手に縛ってあった縄を切る。


「やっぱり、上で戦っていたのは神父さんだったんですね。だけどなんで……」

「ん? なんでって……神父が俺たちを拉致監禁したのは知ってるだろ?」

「はい」

「だったらあいつが悪人だってことは分かるよな?」

「それは……でも、何か……神父さんじゃないみたいな……」

「そりゃまぁ、神父がする行動ではないけど……何かって、何だ?」

「あの、神父さんが私たちを捕まえた後、おっしゃったんです。「後のことをよろしくお願いします」って」


フランが何かを訴えようとしているのは分かるが、支離滅裂というか、いまいち要領を得ておらず、意味が分からない。

神父が「後を頼む」的な発言をしたからなんなんだ?

確かに、捕まえて縛り上げた後に発する言葉では無いと思うが、それがこの状況と何の関係があるんだろう。


「けどな、あの野郎はエリスを……」

『やれやれですねぇ』

「!」


フランとエリスを担ぎ、その場を飛び退いた。

声はグラシエムのものだったのだ。

目玉が地下室まで下りてきていた。ギョロっと俺を見つめている。


「お前……」

アタクシに黙って何をしているのかと思えば……まだそんなことができるほど『自分』が残っているとは』


やれやれと、人間の仕草のように目玉が左右に揺れる。

この暗がりの中では冗談抜きでホラーな光景である。

グラシエムは武器の癖にゆら~と動き、フランの目の前まで迫った。


「わっ……」

『おほほほ、怖がらなくてもよろしいんですよ? お嬢さん。アタクシ、グラシエムと申しま……』


グラシエムが自己紹介を終える前に目玉を殴りつけた。

目玉なデザインの割に鉄球のそれと同じく、凄まじく硬い。

グラシエムが吹き飛ぶが、何も無い空中で急ブレーキがかかる。


『…………「挨拶途中に人を殴るな」と親御さんに教わらなかったのですか?』

「あいにくと親はいない身の上なんでな。怒ったか?」

『いえいえ、アタクシはこの程度のことで怒ったりはしませんよ。…………おや?』

『よう、久しぶりだな。グラシエムのくそ野郎』

『ああ、ヒュージさんが手に入れた魔剣と言うのはあなたのことでしたか。テネブラエさん』


目玉と剣が会話をしている。とてつもなくシュールな光景だ。

いやそれより、二人の会話から察するに、こいつらは知り合いらしい。


「知ってるのか?」

『知ってるぞ。史上最低最悪最下の魔武器『グラシエム』。魔武器業界で知らない奴はまあいねぇな』

「魔武器業界って……どんなコミュニティーだよ」

『三百年ぶり……と言ったところでしょうか? あの時の競り合いは大変楽しいものでしたねぇ』

『思い出したくもねぇな。つか、お前が居るってことは、あの神父……』

『御想像の通りだと思いますよ。まあ不完全な物となっていますがねぇ』

「チョイ待ち。俺のわかる説明をしろ」


さっきから微妙に俺とフランが置いてきぼりを喰らっている。

武器同士の昔話に花を咲かせるのも結構だが、状況と言う物を考えてほしい。


『こいつはな、『失敗作』なんだよ』

『相も変わらず失礼な方ですねぇ。「選ばれた」と言っていただきたいのですが』

「失敗作?」

『俺達、魔武器って言うのは色々な特殊能力を持った武器だ。けど、稀に『失敗作』っつって、所有者に武器人格の影響を与える奴が居る。しかも、たいていの場合は魔武器そのものの人格も破綻しちまっているから悪影響にしかならない。町の連中が言ってたろ? 魔武器がどうの、変わってしまったがどうのって』

「…………そんなこと言ってたっけ?」

「言ってましたよ、ユーイチ様……」


いかんな、こんなところで俺のキャラが立ってしまうとは。

いや、と言うか、この話が本当だとしたら……


「神父が異常なのはこいつのせいってことか?」

『簡単に言えばそう言うことだ』

『おほほほ、「アタクシのおかげ」と言ってほしいですねぇ。アタクシは素直になるお手伝いをしただけですから』

「…………エリスを襲わせたのもお前が原因か?」

「ゆ、ユーイチ様?」

『ですから素直にしてあげた…………っ!?』


グラシエムがはるか彼方にぶっ飛んで行った。俺がぶっ飛ばした・・・・・・・・

俺が落ちてきた穴を通るように調整しながらぶん殴った。


色々分かったことがある。

神父が口にしてきたこと。それは間違いなく本人の気持ちだったのだろう。

だけど、行動はそうじゃない。エリスを殺そうとしたことも、タイクを含めた町に人間を殺しているのも本人の意志ではなかった。

勿論、俺は洗脳前の神父を知っているわけじゃない。

もしかしたら、今並みにくそ野郎だったのかもしれない。

けど、それでも町の人間やタイク、エリスに慕われていたのは彼らの発言からは分かる。

そんな人間を家族を殺しても平気な人間にしたのはグラシエムだった。

エリスを愛していると本気で言えるのに、エリスを本気で殺せる人間にしたのはグラシエムだった。

これはもう……許して良い問題じゃない。

さっきからずっと怒っていた俺だけど、今度は違う。大激怒・・・だ。

止めさせる。絶対に。


「フラン」

「あ、はい!」

「あっちに、ドアっぽいのがあるだろ? エリスを連れてあそこから脱出してくれ」


そう言って、崩れた財宝で埋まりかかっているドアの方を指さす。


「ユーイチ様は……どうするんですか? そんな大けがで……」


フランが心配そうにこちらを見ている。

確かに、俺は心配されるには十分なほどの怪我を負っている。

今現在立っていられるのも不思議なぐらいだ。

けど行く。くそ野郎をぶん殴りに俺は行く。


「心配するな。俺が強いのは知ってるだろ? すぐに戻ってきてやるよ」


フランの頭を撫で、俺は聖堂へと戻った。








◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




ドゴンッ!!

そのような音を立て、グラシエムは天井に突き刺さった。


「おや、お帰りなさい。グラシエムさん」

『やれやれ……皆さん短気でらっしゃいますねぇ。まぁ、それはそれで愛でようもありますが』

「その様子ですと、ユーイチさんはすぐに戻ってきそうですね」

『何やら逆鱗に触れてしまったようです。いつの時代でもいるものですね、ああいった類の人間は……』

「では、お迎えの準備でも…………っ!?」


神父がのけ反る。

そして、その目の前には剣……すなわちテネブラエが飛んできていた。

神父の顔面に危うく突き刺さろうとした剣は、神父に柄で弾き飛ばされ、柱に突き刺さった。


『だから|俺(剣)は投げるものじゃねぇって言ってんだろ……』

「テネブラエさん? 危うく死ぬところでしたよ……」

『そういうのはユーイチに言ってくれ。俺が好きで飛んできたわけじゃねぇ。そら、よそ見してていいのか?』

「!?」


そう、ここでようやく俺が登場した。

某ゲームの登場キャラ。そのあまりに有名な掛け声とともに。


「昇ー○ー拳ー!!」


まあ、ぶっちゃけただのアッパーカットである。

俺の拳は見事に神父の顎を捕え、後方へと吹き飛ばした。


「ぐあっ!!」

「おっしゃぁ!! やっと一発目ぇ!!」


思わずガッツポーズである。

テネブラエを引き抜きながら考えてみたのだが……思えば、この神父を殴れたのは今のが初めてだ。

その間に俺はどれだけのダメージを負ったことか……

痣になること間違いなしの腹!

ちょっとばかし非常識な方向に曲がっている腕!!

噴水のごとく血が噴射している頭!!!

ついでに立ってるだけでズキズキと痛む足!!!!

それだけ喰らわされてようやく一発である。不釣り合いにもほどがある。


「さて問題です。俺の気が済むには、あと何発殴ればいいでしょうか!? はい! シンキングタイム3秒!!」

「し、しんきんぐたいむって……なんです……」

「3~2~1~。はいブー! 残念! 不正解者には…………武器没収の罰を与えます」

『!! おほほほ……アタクシを取りあげてヒュージさんを正気にしようとでも? おほほ、それはどうでしょうかねぇ? アタクシを壊したところで元に戻る保証はどこにも……』

「お前さ。こんなことわざ知ってるか?」

『はい?』

「…………当たって砕け散れ!!」


そんな感じで俺は本日何回目かの突撃を行った。

手元で『それって「砕けろ」じゃね?』と剣がしゃべっていたが無視をすることに決めた。


『さあ、来るようですよヒュージさん。そろそろ構えてくださいな』

「え、ええ。揺れていた頭もようやく収まってきました……では!!」


顎へのダメージが収まってきたのか、神父がいよいよ攻撃態勢に入った。

柄を振りおろすと、グラシエムが床にめり込む。

そして、そこから氷の柱のようなものが地面から突き出て来た。それはもう何本も何本も……

当然のごとくその尖った氷の柱は俺を襲ってくる。


「なめんな!!」


俺は剣を振った。

ただそれだけ。

テネブラエの切っ先が氷に触れる感触が手に、腕に、そして体に伝わった。

そしてその瞬間、何本も突き出て来た氷の柱は粉々に砕け散る。

テネブラエの刀身が雪のような模様とともに青く変化した。


「なっ!?」

『グラシエム、お前俺と戦ったことがあるのに能力忘れちまったか?』

『しまっ……!?』

「○イダーキーーック!!」


飛び蹴り。

俺は改造人間ではないがこれぐらいはできる。

血が流れ、泣きそうになる位痛む足に歯を食いしばりながら攻撃した。

……が。


「ぐっ!」

「あっ!? ちくしょっ……!!」


俺の放った飛び蹴りは、神父の柄によって防がれていた。

しかもここからが性質が悪い。

防いだとはいえ、俺の蹴りを受け止めた衝撃があるはずなのだが、神父はその状態から反撃してきたのだ。

神父の回し蹴りが、俺のへし曲がった左腕へと吸い込まれた。


「が、がぁ……ぁああああっ!!!」


腕に走る激痛に叫び声をあげる間もなく、俺も反撃を行う。

体をひねり、神父の頭に蹴りを喰らわせた。


「くっ……!」


神父はよろめきはしたものの、俺が喰らったダメージには遠く及んでいなかった。

そして、俺が受けたダメージは……本当に深刻であった。


「ぐっ……く、あああ…………っ!!」


泣きたくなるほど。なんて言えない。

本当に、ちょっとでも気を抜くと気絶してしまいそうな激痛が腕だけではなく、全身に響く。

その痛みで全身はあぶら汗で気持ち悪く濡れる。胃にすら届き、吐き気が襲ってきたほどだ。


『ユーイチ! 油断するな!!』


そんなこと分かってるわ! と反論したかったが、痛みで隙だらけの俺に説得力なんて無い。

それどころか、テネブラエの大声で自分がほんの一瞬、自分が気絶していたことに気が付いた。

慌てて警戒感を強めるが、時すでに遅し。とぐろを巻くようにグラシエムの鎖が俺を囲んでいた。


『テネブラエさんの『吸収』を忘れていたのは失態でした。ですが、魔法ではないものは防げないでしょう?』


グラシエムがそう言うと、鎖がその幅を急激に狭め始めた。


『来るぞ!』

「ええい! こなくそっ!!」


痛みに身をよじる暇もなく、テネブラエを地面に突き刺した。

すなわち、テネブラエのもう一つの能力である『放出』を使ったのだ。

剣先から周囲に先ほどのような氷の柱が突き立った。そして、器用に切っ先が鎖の隙間に刺さり、その動きを止めたのである。


『見かけによらず、なんと器用な……っ!』

「見かけによらずとか言わないでくださいっ!!」


若干傷つきながら、俺は次の行動へと移った。

氷でグラシエムの動きを封じているテネブラエを残し、鎖の間をかいくぐって神父の前に参上する。


「そんな傷で私に勝てると思ってるのですか?」

「……お前、こんなことわざを知ってるか?」

「はい?」

「…………当たって爆散!!!」


地面に残してきた剣が『いや、だから「砕けろ」だって』と言っていた気がするが……多分空耳か何かだろう。





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