第四十六話 バトル展開 前編
珍しく筆が進んだので早めに投稿です。
おかげさまでユニークアクセスが二十万を突破しました。
「ふんがっ!」
バトル展開に入って早々、聖堂の入り口付近に置いてあった長椅子を蹴り上げる。
重さ何十キロかありそうな長椅子が軽々と宙を舞い、一直線に神父へと向かって行く。
避けるなり弾くなり、何らかのアクションを起こすと思っていたが、神父は異常なほどに何の動きも見せなかった。
だが、長椅子は神父には当たらない。
神父の手前で壁に当たったかのように弾かれたのだ。
「んなっ!?」
「ふぅ、やれやれ……私はユーイチさんと戦いたくは無いのですが……」
「はっ! そりゃ無理だ。フランを返してもらわねぇとなんねぇし……なんかお前ムカつくんだよ!!」
地面を蹴り、神父に向かって駆け出した。
この野郎の面を殴らないと気が済まない。なぜか、俺はそんな感じに怒っている。
「仕方がありません。では、腕を一本残して達磨になってもらいましょう。それだけあれば、魔剣を抜くには事足りるでしょう」
『おほほほ、虐殺も一興ですが、拷問もまた一興。楽しませていただきましょう』
恐ろしい言葉を吐きながら神父が動き出す。
柄を振り回すと、鎖が生き物のように舞い、グラシエムの目玉が俺を直視した。
そして、目玉のデザインの鉄球がこちらへものすごい速度で向かってきた。
「うおっ!?」
これを何とかかわすと、少し失速したがそのまま神父へと突っ込む。
相手の武器はリーチこそ長いが、懐に入ってしまえばほとんど使い物にはならない。
そう思ったからこそ、とにかく近づくために走ったのだ。
だが、部屋で感じた悪寒が再び走る。
とっさに後ろを振り返ると、鉄球が壁を突き破り、入口の柱を支点にこちらに向かっていた。
あと一秒。
あと一秒遅ければ、確実に俺の頭を潰していたであろう鉄球を伏せてかわす。
一瞬ホッとしたが、すぐに気を引き締めた。
とにかく神父に近づかないと同じ事を繰り返すだけだ。
そう思い、傍にあった長椅子を掴むと、神父に叩きつける。
ガンッ!!
そんな音を立てて、長椅子は粉々に飛び散った。
手ごたえあり。
確かな感触を覚えた俺はニヤリと笑う。
しかし、それがまだ早すぎたことを、俺は早々に知ることになった。
俺の目には完全に無傷の神父の姿が映っている。
「…………何やった?」
「ふふ、さあ? 何でしょうね?」
神父がほほ笑む。
それと同時に、俺の背中に激痛が走った。
「がっ!?」
『私を忘れていただいては困りますよ?』
んなアホな。
神父は全く動いていなかった。指の一本すら動いていなかったのだ。
にもかかわらず、この目玉野郎は俺の背中にめり込んでいる。
「自分で動けるのかよお前……」
『ええ。それが魔武器としての私の能力の一つ『自動』なのですよ』
「さあ、ユーイチさん。よそ見をしている場合ではありませんよ?」
油断した。
グラシエムの一撃でできた隙に、神父が俺の懐に入っていた。
明らかに訓練された武道の動き。
完璧な踏み込みとともに、俺の腹に掌底が撃ち込まれる。
「がはっ!!」
息と一緒に胃の中のものまで飛び出そうな衝撃が俺を襲った。
そして、その衝撃でせっかく詰めた距離が離される。
入口付近まで吹き飛ばされてしまった。ほそ腕からは考えられないような怪力である。
「痛ってぇなぁ!!! ふざけんなこの野郎!!」
「…………とんでもなくタフですね。今の一撃を受けてその程度ですか」
その程度とは心外だ。
ちょっと泣きたくなるくらいに痛かったぞ。
殴られた場所を押さえながら実際に涙ぐんでいた。
しかしまいった。隙が全くない。
まあ、その程度は逃げるほどのことではないが、面倒くさいことは間違いない。
せめてテネブラエがあればなぁ……と無い物ねだりをしてみる。
剣だが、防御用に使えるし、そうすればグラシエムか神父。どちらかを無効化することも難しくは無い。
今のままでは実質二対一で戦っているようなものだ。不利すぎる。
「父……さん?」
「あっ!?」
崩れかけた階段からエリスが姿を現した。
めちゃくちゃに壊れた聖堂を呆然としながら、俺と神父を見ている。
「おや、エリス。ちょうど良かった。ユーイチさんを捕まえたいんだ。彼を押さえてくれないかな?」
笑顔でエリスに話しかける神父。
さっきまで粛清だ何だと言っていた割には全くそんな感じを出さず、親が子に話しかけるように喋る。
「あ、あの父さん。さっきはその……ご」
「ん? 何のことだい?」
「……っ! ううん。なんでもない! 任せてくれ! あいつを捕まえればいいんだな?」
神父の変わらない笑顔にホッとしたのか、先ほどまで落ち込んでいたとは思えないほどの笑顔をエリスは浮かべた。
さて困った。三対一になってしまった。
張り切ってナイフを構えるエリスが居る。
しかも、さらに状況が悪いことに気がついた。
空間術が使えない。
腹が減っているから使えないとかじゃない。
全く、うんともすんとも言わないのだ。
実は、テネブラエからは影が無い場所では使えないと言われている。だが、ここに無いわけではない。
月明かりや火柱で影なんていくらでもある。にもかかわらず、使えないのだ。
俺は拳術の方が剣術よりも得意だ。だが、さすがに術なし、剣なし、拳だけ。では、そのすべてを使ってくる敵には敵いそうになかった。
「ああクソッ! ムカつくなぁ畜生……」
俺はムカつく相手を殴ることもできないのか。そう考えるとますます腹が立ってきた。
こうなりゃ意地だ。
精神論だが、頑張るしかない。俺の選択肢に戦略的撤退は含まれているが、今この場では、その選択肢を選ぶことはできないでいる。
ムカついているからだ。
「行くぞ!!」
バトル再開。
神父に突っ込んで行く。途中、エリスの放ったナイフが俺に襲いかかったが、難なく振り払う。
が、次の攻撃、グラシエムが間髪いれずに飛んできた。
恐ろしく速い攻撃だが、如何せん正面攻撃だ。弾道なんて簡単に読める。
直前まで引き寄せ、避ける。
「!?」
世界が反転していた。
俺は地面に転がり、天井を眺めている。
場所は…………また入口まで戻されていた。
避けたはずなのに喰らってしまったらしい。
……なんで?
「観念しろ! アタイ達の勝ちだ!」
倒れていた俺をひっくり返し、後ろ手をエリスが掴んできた。
「痛ぇ……」
雑に扱われ、そんな言葉が漏れる。
エリス的には腕を極めて、動けなくしているらしいが、完璧に極まっていない。これでは簡単に抜け出せる。
そんな事を確認しつつ、朦朧とした頭で奥にいる神父を見る。
そして、その隣で宙に浮かんでいるグラシエムの目玉。それによって、俺は今の攻撃の正体に気がついた。
「氷……か?」
「……これはすごい。よく気がつきましたね?」
意外そうな顔で俺を見る神父。
俺がその正体に気がついたのは、まさに今の状況だ。
空中に浮かんでいるグラシエムの目玉。そして、その周りに浮かんでいる木くず。そして、たびたび起こる悪寒。
つまり、目に見えないほどの透明な氷で包まれているということだ。
「さっき、長椅子を防いだのもそれだな?」
「ええ。純度の高い氷は水のように透明で、鋼よりも硬い」
『それが私の二つ目の能力『冷鉄』でございます。元々、室内で使うような力では無いのですがねぇ。バレてしまいますから』
その氷を防御に使い、見えないことを利用して大きさをだまして攻撃に使う。
まったく、頭のいい使い方だ。俺も良く気がついたもんだ。
「……見た限り、まだまだ反撃されそうですね。止めをさしておきましょうか」
神父が柄を振る。
すると、鎖が巻き上がり、鉄球が空中に浮かぶ。
「エリス」
「! ああ、すぐにどくから……」
「いえ、そのまま押さえていなさい」
何の感情の変化も見せず、優しげな笑顔のまま、神父は柄を振った。
目玉の周りにある氷が床を、壁を削りながら俺とエリスに向かってきた。
どう考えてもエリスを巻き込むコース。
畜生め。
実は、この攻撃は避けられる。
エリスを振り払い、ここから離れるのは難しくない。
ただし、エリスが居る。避ければ確実にエリスに直撃する。
敵に何のなさけだと、自分でも思う。
なんでエリスをかばうか? んなもん知るか。自分でもわかんねぇよ。
そうこう考えを巡らせているうちにもう避けることができないタイミングまで鉄球が迫っている。
そして、聖堂に鈍い音が響き、血が飛び散った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「何!?」
埃が舞い、視界が遮られる中、神父の驚いた顔が見てとれた。
クソッタレ。めちゃくちゃ痛ぇ。
エリスを振り払い、二メートルくらいあるであろう氷の塊をまともに受けた。
いや、受け止めた。
衝撃で足が床を突き破り、左腕はあり得ない方向に曲がっている。
だが受け止めた。神父はその光景に驚いたのだろう。
「よいしょっと」
とりあえず氷を投げ捨てる。
頭からは馬鹿みたいに血が吹き出ており、ガチでくらくらする。
俺は神父を見据えた。
「お前さぁ…………自分の子供を何だと思ってるわけ?」
エリスがビクッと体を震わせた。
「……勿論、愛すべき家族と思っていますよ」
神父は真剣に答えた。
どう見ても本気。心の底からの言葉であることが分かった。
笑顔で、真剣に、エリスを愛していると言った。
なら……
「ならこれは何だ!!」
この風景を見てどの口がその台詞を吐ける!
エリスはおびえてる! 親に殺されかけたんだからな!
なんでそんな優しい顔で自分の子供を殺せるんだ!!
これは! こんなのは! 親が子にすべきことじゃねぇだろっ!!
そんな風に、俺は叫んだ。
…………が。
「痛っ?」
痛みが走った。
へし折れた腕じゃない。
血が吹き出る頭でも無い。
足に。さっき見た限りじゃ怪我をしていなかった足に痛みが走った。
足を見る。
そこにはナイフが突き刺さっていた。エリスが突き刺していた。
「………の」
「あ?」
「父さんの悪口を言うな!! 父さんは…………アタイの父さんだぞ!!」
必死に涙をこらえながらエリスが叫んだ。
その目は、俺を憎んでいる目だった。必死に親父を庇う娘の目だった。
ここまでされても、殺されかけても、それでも信じ続けようとする子供の目だった。
俺は動けない。はっきり言って気圧されていた。
エリスにはそれぐらいの迫力があったのだ。
バキッ!
不意にそんな音が聞こえる。
床が軋みをあげている。そしてそれは、俺とエリスの周りに亀裂となって……崩れた。
「うおっ!?」
床にぽっかりと穴が開いた。俺とエリスはその上にいた。当然、穴の中へと吸い込まれる。
一メートル? 五メートル? いや、十メートルほど落下しただろうか。
それだけの高さから落下しただけの衝撃をもろにケツに喰らった。しかも、そこにとっさにかばったエリスの重さが追加される。
へし折れた腕の痛みが、血が流れ落ちる頭にガンガンと伝わる。ナイフが刺さりっぱなしの足からも盛大に血が吹き出ている。
まったく……よくもまぁ死にもせず、気絶しないものだと自分のことながら感心した。どんだけ丈夫なんだおれの体は。
せっかくの丈夫さだが、ここでは若干恨めしく思う。今までの人生で一、二を争うほどの激痛でさえも気絶できないのだ。
きっと俺の目からは大量の涙がこぼれ落ちているだろう。ガチ泣きである。
ふと、エリスを見る。
今の衝撃で気絶こそしてしまっているが、大きい怪我はないようだ。思わず安堵のため息を漏らした。
『ユーイチ?』
懐かしい声がした。
と言っても、一日か二日程度分かれていただけだが、痛みに折れそうになっている俺の心には随分と染み入る声だった。
「テネブラエ?」
『おう。痛そうだな、お前』
声の主はテネブラエだった。
ああ、愛しのマイソード。久しぶりに出会って初めて有難さが分かったようだ。
俺はテネブラエを熱烈に抱擁し、熱いキッスを押しつけた。
『ぶはっ!? 何だこいつ? 気持ち悪い! やめろ!!』
「そんなこと言うなよ~。寂しかったぞ~こいつ~!」
『だからやめろって!! 嬢ちゃん! 何とかしてくれ!!』
「あはははっ、嬢ちゃんってだれだよ~…………お?」
動きが止まった。
テネブラエにしていた頬ずりを止めると、埃っぽく、薄暗い地下室にとあるシルエットが浮かび上がった。
「フラン?」
「ユーイチ様?」




