表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理不尽な神様と勇者な親友  作者: 廉志
第二章 凍てつく大剣
63/91

第四十四話 愛じゃない逃避行



まったく、世の中には理不尽というものが多すぎる。

元の世界でもジジイの奴にガミガミとわけのわからん理由で説教食らうし、異世界に召喚されても凶悪犯扱い。

なに? 俺ってそう言う星の元に生まれてきたの?

ひどい! ひどすぎる!! 何で寄ってたかって俺をいじめるの!?

…………と、愚痴を言っても現状に何の影響も与えないわけで……


「へひうは……ほへほうひふひょふほう?(ていうか……これどういう状況?)」


目が覚めると、そこは薄暗い牢屋の中だった。

いや、うん。何もその件について抗議を入れたいわけじゃないんだ。

百億歩ほど譲って牢屋の中ってことは許そう。地面に敷かれた藁だって無いよかマシさ。

ちょっと神経を疑うくらい念入りに拘束されているのも、ある種のプレイなんだと自分に言い聞かせれば耐えられないことも無い。

猿轡も全身緊縛もかかってこいだ。

そんなことよりも腹が減った。

お腹すいた! お腹すいた!! お腹すいた!!! と、腹ペコキャラのような奇声を上げることもできないほどに腹が減った。

知ってるか? あまりに腹が減りすぎるとガチで動けなくなるんだぜ?

漫画とかでよく「腹が減って力がでない~」とか言っているキャラがいるが、そいつらの気持ちが今まさに解った気がする。

だから、差し迫って問題なのは拘束されていることではなく、どうやって飯を食えるかどうか、なのである。

腹減ってなきゃこんな状況なんて簡単に打破できるしな。


「お、ようやく起きやがったか」

「ほへ?」


俺が目を覚ましたことに気がついたのか、見張りらしき男が牢屋のカギを開けて入ってきた。

顔に痛々しい痣を蓄えた奴だ。


「さてと、てめぇが起きたらすぐにお頭の所へ連れて行くように言われてんだが……とりあえず痣の恨みでも晴らしとく……かぁ!!」

「ふんがっ!」


あっ、この野郎! 腹蹴ってきやがった!

身に覚えのない理不尽! これが社会の波と言う奴か!!…………って言うか痣の恨みって何? 誰こいつ。


「さすがに顔はまずいな。腹だったらお頭にもばれねぇだ……ろっ!!」

「あべしっ!」


なんだその「腹にしとけ。センコーにバレる」みたいないじめっ子論理は。

つか、空きっ腹にボディーブローはきつい。胃液が逆流しそうだ。


「おかげさんで金貯めて作った俺の店もつぶれちm…………」

「ひでぶっ…………む?」


あれ? 来るはずの衝撃が来ない。

いや! そんな場合じゃねぇ!! こいつ俺に覆いかぶさってきやがった!!

ま、まさか……貞操の危機!? やめろ! 俺にそんな趣味は……っ!!


「大丈夫ですか!? ユーイチさん!」

「……む?」


俺に覆いかぶさった男が放り投げられた。

もちろん拘束されている俺がやったわけではなく、どこからともなく現れたタイクによるものだった。……なんでタイク?

よく見ればタイクの手には棍棒。倒れた男の後頭部にはたんこぶができていた。


「……ぶはっ! タイク? お前なんで……」

「話は後で。ひとまずここを離れましょう……あ、あれ? 外れないなこれ……えいっ!」

「あふんっ! ば、馬鹿! そっちの方向に引っ張ったら……」


ら、らめ~~~~~~!!












「………………」

「あ~……ごほんっ! 我ながら恥ずかしい声をあげてしまった。すまん」

「いえ……こちらこそすみませんでした」


タイクが頬を押さえてこちらを睨む。

かいつまんで言うと、俺はタイクを殴った。

タイクの頬はパンパンに腫れてしまっている。

…………だ、だってさ! タイクが縄を変な方向に引っ張るから……危うく変な趣味に目覚めそうになったんだ! だから思わず……


「思わずで思いっきり殴らないでください。乙女ですかあなたは」

「失敬な! 体は男。頭脳は乙女! れっきとした…………あれ? 何言ってんだ俺……」

「……とにかく、一旦この町を離れましょう。ここはもう危険です」


牢屋を出た後、夜の暗闇の中をタイクに渡されたリンゴをかじりながら走っている。

どうやら、眠ってからすでにほぼ丸一日が経っているらしい。

なんかつい今しがた出口に向かっていることを知らされたんだけど……あれ? なんでそんな必要が……


「待て待て! なんで出口? フランもテネブラエも一緒じゃないのに出られねぇよ!」

「フランさんは…………あっ! ユーイチさん隠れて!!」

「うおっ!?」


いきなり路地脇の暗闇に引きずり込まれた。

姿勢を力ずくで姿勢を低くされ、抗議の声を上げようとしたが、タイクは指を口に当て「静かに」のポーズをとっている。

タイクが警戒している方向を見ていると、剣やら槍やら斧やらを構えた男たちが忙しなく動き回っていた。


「なんだあいつら?」

「『凍てつく大剣』の奴らですよ。昨日から町の人間が外に出られないように見張ってるんです」

「『凍てつく大剣』? いやいや、それってお前らのことだろ? 仲間割れか?」

「そうではなくて…………ユーイチさんが倒した連中がいるでしょう? 牢屋で見張っていた奴です」

「ああ、どっかで見たことある奴だと思ったら……で、そいつがなんだって?」

「あいつらは最近入った新参者です。元々は俺や町長達が中心に活動してたんです」

「なるほど、そいつらに乗っ取られたってことだな?」


珍しく頭が冴えてるな俺。

腹に飯を入れたばかりだから頭が回っているのかもしれない。


「違います」

「違うんかい」

「そもそもその新参者を組織に呼びこんだのが…………俺の親父なんです」





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇




ようやく仕事も終わりました。

食事も済ませましたし、ユーイチさんとフランさんの処分も考えておくべきでしょうかね

そういえば、エリスの任務失敗のお仕置きも考えておかねばなりませんね。やれやれ、あの子はやればできる子なのに集中力に欠けます。もったいない。

まあしかし、今日は非常に良い知らせがありましたし、それほど嫌な一日でもありませんでしたね。


「いやはや、まさかお客さんの中に伝説級の魔武器を持っている方がいらっしゃるとは。私もなかなかに運が良い」

『おほほほ、お仕事お疲れ様です。ヒュージさんの仕事ぶりにはアタクシ、いつも感心させていただいておりますよ』

「いえ、それもこれもあなた……グラシエム・・・・・さんとグラシエムさんを遣わしてくれた方のおかげです」


グラシエムさんが仕事に加わってからというものの、作業効率がグンと上がりました。

『凍てつく大剣』も紹介していただいた方たちを含めてかなり大規模化しましたし、良いことだらけですね。


アタクシは少し背中を押しただけでございますよ? ヒュージさんの才能があっての組織です。おほほほ』

「そう言っていただけると嬉しいですね」

『それはそうと、あの方・・・の依頼の方はいつ頃片付きそうでございましょう?』

「ああ、そのことですが……実は先ほど私の元へ送られてきました。エリスとは別の部隊がやってくれましたよ」

『おほほほほほほ!! それはそれは!! あの方・・・も喜ばれることでしょう!…………となれば、この町は用済みというわけですね?』

「あ、そう…………ですね」

『おや、未練がおありで? ご心配なく。『凍てつく大剣』の構成員は後からいくらでも増やせます。気にすることも無いでしょう』

「…………っ! そう……そうですね。最近不穏な動きを見せていますし……そ、そろそろ頃合いでしょう、か」


……なんでしょう、頭がガンガンします。

風邪ではないと思いますが、最近頭痛の頻度が多い。

エリスやタイク、町の人間のことを考えると……………なぜ?


『おや、また頭痛ですか?』

「…………い、いえ。大……丈夫です」

『おほほほ、とても大丈夫には見えませんよ? ご心配なく。アタクシが治して差し上げましょう』

「わ……たしは…………なにを……」

アタクシにすべてお任せなさい。大丈夫、すぐに思い出せなくなりますよ。おほほほほ』


思い出す……?

何を?

…………エ…リス…………






◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「親父っつたら……ああ、神父さんか。人が良さそうな顔してたけどな~、人はみかけによらんってことか」

「何言ってんですか、ユーイチさんに睡眠薬盛った親父が人が良いわけ……」

「……え?」

「え?」


その場に沈黙が流れた。


「…………まさか、気が付いていなかったんですか?」

「アハハハハ、ソンナワケナイジャナイデスカー」

「……まあ、その親父ですが……新参を呼び込む少し前くらいから組織の方針転換をし始めたんですよ」

「あー、なんだっけ……町の奴らが言ってた『変わる』とか何とか……」

「『変わる』?  変わるなんてもんじゃありませんでしたよあれは。真逆って良いっていいほどの別人になってましたから」


そう言って歯をかみしめるタイク。

その表情は悔しそうな、それでいて悲しそうな複雑な様子だ。

俺が見る限りは優しそうな人だったけどなぁ……薬盛られたけど……

あの優しさの真逆ってことは……どんだけ鬼畜な人間だったのだろう、と妄想してみたりする。


「ふーん……で? 何が原因だったんだ?」


…………あれ? なんで俺、年上の野郎に人生相談みたいなことしてんだ?

俺の設定は確か極度の面倒くさがりのはず……


「直接の原因は知らないんです。俺は親父が変わってからすぐに町を出て、連絡も取ってませんでしたから。ただ、エリスが言うには旅をしていたエルフと出会ってからおかしくなったと言ってたような……」

「エルフ……アエルみたいなやつか。さぞかしボインな奴だったんだろうなぁ、うんうん」

「え? アエルって、一緒にいた女性ですよね? エルフなんですか? それにしては金髪じゃないし、耳もとがっていませんでしが」

「あれ? やっぱりこっちでもそれがエルフの定義なのか? んー、聞く限りじゃエルフらしいぜ? テネブラエもそう言ってたし」

「はぁ……そうなんですか?…………っと、こっちもダメか」


牢屋を出てからと言うもの、ずいぶんと町中を走りまわされている。

町を出ることができる道は三か所あるらしく、今のが三つめ。つまり、町は封鎖されているってことである。

まあ、そもそも俺は町を出る気はないけどな。フランを探さないといけないし。……あとテネブラエも。


「てか、結局色々聞けてないんだけど。町を出る理由とか、俺が薬盛られた理由とか、フランがどこにいるとか」

「そうですね……薬を盛られた理由はユーイチさんの魔武器にあると思います。魔武器に関する法律は知っていますよね?」

「まあ一応」

「保有可能な人間がいる場合、必ずその人間に所有権が与えられる。……ですが、裏で取引される額はすさまじい額になるんです。地方の貴族が見栄で買い取ってくれますから」

「なるほど、じゃあテネブラエは良いとして、フランはどこにいる?」

「それは……すみません、分かりません。普通ならユーイチさんと一緒にしかるべき対処をするはずなんですが」

「…………その『しかるべき対処』が何を指すのかは置いといて、フランが居ないなら外に出るわけにはいかねぇよ。つか、そもそもなんで町を出る必要があるんだ? 俺はともかくお前まで」


そりゃ、睡眠薬を盛られた以上俺がこの町にとどまる理由は普通なら無いが、タイクは曲がりにも盗賊団のメンバーじゃないか。

新参者とか、親父さんと仲が悪いって言っても逃げなきゃいけないほどってわけでもないだろうに。


「昨日の夜……ユーイチさんが眠らされた後、町長たちが捕まりました」

「町長さんが? 兵隊にでもバレとか?」

「捕まえたのは……親父です」

「またかよ。ろくでもねぇ神父だなオイ」

「その捕まった人たちが、近々『凍てつく大剣』で反乱を起こすための主要な人たちだったんです。先日、ユーイチさんに頼もうとしたあれです」

「ああ、あれか。いや~、最後まで聞かなくて正解だったな。巻き込まれたら確実に面倒くさいことになってたなぁ……結局巻き込まれてるけど」

「けど、あの計画はバレることのないように秘密裏に準備していたのに……なんでバレたんだ?」

「あ、それ俺だ。たぶん」

「…………は?」


俺は事のあらましを懇切丁寧にタイクに説明してやった。


橋が落ちたことでUターンして戻ってきて、神父さんに色々説明したこと。『懇切丁寧』なんて言葉を俺が知っていたことに自分のことながら驚きつつ、説明した。

その時点ではそんな大それた情報だとは思っていなかったから仕方ないだろう。

そんな感じでタイクに説明し終わると…………どうなったと思う?

殴ってきた。

殴り返したけど。

「アンタの仕業かーい!!!」って叫びながら殴ってきた。

殴り返したけど。

当然、音の無い深夜。

町中に響き渡った声は盗賊団のチンピラを呼び寄せた。


「いたぞあっちだー!!」

「往生せいやー!!」


そんな叫び声をあげながら群がってくるチンピラ。

俺の足元でなぜか(?)伸びてしまっているタイク。

これはもう……あれだな。


俺は走った。

全速力で走った。

後ろから「あれ? タイクの奴がのびちまってるぞ?」とか「かまわねぇから縛っとけ」とか聞こえてきたが……うん、気のせいだろう。

腹が減っていると幻聴が聞こえてくるらしいし、その類かなにかだろう。


俺は、夜の街を全速力で走った。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ