第三十九話 ちょっとこの空気は嫌です
「テネブちゃん達こんな所でなにしてるのぉ?」
グロスのようなものがきらめいている唇から放たれたのはこんな言葉だった。
正面にははっきり言って超良い女。名を確か……アエルって言ったか。
『ちょっとした手違いってやつだ。ユーイチのやつが指名手配……』
「あっ! バカ! そんな簡単にばらすなよ!!」
一応世間では犯罪者ってことになってるんだから!!
「あ、あの~……あなたは確か……」
「あらぁ、確か王都の食堂にいた子ねぇ。こんにちはアエレシスです。アエルで良いわよぉ?」
「は、はい。フランと申します」
「あ~っと……自己紹介が済んだ所でなんだけど、アエル。俺が指名手配されてるってのは誤解だから……その」
「うん。ユーイチくんは良い人みたいだし信じるわよぉ……あっ、ユーくんって呼んでも良い?」
めっちゃ簡単に信じたんですけどこの人。なんか詐欺とかに簡単に引っ掛かりそうだな……あっいや、もちろん俺は無実だけど……つかユーくんて……
『エルフっつーのはな、人の善悪を一目で見分けることができるんだよ』
俺の表情から何かを読み取ったのかテネブラエがそう言った。
「あらぁ、でもエルフ同士だと使えないのよねぇこの力」
『何言ってんだ、エルフほど善性が強い種族はいねぇだろ』
「最近ではそうでもないのよぉ? この間だって……」
「いや、そのあたりのことはさっぱりだからまた今度……って言うかタイク! 話の続きを……って、あっ! いない!?」
先ほどまで視界の隅で顔を背けていたタイクがいつの間にかいなくなっている。あの野郎、また逃げやがった……
「タイクさんならさっき店を出て行きましたよ?」
「フランさん。見てたんなら言って下さいよ」
「え、あっ! も、申し訳ありませんユーイチ様」
まあいいか……捕まえた所で何かをさせるつもりもないし。
「さっきの彼がどうかしたのぉ?」
俺はこれまでのことをアエルに説明した。かくかくしかじか……ってあれ? デジャヴ?……
「そう、大変だったのねぇ。ユーくんをはめた人って言うのは誰だかわかってるの?」
ユーくんと言う呼び名が定着したらしい。
「いや、犯人って言うのは良く分かってねぇンだけど、多分あのサテレスとか言う奴だ。あのロン毛め……殴っとけば良かった」
「サテレスって……確か王国の宰相だったわねぇ。嫌な人だけど悪い感じはしなかったなぁ」
「いーや! あの嫌味な感じ……あいつがやったに違いない。無駄に長髪だし……てか、その口調だとアエルってあいつと知り合いなのか?」
「ん~? 長生きしてるとねぇ、色んな知り合いが出来るものなのよぉ」
『つーかアエルは王国の王族とも友人関係にあるんだぞ?』
「ほ、本当ですか!? すごいですアエルさん!!」
ああ。フランの言うとおり確かにすごい。
何がすごいってあの威圧感バリバリの王様と友達になれるって所がすごい。
俺だと十秒と経たずに会話が途切れそうだ。
『それはそうとアエル。お前こんな小さな町で何やってんだ? 確か宝石かなんか探してるんだっけか?』
「うん。一応一通りは見回って見たんだけどねぇ。やっぱり無いみたいなのぉ。あとはすぐ近くの教会を見てこの町も出ようと思ってるんだぁ」
そういやテイルも教会が最後だって言ってたな。なんかそういうのが流行ってるのか?
「じゃあ俺たちと一緒にこねぇか? ちょうど教会に泊まる予定なんだけど、一人くらい頼めば泊めてもらえるだろうし」
「あらぁ本当? 実は泊まってた食堂の人たちが捕まっちゃって宿を追い出されちゃったのぉ。困ってたから助かるわぁ」
へぇそうなんだぁ…………あれっ? 食堂の人たちって、俺がブッ飛ばした奴らのことじゃね?
「ユーイチ様、アエルさんが言ってる食堂って……」
「みなまで言うなフラン。俺たちがやったことでアエルが困っているのだったら救くってやるのが筋ってものだろう?」
「俺たちって……さりげなく私も含まれてるんですね……」
俺がチンピラ達をブッ飛ばしたのがばれていないようだし、罪滅ぼしってことで宿を提供すれば怨まれることもあるまい。
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「うおっ!? なんだこのデカ乳は!?」
教会に戻ると扉の前でエリスが座っていた。
しかもアエルを目撃しての第一声がこれだ。この子をどうやってしつけたらこうなるんだ神父さん。
「こんにちは……もうこんばんはの時間かしらぁ?」
「お、おう……で? この女は誰だ?」
「実はかくかくしかじかで」
「……なんだかくかくしかじかって。ちゃんと説明しろ」
ちっ、漫画とかならこれで通じるはずなのにやっぱり駄目か。
つーか事のあらましを説明するのは今日で三回目だ。俺は説明キャラじゃねぇンだぞ!!
とりあえず説明。
「まあ、一人くらい増えても父さんは許すだろうけど……めんどくさいことをするなこの犯罪者!!」
「俺は犯罪者じゃねぇっつってんだろ!!」
「ふんっ、どーだか。人を殺してそうな顔してるくせに」
「どんな顔だよ! 俺のどこが犯罪者に見えるってんだ! なあフラン!」
「……えっ? えっと……その…………」
フランが顔を背けてしまった。
えっ? 何? 俺って犯罪者面なの!?
……と、自分の顔面に自信を失いかけしょんぼりしている時、教会の中から怒号が飛んできた。
具体的には、
「ふざけんなクソ親父!!!!」
という台詞だった。
何事かとエリスが教会の扉を開くと、中にはヒュージの姿とヒュージの胸倉をつかんでいるタイクが教会の一番奥。でかい十字架がつりさげられている場所にいた。
「なにやってんだタイ兄!!」
エリスが叫んだが教会の一番奥にいた二人には聞こえておらず、俺たち自体気づかれていなかった。
「エリスには仕事をさせるなって言っただろうが!!」
「何言ってるんだいタイク。我々人間は神に仕えることが仕事だよ?エリス位の歳なら仕事をするのは当然じゃないか」
「そんな話はしてないだろ……! アンタも昔はそんな奴じゃなかったのに……っ!」
「いい加減にしろタイ兄!!」
今にもヒュージに殴りかかりそうな勢いのタイクをエリスが強引に引き剥がした。
「帰ってきて早々喧嘩かよ! 落ち着けって!!」
「エリス……ちっ!!」
舌を打ち鳴らすと早足気味にその場を後にするタイク。俺たちにも気づいていたが、この場の空気的に気まずかったのか軽く一礼するだけで教会から出て行った。
「なんだったんだ……アレ」
「さあ? 親子喧嘩ってやつかしらぁ」
人が怒鳴った後の痛いくらいの静けさの教会で俺たちはそうつぶやいた。この空気は俺には重すぎる……
「いやはや、申し訳ありません。お見苦しい所を……」
ヒュージがタイクに掴まれて乱れた服を整えながら話しかけてきた。
「いや、まあ気にすんな。親子喧嘩なんて良くあることだし」
俺も親ではないが施設のジジイと良く喧嘩をしたもんだ。
つってもこんな重い空気にはならずに大概は殴り合いになって終わるんだけどな。あのジジイめ……手加減と言う言葉を知らないくらいに本気で殴ってくるから必ずと言っていいほどボコボコにしやがる。
なんか腹立ってきたわ。
「おや? そちらのお方は?」
アエルに気付いたのかそう尋ねてきた。
「こんばんは。今日ここに泊まらせていただくことになったアエレシスです~」
「はい、こんばんは……ん? アエレシスと言うと……」
ヒュージがアエルの体を改めて眺めた。と言ってもエロいニュアンスではなく、何かを確認するように全身を調べるといった感じだ。
「なるほど…………あなたがかの有名な……」
「有名……?」
「いえ……ともかく、こちらでお泊りになるのはかまいませんよ。これも女神アストラムのお導きでしょう。感謝いたします我らが神よ」
そう言って手を合わせて神様に祈るポーズになるヒュージ。それと同時にアエル、フラン。そしてエリスまでもが何か神に祈る言葉を口にし始めた。
なんだか俺だけが場違いのような雰囲気になってしまった。
あの~、俺一応仏教徒なんですけど……祈らなきゃダメか?




