第三十五話 さらばエリス。こんにちはチンピラ
まったくついていない……
父さんに頼まれて街まで行ったけど散々な前に会った。
冒険者にとっ捕まるわ化け物に喰われかけるわ……ていうか仲間は全員喰われちまった。名前も知らない奴らだったから別に悲しくないけど、これじゃあ仕事ができない。
化け物に襲われた後、冒険者の目を盗んで逃げたは良いけど一文無しのアタイじゃどうすることもできなかったし……
それでちょうど街を出ようとする馬車があったから荷物に紛れ込んで他の街に行こうと思ったんだけど……それが運の尽きだった。
「エリス、お前いつまで盗賊なんて続ける気だ」
「ふんっ、タイ兄だって昔は盗賊だったじゃないか。それが今じゃ御者だって? 何の冗談だ」
「あの頃の凍てつく大剣は義賊だっただろう……親父がおかしくなってからは他の盗賊どもが参加しだしてただの殺人集団になっちまった」
「……! 父さんはおかしくなんてなって無い!!」
声が大きすぎたかもしれない。なんかユーイチとか言う冒険者がこっちを見てる……
「どうかしたか?」
「いえっ! なんでもありません!!」
タイ兄が冒険者のご機嫌をうかがっている。腰ぬけめ……
「どうでもいいけどとっととこの縄ほどいてよ」
「ほどいても良いが、ユーイチさんたちに復讐なんてしないな?」
「…………………ああ、しないよ」
「なんだ今の間は!!…………はぁ、ともかく次の町に着いたら下ろしてやるから、親父のところに行って、盗賊から足洗え」
「…………ふんっ」
盗賊から足を洗えだ? 笑えない冗談だ。父さんを裏切るなんて出来るもんか!
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「おらぁ!! 良いから金払いやがれ!!」
「なんでだよ! きっちり完食しただろ!!」
「やかましいこの詐欺師野郎。どんな手品使いやがった!!」
…………なんて言うか、つくづく面倒事に巻き込まれるなぁ俺。
急ではあるが、俺の周りには数十人にも及ぶ男たちが俺を睨みつけている。
なんでこうなったかと言うと、単純なことなんだけど…………
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王都を出て数日、俺たちは隣町まで来ている。
王都に比べれば大分小さい町で、どっちかと言うと村に近いくらいの規模だ。しかも大通りには人の姿はほとんどいない。
「あ~、やっと着いた~。ケツ痛え~」
馬車の乗り心地ははっきり言ってすさまじく悪かった。
なにせ馬車の揺れが直接ケツに当たる感じだったからなぁ、今ケツをまくれば日本猿みたいになってるかもしれん。
そんな俺を心配したのか、フランが「ユーイチ様大丈夫ですか?」と気を使ってくれる。
「大丈夫……とは言えないな……フラン、お尻さすってくれる?」
「えっ?……あの、いえ……えっと……」
「いや、ゴメン冗談」
俺の言葉にほっと胸をなでおろすフラン。
元の世界でこんなこと言ったら間違いなく訴えられるな……
「それで、ここまで来れたのは良いとして。これからどうすりゃいいんだろうなぁ」
ここにきてようやく気付いたのだが、俺は何か目的があってここまで来たわけじゃない。
成り行きと言うか、御者に任せてここまで来たは良い物の……何をすべきなのか……
「とりあえずエリスを兵隊さんに渡しとくか」
『あん? エリスならさっき逃げってったぞ?』
「…………は?」
『いやだから、さっきどっか行っちまったって。ついでに御者もそそくさとどっかに行ったし』
「おまっ……! 見てたんなら言えよ!!」
そして誰もいなくなった…………って報告だけすんな!!
「というより、兵隊の方に引き渡すのも無理じゃないですか? ユーイチ様、指名手配されてますし」
「ぐっ……そうだったな。ここも手配書とか回ってんのかなぁ」
『手配されたのが町を出るすぐ前だったし、まだ回って無いかもしれねぇな』
確かに城を出る直前に手配されたわけだから、すぐにこの町に向かった俺たちよりも先に手配が全国に出回るとは考えにくい。交通手段が限られてるこの世界ならなおさらだ。
「じゃあその確認もしなきゃな…………ただその前に……」
「前に?」
「飯だ!!」
エリスのことは…………まあ良いか。
俺たちは腹ごなしをするために食堂にやってきた。
『バルバルの店』……看板にそう書いてある。
アズラさんの店と比べて規模はでかいものの、内装は少し汚いというか匂うと言うか……ともかく少し入りづらい雰囲気が漂っていた。
「ゆ、ユーイチ様……ここ、少し怖いです……」
フランが縮こまって俺の服の裾を掴む。
フランの言うとおり、この店はなんか怖い。いや、店の雰囲気ごときで怖がる俺じゃないが、店にいる人間が怖い。と言うより恐い。
店の客は厳つい男やセクシーな女、店員すら傷の付いた顔面で俺たちを睨んでいる。
どこぞのマフィアのアジトかよ……
「まあ、飯を食うだけだし、大丈夫だって」
そうフランをなだめる。正直俺もちょっと怖いよ。
「らっしゃい」
俺たちが店に入ると、店員らしき男が声をかけてきた。
身長2メートルオーバーの大男。たらこ唇の厳つい出で立ちだ。
「え~っと……この店で一番量の多い料理と……フランはどうする?」
「い、いえ! 私は……そのミ、ミルクで」
「…………あ~、じゃあその他になんか軽めの定食を」
多分フランは、場の雰囲気にのまれて遠慮している。
気を使ってさりげなく優しさを見せる……俺ってマジ紳士。
「兄ちゃんたち、冒険者か? なら懐もさびしいだろ。うちの大盛り料理に挑戦してみないか?」
「大盛り料理? なにそれ?」
「ああ。それを全部平らげることができたらこの店での代金はタダってことで」
…………ん~っと、これは多分あれだな。
大食いキャラに見られるテンプレストーリー。間違いなく損をするのは店の方だと思うけど……
「本当? じゃあそれで」
俺がチャレンジしない理由が無い。
多分、15分くらいかな? それくらい経つと、俺の目の前には天井に届くほどの高さのチャーハンがあった。
あからさまだなぁ……
「へっへっへ。喰いきれなきゃきっちり代金は支払ってもらうぞ? 占めて白金貨2枚……って速っ!?」
なんか店員が言ってるけどその間に俺はチャーハンをかき込んだ。
はっきり言って人間が食える量ではなかったが、現在の俺の胃は誇張ではなくブラックホールと言っても良いくらいの状態だ。正直いくら食っても満腹になる気はしない。
ものの10分ほどで完食してしまった。
「そんじゃ追加でさっき注文したのと、後このチャーハンと同じやつ」
「ふ…………ふざけんなぁ!!」
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とまあこんな感じだ。
ちなみに今の状況はと言うと、俺に詐欺を働こうとした大男が「表へ出やがれ!」と言ったので大通りに出ている。
そんでもって、店員たちが包丁やら鍋やらを俺に向けているのに加え、なぜか食堂にいたやつらが持っていた剣やナイフを俺に向かって振りかざしているという状況だ。
「客の方もグルかよ」
「はんっ、俺たちをしらねぇとはモグリだなお前」
えっ? 何? 有名人?
「俺たちはかの有名な『凍てつく大剣』だ。痛い目見たくなきゃとっとと金だしな」
「はぁ……どの世界でも、どの地域でもチンピラの言うことは同じだな。やれやれ……」
ため息もつきたくなるわ。全くめんどくせぇなぁ……
腹もまだ四分目位だし、さっさと終わらせて他の店に行くか。
「開け」
空間術の呪文を呟く。やっぱり呪文を唱えた方がスムーズにいくからな。
俺の足元の影が煙に変化し、膨張し始める。
「おいおい……なんだそりゃ!」
大男が慌てる。この光景を見て慌てない奴もいないだろう。
俺の影の煙がある程度膨張すると次の瞬間、煙が触手のように伸びて行き、男たちを飲み込む。
それぞれがさまざまな断末魔を上げ、煙の中に収まっていった。
「ふん。こんなもんか……」
辺りを見回すと、そこには俺とフランを残して誰もいなくなっていた。
『んで、閉じ込めたは良いけどこの後はどうすんだ? このまま餓死させるとか?』
「いやいや、いくらなんでもそんなことはしねぇよ……見てろ?」
煙を一旦消すと、もう一度呪文を唱え、自分の傍に垂直に伸ばす。
んでもって、テネブラエを鞘に収めたまま構える。
「チャーチャーラチャッチャーラ、チャーチャーラチャッチャーラ、チャーチャーラチャッチャーラチャーっとね」
俺が口ずさんでいるのはプロ野球とかでよく流れるアレ。正式名称は俺も知らん。
「ピッチャー振りかぶって…………投げた!!」
その掛け声を合図に煙から捕らえた男が一人落下する。
「な、なんだこ……ぶるぁあああっ!!!」
ホームラーン!!
雄一選手渾身の一撃です!
いやー、キレーに飛んでったな~。
「『ぴっちゃー』ってなんです?」
首をかしげるフランだった。




