第十一話 舞台裏
「ごちそうさまでした」
道の真ん中で倒れた俺は、とある食堂に担ぎ込まれた。
倒れた原因は…………空腹。
「ま~しかし……よく食べたね~」
食堂の店員であろう女性が僕の横に積み上げられた皿を見て言った。
自分でも驚くべきことだが、通常では考えられないほどの量を食してしまった。一人前でも十分満腹になるであろうどんぶりをざっと十五人前は食べた。…………一体僕の体のどこに収まったのだろうか…
「それで……エクスカリバー、反動って言ってたけど、この馬鹿みたいな食欲がそうなのか?」
周りには聞かれないほどの小声でエクスカリバーに聞く。
剣が言葉を発したとなれば、いくらファンタジー世界でも驚く人は多いだろう。
『体力を奪われる…と言った方が正しいでしょうね。空腹と言うのはその危険信号』
「なるほど……でも、こんな量の食べ物自分でもよく食べれたと思うよ。そんなに大食いでも無かったのに……」
「ところで坊や、あんた道のど真ん中で何してたんだい? 行き倒れかい?」
エクスカリバーと内緒話をしていると、店員の女性が話しかけてきた。……というか、坊やって僕のことか?
「ああ、いえ。行き倒れと言うわけでは無くてですね……」
なんといった物か……護衛の人が急に襲いかかってきて、暗殺者達と死闘を繰り広げたあげくエクスカリバーの能力を使いすぎて空腹で倒れてしまった。……なんて言えないよなぁ…そもそも信じてもらえるかも怪しい。
「えっと……そうですね…………いや、やっぱり行き倒れと言うことで」
「なんだいそりゃ?………まあ、いいや。坊やは他の街から来たのかい? ここらでは見ない顔だけど」
「一応、城で働いてます。あまり街の方には出てきませんが……」
勇者として召喚をされたのだからそれでも間違いは無いはずだ。
「じゃあ兵隊さんかい? そうは見えないけどねぇ……」
僕をまじまじと見る店員さん。確かに、僕は一兵士の格好ではあり得ないようなきれいな服装をしている。
城の中で見る限り、兵士の格好はみすぼらしいの一言に尽きた。もちろん、位の高い人たちはそれなりの格好をしていたが、大半はすり切れたシャツにボロボロのズボンといった出で立ちだった。
店員さんが僕の服装に疑念を抱くのもうなずける。
「まあ、それはともかく……一つ教えていただきたいのですが」
「ん……? ああ、なんだい?」
「ギルドと言う場所に行きたいのですが…場所、ご存じですか?」
「それなら大通りをまっすぐ行けばすぐに見つかるよ。でっかい建物だからねぇ」
「分かりました、ありがとうございます。お金ここに置いておきますね」
僕の質問に答えてくれながらも忙しそうに働く店員さんに断ってからお金をテーブルに置く。
城を出る前にシルフィから予算として金貨を5枚渡されていたため、食事代は余裕で払うことができた。
「ああ、ちょうどだね。また腹が減ったら来な」
目の端でお金を確認した店員さん。気の良さそうな笑顔を向け、手を振った。
「…………フラン! いい加減グータラご主人を起こしてきな! いくら何でも寝すぎだよあの子」
「あっ……はい! 分かりましたアズラさん」
僕が店を出かけると、店員さんが別の女性……と言うより女の子に指示を出していた。
二階は居住スペースにでもなっているのだろうか……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、店員さんにギルドの場所を聞いてはみたものの……これからどうしようか……
「アークが言ってたことも気になるしなぁ……」
僕と雄一が会えば雄一を殺す…………物騒だ。
まあ、雄一なら大概の敵は返り討ちにするだろう。なにせ基本的に僕よりも強く、この世界に来て身体能力も上がっているだろうからだ……いや、断言はできないけど……
『マモル君。気になっていたのだけど…今から探す……ユーイチ君…だったかしら? 彼は元の世界でどういった関係だったの?』
「ああ、エクスカリバーにはまだ説明していなかったね。雄一は……同じ施設…孤児院で育った僕の親友だよ。家族と言っても良いほどのね」
『そう……でも、アークが言っていた脅しだと、合流すればユーイチ君に危害が及ぶかもしれないけど…ユーイチ君は貴方のように武芸に秀でているのかしら?』
「それは問題ないと思うよ? 彼は僕よりも強いし……」
説明の途中で僕は口をつぐんだ。
そうだ、雄一は僕よりも強い。
しかも、どんな環境でも馬鹿みたいに順応してしまう能力がある。正直、雄一の頭の悪さ以外に心配する理由はない。
もちろんただ単に、友人として心配はしている。当然だ。親友が目下の所行方不明なのだから……
「けど……出会ってしまえば巻き込んでしまうのか……」
どう考えてもアークの狙いは僕だ。
神様も言っていたが、雄一がこちらへ来たのは手違いだ。だとすれば彼はこの世界において重要な立ち位置には立っていないだろう。よって、雄一が狙われるとすれば原因は僕だ。
そんな中、俺の都合で騒動に巻き込んで良いものだろうか…
はじめはとにかく出会ってから今後を決めようと思っていた。雄一の性格上、遊撃隊の任務も手伝ってくれると思う。……面倒くさいと言うだろうが…
だが、この件に関しては話は別だ。
出会った段階で雄一の意志とは関係なしに巻き込んでしまう。逆に、合流して雄一に警護の人間をつければ大丈夫かもしれないが、アークが城の兵士だったこともある。下手をすれば寝込みを襲われるかもしれない。
……………………
「ああもう! 何がなんだか分からなくなってきた!!」
思わず叫んでしまう。
結局僕は雄一に会うべきなのか会わないべきなのか……
『あらあら困ったわね』
エクスカリバーがのんきに答える。
『私はマモル君がしたいようにすれば良いと思うわよ? ユーイチ君と合流して守ってあげるか……それとも会わずに巻き込まれないようにするか……』
雄一と合流すれば、一緒に敵に立ち向かえる。だけど、寝込みを襲われたら? そもそも味方が敵だったら?
巻き込んでしまう以上、雄一に危害が及ぶのは間違いない。
なら会わずにトラブルに巻き込まれないようにするか?……これも駄目だ。
アークが言った「会えば殺す」という言葉を全面的に信用できない。会わなくても危害を加える恐れもあるからだ。
………………これは典型的な『不自由な二択』だ。今の段階で答えを明確に出すなんてできるわけがない。
……じゃあどうする?…………結局僕が選ぶしか無い。
雄一に対する僕の信用度からすると…………まあ、言うまでも無いな……
「…………雄一とは……会わない」
『あらあら、それで良いの? 貴方が決めたことにケチをつけるわけじゃないけれど…マモル君が雄一君の事を信頼しているから? それともただ冷たいだけなのかしら?』
彼は強い。
僕よりも武芸に秀でている。……頭は悪いが、機転は利くため心配いらない。
彼はたくましい。
順応性が恐ろしく高く、異世界という環境でもまったく問題なく生活できるだろう。
つまり……僕は雄一の事を信じている…そういうわけだ。
「雄一なら大丈夫だよ? 彼は信用できるし信頼もできる。少なくとも、僕の評価ではそういう奴だ」
『ふふっ、『勇者様』にそこまで言わせるなんて…私も一度会ってみたいものね』
「いずれ会えるよ。勇者としての仕事を片付けて、アークの件も解決したら会いに行くよ……必ず」
今会わないからと言って永遠に会えないわけじゃない。
問題を解決してから会いに行けばいいだけの話だ。
『ならどうするの? もうギルドに着いてしまうけれど…』
いつの間にかギルドの建物が見える所まで来ていた。
店員さんが言っていたとおり、とても大きい建物だ。さすがに城よりも大きいと言うことは無いが、視界がとらえている範囲はすべてギルドの建物と言った具合のスケールだ。
「そう言えばそうだね……どうしようか」
元々、ギルドには雄一を捜すために来たわけだが、探す理由が無くなった以上無駄足だったかもしれない。
「探さないなら依頼を出しても意味がないな…………ああ、でも会わないようにしたいんだから……エクスカリバー。依頼って、言づてだけでもできるのかい?」
『多分できると思うわよ? 基本的に何でもやってくれる所だから』
なら念には念を入れて、会わないように依頼を出しておこう。
人探し依頼。
依頼主・マモル=オトタケ
対象・ユーイチ=サヤマ
特徴・黒髪に黒い瞳。変わった服装。
言伝・僕を探さないでください
無理矢理に行きたい方向に持って行こうとしている感が満載です。
自分の文章能力のなさが恨めしい……
あっ、でも良いニュースもありました。
ついに! というかようやく、ユニークアクセス数が十万を超えました。おめでとう僕!!
いつもアクセスしてくれている方々に感謝です!!